「侘助さん」
「…………」
縁側で一人ビールを飲む侘助の元へ、裸足の足音が聞こえてきたのはもう夜半を回った頃だった。
すでに皆寝静まっていて、辺りは虫の声ぐらいしか聞こえて来ない。
声を掛けられても答えない男の傍に、少年は許可を得ず座り込んだ。
緩く弧を描く前髪の隙間からジロリと見られても、今日の功労者は破壊された庭を眺めたままだ。
「ありがとうございました」
「……そりゃこの家の連中の台詞だ」
助けられたのはこの家の連中でそして日本全国、ひいては世界中の人間たちだ。
アカウントを取られたわけではないその他大勢にすれば、現実味のない、性質の悪いイベントのようなものだったかも知れないが、人間は確かに一度滅亡の危機に直面した。
それを救ったのは、今縁側を見て頼りなく笑うこの少年だ。
取り立てて何がすごいという外見をしている訳ではない。
背も低いし、見た目も十人十色。
けれど彼の頭の中には、PCを凌ぐ計算機が搭載されている。
本人は、余り認めたがらないが。
「いえ、僕一人じゃ何もできませんでした。侘助さんがラブマシーンの防御力を0にしてくれたからあの時軌道をずらす事が出来たんです」
謙虚は日本人の美徳だと、誰が言ったんだったっけ。
ふとそんな事を考えて、自分が謙虚とは少し離れた場所に身を置いていたのを思い出す。
自分の能力は正当に評価されるべきだ、そんな考えを持つあの土地に移住してそうしてようやく最近正当に評価され始めた頃だった。
騒がしい大家族の中に入って戸惑いながらも馴染んでいく様子を、侘助は輪から離れて眺めていた。
あっけらかんと明るい親戚連中に色々と突っ込まれ、赤くなったり困ったりしている様は好感が持てた。
健二は頼りなさげに見えて芯がしっかりしている。
一人で生きているような顔をしているのに未だ大人に成りきれていない自分とは正反対だ、と侘助は思っていた。
「だったら……佳主馬にも礼を言うんだな」
「もう言いました。おばーちゃんにも、佳主馬くんにも、それから夏希先輩にも」
最後が侘助さんです、そんな風に言われてジリリと胸を焦がす感情を侘助は久しく忘れていた。
何で俺の所に一番に来ないんだ。
言いかけた言葉は、温いビールで喉の奥に押し流した。
20090904/完成
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