好奇心

「ん、ん…っぁ…」
「平古場クン、どうしたの?もう降参?」
「ふら、ぁ…っ、もうやめ、れ…!」
「何言ってるのこんなにして」

 狭いトイレの中で抱き合うのをあの子に見られたら、きっとこっぴどく罵倒されるだろうと木手は思う。
 もちろんこの時間にあの子がここに来る訳が無いのは分かっているし、個室の鍵はかかっている。
 自分の背中に爪を立ててしがみつく金髪が声を上げても、自分が声を出さなければあの子に気付かれる可能性は無い。

 目の前の平古場が、自分から口を割る訳はないのだから。

「えい…しろっ…」
「ほら、もうベトベトじゃない」
「っふ、ぅ…ん、っん…ん、あ!」

 汗ばむ額を俺の胸板に擦り付けて唇をかみ締める仕草はいつもと違ってえらく可愛らしいが、手加減をしてやる義理は無い。
 内側から沸き起こる快楽に身を捩って逃げようとしても、膝の辺りまで脱がされたハーフパンツと下着がその動きを拘束していた。
 後の穴に突き入れた二本の指で内壁を擦ると、背を撓ませて声を上げる。
 かろうじてわだかまっている下着に、平古場のペニスから溢れる先走りが内腿を伝って滴っていった。

 事の発端は平古場の下世話な好奇心からだ。
 木手が男と付き合っていると、それが自分の友人だとどこからか情報を仕入れてきて、それからしばらくの間木手に張り付いてはセックスの具合はどうなんだと問いかけていた。

『やー、ケツ掘られて善がってるんばぁ?しんけん気持ちいいんどー?』

 どうやらこの平古場と言う男は木手が女役だと思い込んでいる節があるらしく、最近では顔を合わせるたびこんな事を囁かれる。
 口が悪いのは今更どうこう言うつもりはないが、台詞の端々に若干の嘲笑が見て取れた。

『誰だって気持ちよくなりますよ』
『まさかやー。んなわけねーだろ。ケツ掘られて気持ちいい奴なんか男好きな奴だけやっし』
『なりますよ。俺が保証します』
『いーや、わんはねーな。気持ち悪いだけさぁ』
『だったら試してみますか?』

 今日も部活が終わって着替えている最中に、彼はニヤニヤと笑いながら話しかけてくる。
 部誌を書いていて着替えるのが最後になった木手を待っていたのだろう、平古場もまたユニフォームのままだった。
 彼の言葉で不快になった振りをして挑発をすれば、平古場はあっさりと乗ってきた。
 だったらと個室に連れ込んだら少し怖気づいてはいたものの、怖いのと聞いたら彼は自分から短パンと下着を下ろした。

「っは、ぁ…っ」
「平古場クン、勃ってるね」
「う、うるさ…っん、ん…」

 木手が取り出したローションを興味深そうに見つめていたり、指で尻の狭間を探られると一時気味悪そうに肩を竦めていたが前立腺に触れられた途端この有様だ。
 人体の造りは平古場と同じく下世話なものだが、本人がその刺激を快楽として受け取れるかどうかはまた別の話だ。
 前立腺への刺激は、脚気の検査と同じく反射のようなものだから。

 しかしそれを平古場に教えてやる気は無い。
 口は災いの元というのを、彼は一度身をもって勉強するべきだと常々考えていた。

「気持ち悪いんじゃないの?」
「っふ、…ぁ、…っ」

 金髪を片手で掻き上げて息を吹き込むように声をかけてやれば、きつく目を閉じてぶるぶると体を震わせる。
 上気した頬を木手の肩口に押し付けたまま睨み上げてくる様子は根性があると思うが、同時にそろそろ認めた方が楽になるのにとも思った。

「気持ちいいでしょう?違う?」
「ん、なわけねー…っひ、…!」

 ぐり、と前立腺を押し上げる。
 前に逃げる腰が正面から抱き合っている木手の太腿の辺りに押し付けられて、しっかりと勃起したペニスが当たる。
 ユニフォームが汚れるなという思いが一瞬頭を掠めたが、好都合だと足を押し出した。

「ほら、当たるでしょ」
「ん、ん…っく、ぅ…」
「女の子が好きなんでしょう、平古場クン。なのにこっちも気持ちいいの?」
「違…、ん…」

 太腿にペニスを擦り付けるのに合わせて奥まで指で突いてやると、動きは次第に前への刺激から後への刺激を求めるものに変わる。
 片手で宥めるように背中を摩りながらゆっくり指を引き抜いていく。

「は、ぅ…、っ…」
「もういいですか。平古場クン」
「っは、は…ぬー、が…」

 自分に縋らなければ立っているのも危うい彼の背中から手を離し、側のトイレットペーパーで手の汚れを綺麗に拭き取った。
 背後の便器にそれを捨てながら、また息を弾ませ頬を高潮させてたままこちらを見上げている平古場を見下ろす。

「もう分かったでしょう。後を使うとどんな風になるか」
「…あー、まぁ…」

 肩を押して自分から離れさせると、彼は個室の壁に凭れて大きくため息をついた。
 濃厚な快楽を体の内に残したままで、ユニフォームの裾を引っ張って勃起したペニスを隠そうとしている。

「えー、永四郎…」
「何ですか?」
「もう終わりばぁ?先戻ってろよ」

 ここでまだ体の冷めない彼を残していったら、恐らく自分で静めてから戻ってくるんだろうと思う。
 その時に、彼が木手が先ほどまで弄っていた後を刺激するかどうかで葛藤することも明白だ。
 たった一人の個室で息を荒げて迷う平古場を想像すると自然に口の端が吊り上って、それを見咎めた彼が剣呑な目で睨みつけてきた。

「笑わんけ…」
「あぁ。すみません。でも平古場クン、まだ終わりじゃないんですよ」

 彼の両肩を掴んで体を反転させトイレの壁に押し付ける。
 ジャージをずりおろして自分のペニスを引っ張り出すと、何度か軽く扱いて勃起させた。

 片手で彼の尻を掴んで広げ、先端をアナルに押し付ける。
 だらしなくヒク付いていたその場所が驚いたようにキュ、と収縮し平古場が肩を揺すって身を捩った。

「え、永四郎!」
「何ですか。ちょっとじっとしてなさいよ」

 金髪を掻き分けて項を露にし、そこに唇を押し当てる。
 軽く歯を当てて噛み付いてやれば、鼻から抜けるような甘いため息が唇の合間から零れた。 
 一瞬緩んだ抵抗に気を良くして腰を押し付けた木手の腹に、平古場の片手が押し付けられる。
 しかし押しのけるほど力は残っておらず、木手の指で準備を整えられたアナルはじわじわ広がって押し付けられる男を受け入れていった。

「あ、あ、っ…は…ぁ…」
「ほら、入っていくのが分かりますか?指とは比べ物にならないでしょう?」
「入っ…あ、…あ」

 ゴツリと平古場の額が個室の壁に押し付けられる。
 肉を開いて入ってくるペニスを嫌でもまざまざと感じさせるために、殊更ゆっくりと腰を押し進めた。
 一気に根元まで突き上げる事無く、少し進んだら腰を引き、また奥へと進める。
 まとわり付いてくる熱い内壁の感触を楽しみながら、平古場の耳元で低く囁いた。

「気持ち良いでしょう?あぁ、でも平古場クンは女の子が好きなんですよね」
「っは、…ぁ…あ…」
「大変ですね。女の子が好きなのに、お尻も気持ち良いなんて。これからどうするんですか?女の子に指でも入れてもらいますか?とんだ変態ですね」

 ぶるぶると勢いよく首を振る彼のペニスを濡らす先走りを指に絡め取り、俯く平古場の目の前に突きつける。

「じゃぁこれは何ですか?もうぐしょぐしょでしょう?素直になりなさいよ」
「ん、ぐ…うぇ…っ」

 その指で唇を割って中に差し入れると、嫌がって頭を後ろに引こうとする。
 けれど後には木手がいるために逃げられず、平古場には口の中の指を受け入れるしかなかった。
 ようやく根元までペニスを咥え込ませた木手は、突っ込んだままになっていた指を引き抜いて平古場のペニスを握りこむ。
 背筋を引きつらせた平古場が、荒い息の下で唇を開いた。

「永、四郎…わんとこんな事…あにひゃーに知られたらどーするんばぁ…」
「知られませんよ」
「わんがいゆったら…」
「君が自ら言うんですか?男が好きでも、ましてや俺が好きでもないのに?」

 盲目的に木手を信用している彼が平古場の言う事を信じるわけがない。
 ましてや、木手が平古場を抱いたなんて、それこそ平古場のたちの悪い冗談だと思われるだろう。

「そんな事より、こっちにちゃんと集中しなさいよ」
「あぁ…ぅんん、…んぁ…ぅう、っ…」

 腰を片手で掴んで引き抜いていくと、ため息のような呻きのような声が平古場から漏れた。
 壁に押し当てた額をそこへ擦り付けて、もどかしそうに指先で壁を引っかいている。

「君が黙っていれば誰にもばれないんだから」
「っは…はぁ、っ…誰にも…?」
「そう。誰にも」
「ん、…しんけん…?」
「えぇ。絶対」

 弾む息を何とか整えようとしている平古場の腰に腕を回して引き寄せながら、今度は強めに項へ噛み付いた。
 息を呑んで身を震わせる彼のアナルがきつく締め付けてきて、口の端を再び吊り上げる。

「黙っていたら、またこうしてあげます」
「んん…永四郎…っ…」
「誰にも言わなければ、また気持ちよくしてあげますよ」

 歯型の付いた項に舌を這わせるの肩越しにチラリと振り返った平古場が、頷くように頭を垂れた。
 蕩けた声を上げる平古場を何度も蹂躙しながら、木手は自分と恋人との付き合いに平古場を交えてみるのも楽しいかもしれないなどと考えていた。


2008/07/13:完成
2008/07/13:UP