捕食者2

 それからしばらくして、唯一残っていた黒いシャツをぐっしょり濡らした木手が出てくる。
 全身水をぶっ掛けられて洗われでもしたのか、小刻みに震える体には汚れも臭いも染み付いていなかった。
 覚束ない足取りで部屋の真ん中までやって来ると空ろな視線で甲斐を一瞬視界に入れるが、すぐにストンと床に落ちて同時に木手もへたり込む。
 後ろから出てきた平古場は、流石に気分が悪くなるだろうと思っていた甲斐の予想を裏切ってニヤニヤと笑っているままだった。
 心なしか頬が赤く、興奮しているのが見て取れる。

「ねぇ、甲斐クン…」
「ん?」
「二人とも…俺をどうしたいの。こんな事して…」

 ただで済むと思ってるのかと怒鳴るかと身構えたが、頭を垂れてしまった彼はそのまま何も言わなかった。
 かといって泣いているわけでもないらしく、床を見つめ続けている。

 余りの事に頭の中が真っ白にでもなったのかもしれない、けれど平古場が言い放った言葉にビクリと身体を震わせた。

「くにひゃーずーっと勃起してたんどー」
「しんけん?」
「えー、永四郎。やー今も勃起したまんまだばぁ?」

 首を横に振るが、縛られている所為で隠せる物でもない。
 木手の足の間で頭を擡げているそれは、むしろさっき甲斐が見たときよりも余程大きく育っていた。

「あー…永四郎、マゾだったんどー」

 甲斐の口から滑り出た言葉に平古場が笑い、木手は眉を寄せて顔を背ける。
 背けた方に回り込んでしゃがみ、彼と目線の高さを合わせた甲斐は頑なにこちらを見ようとしない木手の顎を掴んだ。

「えー、謝る気になったばぁ?」
「…俺が悪いわけじゃないでしょう。どっちが悪いか、まともに考えれば分かるはずだ」

 ここまで来るともう見事だとしか言いようが無い。
 それとも酷いことをされたくてわざとやっているのか。
 木手の股間へ視線を落とした甲斐は、自分の考えに笑い出しそうになってそれを打ち消した。

 それこそまさか、だ。

 甲斐が床に放り出していたコンドームの箱を取り上げると、平古場が背後から木手の身体を掴んで自分に寄りかからせる。
 性質の悪い苛めの時間はもう幕を閉じたとでも思っていたのか、木手は顔を青くして起き上がろうと身体をバタつかせた。

「暴れさんけ」
「…っ、だってそれ…!は、犯罪ですよ!」
「犯罪って、やー自分が何されるか分かってるんどー?」

 足元に移動する甲斐から逃げようと身を捩るものの、背後から押さえ込む腕がそれを許さない。
 それでも一向に諦めない木手に、余り気の長くない平古場が実力行使に出た。

 木手の肩を掴んでいた腕が首に巻きつき、ゆっくりと力を込めて締め上げていく。

「っぐ…!!」
「永四郎、やーまだ分かってないんばぁ?わったーに逆らったらテニス出来なくなるところじゃねーんやっし」
「もういいよ裕次郎。ここで落としてやるさー」
「まぁ、……滅多な事じゃ見つからねーだろうな」

 ヒュウヒュウと頼りない音を立て、無理やり狭められた気管の中を空気が通り抜ける。
 きつい双眸が見開かれて恐怖に染まって行くのを眺めながら、箱の中から連なったコンドームを取り出した。

「まぁよ、わったーも人殺しにはなりたくねーさ、なぁ?凛」
「おー」

 小包装の袋を開けながら平古場に声をかけると、首に回った腕の力が緩められる。
 途端に咳き込む木手は何度かえづいて、ようやく新鮮な空気を十分肺に取り込んだ。
 全力疾走した後のように速い呼吸を繰り返している彼の足元に膝を付いて座り、コンドームに左手の中指と人差し指を入れる。

「やーはよぉ、首絞められても萎えねーんだなぁ」
「っ…」

 ゴム越しに指先で勃起した先端に触れると、木手は息を呑んで顔を背けた。
 恐らく彼は、初めて自分以外の誰かに勃起したペニスを触れられるはずだ。
 真面目で硬すぎる性格ゆえか、好意を寄せられてもその全てを全国大会の名の元に断っている。

 それが逆に甲斐には可笑しかった。
 性欲を抑えている振りをして、そんな物自分の中には全く存在しないと言う顔をしておいて、本性がこれだ。
 身体を拘束された挙句に排便を強要され、それを同級生に一部始終観察され、果ては首を絞められてもペニスは力を失わない。

 ふと竿の部分を握り込んで扱いてやりたい衝動に駆られたが、同じ男の性器に直接触れるのにはまだ抵抗があった。

「甲斐クン、平古場クン。ここまでしたんだから、もういいでしょう。もう終わりに…」

 木手の出してきたカードに、甲斐の唇に歪な笑みが浮かぶ。
 この期に及んで今度は自己犠牲の精神だ。
 自分がここまで折れてやっているのだから、甲斐と平古場も怒りを納めて結局は自分に従えと言うことだ。

 本当に、木手は上手だと思う。
 普段の過酷な練習の時でもそう、今現在の異常すぎる状態にしてもそう。
 自分の高いプライドを守るために、取り繕うのがとても上手い。

 全国大会へ出場するため、テニス部の結束を守るために自分の身を投げ出してでも部員を治める部長。
 例え異常な方法であっても木手の中でそう納得できれば、もう怖い物は無い。
 不屈の精神と自尊心を取り戻して、今度はあっけらかんと開き直るだろう。
 ここで自分と平古場が木手を開放すれば、それはもっと強固な物になる。

 だから、そうさせるわけにはいかなかった。

「っひ…ぃっ!!」
「うわ、きったね」

 平古場が顔を顰めるのを他所に、甲斐は直接木手のペニスを握り込んだ。
 自分自身直接触れるのに抵抗はまだあるが、彼に逃げ道を残すのはどうしても嫌だった。

「良くねーだろ。つーか、良くねーのはやーの方さぁ?チンポ硬くして、出さねーと終わらないんどー?」
「っ離して…!嫌だ!」
「嫌か?ゆくさーさぁ永四郎」
「…っん…!!」

 自慰の要領で扱き上げると木手の腰がぶるぶると震え、先端からトロリと先走りが溢れ出す。
 甲斐からも平古場からも顔を反らしたまま歯を食いしばって強制的な快楽に耐えている彼は、それでも頬を高潮させていた。

「えー、永四郎は男にチンポ触られて気持ちいいわけさー?」
「っ、…っ!!」
「ガマン汁ダラダラ零れてくるんどー」

 ついには視界も閉ざしてしまった木手本人よりも、甲斐の手の中で脈打つペニスは余程素直だった。
 先走りの汁はコンドームに包まれた指だけでなく、その他の指も手の甲までも濡らしている。
 甲斐はコンドームを付けていない手の方でそそり立つペニスを包み込み、親指で先端を優しく捏ね回した。

「っ、ぁ…っう、う…」

 食いしばった歯の隙間から洩れ聞こえる声が、苦痛ではないものに支配されている。
 ピタリと合わさった足からも次第に力が抜けていき、木手の意識が拒むばかりでなくなったのを確かめてから甲斐は手を離した。
 力の抜けた足を開かせてその間に腰を据えると、前にも後にも逃げる事ができず加えて足を広げて股間を晒す格好になった木手がつい目を開けて自分の体勢に息を呑む。

「やーが素直にならねーから」
「お、俺はいつだって素直です」
「わったーに謝れば酷い事はしないんどー」

 最後通告のようなものだった。
 ここで木手が甲斐の言う通りにすれば、甲斐はこれ以上手を出す気は無かった。
 けれど分かっていたことだが木手は顔を背けたまま、この状況でその譲歩を鼻で笑い飛ばす。

「俺は間違っていません」
「へぇ、…だったらやー、泣き言いわんけ」
「は?…っい…ぁ!!!」

 低くなった甲斐の声にビクリと木手が身を竦ませた瞬間、コンドームに包まれたままだった甲斐の指がアナルへと押し込まれた。
 木手自身の先走りと元々コンドームに仕込まれたジェルのおかげで滑った指先は、易々と体内に潜り込む。
 突然2本の指で開かれたその場所が傷を負わなかったのは、先ほど平古場が施した洗浄の効果もあるのだろう。
 しゃくり上げるような呼吸を繰り返す木手が、咄嗟に足を閉じようとして甲斐の脇腹を蹴った。

「へぇ、まだ抵抗する余裕があるんどー」
「っは…はぁ、っ…抜い…て…」

 煩わしそうに甲斐が木手の膝裏を片方掴んで力任せに開かせると、胸の方へ押し付けて平古場に膝頭を抱えさせる。
 自然と腰が浮き上がる格好になった木手は、自らの目の前に勃起した自分のペニスが晒されるのを嫌がって腰を捩った。

「永四郎、やー処女ばぁ?」
「ぇ…?何…」
「ちゃんと足開くさぁ」

 木手の体を支えていた平古場がもう一方の腕も伸ばして木手の両足を抱え込む。
 幼児が母親に抱えられて用を足す格好を、身体の柔らかい彼は苦も無く受け入れて足を開いた。
 嫌がって逃げようとすれば体内に押し込まれた指が乱暴に内壁を刺激してきて、その度に喉の奥から苦しそうな声が洩れる。

「裕次郎に貰ってもらえよ、やーの処女。なぁ?裕次郎」
「何言ってんの、…本気?頭可笑しいんじゃ…」

 冗談だろうと言いたげな木手の言葉は、ベルトを緩めてボタンを外しジッパーを下ろし始めた甲斐を見て途切れた。
 トランクスも一緒に膝まで下ろした甲斐は完全に勃起はしていなかったが、何度か擦り上げるだけで十分に硬度を持つ。

 正直木手に対して勃起するかどうかと言う問題は、平古場も甲斐もお互い感じていた。
 二人とも男は勿論木手が好きでもないし、今こうして彼を押さえつけている理由は性欲ではなくこの男を痛めつけてやりたいと言う加虐心からだ。
 けれど奇しくも木手の反応がさらなる加虐欲を刺激し、それが興奮となって二人の問題を打破してくれた。

「嘘でしょ…」
「開通式さぁ永四郎」

 指に嵌めていたコンドームをベチャリと木手の頬に押し当てて、嫌がって首を振るのを見ながら新しいパッケージを取り出す。
 膝立ちになって勃起した自分のペニスにコンドームを装着すると、平古場がポケットからローションを取り出してこちらに投げてよこした。
 拾い上げて少し考えた後、片手にローションを垂らしてペニスに塗りたくってからこちらに向けて開かれている足の間に移動して臀部に太股を押し付けた。
 下半身が触れ合う感触に顔色を無くして身を竦めた木手は、自分の頬から剥がれて落ちたゴムが腹の上に落ちるのにも構わずその更に下で押し当てられている甲斐のペニスを見下ろす。

「っひ、ぃ…いや…っ」
「力抜いてろよ、怪我してもやめてやらねーさぁ」
「駄目ッ、甲斐クンやめて!や、…っ!!」

 一瞬強い抵抗にあったが、ローションを塗りたくったペニスの先端は掻き分けるようにして中へと沈んでいく。
 侵入を阻もうとして力任せに締め付けてくる内壁の動きも、単なる快楽の刺激にしかならなかった。
 薄いゴム越しにギッチリと食い締めてくる内壁は不規則に痙攣し、木手が嫌がって身じろぐ度に中で擦られて甲斐に刺激を与えてくる。
 背筋から駆け上がる快感に思わず息を詰まらせて木手の名前を呼ぶと、内壁が一層大きく痙攣したような気がした。 

「っ、あ…あ、あ…いや…は、入っ…あ」
「永四郎…っ、凄い締め付けてくる…チンポ美味い?」

 焦点を結ばない瞳で遠くを見つめている木手は、腹の中を暴かれる感触に頭が付いていかないのか甲斐の言葉にも反応しない。
 まさか人生の中で男の性器にアナルを開かれるとは思ってもいなかったのだろう、呆然としている木手の薄く開いた唇からタラリと涎が零れ落ちた。
 けれど体の方はこの状況に確実に順応しつつあるらしく、ピクリと一度だけ脈打ったペニスの先端から、先走りが溢れ出していた。
 ズル、と一旦腰を引いて叩きつけると、木手がまた強く目を閉じて奥歯を噛み締める。

「っう、ぅ、…んっ…」
「永四郎、気持ちイイ?」

 分かっていながら問いかければ、押し上げられた瞼の下から気丈にも正気を保った瞳がこちらを睨みつけてきた。
 甲斐が揺さぶるリズムに合わせて揺れる足が何だか卑猥だと思ったが、噛み締めた奥歯の隙間から零れた言葉は冷め切っている。

「ッ気持ち悪い…っぅあ…っ」
「へぇ?そうかねー、永四郎はゆくさーやし。だぁ、気持ちよくしてやんねーとなぁ」

 離された木手の足を肩に抱え込むと、腰を掴んで自分のほうに引き寄せる。
 ズルリと滑って平古場の腹の辺りに頭を預けるような形になった木手は、眉間に皺を寄せたまま顔を背けていた。
 拘束する手を緩めても逃げる素振りを見せないと言うことは、諦めてしまったのかもしれない。
 しかし抵抗もせずただ受け入れるだけの肉人形に興味は無い。

 楽しいのはこれからなんだと、組み敷いた木手を見下ろしながら甲斐は笑った。




「っあ…あぁ、あーっ…あ、あ、あ…っ」

 部屋の中にはもう長い間木手の媚びるような甘い声と、粘着性のある液体がかき混ぜられる音が響いている。
 夕暮れの光は部屋の中を一面オレンジに塗り替えて、平古場も甲斐も、木手も同じ色に染まっていた。

 手首を手錠によって背後で拘束された木手が、床に頬を擦り付けながら身をくねらせて尻だけを高く突き出していた。
 平古場が面白がって散々弄繰り回した乳首と何度も殴打された尻は、どちらも真っ赤に腫れ上がって熱を孕んでいる。
 それでも小一時間ほど前が嘘の様に善がり狂う木手を眺めながら、甲斐は部屋の扉にもたれかかって座りペットボトルに入った水を口に含む。

「えーしろぉ、やーすっかりいなぐになっちまったなぁ。えー、もう突っ込まれねぇと満足できんばぁ?」
「んぁっ…あ、あ…うん、うんっ…だ、だから…ね、もう…」
「はぁやぁ、聞こえねーさ…っ、はっきり言え」

 自ら足を開いて腰を振り、後ろから揺さぶる平古場を肩越しに振り返った木手が一瞬唇を噛み締める。
 けれど体の奥を擦られてしまえば途端に唇が綻び、端からトロリと唾液が零れた。

「あ、あ…お願い…あっ…あぁ…っ」

 熱で空ろに蕩けた瞳が甲斐を捉えた瞬間、背筋を電流のように駆け抜けて行く何かを感じた。
 その何かの正体を、自分はもう知っている。

「ん、んっ、や…、っ…」

 平古場がピタリと動きを止めて、真っ赤に腫れあがった木手の尻を撫でる。
 散々殴打されたそこに強く爪を立てると、引きつったような悲鳴を上げて顎を跳ね上げた。

「っひ、いぁ…っ!!」
「たーのいなぐが身持ち悪ぃって?っは、男に尻掘られて善がってるやーの方がよっぽど身持ちが悪ぃばぁ?」
「は、アァ…、はぁっ…は、ぁ…」
「人の話は、聞くもんだろぉが!」

 パァン、と甲高い音がまた部屋に響き、木手の身体が衝撃と苦痛、そして覚え込まされた快楽に硬直する。
 木手のペニスから溢れ出す先走りがまた糸を引いて床へ滴った。

「いちもわったーにいゆってるのはやーだばぁ?甲斐クン、平古場クン、俺の話を聞きなさいよってよぉ」

 木手の物真似をする平古場も、自身を彼の体内で嬲られて大分息が上がっている。
 ペットボトルを持ったまま腰を上げた甲斐は、木手の側に腰を下ろし彼の前髪を掴んで顔を上げさせた。

 普段はきっちりと纏められていて誰かがふざけて触れようものなら烈火の如く怒り狂う大事な大事な前髪は、今やベッタリと額に張り付いている。
 焦点の合わない空ろな目でこちらを見るものの、物欲しげに舌先で自分の唇を舐め濡らす木手に平古場の言葉が届いていないのは明白だった。

「えー、話聞こえとらんばぁ」
「駄目な部長持つと部員が苦労するんどー。水かけてやれ裕次郎」
「おーよ」

 片手のボトルに水はまだ半分以上入っている。
 頭の天辺から水を注ぎかけると、冷たい水に怯んだ体がビクンと跳ね上がり何度も目を瞬かせた。
 一瞬正気に戻ったような瞳がこちらを睨みつけたが、平古場が顔を覗き込もうと上体を倒した瞬間体内の男根が更に奥を開いたのか呻き声を上げて顔を伏せてしまう。

「えー、永四郎。テニス部部長さんよ。わったーに言うことないんばぁ?」
「い、う…コト…っ?」
「わったーの事散々コケにしてよー。ド変態でマゾの部長さんがわったーに言えた義理じゃねーだろ?」
「っそれは、ぁ…あぁっ!」

 不意に体内を激しく突かれ、甲斐の言葉に言い訳しようとした唇から嬌声が溢れる。
 一時戻ってきた瞳がまた溺れ始めると、汗と水で濡れた体が妖しくくねった。

「浣腸されても、縛られてもチンポガッチガチにしてた奴がよー。何の言い訳があるんどー」
「あ、ふ…あぁ…あ、あ…」
「乳首も弄られるの好きだろ?摘んでやったら泣いて善がったばぁ?」

 口調だけは優しく、けれど木手の隠された性癖を暴き立てるように問いかける甲斐と、両手で内腿や脇腹、胸元、項などこれまで彼が痛めつけられて反応を示した部分を弄っていく平古場。
 ため息のような声を漏らしてガクガクと腰を揺する木手は、床に額を擦り付けてついに懇願した。

「もぉ…ね、もぅ、許して…っおねが…許して…」
「許して欲しいさぁ?永四郎」

 甲斐が声をかけると、顔を上げた木手が頷く。
 自分達へ完全にひれ伏した木手の姿は不思議と惨めではなく、何処か安心感を与えた。
 パズルの最後のピースがぴったりと嵌ったような、そんな気分だった。

「許して欲しいなら、ちゃんと言うことがあるんどー?」
「分かるよな?永四郎は、でぃきやーだからよー」

 優しく木手の髪を後に撫で付けて言うと、指先が項を掠めるたびに木手の体が微かに震える。
   
「ん?ほら、いゆっちみー?」
「…ごめ、なさ…」
「聞こえんばぁ?」
「いっ…ひぃっ…!!」

 平古場に乳首を爪を立てて抓られ、ギリギリと引っ張られて目を見開く。
 痛みに溢れ出す涙は上も下も同じで、甲斐は木手のペニスからそれを掬い取って真っ赤な唇に塗りつけた。

「もっと大きい声で」
「ごめっ、ごめんなさぃ…!!も、言わないから!」
「何を?」
「か、ぁ…甲斐ク、の寄り道の事も、平古場クンっ、の、…彼女の事も!」

 血が滲む寸前まで捻り上げられた乳首は、爪を立てた跡がくっきりと残って真っ赤に腫れあがった。
 痛々しいそこを今度は甲斐が優しく撫でてやると、啜り泣きながら身を捩る。

「は、あぁ…ん、っく、…あ、あ…」
「そうやって素直にしてれば、わったーだってちむじゅらさんさぁ?」
「ん、ん…ぁ…」

 木手の口から謝罪を引き出してようやく満足した顔を見せた平古場は、甲斐がかける言葉に同意するように肩を軽く叩いて宥めゆっくり腰を引いた。
 肩越しに振り返って彼を見上げていた木手は、ようやく許しを得られたのだとホッとした表情を見せる。
 しかし体内から抜けていくペニスの感触に、思わずといった調子で目を閉じた。

「だぁ、もう帰ろうかねー」
「っあ…ぁ…待って…っ」

 無意識に濡れた唇から零れた言葉に、平古場の口角が吊り上がる。
 その表情を、木手は見ないで良かったと甲斐は思った。
 最初から謝罪などお飾りの名目で、彼はただ木手を痛めつけて服従させたかっただけだ。

 その服従の理由が、暴力の恐怖でもセックスの快楽でも平古場にとっては同じ事だった。
 嗜虐性の高い平古場にとって、セックスと暴力はほとんど同じ物だからだ。

「ん?永四郎?」
「あの…っ、…」
「大きな声でいゆっちみー?わったーは素直な永四郎がしちどー」

 待って、小さな声で繰り返し呟く木手は、呼吸を整えようとしているのかそれとも何か吹っ切ろうとしているのか床に額を押し付けながら何度も肩を上下させる。
 ここまで来たらどうせ彼は自分達の言いなりだと分かっている甲斐は自主的に言うのを待ちたかったが、散々木手を揺さぶっていた平古場には余り余裕が無かったらしい。

 半ばまで抜いていたペニスを、更にゆっくり引き出していく。
 それを引きとめようと腰をくねらせて、木手が声を上げた。

「あっ…平古場クン!待って!」
「あんせー、何を待ったらいいんかわからんさー永四郎」
「お願い…ね、お願いだから。これ以上言わせないで…」

 自分の矜持をギリギリの所まで崩して、これ以上は無理だと言うところまで来ていると木手は自ら宣言した。
 延々と身体を痛めつけて嬲った平古場はそれで満足なのか、どうする?と甲斐へ話を振ってきた。
 同じように、木手も甲斐の方へ縋るような視線を向けてくる。

「永四郎、人に何かして欲しい時はちゃんとお願いするもんだろ」
「甲斐、クン…」
「わったーは永四郎に謝ってもらったからもう気が済んだんどー」
「あ……」

 甲斐は平古場とは違って、木手を痛めつける事に関してはそう重きを置いていない。

 それよりも、彼の高いプライドを快楽でぐずぐずに溶かしてしまうのが心地よかった。
 叩き割るのではなく、少しずつ快楽に浸して柔らかくして原形を留めないほどに蕩かせる。
 気づいた時にはもう後戻りは出来なくなって、甲斐の言う通りの言葉を自ら望んで吐き出す。

「永四郎」
「あ、あ…あ、あのね…あの」
「ん?」

 縋るような目で見上げてくる木手は、自分が甲斐の下半身にねっとりと視線を絡めていることに気付いているだろうか。
 喉を鳴らして息を吐き出し、自らでプライドを粉々にする言葉をとうとう彼は口にした。

「やめ、ないで…くださ、い…」
「何で?」
「…きもちいいから…っあ、あぁっ!!」
「へぇ?永四郎、平古場のチンポ気持ちいいんばぁ?」

 そんな事はさっきまでの木手の声を聞いていれば誰でも分かるのに、敢えて甲斐はその言葉を口にする。
 ズン、と後から平古場に深く突き上げられて、木手の背中が弓なりに反り返った。
 まるで犬の身震いのように彼の震えが下半身から全身に行き渡って行く間、堰を切ったように淫らな言葉が溢れ出す。

「いい…!もっ…とっ…突い、てぇ…あ、あ…っ」
「じゅんに変態さー永四郎。変態の癖にわったーに散々注意してたんどー?」
「んっ、うんっ…っひぁ、あぁ…!」

 地に落ちた木手が言葉を吐き出すたび、テニス部部長の仮面が剥がれていった。
 背後からはもう自身の絶頂を目指すだけの平古場が乱暴に腰を叩きつけているが、それすらも彼の身体を蕩かせる快楽だけを与えている。

「っ…甲斐く、ぅんっ…っあ、っあ…あっ…」
「ん?永四郎、何?気持ちイイ?」
「あ…、っ…あっ…ん、うんっ…あ、あ…平古場ク…もっと、っ!」

 涼しげでいつだって強い光を放っていた瞳は、まるで跡形もなく蕩けて快楽を貪っていた。
 うわ言のように気持ちイイと呟く唇から雫が溢れても、構うことなく腰をくねらせて身を捩る。
 その木手の肩を掴んで引き起こした甲斐は、突かれる角度が変わって大きく身体が痙攣した木手のペニスからドプッと音を立てそうな勢いで先走りが零れるのに気付いた。

 当たり前だ、木手は一度も射精していない。
 後での快楽を自覚させるために甲斐はペニスを弄ってやったが、平古場は汚いと言って頑として触ってやらなかった。
 ダラダラと先走りを溢れさせ続けるだけの木手のペニスは、できることなら床にでも擦り付けて射精してしまいたいだろうにと思う。

「もぅっ…イきたい…っ!」
「イけばいいさぁ。わんは別に駄目とは言ってないばぁ?」
「だけど…っ」

 縛った手を解いてくれない、触ってもくれないでは到底射精には至らないだろう。
 いくら新たな性感を教え込まれたとは言え、そこで達する事が出来るほどではない。

 誰かの手を待ち侘びるその場所を人差し指でなぞると、木手の腰が擦り付けるように前へ動いた。
 その所為で抜けそうになった平古場が不服そうに木手の腰骨を掴み、自分のほうへ思い切り引き寄せる。

「逃げんな…っ」
「んぁ…!!…っあ、あ…あっ…」
「永四郎、ちゃんとお願いできるばぁ?」
「触って、っ…触ってくださいっ、あ…っ!!」

 ゆっくり片手で包み込み、上下に手を動かした。
 喉を反らしてひゅうっと息を吸い込んだ木手は、そのまま甲斐の肩に額を押し付けてぶるぶると身を震わせる。
 後で平古場が思わず声を漏らしたのを聞くと、どうやら後がきつく締め付けたらしい。

「っは、ぁ、あ…あぁ…あっ、あぁ…あ、あ、あ…っ」

 イく、イきたい、嫌だ、イイ、死ぬだの色々と喚き散らして先端からドロリと精液を溢れさせ、散々高め続けられた後の射精の凄まじさに崩れ落ちそうになる。
 それを支えて絞るようにきつく扱いてやれば、泣きじゃくって腰を引いた。
 けれど後には平古場がいるため甲斐の手から逃れる事も出来ず、木手にとっては最悪な事にまさにこの瞬間とうとう平古場が限界を迎える。

「っう、ぁ…やべ、イく…っ」
「いや、っ!!あ…!」

 一層強く突き上げられ、許容範囲を超えた快楽が木手の身体を駆け巡る。
 絶頂で引きとめられたままの身体は逃げる事も構わず、本人の意思を無視して身体だけが体内の熱を喜々として締め上げ射精を促した。

「っあ…っ、っ…」
「…ぅぁ、キツ…はっ…ぁ…!!」

 平古場が射精を終えたのをきっかけにして、糸が切れたように木手が倒れこんでくる。
 浅い呼吸を繰り返したままの体を支えた甲斐が一緒に座り込むと、ぐったりした身体を床に転がした。

 うつ伏せたまま動かない木手の手枷を外したが、最早仕返しをする気力どころかその手で起き上がろうとする力さえ残っていないらしい。
 ただ背中に回っていた手を自分の胸元に引き寄せ、唯一残っていたシャツをきつく握り締めただけだった。




 部活を終えた甲斐は部室で一人着替えていた。
 今は用具室へ寄ってボールを片付けている平古場と少しだけ残ってラリーの練習をしていたため、他の部員は皆帰ってしまった。
 部室においてある事務机の上に残された部誌がまだ途中なのを見ると、木手だけは残っているようだったが。

 制服に着替え終えた甲斐が汗を吸ったジャージをスポーツバックへ詰め込んでいると、扉が静かに開いた。
 プレハブの部室は立て付けが悪く、甲斐や平古場が乱暴に開けると部室自体が揺れる様な大きな音を立てる。
 男ばかりの部活ともなれば大なり小なり皆音を立てて扉を開けるが、一人だけ丁寧に開ける人間を甲斐は知っていた。

「永四郎、まだ帰ってないんど」
「えぇ……、部誌がまだ書き終わってませんからね」
「へぇ」

 扉の前に立ち止まったまま後手に戸を閉めた木手から、カチャリ、と鍵をかける音がする。
 構わずバッグを肩にかけて木手の前に立った甲斐は、ただそこに立っている彼を見上げた。
 木手が少し俯いている所為で、視線は容易にかち合う。

「えー、わん帰るんどー」
「甲斐クン…」
「邪魔やっし。凛もまだ荷物置きっぱなしさー。鍵締めたら入れんばぁ?」
「あ…」

 ゆらゆらと右に左に揺れる視線は、結局足元に落ちてしまった。
 追いかけるように視線を落とした甲斐は木手が立ち尽くして何も言えない理由に気付き、肩を竦めてバッグを抱えなおす。

「永四郎、わん腹減ってるんばぁよ。へーさ帰りたいんど」
「…………」
「………凛に会ったさぁ?」

 突然の質問にも驚くことなく、首を横に振った木手は深呼吸のように大きく息を吸い込んだ。
 しかしその唇から声が出ることは無く、代わりに甲斐がついたため息に大げさなほど身を震わせる。

「会ってないのに、永四郎は何で勃起させてるんかねー」
「あ…っ」

 スラックス越しに股間を押し上げていたペニスを握られて、木手の唇から色の付いた声が零れた。

 廃屋に彼を連れ込んでから3日、たった3日しか経たないうちに木手はまた踏みにじられる事を望んだ。
 一週間ほど前にまだ日の高い部室で自分たちの前で膝を折って頭を下げた彼を、別に軽蔑はしない。

 自分たちも同類だと、甲斐も平古場も十分自覚していた。
 木手を甚振って蹂躙している間、二人とも性的な興奮を得てしまっていたのは言い訳できない事実だった。

 小言が減ったわけではないが、それでも以前より木手の態度は柔和になった。
 初めからそうしてくれていれば自分たちだってと甲斐はふと思うことがあるが、あの事が無ければ木手の態度は緩和しなかっただろうとも思う。
 要は欲求不満だったんだと、平古場が言っていた。

 それなら結局自分たちは木手のために、木手のいいように動いている気がしてならないが、それで自分たちも美味しい思いをしているなら見ない振りぐらいはしてやろう。

「永四郎、言えるよな?」
「ん、ん…甲斐クン…あ、…し、して…ください」

 阿って蕩けた瞳が、満足げな光を称えているように甲斐には見えた。


 END

2008/04/14:完成
2008/04/14:UP