猫と赤いリボンとサプライズ




オレの弟は2mを超す大きな鎧の姿だ。
だが、そんななりをしていても、ヤツはやたらと可愛い物が好きだ。
例えば猫だったり、こどもだったり、花だったり。
ただ、時折妙なものを可愛いということがある。
「ねえ兄さん、ポニーテールにして赤いリボン結んでよ」
「ああ?」
また何を馬鹿なことを言い出したのかと振り返れば、鎧の弟はのたまった。
「きっと可愛いよ?」
「アホか」
その一言で終わりにしようと思ったのに、食い下がってくる。
「いいじゃないか、減るもんじゃないし」
「オレの神経の方が減るわ、ボケ」
さっさと背を向けてオレが歩き出せば、不満げな声をあげながらついてくる。
「ちぇー・・・。兄さんの髪サラサラだし、綺麗な金色だし、赤い色が映えて綺麗だとおもうんだけどなー」
「あ・き・ら・め・ろ」
「金髪と赤いリボンが一緒に揺れるのきっと可愛いのに・・・」
なんだ、コイツオレにそれをやらせたいんじゃなくて、『ポニーテールに赤いリボン』っていう組み合わせが見たいだけか。
だったらウィンリィあたりにでも頼んだらいいのに。まぁウィンリィもそういうことを快くやってくれるタイプではないがな。
まだブツブツ言っているのを無視して、オレは図書館に向って歩みを進めた。
そう言えば今月は『あの日』がある。・・・この町を出る予定にしている日の前日か。
今は一分一秒足りとも惜しいのは事実だ。でも、食欲とか、睡眠欲とか、人として当たり前の欲求を持つことも出来ないアルフォンスを、その日くらいは何か別のことで満たしてやりたいとも思った。
アルフォンスを振り返ると、アルフォンスは小さなこどもを膝に乗せて絵本を読んでやっていた。
親子連れで図書館に来ていたこどもに捕まったらしい。
アルフォンスらしいな、とオレはちょっと笑って、図書館の司書に声を掛けた。


「アル、この宿引き払うぞ」
兄さんの行動が唐突なのはいつものことだけど、今回はあんまりにも突然だったのでボクは戸惑って聞き返した。
「どうして?出発は明日の予定じゃないか。この町の図書館にあった資料、まだ読んでないのもあったでしょ?」
確かに、読んでないのは残り3、4冊だし、読み終わった後夕方の列車に乗る手もあるけど。ここは結構辺境の方の町だから、そんな時間から列車に乗ったら次の町につくのは真夜中だ。そんなことになったら図書館も宿も店も何も開いてなくて困るだけなのに。
「出発は明日。泊まる場所変えるだけだ」
「ええええええ?」
本当に意味不明だ。ボクが困っている間に、兄さんはさっさと荷物をまとめてしまう。
「ちょっと、兄さん待ってよ!!変えるって言ったって、この町他に宿なんてないじゃないか・・・ってボクの話聞いてる?!」
「聞いてる聞いてる。ホラ、行くぞ」
「聞いてないじゃないかっ!!」
そう言ってる間にも兄さんはカウンターに行ってさっさと精算を済ませてしまった。
仕方がないのでボクはトランクを持って前を歩く兄さんを追いかける。
「それで兄さん、どこに行く気なの?」
「まずは市場」
「どこに泊まる気なのと聞かなきゃワカリマセンカ」
「まぁいいから黙ってついてこいよ」
別に宿の対応も悪くなかったのに、なんだって急にこんなことを言い出したのだか。
でも、こういうときの兄さんは止めても無駄なことが多いので、ボクは諦めて後ろをついていくことにした。
この町は辺境の町ではあるけれど、市場は割と大きい。と、言うよりも、ろくな商店がないので市場に生活に必要な品物はほとんど揃っているのだ。
その市場で、まず最初に兄さんが買ったのは、・・・布団と、毛布???
「兄さん?何で布団と毛布?まさか野宿なんて言わないよね?」
「多分野宿とは言わない」
「多分ってなに!!」
「いいからこれ持てよ」
兄さんにその布団と毛布を押し付けられた。ボクは鎧の身体で、重さとか感じないから荷物持ちは大抵ボクの仕事だけど・・・こんなもの持たされるとは。
それから、兄さんは次に食べ物屋を覗いた。朝食は宿で食べてきたから、多分その後の食事だけど・・・
「ちょっと兄さん。何なのその量」
いくらなんでも、多すぎやしませんか?
「昼と夜と、明日の朝・・・の分としたって・・・それになんでソーセージとか調理前の食材まで混ざってるの」
軽く茹でるくらいは確かにどこででもできるけど、わざわざ町の中に居るのにそんなサバイバルチックな真似しなくたって。
「ほらよっ!」
僕の質問を綺麗に無視してくれた兄さんが、食べ物の入った袋もボクに押し付ける。
確かに荷物持ちはボクの仕事だし、重さも感じないけど、いい加減トランクと布団と毛布と5日分くらいありそうな食料の詰まった紙袋を抱えれば、ボクの手から溢れてしまいそうになる。
なのに兄さんが手ぶらってどういうことなの。
いくら質問してもまともに答えてもくれないし、だんだんボクもイライラしてきてしまった。
もういい。兄さんから話し掛けてくれるまでボクからは兄さんに話し掛けたりしない!!
と、ボクは決心したのだが。
「おばちゃんコレ2本ちょうだい」
「あいよ」
「兄さんが牛乳買ってるーーーーーーーーーーーーっ!?」
決心した3秒後にいきなり破ってしまった。
「あーもう、おまえホントうるせぇなぁ。黙ってついて来いって言ってるだろうが」
「だ、だって、兄さん?ホントに兄さん?ボクの知らない間に知らない誰かと入れ替わってたりしない?」
「アホか。んなわけねーだろ」
でも兄さんの牛乳嫌いを、ボクはよーーーーっく知ってるわけで。その兄さんが、牛乳をこんなにたくさん買ったら、疑いたくもなるだろう?
兄さんが牛乳を持ってすたすたと歩き始める。でも、牛乳大瓶2本はかなり重たいんじゃないだろうか?
「兄さん、それも・・・持とうか?」
「バーカ。いくら重くないって言ったってそれ以上持てるわけねーだろーが」
確かに兄さんの言うとおりだ。ていうかさっきボクも心の中でそう毒づいたけど。
なんだか、今日の兄さんは本当に変だ。一体どうしたって言うんだろう。
空の鎧の中を、ボクは?マークで溢れ返させながら兄さんの後ろを歩く。
図書館の前まで来ると、兄さんは立ち止まってボクを振り返った。
「おまえ、ここでちょっと待ってろ」
「え?ちょっと、兄さん???」
兄さんはボクを残してさっさと図書館の中に入っていく。
ちょっと?こんな大荷物かかえさせたまま、まさか兄さんが資料読み終わるまでこんな場所で待ってろとか言うつもりなわけ??
いくらボクが疲れないって言っても、それはあんまりなんじゃないでしょうかお兄様?
と言っても待ってろと言われてしまった手前、勝手にどこかに行くわけにもいかない。
どうしたものか、とボクが悩んでいると。
「おう、待たせたな」
「へっ?は、早いね?」
10分もしないうちに兄さんは戻ってきた。
「おう、ちょっくら無理いって貸し出してもらってきた。明日の朝には返すから、って。銀時計も使ってな」
「えええええ?」
この町の図書館にしかない資料だからわざわざこの町まで来たのに、それを貸し出してもらった?一体どんな無茶をやったんだこの人。
ていうか、そこまでして一体何がやりたいの?
「おい!置いてくぞ!」
「あ。待ってよ〜」
悩んでるボクを置いて一人でさっさと歩き出してしまった兄さんを、ボクは慌てて追いかけた。


「ここだここ」
兄さんが立ち止まったのは、ちょっと朽ちた小さな家の前だった。
「誰か、知り合いでも住んでるの?」
そんな訳はないのだけど、そのくらいしか思い当たることがなくて兄さんに聞いてみる。
「いいや。前に住んでた婆さんが何年か前に死んで以来、廃屋になってるんだと」
「・・・まさか、ここに泊まるの?」
「おう。練成してちょっと直せば、一晩くらいどうってことないだろ」
本当にもう、何がなんだか分からなくて。何でわざわざ暖かくて居心地のいい(はずだ、少なくとも兄さんにとってはここよりは)宿屋をキャンセルして廃屋に泊まろうだなんて言い出してるんだこの人は。
ボクはするはずもないのに眩暈がしたような気がした。
「兄さん!!いい加減ちゃんとボクにも説明してよ!!」
「中に入ってみりゃ分かるって。って言ってもオレも人に聞いただけなんだけどな」
「はぁ?」
兄さんがすたすたと玄関に近づいて、ドアを開けて動きが止まった。
「うっわ・・・マジですげぇわ」
「何?」
兄さんの頭越しに家の中をのぞいて見ると。
「うわーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
猫 猫 子猫 子猫 子猫 子猫 猫 猫 猫 猫 猫 猫
猫 猫 猫 猫 猫 猫 猫 猫 猫 猫 猫 猫 猫 猫 猫
猫 猫 猫 猫 猫 猫 猫 猫 猫 猫 猫 猫 猫 猫 猫!!

30匹くらいのにゃんこたちが、ボクたちをじっと見ていた。
「何これ!!何ここ!!すごい!!どうして?!」
「ここに住んでた婆さんってのが、家族がいなかったらしくて、婆さんが死んだ後に飼ってた猫が3匹残されちまったんだと。それを可愛そうに思った近所の人間が餌やってたら、だんだん増えてきて増えに増えて今じゃこの有様、猫屋敷と呼ばれるようになりました〜だとさ」
ボクと兄さんが家の中に入っても、にゃんこたちは逃げるような様子もない。逆に、擦り寄ってくる仔までいる。
「人に慣れてるね」
「いつも誰か彼かから餌もらってるからだろ。あと、お前が食いモン持ってるから」
「あっ、そっか」
兄さんが床に牛乳を置く。
「オレはこんな牛が分泌する白色の汁なんざ飲まねぇが、こいつらは喜ぶだろ」
「そうゆうこと・・・じゃ、食べ物も」
「オレの飯も勿論入ってるけどな。残りはやっちまっていいぞ」
ボクも布団と毛布とトランクを床に下ろした。にゃんこたちがボクの顔を見上げて寄ってくる。可愛いなぁ・・・
「兄さん、兄さんの分の食事置いておいくと、多分気がついたときにはなくなってるよ」
「あーかもな。オレの分抜いてトランクに仕舞っておくか」
兄さんがボクの持つ紙袋の中から、いくつか食べ物を取り出す。何匹かのにゃんこが兄さんの足に身体を摺り寄せた。
「おう、ちょっと待ってろよ。今コイツが遊んでやるから」
「ニャーン」
「にゃぁ〜」
にゃんこに普通に話し掛けてる兄さんの言葉から察するに、自分がにゃんこの相手をするつもりはないらしい。やっぱりボクの為にここに来たんだろう。ボクが猫好きだから。
食べ物をトランクに仕舞った兄さんが、両手を合わせて床に手をついた。ぼろぼろの床や、壁に開いた穴が一気に修復される。
「オレちょっと外行って薪とってくるわ。隙間風なくなっても、もう秋だからな。さすがに少し寒い」
「あっ、兄さん!そんなことくらいボクがやるよ!」
「いいからお前は猫と遊んでろ」
ボクの鎧の胸のあたりを、兄さんが右手で軽くゴンと小突いて家を出て行った。
確かにボクは猫が大好きだし、コレはとても嬉しい状況だけど、兄さんは一体どうしたんだろう。兄さんも動物は好きだけど、時間を無駄にするのを嫌がるし、ここまでするような人じゃない。
「にゃぁ〜」
「にゃーにゃーにゃー」
「あっ、ごめんごめん」
足をカリカリと引っかかれて催促されて、ボクはかがみこんで紙袋からソーセージを取り出した。


ボクがにゃんこたちに牛乳をあげていると、兄さんが薪を抱えて戻ってきた。
火を起こすのを手伝おうと思ってボクが顔を上げると、暖炉に向った兄さんの後姿が見えて。
ボクは驚きのあまりに勢いよく立ち上がって、牛乳ビンをひっくり返してしまった。
「おい、何やってんだよ」
「だっ・・・だっ・・・その髪!?」
2、3日前に、ボクがアレだけお願いしてもやってくれなかったポニーテールに赤いリボン!!
兄さんが振り返った動きに合わせて、サラサラきらきら揺れている!!!
やややややややっぱり可愛い〜〜〜〜〜〜可愛い〜〜〜〜〜〜〜可愛すぎる〜〜〜〜〜〜〜〜
でも兄さんホント一体今日はどうしたの〜〜〜〜〜〜〜〜〜?
「おまえ見たいっていってたじゃん」
そう言って笑った兄さんが可愛すぎて。ハートのど真ん中を矢で射貫かれた感じってこういう感じのことを言うんだってボクは理解した。兄さんにドキドキしてるのなんて今に始まったことではないんだけどね。
「さわっ・・・さわっ・・・!」
「さわさわ?」
「違うよ!ささ触ってもいい?!」
「別にいいけどよ、ソレ」
そう言った後、兄さんはボクの足元を指差した。つられて足元を見ると、こぼれた牛乳を嘗めつくしてしまったにゃんこたちが、ボクを見上げて足にじゃれ付いていた。
「そいつら、遊んで欲しいんじゃねーの?」
「あう・・・」
兄さんの髪の毛触りたい。でもじゃれてくるにゃんこも可愛い。遊んであげたい。でもむしろボクが兄さんにじゃれ付きたい。でもにゃんこが・・・。ボクはどうしたらいいのか分からなくなってしまって、兄さんとにゃんこたちを何度も何度も交互に見比べた。
あんまりにもボクが首ふり人形みたいに首を振りつづけたせいだろう、兄さんがとうとう吹きだした。
「今日一日こうしといてやるから、先に猫と遊んでやれよ」
そう言って兄さんがポニーテールをかきあげる。サラサラキラキラ揺れるその動きに、ボクは目を奪われた。
「今日はここに泊まるから、移動する必要もないし。オレは暖炉の前で資料読んでるから、気が済むまで遊んどけ」
兄さんが微笑んでちょっと首をかしげる。
ちょっともうホントに可愛い過ぎだから!!何なのその犯罪的な可愛さ!!リボンつけてって言ったのはボクだけど!!可愛くなりすぎだろもう!!今ボク気絶するかと思ったよ可愛すぎて!!
「兄さん」
「何だよ」
「ホントに嬉しい・・・ボク今ホント嬉しいけど、一体どうしたの?」
「いい加減気づけよ」
「え?」
「今日、おまえの誕生日だろうが」
そう言われて、ボクは今日の日付をようやく思い出した。
「あっ、ホントだ」
「おまえオレの誕生日忘れないくせに自分の誕生日忘れんのな」
兄さんがクックッと笑って、暖炉の方に歩いていく。ボクはちょっと名残惜しく兄さんの背中を見て、にゃんこたちの前にかがみこんだ。
のど元をさすると、ゴロゴロと目を閉じて気持ちよさそうにしている。
「じゃあ、コレって誕生日プレゼントなの?」
「まぁ、そう言うことになるわな」
兄さんがぽいぽいと薪を暖炉に放り込んでいく。
「昔はさ。ケーキだとかご馳走だとか準備して、誕生日パーティーだーとかやってたけど、今はそれじゃおまえ楽しめねーだろ?」
焚きつけの小枝を薪の上に放り込んで、兄さんは火のついたマッチをその上に投げ込んだ。
それから、ボクを振り返る。
赤い暖炉の光に照らされて微笑む兄さんを、ボクは本当に綺麗だと思った。
「何か物をプレゼントとか言っても、旅して歩いてる今の状況じゃ邪魔んなるだけだしな。だから、何かおまえが楽しめるようなことねーかなと思ってさ」
この人は。
『人の身体を無くした人』として扱うことと、『人と違う身体を持っている人』として扱うことは、似ているようで違う。
身体のことに触れないように気を使われることは、逆に自分が身体を持たないことを思いださせ、ボクを暗い気持ちに追い込むことがある。
でも、兄さんは違う。兄さんはボクを『鎧の身体を持つ人間』としてボクを扱う。どんな身体であろうと、ボクが確固たる人間であると、兄さんはボクを人間として扱ってくれる。ボクは『身体を無くした人間だったもの』じゃない。ボクは『鎧の身体を持つ人間』なんだって、兄さんはそう言ってくれる。
兄さんはボクの身体の話を避けたりなんかしない。ボクの存在を認めて、ボクと一緒にそれに向き合ってくれる。
どうしようもなく、泣きたくなった。ボクが今泣ける体だったら、きっと泣いている。
「何泣いてんだよ」
「何で分かるんだよ・・・」
たまらない。本当にたまらない。涙なんか出てるわけないのにどうして分かるの。
ボクの魂を繋ぎ止めてくれたのが兄さんだっていうなら、きっともうボクの魂は兄さんに捕まっちゃってるんだ。
「ありがとう、兄さん」
「ハハッ、まぁ喜んでもらえたんなら良かったよ。じゃオレはこっちで借りてきた資料読んでるからな」
兄さんは、暖炉の前にある古ぼけたソファの埃を払って、そこにどっかりと腰を下ろした。
ボクは、にゃんこの背中を撫でながら、しばらく兄さんの背中を見つめていた・・・。


ようやく遊び飽きたにゃんこたちが思い思いの場所に散っていく。ボクはそれを良いことに、兄さんの座っているソファの後ろに移動した。
資料に集中している兄さんのポニーテールに、そっと手を伸ばす。
ゆっくりと指先で持ち上げると、指の間からさらさらと金糸が零れ落ちた。
うっとりとそれを眺めていると。
「にゃー」
「うわ?!」
コートを着たままソファに座っていた兄さんの、当のコートのフードからにゃんこが顔を出した。
兄さんは身じろぎもしないで資料を見ている。
ていうかこれはいくらなんでも重いでしょ?何で気づかないの?まだ小さめの、子猫と成猫の中間くらいのにゃんこだけどさ。
にゃんこがゆらゆら揺れてる赤いリボンにじゃれかかる。
「あ!コラ!解けちゃうよ!」
止めさせようとしてもにゃんこはなかなか止めてくれない。
にゃんこと格闘してると、兄さんが資料をぱさっと膝の上に下ろした。どうやらちょうど読み終わったみたいだ。
「・・・ん?」
兄さんが振り返る。
「おわっ!?」
「にゃー」
フードの中にいたにゃんこと目が合ったらしい兄さんが、目を丸くした。
「アルッ!こんなトコに猫入れんなよ!!」
「ボクが入れたんじゃないよ!ボクがこっちに来たときは入ってたの!」
「にゃぉ〜」
「ニャオーじゃねぇよお前も!!どこ入ってんだよ!!」
ていうか兄さん、本気で気づいてなかったんだ。まぁ、兄さんらしいけどね。
「んん?」
何かに気づいたらしい兄さんが膝の上の資料を持ち上げる。すると兄さんの膝と資料の間にも丸くなったにゃんこが座っていた。
「・・・気がついたら傍に居るなんて、アルみてーな奴らだな」
「その表現すっごい微妙なんですけど。兄さんが気づかなすぎなんですぅ。ねぇ?」
「にゃー」
フードの中にいるにゃんこの顎を指でくすぐると、にゃんこは目を閉じて上を向いた。
「ねぇ、兄さん」
「ん?」
「兄さんがここに連れてきてくれた理由は分かったけど、何で泊まったりとか、資料借りたりとかまで?図書館で資料読んだ後にココによって、宿に戻るとか考えなかったの?」
「それじゃあんまり長い時間遊べないだろ」
兄さんが左手で膝の上のにゃんこを撫でる。
「オレは図書館にいるからここで遊んでろ、って言ったって、お前オレのこと気にするだろ?夜だって、オレは宿にいるから好きなだけ遊んでて良いぞって言っても、どうせすぐ戻ってくるんだろうし。だったらオレも傍に居てやって猫と遊べる方が断然いいだろ」
「うん・・・ありがとう、兄さん」
兄さんがボクを見て目を細める。ボクも兄さんを見て微笑む。ボクの表情は変わらないけど、兄さんはきっと分かってくれる。ボクの魂の表情を。
なーんて、すごくいい雰囲気になってたのに。
「シャギャァァァァァ!!!」
「ブニャァァァァァァァ!!!」
突然追いかけっこを始めた2匹のにゃんこが、ボクの体を踏み台にして走り回ってくれたお陰で、すっかりぶち壊されてしまった。



それから、兄さんの毛布に30匹のにゃんこが皆入り込もうとして、「んなに入りきれるかぁ!!」と兄さんがぶちきれたり。
兄さんの朝ごはんが半分くらい盗まれたり。
結構色々合ったけど、ボクにとってはとても幸せな誕生日になった。







アルフォンス君誕生日編、です。
ちなみにアルの誕生日は天秤座だと思ってます。兄は獅子座で。
兄さんが「オレにそれをやらせたいんじゃなくて、『ポニーテールに赤いリボン』っていう組み合わせが見たいだけか」
って言っていたのは、アルが聞いたら「ちっがーーーーーうっ!!」と全力でツッコミを入れることでしょう。
兄さん、ド・ニブチンですから。



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