俺達は冗談と本気の狭間で生きている。

 金色小春はホンマは女が好きや。
 これは意外と知られてる事実。

 一氏ユウジはホンマに小春が好きや。
 これは誰にも知られてへん事実。

 嘘やと思う?
 あんだけ大舞台でイチャイチャして、とか思たやろ?今。

 でもな、俺らは大抵のことを冗談にしてまうから、俺らのダブルススタイルも本気で取る奴はそうそうおらへん。

 ほら、テレビに出てる芸人でも良くおるやろ。
 女装でネタやって、でも実際は女好きの芸人さん。
 ホモネタばっかりやってるくせに、結婚して子供のおる芸人さん。

 それと同じでネタにしてればしてる分だけ、本気や無いと思われて当然。
 せやから俺はそれに命賭けるし、単純に人を笑かすのが好きな小春もそれに乗ってくれる。

 笑かしたもん勝ち、小春が全国大会で言うたのはそのまま俺のポリシーにもなる。
 ホモネタやろうが下品な下ネタやろうが、周りが笑ろてくれるうちは全部なぁなぁで流して冗談にできんねん。

 ポッキーゲームも、恋人繋ぎも、どさくさに紛れてチューもしたったわ。
 流石に舌入れたら小春はドン引きやったけど、ドン引きの小春を見た周りが大ウケしたから何にも突っ込まれへんかった。
 俺らの生活してる場所って言うのは、そういう所。



 昼休み、教室で飯食って一息ついて珍しく小春が静かな日。
 いつもやったら飯食ったら速攻で何か仕掛けてきて、じゃれあうのにな。
 別に何とも思ってへんよー、的な空気を出しながら自分の椅子の上で膝抱えてジ○ンプ読んでたら、俺の机の上に座って電話し始めよった。

「せやから、明日は?…無理?んじゃぁ、明後日部活終わってから…あ〜門限か…」

 小春は女が好きやけど、女は小春が好きやない。
 残念ながら、それは事実。
 断られてがっくりと肩を落とした小春が、切った携帯を握ったまま俺の方を見下ろしてきた。

「一氏ー。女紹介して」
「はぁ?いきなり何言うてんの金色」

 二人きりで話するとき、小春は俺を苗字で呼ぶ。
 俺も小春を苗字で呼ぶ。

 ユウくん、なんてこっぱずかしい呼び方二人きりで出来るかいな、気持ち悪い。
 これは小春の意見。
 ちょっとだけ傷ついたんは誰にも言いません。面白くないから。

「電話、誰」
「んー、○○中の女子」
「振られたんか」
「ちゃうねん、聞いてや、途中まではイイ感じやってんで?こないだエキ○ポ行ったしやな」
「ほぉ」

 小春が地元の公立中学に通う女に色々アプローチしてるのは知ってた。
 知ってたけど、エ○スポ(遊園地)行ったなんて聞いてへんぞ。

「ほしたらさー、小春的にはもう行けると思うやん?」
「あぁ、まぁな」
「こないだメールしたら、その子と同じクラスのジャニ系男子がちょっかいかけとるらしくて」
「あー…残念でした。もうお前女の子と付き合うのは来世に期待せぇ」

 ほんで今世は俺と付き合え。
 言いたい言葉を飲み込んで、台詞を軌道修正した。

「そら、お寺の小坊主さんとタッキーやったら間違いなくタッキー選ぶよな。小坊主さん選ぶ奴ってどんなけマニア」
「はぁ!?お前小坊主さん馬鹿にすんなよ!朝早くからお勤めご苦労さんやぞ!」
「小坊主さんはそらご苦労さんやけど、お前はただのメガネ坊主やろ。親父大学の教授やんけ」

 あ、ばれたー?みたいな顔しても同じや。
 周りで話を聞いていたクラスメイトがくすくす笑うから、小春はどうやら振られて落ち込んだ機嫌を直したみたいやった。

「これで何人目よ」
「14人目」
「多っ、つかお前女やったら誰でもええんかよ」
「そんな事無いわ。ちゃんとこのお眼鏡に適った子や無いと」

 両耳の後ろからメガネの蔓に触れてレンズを上下させる小春の後頭部を一発叩いて、俺は立ち上がった。

「どこ行くん」
「便所」
「はよ帰ってきてねーユウくん」
「おー」

 アホか、お前なんか好きになる女おれへんわ。
 俺の読んでたジャンプを開いて読み始める小春の坊主頭に毒づいた。

 男子便所は青いタイルに囲まれて寒々しい。
 水場という事もあるからか、廊下よりも気温は低く感じる。

「っくそ、あのアホ…」

 もやもやする気持ちのまま便器の前に立って用を足していると、背後でさっき自分が入ってきた扉がまた開く音がする。
 肩越しに振り返れば、部活の顧問のオサムちゃんが入ってきた。

「お、一氏やないか」
「オサムちゃん、ここ3階のトイレやで。何でここにおるん」
「んー、オサムちゃん職員室でハミゴにされてんねん」
「いい大人がハミゴて」
「んで?一氏は何を苛付いてんの」

 隣に立ったオサムちゃんが用を足しながら聞くから、俺は何も言えなくなってその顔を見上げた。
 いつもの飄々とした顔のままこちらを見ないオサムちゃんは、黙り込んだ俺に気付いてまた口を開く。

「あのアホ、て小春か」
「…ちゃいます」
「お前が敬語使うときは聞かれたくないこと聞かれたときやもんな。小春やな、確実に小春やな」

 ふぅん、とか何とか唸ったオサムちゃんは、首を勢い良く傾けてポキリと慣らし言葉を捜すようにあー、と声を上げる。

「まぁ、小春だけに思春期っちゅうことやろうけども」
「…全然上手くないで」
「おーお、憎たらしいこと言うて」

 体を傾けてオサムちゃんが俺の股間を覗きこんでくる。
 それからにやりと口元を緩ませて、俺の目を掬い上げるように見た。

「それ、小春に使うなよ。流石に洒落にならんで。つか、まだ早い」
「っはぁあ!?な、何言っ…はあ!?」
「うろたえすぎやろ。何や、使う気満々か」
「違っ…使うか!!」

 肩を揺らして声に出してまで笑ったオサムちゃんに、からかわれたんやと知って悔しくなる。
 仕返し交じりに覗き込んだオサムちゃんの股間は俺とは形も大きさも違って、大人や、と思った。

「オサムちゃん、大人やな」
「どこ見て言うとんねん。どこ見て言うとんねん」

 先に終わった俺が身支度を整えて手洗い場に向かうと、オサムちゃんは俺のほうを見ずにいつもと違う落ち着いた声で言う。
 多分、面と向かって言うのは恥ずかしかったんやろ。

「一氏よ」
「何」
「急いで大人になる事ないで。自分の気持ちごまかす事ばっかり上手なったらあかん」
「オサムちゃん…」
「先生みたいにな、自由に生きなあかんで。ま、その結果ハミゴやけどな先生」

 そう言って笑ったオサムちゃんが、身支度を整えてトイレを出て行く。
 何かジーンとした気持ちでそれを見送った俺は、自分がトイレを出るときになってようやく気付いた。

「うわ、オサムちゃん手ぇ洗ろてへんわ」

 あんな大人になりたないなぁと思いながら教室に入ると、小春がジャンプに見入っとった。
 無言で隣に座ったら、気付いたらしい小春の珍しく愛想の無い声が聞こえる。

 なるほど、次の時間が体育でほとんどの生徒が既に着替えて教室から出て行った所為か。

「おかえり」
「おう、ただいま」

 椅子の上で体育座りをした俺に視線をやることも無く、銀○を読みふける小春。
 ははっ、だかふへっ、だか時々吹き出して笑ろてはるわ、ホンマ暢気やなこいつは。

「なぁ、金色」
「ん〜?」
「あのさー」
「おー、何ぃな」

 パラ、とページを捲る音が聞こえてきた。
 体育一緒にいこー、なんて女子の声が足音と笑い声を一緒くたに聞かせながら遠くなっていく。

 教室には、ついに俺と小春だけになった。

「俺とさー」
「おー」
「…付き合えへん?」
「…………」

 教室ってこんな静かになるモンやねんな。
 心臓の音までうるさく聞こえるくらい静かになった教室の中で、小春は黙ったままでまたページを捲った。

 そら振られるわな、小春女好きやもんな。
 コンビ解散とか言われへんかったらええなぁ、って俺の心はもう振られた後のことばっかり考えてた。
 だって小春、俺が決死の思いで告白したのにブリ○チ読んでんねんもん。

「何言うてんのユウくん。小春はいつでもユウくん一筋やでぇ」

 アカン、誰か笑かそうとしてるときの小春発動しとる。
 でも教室には俺と小春しかおらへんのにな。

「んー、もうユウくん二人っきりやからって恥ずかしい事言わさんでよ」

 そうか。俺がおるか。
 小春の笑かしたモン勝ち精神は、たった一人でも自分以外の人間がおれば発動する。
 それは、コンビを組んでる俺であっても同じ事。

「ユウくんかて、わかってるやろ。小春のき・も・ち」
「あぁ、そうやな小春ー」
「せやからユウくん、3月まで待って」
「あぁ、そうやな小春ー………」 

 …3月までて何、その具体的な期間。
 俺が小春の方を見ようとした時、既に小春は立ち上がっていた。
 ジャンプを俺の机に放り出して、そらもう男らしい仕草で体操服を入れた袋を肩に担ぐ。

「体育行こか、一氏」
「あ、…おぉ」

 3月、3月て何があんの?
 …卒業?卒業シーズン!?

「オサムちゃん…アカンわ、俺オサムちゃんの言い付け守られへんかもしれん…」

 股間の息子さんが全く言うことを聞きそうにないです。
 前に忍足が俺に「小春で勃ったらガチやな」言うて笑ってたけど、もう俺ガチでええわ。
 実際勃つし。

「一氏ァ!さっさと来いって!」
「あ、おう!」

 教室の扉の所で俺を待つ小春の呼び声に我に返った俺は、慌てて机の横に引っ掛けた体操服袋を持って小春を追いかける。

 さっきのが冗談でも本気でも、俺らの生活には全く変化なし。
 例えば3月に、

『はぁ?あんなんネタやろ』

 なんて言われたとしても、俺は多分ずっと小春の隣におるし小春も俺の隣におるやろう。

 何しろ俺らは、冗談と本気の狭間で生きてるから。


END

2008/01/27:完成
2008/02/02:UP