教師の声だけが響く教室の中、窓際の席に座っている木手はノートを取っていた手をふと止めてグラウンドへ視線を向けた。
校庭では6組が短距離走のタイムを計っている。
その中にいる一際大きな身長を見つけて、木手は知らずに息を呑んだ。
残暑の厳しい頃、木手は知念と身体を重ねた。
その後も頻繁とまでは言えないが、度々身体を重ねている。
もう2ヶ月も前で、今もなおそれを繰り返しているのに。
慣れることなく思い出しただけで今でもズクリと体の奥を疼かせる感覚に、教室にいる同級生や教師に悟られないようため息を漏らした。
しかしだからと言って、自分と知念は付き合っているわけではない。
(まぁ…そこは別に構わないんですけどね。要は俺に惚れさせればいいわけですから)
恋愛に関して、木手は非常に狩猟的な考え方をしていた。
好きな相手に対してただ見つめるとか、ただ想うだけで恋が成就するなどと言う甘い考えは持っていない。
好きになった相手を落とすために行動し、罠を張る。
それで落ちるならば身体を捧げる事も厭わない、要は勘違いでも何でも木手に惚れたと相手が思えばそれでいい。
勘違いのままで終わるか本気になるかは、付き合い始めてからの行動で決まるだけだ。
頬杖を付いて左手でペンを回しながら、グラウンドでクラスメイトの輪から外れた所でただ突っ立っている知念を見つめる。
半そでの体操服にジャージのズボンを身につけて立っている知念は、先に走っているクラスメイトをボーっと眺めているようだった。
仲のいい友人は部活にしかいないと聞いたが、どうやら本当らしい。
木手が知念を特別な目で見たのは、時折見せる沈んだ表情の所為だった。
それは甲斐と平古場が馬鹿なことをやって周囲を笑わせている時だったり、遊びに出かけてふと皆が知念以外のものに注目した時だったり。
小さくため息を漏らして遠くを見つめる目が、暗く淀んでいるのに気が付いてからその原因が気になった。
最初は単に、テニスに集中するためにそのしがらみを開放してやろうと思っていただけだった。
どうしたの、と直接聞いたこともある。
(最近元気が無いようだけど、何かあったの?なんて聞かれても、答えられないよね)
知念は困ったように笑っただけで、何でもないと答えた。
眉尻を下げて薄く笑う表情に、庇護欲か或いは母性本能が擽られたと言ったらきっと笑われる。
しかしその時は本当に、そう思った。
(だけど…)
ついクスリと微笑を漏らしてしまい、木手は周囲に視線を走らせて咳払いでごまかす。
幸いにも周囲は授業に集中していたため木手の笑みには気付かなかったらしく、隣の生徒が咳払いを聞いて一瞬こちらを見ただけだった。
(まさか、あんな事で悩んでるとはね…)
正直、拍子抜けと言ったところだろうか。
勿論知念にしてみれば本当に深刻な悩み事だったろうが。
けれど木手はもっと重大な、例えば家庭の事情だとかそういう中学生と言う年齢ではどうにも逃げ出せないようなものだと思っていた。
まさかその悩みが、自分の股間が大きすぎるなどと言うことだったとは、流石の木手でも予想外だった。
だから知念に関して言えば弱みに付け込んで、身体の関係に持ち込んだ自覚はある。
彼は純粋に、自分が異常なのかどうか木手に聞きたかっただけなのだろう。
それを逆手に取られ、同姓の同級生にセックスの相手をさせられた。
知念がそれに拒否感や嫌悪感を抱く前に、彼に自分を好きだと思わせなければいけない。
グラウンドでは彼の走る順番が来たらしく、スタートラインにしゃがみ込む姿が見える。
号令に合わせて腰を上げ、スタートの合図で走り出す。
縮地法の使えるテニス部のレギュラーは、もともと短距離走が異常に早い。
背の高い知念であれば一歩の歩幅が大きいため特に顕著で、記録係が驚くようなタイムを弾き出したようだ。
(上々ですね…いいコンディションだ)
息を乱していない様子なのも木手にとっては好ましい。
たった50メートルで息を乱すような全力疾走など、学校の授業では必要ない。
ゴール地点付近で待機している知念に近づく集団が居て、木手は目を細める。
記録係の女子とその友人達だろう、寄り添って恐る恐る近づく3人の女子に知念が気付いて振り返った。
(あ…)
何か話しかけられて、知念が表情を変えないままほんの少しだけ唇を動かして何か答えている。
恐らくタイムの事で、すごいねとか、速いねとか、その類だ。
分かっていてもジリッと胸を焼く感情に知らず手に持ったペンを握り締めながら、木手は下唇を噛んだ。
(その人昨日俺とセックスしたんですよ…君達みたいな子では相手に出来ないからさっさと離れてくださいな)
知らないだろう、彼があの時にどんな表情を見せるのか、どんな声を出すのか、その腕がどんな動きを見せるのか。
聞こえない言葉を心の中から女子に投げかけて、偶然同じタイミングで知念から離れて行った彼女達に笑みを深くする。
また一人になった知念が、両手を頭上に上げて軽く伸びをしたので木手は少し驚いた。
背中を反らせた何の変哲も無いポーズだが、以前であれば彼はあんな仕草を決してしなかっただろう。
体を反らせる体勢は逆を言えば腰を突き出す体勢だ。
体操服のハーフパンツのような薄い布地ならば、股間の形が浮き出てしまう恐れがある。
今はハーフパンツではなくジャージだが、前の知念ならジャージだったとしてもしなかっただろう。
本人が気付いているかどうかは、良く分からないが。
以前知念が良くしていた、猫背気味の姿勢を思い出して木手は頬杖をついた手の小指で自分の唇の端を撫でた。
(コンプレックスが解消されたんですかね)
だとしたら自分の功績だと、木手は奢り無く思う。
日本人の平均的な大きさを逸脱したペニスは、確かにインパクトがあった。
正直驚いたし、知念には決して言わないが初めて体内に受け入れた時は痛みを感じた程だ。
けれどあの、薄い皮膚一枚で繋がっている感覚が木手は忘れられない。
ドクリドクリと血液の流れる感触が直に伝わってくるほど隙間無く自分の中を一杯にして、奥へ突き進んでくる時も引き抜かれる時も感じる所を擦っていく。
他のどの男と寝た時にも味わえなかった充足感と一体感に、嵌っているのは自分の方だと理解していた。
アレを受け入れるために自分は他の男と寝てきたのだと思うと、忘れたい思い出すら受け入れられるような気がする。
「っ…」
伸びを止めてまた手持ち無沙汰に走っているクラスメイトを眺めている知念を見ていたら、腹の奥で燻っていた何かがジワリと腰へ広がっていた。
一見すれば何を考えているのか分からない、けれど朴訥で純朴な彼を自分が視姦しているのだと気付いて腰に蟠る何かがはっきりとした熱を帯びる。
頭を冷やせと自らに命じながら教室の前方、黒板の上にある時計に目をやればチャイムが鳴るほんの少し前だった。
悟られないよう静かに息を吸い込んで吐き出していると、不意にこっちを見ている視線を感じて首を巡らせる。
丁度その時チャイムが鳴って、教室は一気に騒がしくなった。
椅子から立ち上がる音、教師の言い残した伝達を伝える大きな声、休み時間を謳歌しようとする生徒の声、それらに混じってここから逃げ出そうと腰を上げる。
「ん…」
「えー、木手」
声をかけられて振り返った木手は、複雑そうな顔をしてそこに立っている不知火を見て内心で舌打ちした。
不知火の席は自分の斜め後方に位置しているから、運悪く視界に入って注意を引いてしまったのだろう。
彼は言いにくそうに口の中で何事かもごもごと言い淀んだ後、結局当たり障りの無い言葉を選ぶ。
「あいー…、とぅるばらんけ」
「…わかってます」
「だったらいいやしが…」
変なオーラが出てる、とあながち冗談でもない事を言い残して彼は教室を出て行く。
その背中が見えなくなるのを見送ってから、木手も教室を出た。
2組、3組、4組、5組、と教室のプレートを意味無く確認しながら廊下を歩く。
すれ違う部員の挨拶に適当な返事をしながら、6組の扉を開けた。
「知念クン、居ますか」
突然開けられた教室の扉に、着替え途中の男子生徒の視線が突き刺さる。
プールの更衣室以外には特に設けていない比嘉中は、男子が教室で女子は同じフロアにある空き教室で着替える事が通例となっていた。
その所為か、女子が着替えを終えて教室へ戻ってくると問答無用で扉が開けられてしまうことが多数ある。
今回もその類だと思ったらしい数人の男子があからさまにホッとする様子を視界の端で捉えながら、一番後ろの席で着替えている知念を見つけた。
着替えの途中で声をかけられて手を止めた彼は、上半身はシャツの下に着ている黒いタンクトップで制服のスラックスを履いている所だった。
「知念クン」
「あい?」
「話があります。急ぎで」
男子ばかりだから仕方ない。
けれどスラックスのジッパーを上げて、カチャカチャとベルトを留める音を聞かせながらこちらへやってくる知念が憎らしい。
この場で床に引きずり倒したい気持ちを堪えながら、急ぎです、と繰り返した。
「ぬーがよ、話って」
「…ここじゃちょっと。視聴覚室までいいですか」
「うん」
シャツを取りに一旦籍へと戻って行く知念を待ちきれずに先に廊下へ出て歩き出すと、後から早足で追いついてくる音が聞こえる。
木手が振り返ろうとするのと知念が隣へ並ぶのは同時で、シャツに腕を通しながらこちらを覗きこんできていた。
「えー、永四郎。部活の時じゃ駄目なんどー?」
「えぇ、テニスの事じゃ…ありませんから」
歩きながらボタンに手をかけた知念が一つずつ留めて行くのを横目で見ながら、木手は視聴覚室へ足を向ける。
視聴覚室には映写室と呼ばれる小さな部屋がある。
大抵の機材は視聴覚準備室に揃っていて、この部屋は視聴覚室の大きなスクリーンで映画を見る時だけに使われる部屋だ。
そして映画を見る機会など、1年間で1,2度あるかないかと言う頻度だった。
その映写室に知念を押し込むと、扉の小窓に付いているカーテンを引き鍵をかけてしまう。
部屋の真ん中でこっちを見ている彼に近づき、腰に手を回して身体を密着させる。
ぎょっとして身を引く知念の身体を追いかけて足を踏み出すと、彼の腰辺りに機材の置かれた事務机が当たって止まるのが分かった。
「ッ永四郎!?」
「ねぇ、キスしていいですか?」
「ぬーがいゆってるばぁ?」
「駄目ですか?」
相手の右肩に頬を擦り付けると、体育の後の埃っぽい感じに混じって知念の汗の匂いがする。
頭の奥が痺れるような心地に、目を閉じて小さく呻いた。
意識してその匂いを肺へ吸い込む木手に気付いたのか、知念の大きな手が肩を掴んでやんわりと身を離そうとした。
「わん、体育終わったばっかり…」
「知ってますよ。見てましたから。だからキスしたくなったんです…」
伸び上がって唇に触れようとした木手に、知念は自分の唇をその手で覆い隠してしまう。
気まずそうに反らされる視線に、拒まれたショックより狩猟本能が掻き立てられた。
「駄目、ですか…?」
「な、なまは…駄目」
「どうして?」
「止まれなくなるあんに?学校やっし。まだ部活もあるんど」
唇を押さえたままの手に軽く歯を立てて噛み付くと、視線だけが所在無さげに部屋のあちこちを彷徨うのが見えた。
「そうね、ゴムも持ってないし…だったら、手だけでいいです」
「手?」
「そう」
手首を掴んで掌に口付けて、親指の爪に舌先を這わせる。
柔らかい皮膚の感触とは違う硬質な舌触りに、項に鳥肌が立った。
「ん…っ…」
「永四…郎…」
付け根まで指を咥えたまま知念を仰ぎ見ればすぐに目が反らされるが、視線を落とした途端に彼が食い入るようにこちらを見つめるのが分かる。
指先を舌の根元から先端まで撫で上げると、いやらしい音が上がって更に興奮した。
「っふ、ぅ…んぁ…っ」
突然知念の指が口内で反転して、木手は肩を竦めて声を上げる。
指の腹が舌先を押さえ込むように動いたかと思えば、残りの指が顎を掴んで木手の意思では抜けないようになった。
戸惑って見上げた知念は、もう視線を反らすことなくじっとこちらを見つめている。
「口の中、気持ちいいんばぁ?」
「ん、う…っん…」
頷くと今度は明確な意思を持って口内の指が動き始める。
木手の歯並びを辿る指先が、その下の歯肉を掠める度に背筋を快楽が走った。
「ん、…ん、ぅ…」
右下の奥歯の下、普段は本人である木手でも歯磨きをする際にしか触らないような場所を他人の指先で撫でられて目が眩む。
溢れ出る唾液を飲み下したら上顎の粘膜に爪が触れて、大げさに身体が跳ね上がった。
「っ…は、ぁ…ぅ…」
震え出した膝でどうにか自分の体を支え、知念の腕に両手で縋り付いて体勢を整える。
蕩けてしまいそうな頭の隅で、最近の知念は木手を気持ちよくさせることに強い興味を示していたのを思い出す。
自分なんかでも木手を気持ちよくさせることが出来るのが嬉しいと言っていた。
セックスも緊張してじっと固まっていた以前よりも、少しずつではあるが積極的になってきていた。
元々自分が人より快楽に弱い性質なのを知っている木手は、セックスの時は自ら動いて享受し切れる程度に留めておくのが常だった。
しかしたどたどしかった知念の愛撫が上達し、次第に木手の弱点を覚え始めた最近ではそれも上手くいかなくなっている。
特に彼は快楽を与える事が善だと思っているから、尚更性質が悪い。
「あ、…ぁ、ん…っ」
けれど、今ではそれすら半ば心地よいと思っている自分がいるのも自覚はしていた。
知念の齎す快楽にひれ伏すのもいい、それどころか自ら望んでそうしたいとすら思っている。
とうとうガクリと崩れ落ちた膝をカーペット敷きの床へ付いて、知念の太股に爪を立てた。
舌を押さえられているために不明瞭な発音で彼の名前を呼んでも、嬌声にしか聞こえない。
知念は注意深く自分の顔を見下ろして、反応を返す所があれば熱心にそこを刺激してくる。
「んぁ、っ…ん、くぅ…」
短い休み時間の終わりを告げるチャイムの音が聞こえて、知念がはっと顔を上げた。
ズルリと口の中から抜けていく指先を視線で追いかけた木手は、自分の胸元に手を当てて呼吸を整える。
「永四郎…」
「知念、クンは、…先に戻っ、ていい…ですよ」
まだ自分の声に淫蕩な色が濃く残っているのを自覚しながら、横座りしたまま何とか声を出した。
木手の方は人前に出られない状態になっているが、知念は何とか誤魔化しの効く範囲なのが分かる。
付き合せて授業をサボらせる訳にもいかないのでそう言ったが、彼は木手の唾液に濡れた手を自分のハンカチで拭うとその場に腰を下ろしてしまった。
「知念クン…?」
「落ち着いてから戻ればいいさー」
「えぇ、だから君は…」
「…わん、もうちょっとここにいたいんどー」
それは、自分と一緒にいたいと言う意味だと思っていいのだろうか。
知念が伸ばしてくる腕の中に囲い込まれて、凭れかかる様に両肩に手を置くと恐る恐るそこへ頬を押し当てる。
波立つ神経が触れた所から熱の発散を求めて快楽を伝えてくるが、不思議なものでゆっくりとだが次第に落ち着いていった。
背中に触れる大きな手の感触に意識を集中するため、頬に伝わる知念の鼓動を聞きながら木手は目を閉じる。
昼間の熱が身体のどこかに残っていた木手は、部活が終わった後知念を誘った。
知念もまた同じだったのか、疲れた身体であるにも関わらずあっさりと了承して木手についてきた。
木手の両親は共働きなので家には夜にならないと帰ってはこない。
その代わり、木手には妹が居た。
けれどその妹も週に何回かはピアノだの塾だのという習い事で遅くまで帰ってこないことがあり、二人でしけこむには好都合だった。
汗をかいた身体をざっとシャワーで流して、そのままベッドに直行する。
あと何時間かすれば家族が帰ってくる家に男を引き入れてセックスに興じる背徳感も、木手を興奮させる材料だった。
「っねぇ、知念クン」
「ん…っ…?」
知念の腰に乗っていた木手は、不意に動きを止めて声をかける。
いつもより荒い息で瞳に性欲を露にさせている知念の顔を見下ろしながら、はぁ、と大きく息を吐き出した。
この時は、単純な思いつきだった。
木手を傷つけたり苦痛を与えるのを嫌がっている知念は、セックスの時には必ず騎乗位を望んだ。
動きたくないとかそういう理由ではなく、自分が動いてしまって何かあったらと危惧しているらしい。
実際、射精の直前になると彼の腰は自分を突き上げてくる。
それが無意識なのか意識的なのかは分からないが、与えられるだけでなく与える快楽に興味を示している知念が乗らないとは思わなかった。
「…今日は、ね。知念クンが動いてみるのはどうですか」
「やしが、…」
知念の右腕を掴んで引っ張ると、反対側の手をベッドに付いて彼が起き上がってくる。
そして今度は彼の首に両腕を回して、繋がった場所が抜けてしまわないようにゆっくりと木手が後に体重をかけていく。
背中にシーツの感触が触れて、開いた足の間に知念の重みがかかるのを感じると木手は堪えきれずにため息を零した。
「えー、大丈夫さー?」
「…大丈夫です」
緊張気味の表情で頷く知念が腰を引くと、咥え込んだ大きなものが抜けていくのが分かる。
「は、あぁ…っ、あ…あ…」
括れの部分で止まった動きは、次にまた慎重な動作で押し込まれてきた。
途中、木手の足が邪魔になったのか知念が膝裏を掴んで左右に広げる。
「ふ、ぅ…っあ…んん…」
熱い塊が体内を行き来する度に頭が蕩けていく。
じりじりと腰から上がってくる焦燥感に、思わず自分の乳首を手で摘み上げ指先で捏ね回した。
その刺激に反応した内壁がペニスを締め上げて、身体を跳ねさせた知念が動きを止める。
「永四郎っ…痛くないさー?」
「ん、うんっ…あ、ぁ…っ」
咥え込まされているだけのペニスを何度も意識して締め付け、頷いて知念に答えた。
自分の顔をじっと見つめる彼は、どうやら苦痛を感じていないのだと分かったらしく今度は少し強めに突き上げてくる。
ズン、と頭の奥にまで響く衝撃に一瞬遅れて、総毛立つような快楽が身体を駆け巡っていった。
「っひ、ぃ…あぁ…っ!」
「…んっ…ぅ…」
「っは、あぁ…っぅ…あっ…」
同じ速さで引き抜かれて仰け反った木手は、シーツに爪を立てて身を捩る。
ローションの掻き混ぜられる音が身体を伝わって耳まで響き、更に木手の熱を上げていった。
「っいい…ぁ、あ…ッひ…ぁ、あ…あぅ…ぁ」
次第に激しくなっていく動きに翻弄されて、開きっぱなしの口から長いため息のような嬌声が零れる。
「あぁぁ…ぁあ…ぁ、うぁ…ぁあ…っ!!」
突き上げられるたびに、はちきれそうになった自分のペニスから先走りが溢れ出して自分の腹をヌルヌルと汚していく。
知念のペニスで内壁を擦り上げられ、絶頂に向かって駆け上がっていくのが分かった。
自分の声さえも遠くに聞こえて、視界が霞んでいく。
自分が乗って動いていた時とは違う、抗いがたい大きな快楽に木手は初めて恐怖した。
それは他の誰とセックスした時にも感じられなかった感覚で、確実に木手を溺れさせていく。
いつの間にか彼の背中に回していた手は、縋る物を欲してその背に爪を立てていた。
「や、ぁあっ…イく、っはぁあ…っ!」
「永四郎…っ!」
「あぁあ…っ駄目、あぁっ…や、ああぁ…っ!」
このまま達してしまったら、自分がどうにかなってしまう。
確実に近づいてくる頂に、どうにか抗おうと知念の胸に手を置いて突っ張ったらその手を掴まれてベッドに押さえ込まれた。
夢中で身を捩っても、上から押さえられている分知念のほうに分がある。
「や、知念ク…!!」
「わんっ…が、イか…せる、っはぁ…とこ、見たい…っ」
欲情に塗れた目をして舐めるように自分を見下ろしてくる知念が、動きを止めないままで荒い息の合間にそう言った。
伸びてきた熱い手が木手のペニスを絞るように握った途端、ベッドから身体が跳ね上がる。
「っひ、ああぁあ…っ…ぃあ…ぁ…んああぁ!!」
腰からせり上がってきた大きなうねりに全身が飲み込まれた瞬間、木手の意識は白く弾けて消えた。
「永四郎…、永四郎!!」
すぐ側で声がして目を覚ました木手は、天井から間近で自分を覗きこんでいる知念に視線を移した。
何度か瞬きをしている間に安堵のため息をついた知念が身を離したので、倦怠感の残る身体を無理矢理動かして身を起こす。
既に自分から身を離してベッドに膝を付いている知念を見て、自分が意識を飛ばしてしまったのだと気が付いた。
長い時間気を失っていたわけではないと思うが、それでも彼を落ち込ませるには十分すぎる出来事だったらしい。
「知念クン…」
「わっさんどー…、わんが無茶したから…」
ぼそぼそと喋る知念は見るからに落ち込んで、今にも頭を床に擦り付けそうな勢いに見える。
「違うんです、そうじゃなくて」
「…………」
「言いにくいんですけど…その、痛かったわけじゃなくて」
わかるでしょう、と言うように知念を見れば、何度か瞬きをしたその顔が少しずつ赤くなっていった。
自分の顔も同じように赤くなっているんだろうと思いながら、伸びてくる腕に身を任せる。
「知念クン、好きです」
「あぁ」
この長い腕が、一刻も早く本当の意味で自分の物になればいいと願った。
END
2008/02/12:完成
2008/02/12:UP