「さっさと終わらせなさいよ」
そう言って一見仕方なさそうに足を差し出す木手が、その目の奥に性的な興奮を隠し持ってることを俺は知ってる。
それを呼び起こすのが自分だということも、十分に理解してる。
片膝を付いた俺が、木手の足を恭しく持ち上げた。
これが御伽噺ならやたらと気障なシーンだけど、現実はもっと…そう、エロい。
童話の王子だって、最後にはお姫様のドレスを脱がすためにいるんだ。
俺だってそう。
形のいい親指の先にキスを落とすと、木手はいつも一瞬だけ足を引こうとする。
踵に手を当てて自分の側に引き戻してから、椅子に座ったまま自分を見下ろす木手を見上げた。
「動くなって」
「だって、くすぐったいんです」
そんなことは知ってる。
足の裏に舌を這わせたら、顔を背けて口元を手で覆った。
肩が震えているから、笑うのを我慢してるんだろう。
微かに香ってくるボディソープは、木手の家で使われている物だ。
いつも俺が来る前になると念入りに洗ってくれているのは、俺のためというよりはむしろ自分のためなんじゃないかと思う。
木手の足は綺麗だ。
女の子みたいに細いわけじゃないクセに、すらっとして長い。
足首がきゅっと締まっているのも、太腿や脹脛の筋肉とそれを覆う肉の付き方も見ているだけでゾクゾクした。
意外と体毛が少ないのもいい。
舌先に当たる感触はあっても、見た目にはつるつるとした褐色の肌があるだけだ。
他の部分もキメ細やかで手触りがいいけど、膝の裏や内腿は一層つるつるしてそこだけ少し白い。
足の裏から踝に歯を立てて脹脛を撫でようと膝の裏を持ち上げたら、柔らかい生地のハーフパンツの裾が捲くれて下着がチラッと見えた。
「ね、甲斐クン…」
「ん〜…?」
脹脛を左手で覆ったら、何となくいつもより張っているように思えた。
そう言えば今日の練習で、珍しく木手が監督の標的になって色々無茶をやらされていたのを思い出す。
監督だって時々木手の足やら尻やら見て脂下がった顔をしているのを俺は知ってる。
同属の匂いってやつだ。
「そんなことして、ほんとに楽しい?」
「ん、楽しいっていうか…」
興奮する。
張ってしまった筋肉を揉み解すと木手が覆った手の隙間から注意深くため息を漏らした。
俺に気付かせないようにしてるんだろうけど、漏らした息が妙に熱を持ってる。
永四郎だって興奮してる。
「永四郎」
「何…」
持ち上げていた足を床に下ろして、木手の膝に手を付いた。
片手ですっぽり覆ってしまえる右の膝頭を親指で撫でて、そこにもキスを落とす。
反対側の膝を片手でゆっくり押し広げても永四郎は何も言わなかった。
ただ黙って足を開いて、ジッと俺を見下ろしている。
始めは馬鹿にして、それから興味を持って、今は期待だ。
永四郎は表情を変えない割に、視線が正直すぎる。
その視線に込められた感情が変わっていく内に、触れてもいい場所も変わった。
足首より下だけだったのが、次に膝までなら構わない事になって。
今はもう少し上まで。
俺だって始めは本当に永四郎の足だけが好きだった。
ホモじゃないとは言ったけど、あれは嘘。本当でもないけど。
どっちでもよくて、でも足の綺麗な子が好きでそれがたまたま永四郎だった。
いっつもジャージだからなかなか気付かなかったけど、俺の家に泊まりに来たときに寝巻き代わりに来たハーフパンツのおかげで俺は理想的な足に出会った。
でもマジで足だけで、別に永四郎なんてどうでもよかった。
だって性格悪いし、きついし、真面目で、一緒にいたら息苦しい。
多分それは、永四郎も知ってる。
「永四郎、今日練習きつかったさぁ?」
「まぁ…監督がいたんでね」
「だーるな」
足を下ろした所為でまた膝上まで降りてきていたハーフパンツの裾から手を差し込んだら、指先に柔らかい内腿の感触が触れて思わず息を呑んだ。
そのまま裾を持ち上げて柔らかい場所を舌で辿ったら、ピクリと痙攣して一瞬だけ力が込められる。
永四郎が感覚に慣れて力を抜くまで舌で宥め続け、吸い付いてキスマークを残した。
「ちょっと…痕残さないでよ」
「ん…」
「甲斐クンっ…」
永四郎はこの行為が何を意味してるのか知らない。
純粋に俺の足への欲求を満たすためだけの行為だと思ってる。
人の気配には敏感なのに、こういう所は俺が笑ってしまうくらい鈍感だ。
俺が何を望んでいるのかも、これが何なのかも、自分が本当は何を望んでいるのかも永四郎は知らない。
俺は知ってる。
柔らかい内腿に歯を立てて、永四郎を見上げた。
ゴクリ、と細い首で喉仏が動く。
そんな風になってるのに、何で気付かないんだろう。
俺は知ってるんだよ、永四郎。
俺と永四郎が同じ物を望んでいて、それを永四郎が知らないのも俺だけが気付いているのも。
今こうして永四郎に触れているのは、前戯だ。
END
2008/05/10:完成
2008/05/12:UP