男の沽券

「んんっ…う、ん…」

 ベッドに座った自分の股間に顔を埋める木手を見下ろし、甲斐は心の中でため息をつく。
 こうしてくれる事が不満なわけは無い、気持ちよくないわけでもない。
 むしろ木手は年齢を鑑みれば上手いほうだと思う。
 最も、自分達の年齢で同性のペニスを口で愛撫する奴なんかそうそう居ないとは思うが。

 片手でペニスを扱く熱心な指先、叢に口元を埋めて根元に吸い付きそこから濡れた唇を先端まで滑らせてくるその動き。
 何よりも普段は絶対見られないトロリと潤んだ目で、脈動して雫を垂らすペニスを愛しそうに見つめてくるのも堪らない。

 単純だが、こうしてくれる時に一番木手の気持ちを感じることが出来た。
 勃起したペニスなんて綺麗なものでもないし、どちらかと言えばグロテスクだ。
 甲斐がそれをねだる訳でないのに、木手は毎回飽きもせず頬擦りをせんばかりに丹念に愛撫を施してくれる。

 先端だけを口に含んで窪みに舌を捻じ込むように動かし、唾液で濡れた柔らかい唇が括れの部分を心地よく締め付ける。
 そのまま飲み込んで喉の奥まで迎え入れ、大きく頭を上下させてしゃぶる様子に興奮しないわけが無い。

「永四郎…も、出る…っ」
「んぅ…」

 射精を喉で受け止めるのも心得たもので、咽ることも無く甲斐の精液を口腔内に溜めて頭を上げる。
 脱力してベッドに寝転がった甲斐の耳にティッシュを引き抜く音がして、今度は隠さずにため息を漏らした。
 チラと顔を上げて木手を見下ろすと、口元をティッシュで拭った彼がそれをゴミ箱へ放り込んでいる。
 それから服を着始めるのを眺め、自分も身づくろいを整えようと起き上がる。

 こちらに背を向けてジーンズに足を通す木手の、下着に包まれた尻を眺め思わずゴクリと息を呑んだ。

「えー、もう終わり?」
「何?まだ足りないの?もう一回?」

 振り返りもしないで言いながら、ぴったりとした布地に引き締まった尻を収めるとボタンを留めジッパーを上げる。

 そこへペニスを突き立てたことはまだ無い。
 元々晩熟な甲斐は手を繋ぐのに3ヶ月かかり、キスをするのに更に3ヶ月かかった。
 キスから体に触れ合うまでが割と早かったのは、木手のほうが焦れていた所為もあったと思う。

 そして初めて体に触れて、詮無い言い方をすればお互いのペニスを扱き合って、三週間。
 まさか初恋が男でそれが叶うなんて思いもしなかったが、好きな奴と付き合えるのは幸せだと思う。

「そうじゃなくて…」

 甲斐が先を言い淀む内にシャツを羽織ってしまった木手が、ボタンを留めていく。
 そしてまた先に進めないまま、今日が終わってしまった。



 勢いよく蛇口を捻り、流れ出る水の中に頭を突っ込んだ。

 部活の休憩中、頭の中を回るのは永四郎の事。
 こんな事では怪我をすると分かっていてもどうしたって離れない。

「っくそ、わかんね」 

 頭皮を流れ髪の毛をぐっしょりと重くする冷たい水道水をそのままにして、甲斐は呟く。
 蛇口を捻って水を止めると、左右に頭を振って水滴を飛ばし手に持っていたタオルを首にかけた。

「ぬーがよ、裕次郎」
「あー?おぉ、永四郎とよ。何で出来んかねーと思って」
「おぉ?」
「セックス」

 隣で顔を洗っていた平古場が、甲斐と同じようにタオルを首にかけながら問いかけてくる。
 甲斐の答えに彼はにやりと口元を歪め、興味深々で身を乗り出してきた。

 テニスコートの側にある体育館の壁に凭れて座り込むと、平古場は目の前にしゃがみ込む。

「まだヤッてないんどー?」
「別に何もヤッてないわけじゃねーさ」
「だぁ、ぬーよ。平古場様にいゆっちみー?」

 そこでようやく平古場が興味本位だと気付いて、面白がられるのはごめんだと眉を顰める。
 平古場が童貞なのは本人から聞いて知っているし、彼に説明しても得られる知識はほとんど無い。

「やーに言ってもわからん」
「ぬーがよ、わんが童貞だからってうしえぇてるとたっくるさりんどー」
「だぁよ、やーはわかるんば?ぬーで入れらんねーか。永四郎がそういう雰囲気にもって行きたがらん」

 キョトン、と目を見開いた平古場は、次にゲラゲラと腹を抱えて笑った。
 今度は馬鹿にされているのだと不機嫌になった甲斐を見て一旦は声を抑えたものの、それでも表情はニヤ付いている。

「ぬーで入れらんねーかって、そりゃ決まってるだろー」
「はぁやぁ」
「そりゃあ、あにひゃーが男だからよ」

 平古場は当たり前すぎるほどストレートな男だ。
 女が好きで、男同士には何の知識も無い。
 何の知識も無いからこそ偏見も嫌悪感も無いわけで、甲斐が木手を好きだと相談したときも、へぇちばりよ、と笑って受け入れてくれた。

 だが今日だけは、平古場の馬鹿さ加減を呪った。

「やっぱり永四郎に聞かんとわからんかねー」
「おい、無視さんけ。わんが教えてやるさー」
「はぁやぁ、入れる場所がねーとかそういう段階はもうとっくに越えてるんばぁよ」
「わーってるって。やー、ちゃんと用意してるんど?」
「用意?」

 コンドームの事かとポケットを探れば、肌身離さずかよと笑われじゃあ何の事かと思っていると向こうから歩いてくる人影が見えた。
 そちらへ視線を移した甲斐に気付いたのか、平古場も自分の背後を振り返る。

「もうすぐ休憩終わりますよ」

 片手にスポーツ飲料のペットボトルを持って立っている木手は、自分の背後にあるテニスコートを肩越しに見ながら言った。
 どうやらコートの中では1年生が監督に絞られているらしく、怒声がこちらまで響いてくる。

「余りダラダラここにいると、とばっちりを食いますよ。コートからここはよく見える」

 木手の左手がペットボトルの蓋に掛かって開けられ、飲み口に唇を触れさせ少し喉を反らして液体を流し込む。
 嚥下するたびに動く喉は先ほどまでの練習で汗ばんでいて、今も首筋から襟の立ったユニフォームの中へ汗が流れ込んでいた。

 この男は、普段はシャツのボタンを一番上まで留めるほど几帳面なくせにユニフォームとなると詰まっているのは苦しいからと余計な理由をつけて胸のジッパーを一番下まで下げている。
 その所為で汗が鎖骨を通ってその下まで滑り落ちて行く様が、まるでそこだけカメラでアップにされたように甲斐の印象に残った。
 片足に重心を乗せて腰を突き出す姿勢とも相まって、早い話が欲情する。

 慌ててそこから顔を反らした甲斐は、平古場が身を乗り出して耳打ちしてきた言葉に首を捻った。

「裕次郎、ちゅうやわんの家に寄れよ」
「え?」
「いーもんやるさー、な?」

「平古場ぁ!!甲斐ぃ!やったーいつまで休んどーさー!くまんかい来んか!!」

 それは何だと平古場に聞き返そうとしたとき、監督がこちらに向かって怒鳴り散らす声が聞こえてきた。
 肩を竦めた彼がまぶやーまぶやーとニヤ付いた声で駆け出すのを見送っていた甲斐は、木手は何も言われないのかと首を傾げる。
 表情に出ていたのか、木手は首を傾けて笑った。

「俺はさっきまでラリーしてましたからね。あと少し休憩。甲斐クン早く行かないとまたお説教ですよ」
「あい、わかっちょんさ」

 既にコートでは平古場が監督のめちゃくちゃな球出しに食らいついているし、アレが一段落すれば次は自分だろうと思う。
 慌てて立ち上がった甲斐が駆け出そうとすると、その肩を木手が掴んで止めた。

「永四郎?」
「…次の土日、監督が法事でいないでしょ。部活も久々にお休みだから」
「あぁ、うん」

 早く行かねば監督に殺される、ソワソワしながら木手の顔を見れば彼は珍しく口元を緩めていた。

「うちね、家族が出払ってるの。泊まりに来なさいよ」

 甲斐クン明日の1時間目は数学よ、そんなことを言うような調子で木手は告げる。
 ポカンと半開きになった甲斐の唇に掠めるようなキスを落として、テニスコートの方へ歩き出した。

 しばらくその場を動けなかった甲斐は、その後グラウンド50週を言い渡される。




 持つべき物は友達だと甲斐が思い直したのは、その数時間後だった。
 部活を終えて、グラウンドの50週も終えて平古場の家に行くと、彼が自室にある押入れの段ボール箱の中の一番奥にこっそりと隠していた包みを取り出してくる。

 掌サイズのその包みはピンク色の可愛らしい包装紙で包まれていて、始め甲斐は首を傾げてそれを見ていた。

「ぬーやが、うり」
「まー見てろって」

 包みを開けるとプラスティックの容器の中に薄いピンク色の液体が溜まっていて、平古場が容器を揺らすと億劫そうに揺れる。
 その揺れ方で液体に粘性があるんだと気付いた甲斐は、それでも分からず平古場の顔を見た。

「えー、まさか永四郎が勝手に濡れるとか思ってないよな?」
「っな、うりくれーわかっちょんさ!」
「あんせー痛くねーように中まで濡らしてやったらいいばぁ?」

 あっさり言ってのけた平古場から容器を押し付けられ、自分の目の高さまで持ってきて中身を揺らす。
 たぷん、と容器の揺れから一拍遅れて動くねっとりとした液体に、思わず口元と鼻を手で押さえた。

「これっぽっちで興奮してんじゃねーって」
「や、やしが…」
「やーはよぉ、純にぬーも知らねーんだからよ。そりゃあ、永四郎も焦れるわ」

 暗に初めて木手と触れ合った時の事を言われれば、もごもごと口ごもるしかない。

 木手が甲斐の気持ちを尊重して自分から言い出すまで待ってくれていると分かっていても、緊張と羞恥と大き過ぎる期待感が邪魔をしてなかなか言い出せなかった。
 代わりにキスばかりをねだる自分に、ある日突然木手が甲斐を押し倒して身を摺り寄せながら言い放った。

『そんなにキスがしたいなら、俺が色んなところにキスしてあげますよ』

 そういうのは俺が言いたかったのに!と思ったところで後の祭り。
 マグロ状態で散々弄ばれて、現在に至る。

 だから多分今回も、木手は甲斐が言い出すのを待っているのだろう。
 ならば今回こそ、その期待に応えなければならない。

「わ、わんは永四郎を大事にして…!」
「あーはいはい、わーってるって。永四郎がでーじたーしちな、はいはい」

 晩熟だとからかわれる度にそう言ってきた甲斐自身も、この辺で木手に自分だって男らしいところの一つや二つはあるんだと見せなければならないなんて思っていた。

 木手はその性格から、普段から人に祭り上げられる事が多かった。
 クラス委員や委員長、グループ分けの際にリーダーにされる事等日常茶飯事で、多少性格がきつい事を除けば誰からも頼りにされる男だ。
 その分彼が雑事に追われる事はとても多く、甲斐はそれが木手の負担になっていないかと心配だった。
 だから自分が、皆から頼られる木手が心を許せて安心できる相手になりたかった。

 しかし現実は多分、自分が一番厄介だろう。
 付き合い始めた頃、二人きりになれば手が繋ぎたくてソワソワして明らかに挙動不審になっていた。
 手を繋げば肩を抱きたくなって、抱きしめたくなって、キスしたくなって。
 どうすればスムーズに格好よく木手をリードできるかいつも考えるのに、木手を前にすると緊張と拒否されるかもしれないと言う恐れが甲斐を物怖じさせる。

 そんなのに度々付き合っていたら、その他にもやることが多い木手はうんざりして余計に疲れてしまうだろう。
 その内手一杯になったら、要らない物から順に切り捨ててしまうはず。
 木手が、自分の目的のためならどこまでも薄情な男になれるというのは知っている。

 そしてその時に一番初めに捨てられるのは自分、甲斐はそう思い込んでいた。

「え、永四郎がよ」
「ん?」
「土曜…泊まりに来いって。これでぬーもできんかったら、わん捨てられるんど」
「…あいー…まぁ、ちばりよー」

 呆れたような平古場の言葉に、甲斐は力強く頷く。
 再び押入れをごそごそやっている平古場を他所に、甲斐は手の中の容器を包みなおして鞄にしまった。

「えー、裕次郎やり方知ってんのかよ」
「やり方って…知っちょんさ」
「濡らしただけで突っ込めると思ってたら大間違いだばぁ?」
「う…」

 怯んだ甲斐にポン、と紙を折り畳んだ物が投げられ、ラブローション取扱説明書と書かれているのが見える。
 カップルの仲をより熱く、なんてキャッチコピーに噴出しながら中を開くと、ご丁寧にもアナルセックスの手順が書かれてあった。

「しっかりお勉強しれー」
「あさきみよー…」

 取扱説明書と書かれている割にはローション自体の注意事項の書かれていない紙に目を通して行く甲斐は、ゴクと息を呑んだ。

「凛…」
「あー?ぬーがよ」
「…勃ちそう」
「……けーれ。土曜日には永四郎とできるんだからよー。溜めとけ」

 ほれほれ、と急かされて部屋を追い出された甲斐は、ポケットの中に紙を突っ込んで心持ち鞄で股間を隠すようにして平古場の家族に挨拶をする。
 玄関先まで一緒に出てきた平古場は、靴を履くためにしゃがみ込んでいる甲斐の側にジャージのポケットに手を突っ込んだまましゃがみ込んだ。

「だぁ、また明日」
「おー。あ、裕次郎」
「ん?」

 爪先をとんとんと地面に叩きつけながら体を起こした甲斐は、振り返った先の平古場が神妙な表情をしているのに気付く。

「じゅんに永四郎でいいんばぁ?男やっし、あの永四郎ばぁ?」
「…………」
「土曜まで時間あるさー、よく考えれ」
「あー…、うん…」

 今度こそ平古場が面白がっているわけではないと分かって、甲斐は曖昧に頷くしかなかった。  

 とは言えよく考えたって答えは同じで、甲斐の使命は今現在紙の手順を頭に叩き込むことだ。
 緊張したりしないように、とにかく失敗しないように。
 そして出来れば、永四郎が自分に骨抜きになってくれないかとあらぬ夢を抱きつつ、こそこそと紙を開いて熟読し続けた。




 そして決戦の土曜日。
 午前中に授業を終えた甲斐は、一旦は鞄を持って木手のいるクラスの教室へ出向いた。  
 だが彼は準備があるから夕方家に来るようにとだけ言って先に帰ってしまい、何となく肩透かしを食らわされた気分になった。
 まぁ木手が言うのだからと一度家に帰って泊まる用意をし、勿論忘れないように平古場からもらった包みを鞄の中に入れて時間を待つ。
 夕方になって木手の家に出向くと、普段訪れている時とほとんど変わりが無かった。

 何の準備だったんだろうかと思いながらリビングに通された甲斐は、そこでキッチンからいい匂いが漂っているのに驚く。
 彼はこの準備の為に、自分を一旦家へ帰したのだ。

「永四郎、飯作ったんどー?」
「簡単な物ばかりですがね」

 すぐ食べますか?と聞かれて頷けば、木手はキッチンへ入っていった。
 リビングのソファに鞄を置いて上着を脱いだ甲斐は、食卓の椅子に腰掛けてあたりを見渡す。

 普段ここへ通されるときは木手の家族がいるため、余り不躾に見渡す事は出来ない。
 それにすぐ木手の部屋へ篭ってしまうから、リビングでゆっくりする事は少なかった。
 何だか結婚したみたいだと思ったらくすぐったくなって一人で笑っていると、目の前に麦茶の注がれたコップが置かれる。

「どうしたの、ニヤニヤして」
「ニ、…ニヤニヤなんかしとらんばぁ」
「そう?口元ニヤけてたけど」

 言いながら再びキッチンへ消える木手の背中を見ながら、彼が自分にお茶を出すためだけにここへ出てきたのだと気付きますます夫婦みたいだと堪らなくなって椅子の上で膝を抱え顔を埋めた。

「ちょっと甲斐クン、お皿運ぶの手伝って」

 キッチンから飛んでくる声におう!と答え、今度こそ木手の言う「ニヤニヤ」した顔で立ち上がった。

 食事を食べてからは、終始穏やかな時間が過ぎた。
 緊張も気負いもいつの間にか消えて、普段と同じ空気が二人に流れる。
 学校の事やテニスの事など話すことはたくさんあるし、食べ終わった食器をキッチンの流しにいる木手に手渡してありがとうと言われたり、擬似夫婦のような体験は嬉しかった。

「…クン、甲斐クン…起きて」
「…ん、あ?…っ?!わん、寝て…?」
「ぐっすり」

 すっかりリラックスした甲斐は、リラックスしすぎてソファで居眠りをしてしまったらしい。
 それに気付いたのは木手に起こされたときで、飛び起きた甲斐に彼は小さく嘆息してから言った。

「お風呂沸いてるから、入って。俺はもう入ったから」

 よく見ればいつもの髪型はすっかり濡れそぼって崩れているし、着ている服も寝るのに適したスウェットに着替えている。

 木手に勧められるまま風呂場へ向かった甲斐は、脱衣所の洗面台の鏡に自分が映っているのを見て大きく深呼吸をした。

 木手だって、泊まりに誘ったくらいだからそのつもりでいるんだろう。
 ここで自分が何もできずに一夜を明かすなんてことになれば、それこそ愛想を付かされかねない。
 一晩一緒にいて何も出来ない男なんて、最早それは男じゃない。

「よし」

 鏡の中の自分と頷き合って服を脱ぎ捨てると、浴室の扉を開ける。
 換気されているが微かに残る熱気とソープの香りに、少し前に木手がここに居たんだと実感させられた。
 途端に先ほど入れた気合もどこへやら、甲斐は咎められもしないのにこそこそ中に入っていく。

 シャワーから湯を出して頭から浴びる。
 小動物のように心臓が速いペースで鳴っているのが分かり、心を落ち着かせようともう一度大きく深呼吸した。

 頭の中に叩き込んだ手順を思い出しながら、木手の姿と重ねる。
 あの引き締まった尻を開くと思うと、興奮とそれを上回る緊張で逃げ出したくもなった。
 けれどここまで来たらもう逃げるわけにはいかないと、音を立てて自分の頬を両手で叩く。

『甲斐クン?』

 ようやく全身を洗い終えたとき外から木手の声がして、甲斐は身を竦めた。
 流石に入ってくる事は無いと思うが、扉一枚隔てただけで自分が全裸でいると言うのは非常に心もとない。
 見えもしないのに思わず股間を手で覆って、裏返った声で返事を返す。

「あい!?」
『俺は先に部屋にいます。バスタオルここに置いておくから』
「あ、あぁ…にふぇーど」(ありがとう)

 足音が遠くなっていくのを固まったまま聞き、それが小さくなったのと確認してようやくホッとため息を零した。
 こういうのも何度か経験すれば慣れるんだろうかと思いつつ、湯船の中に身を沈めた。

 顎が軽く湯に触れるくらい体を沈ませた甲斐は、この湯に永四郎も浸かったんだよなぁと何の気無しに思って出るに出られなくなる。
 居た堪れないような気持ちと、かといって出てしまうのは勿体無いような気持ち。
 変態かと自嘲して俯けば、揺れる湯の中で臨戦態勢な自分と目が合う。

「こんふらー、まだへーさよー」(この馬鹿、まだ早い) 

 叱り付けて天井を仰ぎ、気の抜けた吐息を零した。
 


 風呂から出た甲斐は、木手に出してもらったバスタオルを首にかけてジャージに身を包んだ姿で廊下に出た。
 廊下と階段の電気だけを残して明かりを落とされている一階は暗く、廊下の電気を消してから二階へ続く階段を上がっていく。
 上がりきった所で階段の電気も消すと、木手の部屋の扉を開けた。

 木手はベッドに座って壁際に置かれたテレビを見ていたが、甲斐が入って行くとこちらに顔を向ける。

「あぁ、上がったの」
「湯、抜いといた。とりあえずざっと流しておいたけど」
「ありがとう」

 何となく隣に座るのは気が引けて、ベッドを背凭れにするようにして床に座った。
 座ってからこれでは駄目だと気付いたが、わざわざ座り直す勇気は無くそのままテレビを見つめた。

「甲斐クン、ちゃんと髪の毛拭きなさいよ」
「あい?あ、…うん」

 そう言われて自分の髪の毛がまだ水滴が滴るほどに濡れている事に気付いてタオルで乱暴に擦る。
 見かねてため息を漏らした木手が、タオルを奪い取って上から甲斐の頭に被せた。

 ベッドに座った木手の足の間に挟まれるような体勢になり、自分の体の脇に木手の両膝が突き出す。

「そんなに強く拭いたら傷むでしょ」
「あ…」
「じっとしてて」

 丁寧に水分を拭っていく手つきは心地いいのに、木手が自分に触れているだけでただ見ているだけだったテレビの内容がますます目に入らなくなってきた。
 いつも触れ合う時はそうでもないのに、今日はいつもと心構えが違うからか手の先が冷たくなっていくのが分かる。

「いつも濡れたまま寝てるんでしょう」
「あぁ」
「だからあんな風に髪の毛が跳ねるのよ。ちゃんと乾かしなさいよ」
「元々天パーやっし」
「乾かせば少しは変わるんじゃないの」

 髪の毛が真っ直ぐな木手には分からないと愚痴れば、後ろでふふふと笑う声がした。
 木手の右膝に手を置いて振り返ると、小首を傾げて見下ろした木手の手がタオルから離れて頬に触れる。
 落ちた彼の前髪がさらりと揺れて、少し微笑んだような目元にかかった。

「永四郎…」

 なぁに?なんて答える木手の声が甘くなる。
 甲斐が伸び上がろうと身を捻るのと同時に、木手が体を倒してきた。

 唇同士が触れ、囁くように名前を呼ばれる。
 それが耳に溶けた瞬間カァッと体が熱くなって、立ち上がるのと同時に木手の肩を押してベッドに倒れ込んだ。
 その拍子にタオルが床に落ちたが、もう二人とも気に留めなかった。

「甲斐クン…」
「永四郎…、その…今日は…」
「…もう黙って」

 両手で再び頬を包まれて、そのまま引き寄せられる。
 言いかけた甲斐の言葉を遮るように口付けられて、このままいつものパターンで終わってしまうのかと言う不安と言わなくても分かってくれるのではないかと言う期待が湧き上がった。

 けれど確かにいつもと違うのは、こうして自分が木手を組み敷いている状態で分かる。
 いつもは二人とも身を起こしたまま触れ合って終わることが多く、例えベッドに座っていてもどちらかが寝そべると言うことはまず無い。

 シーツに散る木手の少し長い髪や、密着して絡む足の感触に呼吸が苦しくなる。
 息を荒げて肩を上下させる甲斐の肩を、触れるだけで唇を離した木手の手が撫でていった。

「キスして、ね、甲斐クンから」

 薄い上唇とふっくらした下唇の奥に歯並びのいい歯を覗かせ、その間から真っ赤な舌をチラ付かせて言う。
 全身の毛が逆立つような興奮を感じて、半ばぶつかるように唇を塞いだ。
 唇の間に舌を差し込んで木手の舌を捕らえると、互いのそれを擦り合わせて絡める。 

 夢中で唇を貪りながら木手の膝を割って自分の足を押入れ、急いた甲斐の腕が乱暴に木手のTシャツを捲り上げた。
 顔を上げた甲斐は木手の唇が自分達の唾液でテラテラと濡れ、そこから雫が落ちるのに息を呑む。
 雫を追って首筋へと舌を這わせていき、忙しく木手の胸板を弄って指先に触れる引っ掛かりを摘みあげた。

「っ、甲斐クンっ…や、痛…っ」
「永四郎…っ」

 痛いと言われて慌てて手を離し、今度は力を加減して指先で押し潰すようにグリグリと動かす。
 長いため息を漏らして木手から体の力が抜けていくのを見ながら、次にそこへ唇を寄せた。

「っあ…」

 指での刺激でつんと尖った乳首を唇で覆っただけで声を上げた木手をチラリと見上げ、うっすらと頬を上気させているのを見て嬉しくなる。
 吸い付いて硬くなったそれを尖らせた舌先で突付き、舌全体で擦り上げた。

「っは、ぁ…っ…んん…」

 ため息のような声が少し弾んで甘く上擦り、眉を寄せた苦しそうな表情とは裏腹に胸を突き出してくる。
 音を立てて吸い上げるのと同時に放って置かれている逆の乳首を人差し指で円を描くように弄ると、仰け反って声を上げた。

「ぁっ…っ…、はぁ…あ…」
「永四郎…イイ?」

 頷いてくれるのにホッとして、木手の体を弄る手に一層熱を篭める。
 胸から腹の方へ唇を落としながら視線だけを上げて彼を見た甲斐は、薄く唇を開いたままこちらを見ている木手の陶然とした表情に体の熱がグワッと上がるのを感じた。

「永、四郎…っ」
「んっ、ぅ…」
「…勃ってる…」

 スウェットのウエスト部分から手を差し入れて下着を掻い潜り、いきなり直に木手のペニスを握りこむ。 
 それは既に熱を持っていて、自分がそうさせたのだと甲斐に実感させたが自分だってそれ以上に痛いくらい勃起しているのを感じていた。

 身じろぐように木手が腰を浮かせると、スウェットが段々とずり下がっていき黒い下着から迫り出した腰骨が見え隠れする。
 態度も言葉も普段尖っていることが多い木手の体で、腰だけが何となく丸みを帯びて柔らかい。
 体を倒してそこに吸い付いたら、微かに驚いたような声が上がった。

「っん…」

 チュ、と音を立てて唇を離し、手の中で鼓動を伝える熱をゆっくり擦り上げる。
 木手が大きく息を吸い込む気配がして、顔のすぐ側にある腹筋に力が込められた。

 先端から溢れ出す雫が甲斐の手を濡らして、手の動きがスムーズになると木手の声も色が濃くなる。

「ぁ…っ、あ…」
「永四郎…足、…」

 片手で膝を外側に押しながら小さく呟いたのを聞き取ったらしく、ゆっくりと足が開いていく。
 その間に座り込んで木手の開いた足の膝裏を掴んで膝を立たせた甲斐は、内股に吸い付く度ピクリと緊張する筋肉の反応を喜びながら手の中で弄んでいる物の先端を舐め上げた。

「っひ、あ…っ」

 木手は毎回甲斐に口でしてくれていたが、甲斐の方が木手を唇で愛撫する事はこれまでは少なかった。
 これまでの性的な触れ合いに関しては主導権が全て木手にあったため、彼自身が甲斐にしてもらうことを余り望まなかったからだ。

 美味しい物でもない事は分かっていたが、木手が熱心にこの行為に没頭する理由は何となく分かった。
 液体を啜る音を立てながらゆっくりと口の中へ含むと、猫が鳴くような高い声が上がる。

「ァ…ア…っ甲斐…クン…」
「ぅ…ん…」

 いつも木手がしているように頭を上下に振って唇で扱き、溢れる雫は飲み込まずに垂れ流した。
 それが根元を伝い奥へと流れて行くのを指で辿り、これから開くその場所に指を触れさせる。

 ヒク、と蠢いて触れた指先を飲み込もうとする入り口の動きに一瞬戸惑うが、少し力を込めて押しつけると暖かい粘膜が指を受け入れていく。
 第二関節の辺りまで飲み込んだ途端きつく締め付けられて顔を上げた甲斐は、眉を寄せて唇を噛んでいる木手にようやく気付いた。

「っは…っ…」
「永四郎、痛い?」
「んん…ぅ、…」

 そこで初めて、平古場にもらったローションの存在を思い出した。
 しかし部屋の中を見渡しても自分の鞄は無く、また甲斐が自分で鞄を持ってきた記憶も無い。

「え、永四郎…」
「なに…?」
「すぐ戻るからっ、待ってて」

 ここで身を離すと言うことがどんなに格好悪いかは分かっているが、アレが無いと木手の体が傷つくと説明書には書いてあった。
 初めてが痛いのは当たり前だとは思っているが、濡れない場所に突っ込むほど勇気は無い。

「すぐやっし、な?」
「っ、甲斐クン…!」

 体を起こして今にも部屋を出て行きそうになる甲斐の腕を、熱の篭った手が掴んで引き止めた。
 真っ赤に染まった目の縁と、欲に濡れた瞳で見つめられてクラクラと眩暈を起こすが、これは木手のためなんだとその手に触れる。
 が、木手は顔を上げて視線だけで机の引き出しを示した。

「そこに…入ってる、から」
「え…、永四郎…?」
「俺だって…嫌じゃないんだから、ね…」

 木手の顔の横に手を付き体を伸ばして引き出しを開け、中に手を入れる。 
 一番手前の取りやすい所で手に触れる筒のような物を取り出すと、ペットボトルをそのまま小さくしたような容器が出てきた。

 中身は平古場にもらったものと同じく、粘性のある液体だ。
 蓋を開けて片手に出すと、ネバネバとした冷たいそれが手の熱を吸い取って次第に柔らかく蕩け始める。

 それをさっき指を含ませた場所に塗りつけた。
 外側を何度か往復させて擦り上げ、縁が収縮して指を捕らえようとしているのに気付く。

「ん…っ」

 目を伏せたまま喉を鳴らす木手の表情を見ながら、ヒクヒクと動く場所に指を押し込んだ。  
 思った以上に滑りが良くなっていたその場所は、一気に根元まで甲斐の中指を飲み込む。

「っひ…ぃ、あっ、あ!」
「あっ、ごめ…痛い?」
「んんっ…っぁ…」

 自分でも驚いた所に木手の高い声が聞こえて慌てて指を引き抜こうと力を込めれば、きゅうと窄まって指を食い締めた。
 半ばまで指を引き抜いたときに肉の締め付けを感じて動きを止めた甲斐は、自分の指を咥え込む縁を見下ろす。

「永四、郎…?」
「っは…あ、あ…っ」

 両腕で顔を覆ってしまった木手の唇から洩れ聞こえる声が、苦痛ではない事を確認して再び指を押し込んだ。
 柔らかい肉に埋もれていく感覚は変な感じではあったけれど、同時に驚くほど甲斐を興奮させた。
 根元まで咥え込ませた指を中で軽く折り曲げ、そのままゆっくりと引き抜き腹の方の内壁を刺激する。
 説明書には男でも気持ち良くなる場所が中にはあって、そこを刺激すれば射精に至る事もあると書いてあった。

「…っぁ…」
「ここ?」
「あ、…あっ!…ぁ…」

 ある一点を指先が引っ掻いた時、木手の腰が痙攣するように跳ね上がった。
 そこが探していた場所なのだと気付いた甲斐が少し強くそこを押すと、途端に悲鳴のような声が上がる。
 呼応しているのか濡れて立ち上がっていた木手自身からまた新しい雫が溢れ出して、開放を求めてビクビクとのたうった。

「っひ、ぃ…ああァ…っ!」

 ここまで顕著な反応が返ってくるとは思わなかった甲斐はびっくりして指を引き抜きかけるが、きつく締め付けてくる内壁に阻まれる。
 胸を大きく上下させてこちらを見下ろしている木手の目は明らかに感じていて、自分が間違っていないのだと安心した。

「永四郎…」
「ぁ、あっ…んァ、あぁ…」

 絡みつく中から一旦指を引き抜き、人差し指を添えて押し込んだ。
 痛みを訴えるかと思ったが木手は一瞬しゃくり上げるような声を上げただけで、縁はじわじわと広がって指を受け入れる。

 さっきの場所を指先でグリグリと押すと、甲高い掠れた泣き声で甲斐の名を呼んだ。
 縋りつくようなその響きに脳髄に直接快楽を流し込まれるような感じがして、甲斐は大きく息を吐き出した。

「甲斐クン…っアぁ…っぁー…!」

 痛みを訴えるまでに硬く張り詰めた自身を何とか落ち着かせようと深呼吸を繰り返すが、我慢もそろそろ限界に近い。

 蕩けきった声を上げる木手の腰だけが別の生き物のようにくねって、咥え込んだ甲斐の指で更なる快楽を貪ろうとする。
 内部までがまるで別の器官に、性器の様なものになってしまったかの様に中へ呑み込もうと蠕動していた。

 ゴクリと音を立てて生唾を飲み込んだ甲斐が指を引き抜き、片手で根元を支え甲斐の先端が濡らしたその場所へ触れさせる。

「永四郎、もう…入れていい?」

 顔を覆っていた腕を離した木手が頭の上でシーツを掴み、はぁ…と長い息を漏らして頷いた。
 シーツを握り締めるその手が震えているのに気付いて、甲斐は半ば憎々しいとさえ思うような気持ちでその姿を見下ろす。
 伏せた睫が微かに震えて、何度も大きく息を吐き出しては体の力を抜くように努めているのに指先だけが白くなるほどに力が篭っていた。

 いつも気丈に振舞う彼が、こんな時でさえさっきまで余裕を失わなかった彼が、本当は自分と同じように緊張して不安でいたのを何もこんな時に気付かせなくたってと、そう思った。

「っ、入れるぞ…」
「…あ、…はっ、ん…ぅ…」

 先端が収縮したそこへ押し付けられた縁は、かけられる圧力によって甲斐の形に拡がり受け入れていく。
 見ているだけの時は単に開いたり締まったりしているように見えたその場所は、中へ含ませると実は呑み込むように奥へ動いているのだと指で開いたときに知った。

「っは…ぁあ…あっ…」

 動きに逆らわないよう少しずつ先端を中に埋め、一番太い括れの部分が縁を通過する。
 その瞬間だけ背中を反らせて声を弾ませた木手だったが、すぐにまたくったりと力を抜いてシーツに背中を押し付けた。
 ぴったりと隙間なく吸い付いてくる肉の壁にため息を零すと、その息が首筋にかかったのか木手が身を捩る。
 腰をくねらせるその仕草にバチッと目の前に火花が散ったような気がして、腰に添えていた片手を離して木手の肩を掴んだ。

「永四郎…それ、わざとやってんだったらたっくるすぞ…」
「や、何…っ、ひ…あ…あぁっ…っ!!」

 先端が入っただけのところから、勢い良く腰を突き上げる。
 それは肌と肌がぶつかる音がするほどで、一気に体の奥深くを開かれた木手は勿論根元までペニスを押し込んだ甲斐も一瞬動きを止めた。

 ドロドロに濡れた内壁が自分のペニスに絡み付いて蠕動し、体内の熱でもって溶かそうとしてくる。
 入れたと同時に射精しなかったのは奇跡に近く、今現在も腰を突き上げる射精感に歯を食いしばって堪えるしかない。

「…はっ…、…あ…、ぃ…」
「ぁ…っ…」

 挿入の衝撃に喉を反らしたままブルッと身を震わせる木手は、辛そうに眉を寄せて目をきつく閉じて苦痛を耐えているようにも見えた。
 しかし眉尻が下がり頬を上気させて薄く開いた唇から微かに声が洩れて聞こえる所を見ると、案外甲斐と同じように快楽を感じているのかもしれない。

 最初の衝撃が過ぎ去った後木手はゆっくりと頭を垂れて目を閉じ、肩を竦めて身の内にいる男の感触をじっと感じているらしい。
 そうして重たそうに瞼を押し上げた後、咎めるように呟く。

「痛、い…甲斐クン…」
「っ…ぅ…木手が、エロいから悪い…っ」
「っ馬鹿じゃないの…っ」

 いつもならぞっとするほどきつい視線で睨まれても、快楽に潤んだ瞳や上気した目元の所為で淫蕩さに拍車をかけるだけ。
 っはっは、と息を切らしているのは自分だけではなく木手も同じで、時折くっと詰めるたびに甲斐のペニスを包み込む肉が締まるのが分かる。

「も、…駄目、動く」
「…ふ、あぁ…っ」

 締め付ける肉の輪で扱かれて思わず声を上げそうになるのを堪えて少々乱暴に先端だけを残して引き抜けば、ニチャリと音を立ててローションが糸を引く。
 鼻から抜ける声を上げた木手に、甲斐はペニスを押し込めながら問いかけた。

「痛くないんど?」
「ん、う…ぅ…っ…あ、っは…ぁ…」

 排泄の快楽に近い物を感じているのか、苦しそうに呻く挿入時とは違い甲斐が腰を引くと力が抜けたような甘い声を上げる。
 じれったい快楽に、木手が緩く頭を振ってその身をシーツに擦り付けた。

「っぅ…あぁ…んっ、…はっ…あっうっ、あ…っあ…」
「ん…、っぅ…」

 ゆっくりとした出し入れを次第に早めていくと、苦しいのと気持ちいいのが混ざったような声を上げ始める。
 声変わりを終え普段は低い木手の声が上擦って甘く掠れるのが耳に心地よく、半ばそれが聞きたいがために何度も腰を突き上げた。
 木手の尻と自分の下腹部が叩きつけられる音が上がって、繋がった場所からローションの泡立つ音がする。
 小さいけれども興奮を煽る二つの音に、ようやく自分が木手とセックスしているんだと実感が湧いてきた。

「…っ、ぁ…」
「んぁ…、あっ…っんん」

 木手の膝の裏を持ち上げて胸の方へ押し付けると、腿の裏側に自分の体重をかけるようにしてより深くペニスを突き入れる。
 体を深く折り曲げられ更に上から押さえつけられるのはやはり苦しいのか、木手が腰を揺すってベッドをずり上がろうとした。
 自分の下で腰を捩じらせているその様に煽られ、甲斐が体を倒して唇を押し付ける。

「んん…ぅ…ん」

 薄い唇の中は熱くて、舌で割り開くと待ち構えていたように伸びてきた木手の舌が絡みついてきた。
 その間にシーツを弄っていた木手の手が自分の背中に回されるのを感じた甲斐は、ゾクリと背筋を這う充足感に身震いする。

「永、四郎…」
「ッ…ぁ…」

 唇を離して体を起こす甲斐の肩から腕を木手の熱い掌が這い、手首を通って木手の両の膝頭を押さえる手の甲へ重ねられた。
 その指先を絡めるように握り込み、再び腰を振り始める。

「う、ぅん…っあ、っふ…ぅ、っく…んぁ…あ…」

 木手は顔を左に背けて眉を寄せ、甲斐の動きに合わせて押し出されるような声を上げる。
 握った両手を彼の頭の上で押さえつけて身を乗り出すと、木手の両足が腰に絡み付いてきた。

 指で見つけ出した所を探ってやりたいが、そんな余裕はもう無さそうだった。
 木手の体内を掻き回す卑猥な音と、煽るような鳴き声とに翻弄されてただ自分の欲に従って突っ走った。

「ん、ん…っ、あっ…あぁ…」
「永四郎…っん…あぁ、あ…っ!」

 繋いだ手を解いて木手の体に手を回すと、胸元に額を擦り付けるようにして射精する。
 余りの気持ちよさに射精している間も腰の動きが止まらず、一突きするごとに濃い液体を彼の体内に放った。

 長い射精を終えても余韻にぶるぶると震える体を優しく撫でてくれている感触に気付いたのは、大分時間が立って呼吸が整った辺りだった。
 木手の胸に頬を付けたまま見上げると、汗で額に張り付いた髪を優しく払ってくれる。

「甲斐クン…気持ちよかった?」
「おぉ!…あ、やしが…」

 力強く頷いた後に自分だけが先に達したのを思い出して身を起こそうとする甲斐に、木手は肩を掴んで阻止した。
 その力は存外強かったと、甲斐は後で気付く。

 ぐるりと体が回転したと思ったら、下にいたはずの木手が上に居てその後ろに天井が見えた。
 腰の上に乗られている状態では逃げ出す事も出来ず、何しろ自分の放った物とローションでグズグズに熱くなっている内部が甲斐を離してくれそうにない。

「え、えいしろ…ぅ?」
「じゃぁ、今度は俺の番ね」
「ゆくしだろ、わんまだイッたばっか…」

 ふふふ、とまだ濡れた目をして笑う木手が舌なめずりをして、指先で甲斐の心臓の辺りを突付く。
 見せ付けるように緩慢な動きで体を倒し、甲斐の耳の後ろに口付けて囁いた。

「甲斐くんのここ、俺で一杯にしてあげる」

 だからそういうのは俺が言いたいんだって!
 そう思っても最早後の祭りで、やはり甲斐はマグロ状態で弄ばれるに至る。



END


2007/12/23:完成
2007/12/25:UP