他校×木手本(仮題)-サンプル-


真田×木手
よそはよそ、うちはうち(高校生設定)冒頭部抜粋

 夏の夜。庭の木々が青々とした香りを一層濃く放ち、視界が良好ではない夜の闇にはそれが顕著に感じられた。
 伝統的な琉球家屋の縁側に腰かけていた真田は、傍に置かれた盆からガラスのコップを手に取り口をつける。良く冷やされたサンピン茶は、心地よく喉を潤し風呂上がりの体に染み込んだ。微かに薫る花の匂いも、心を落ち着かせてくれる。
「真田クン」
 奥の部屋からこちらへ向かってきた男は、真田の後ろに座ると濡れたままの髪にタオルを被せた。
「永四郎」
「よく拭かないと風邪を引くでしょ」
 厳しい口調も何処か柔らかく響いて、被せられたタオルの奥で少し微笑む。
 いつも部員をまとめる役割を担っているからか、こうして世話を焼かれるのは少し心地が良い。甘えるように身を寄せれば、髪を拭いていたはずの手が肩を撫でていく。
 振り返って少し上にある彼の顔を見ると、いつもの澄ました表情が嘘のように柔らかい表情を浮かべている。二人の間を遮る無粋なタオルを掴もうと上げた木手の手を、真田の手が掴んだ。
「真田クン……」
「永四郎」
 その後の事は、夏の星空だけが知っている。



白石×木手
それも時間の問題(OVA設定)冒頭部抜粋

「ねぇ、白石クン。君ならできるでしょう」
 背筋を伝う汗は、部活の時とは種類が違う。冷たい、そこまでシリアスな物ではないが白石の心を動揺させるには十分だった。
 寺の縁側に腰かけた白石と、その前に立つ木手。そのまま木手が前面から身を寄せてくる所為で、足が縁側と木手の体に挟まれて逃げられない。
「いや、……き、木手くん、君なんか誤解しとるんちゃうかな」
「誤解?まさか」
 それはべっとりと触れる様なあからさまな物でも、触れるか触れないかという曖昧な感触でもない。さらり、まるでシーツの乱れを直すようなあっさりした手つきで撫でられる。どこをって、夏服の半袖シャツに包まれた白石の胸元だ。
 せめて距離を取ろうと両手を背後について顔を引く。上半身が軽く後ろ斜めに倒れただけだが、ぬめって煌めく肉食獣のような木手の目を間近で見続けているよりはマシだ。
「俺は、人を見る目はありますよ」
 微笑む唇を薄い舌先が舐める様を、眼前で見せつけられて白石は身を竦める。貞操の危機と言うのは、こういう事を言うのかと今まさに実感しながら思う。
 あぁ、この寺にさえ入らなければよかったのに、と。



橘×木手
太陽と羽虫(ドキサバ設定)冒頭部抜粋

「木手!」
 彼と木手は同じ年だ。そのはずだ。少なくとも木手は、そう記憶している。不動峰中の橘とは同じ中学三年生だと。
 もっとも、木手にとって彼は獅子学中テニス部に在籍していた当時の、いわゆる九州二翼と言われていた印象の方が強いのだ。悔しくも、一方的な認識ではあったが。
「何度言えば分かるんだ。こう言う場所では一人の軽率な行動が危険を呼ぶんだぞ」
 お前は俺の父親か、そう言いたい唇をグッと噛み締めてそっぽを向く。呆れたように一つため息を吐くのが尚更腹立たしい。
 同じ年で、同じ部長と言う立場にいるくせに自分に指図してくるのが鬱陶しい。その口調がまるで上からの、親のような堅苦しい意見なのもだ。腕を組んで自分を見つめてくるまっすぐな視線は、斜に構えて跳ね返しても一向にへこたれない。
 不動峰中の連中に存外人気なのも気に入らない、何かあれば橘さん橘さんと黒い集団が集まっては楽しそうに笑い合っている。そんなにあの男の庇護が嬉しいのか。
 それに髪の色はどうした。金髪に染めて伸ばしていたはずの髪をバッサリ切って黒くしてしまった彼を初めて見た時、木手はその少年が橘だとは一瞬気付かなかったほどだ。
「……手!木手!聞いているのか!」
 説教は続いていたらしい。美しいオーシャンブルーを背負った橘は、話を聞かない木手にそれでも滔々と単独行動の危険について話している。
 その内に海への諸注意でも話しだしたら皮肉の一つでも言ってやろうと思いながら、低い声に耳を傾けた。内容はどうでもいい、聞いているのは彼の声だ。
 深く響くような低い声は、彼の学校のカラーと同じく漆黒だ。耳に沁み入るその声音が、堅い話ばかりなのは少しいただけない。
 もっと、そう甘い言葉なら心地好いのにと木手は思う。