無自覚症状 2

「おーい、そろそろ起きろや、大将」
 ジャンに揺さぶられ、エドワードは意識を浮上させた。
「少・・・・・・尉・・・・・・?」
ごしごしと目をこすれば、至近距離でジャンの空色の瞳が覗き込んでいる。
「そろそろ終業時間なんだよ。よく眠れたか?」
エドワードは大きく伸びをして関節をコキコキ鳴らした。
「ん。結構寝た」
ジャンの大きな手が、エドワードの頬に優しく触れて、前髪をかきあげる。その温かさが心地よくて、エドワードは目を閉じた。
「コラ。寝なおすなよ」
笑いを含んだ声で咎められ、顎をつまむように人差し指と親指で頬を押しつぶされる。
「いーじゃねーか、ちょっとくらい」
「ダーメ。もう仕事終わりだっての。俺が困る」
エドワードがふと自分の置かれた見回すと、ジャンの膝の上に抱きかかえられていた。
「脚痺れねーの?」
「お前な・・・・・・。大将がそうしろって言ったんだろ?!」
「ええ?! そんなこと言ってねーよ!」
「くぬやろ! 枕になれって言っただろうがーーーーー!」
ジャンがぐりぐりとエドワードを小突き回す。
「ぎゃーーーーー痛い痛い痛い」
エドワードが抵抗して脚をばたつかせると、二人の頭上に書類が降り注がれた。ブレダがありありと不機嫌な表情を浮かべて書類を投げつけたのだ。
「何怒ってんだよブレダ」
「いちゃついてるなら帰れ!!」
「いちゃつくって・・・・・・違ぇーだろ」
エドワードを抱えたまま、ジャンがひらひらと舞う書類をぺいぺいっと払いのける。
「暴れられると埃は飛ぶ書類が散らかる!さっさと帰れ!」
「今書類散らかしたのはお前だろー?まーいいや、ほれ大将宿まで送ってやるよ」
「おう」
身軽にジャンの膝からエドワードが飛び降りると、ついでジャンも立ち上がった。
わしわしと頭を撫でられる感覚に、エドワードは自然笑顔になる。
その笑顔につられる様にジャンも笑顔を浮かべ、二人は連れ立って司令部を後にした。
閉められたドアに向かってブレダが悪態をつく。
「馬鹿ップルめ!!」
その言葉を否定する者はここにはおらず、フュリーもファルマンもただ苦笑した。

 
宿に近づくにつれ、口数が少なくなるエドワードに、ジャンは心配して声を掛けた。
「大将?何か気になることでもあるのか?」
「え?ああ、いや・・・・・・何でもない」
俯いてしまったエドワードは何でもないといった様子ではない。
「ほれほれ。お兄さんに言ってみなさい」
ジャンがおどけてエドワードの頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。
「止めろよオッサン!」
「おっさ・・・・・・お兄さん、だろっ」
「オッサンだオッサン!!」
言い返す言葉の生意気さはいつもの通りだが、その声はイマイチ張りがなかった。
「大将?ホントにどうした?」
ジャンが覗き込んでも、エドワードは視線を逸らすだけだった。
「俺じゃ駄目かぁ・・・・・・。ま、じきにアルも戻ってくるだろうし」
「ち、違うよ!そうじゃなくて・・・・・・」
慌てて顔を上げたエドワードは、戸惑ったように視線を彷徨わせる。
「本当に、大したことじゃねーんだよ。前に大佐が宿にも押しかけてきたことがあったなぁ、ってちょっと思い出しただけだ」
「あ・・・・・・」
そう言えば仕事が終わっていないのにロイが脱走し、エドワードから軍に連絡があったことがあった。電話を寄越したときはこの馬鹿をとっとと回収しろ、と怒り狂っていたエドワードが、笑顔で銃を乱射するリザを見て無言になったあの時のことだろう。
「アルが戻るまで居ようか?」
「・・・・・・いらねーよ」
ふいっとエドワードが顔を背ける。考えてみれば、意地っ張りのエドワードがそんな風に聞かれて頷くはずもないのだが。
「それに、今日アルは中尉のとこに泊まる約束になってるから、それだと徹夜んなるぜ?」
エドワードは笑っていったが、その内容こそが今現在エドワードを不安に陥れていることなのだというのは、流石にジャンにも分かった。
「あー・・・・・・じゃぁさ、大将。俺の家泊まりに来ねぇ?」
「え?」
「泊まりに来ないかって前から誘いたかったんだけどさー、俺んチ狭いからアルと二人セットじゃ泊めらんねーのよ。アルも中尉んとこ泊まるってんなら、丁度いいしさ」
あははーと明るく笑いつつ、何つー下手な嘘だとジャンは自分で自分に突っ込んだ。
「・・・・・・いいのか?」
確認するような言葉をエドワードが言ったのは、ジャンの嘘がバレバレなせいだろう。あえて指摘しないのは、その申し出をエドワードが嫌がっていないと言うことだ。
「俺が、泊まりに来ないかって誘ってるんだけどな?」
「ははっ・・・・・・じゃぁ、行く」

 
「思ったより美味かった」
「素直にご馳走様でしたって言えよなー」
ジャンの手料理で済ませた夕食は、割りとエドワードの口に合ったようだ。
素材の味を生かした料理と言えば聞こえは良いが、手をかけずに量だけは大量と言う所謂男の料理である。
山と詰まれたその料理を二人で平らげた後、エドワードは満足そうに先程の可愛げのない感想を吐いたのだ。
「だって少尉って料理とか全然しそうにねーんだもん」
「毎日毎日買った弁当だけじゃ、身体に悪いだろー?これでも身体が資本の軍人なんでね、最低限は作るようにしてるんだよ」
口では生意気なことを言っても、その笑顔で喜んでいることがはっきり分かるのがエドワードの可愛いところだ。ジャンは食後の一服を咥えながら、エドワードの頭をぐりぐりとなでる。
「あ゛〜〜〜〜〜〜っ もう少尉いっつもそうやって人の頭ぐちゃぐちゃにすんじゃねーよっ」
エドワードが拳を振り上げるのを見て、おっと、とジャンは撫でていた手を放した。
「んじゃー風呂入りますか。一緒でもいいよな?」
「は?一緒?って、何が?」
エドワードが目を丸くする。
「このアパートさぁ、湯を全部太陽光で作ってるから、一日に使える湯の量が決まってるんだよ。それを超えると勝手に水に切り替わっちまうの。だから、一緒に入って節約したいわけ」
「はぁぁ!?ぼろっちーアパートだとは思ったけど・・・・・・アンタさあ、仮にも少尉なんだからもうちょっとマシな部屋借りたら良いんじゃねーの?」
「ぼろっちーは失礼だろ、ぼろっちーは。仕事が忙しくて、どうせ殆ど飯食って寝に帰るだけなんだから十分なんだよ」
エドワードの額を指で弾き、それからジャンは苦笑した。
「まぁ、一緒は嫌だってんなら先に入ってこいよ。俺は水でもいいし」
「良いわけねーだろ。別に少尉なら嫌じゃないし、一緒で良いよ」
「そっか?なら良かった。んじゃ行きますか」
ジャンは背後からエドワードの肩を掴んで、風呂場に向かって押した。
「飯の片付けは?」
「湯で皿洗って水風呂に入るのと、温かい風呂に入って水で皿洗うのどっちがいいと思う?」
「そこまで酷いのかよ・・・・・・」
半ば呆れたようなエドワードも、特に抵抗はせずジャンに押されて脱衣場へと足を踏み入れる。
脱衣場でさっさと脱ぎだしたジャンを少し見上げて、エドワードも遅れて服を脱ぎ始めた。
「誰かと一緒に風呂入るのなんて、昔アルと一緒に入ってた頃以来だー」
「まぁ、裸の付き合い、ってな」
「何だそりゃ」
ケラケラと笑ったエドワードが、ブリーフを洗濯籠に放り込んだジャンを振り返って、ふと動きを止める。ジャンの股間を凝視した後、エドワードはそっと自分のトランクスのゴムを伸ばして中を覗きこんだ。
「オイオイ、比べるなよ」
苦笑したジャンの顔を一瞬エドワードが見上げ、再び自分のトランクスの中に視線を落とす。
「だってよー・・・・・・なんか、形が違うんだけど・・・・・・」
「んー?どれ」
ジャンが手を伸ばすと、エドワードは慌てて後ろに飛び退いた。だが狭い脱衣場の中、すぐに背中が壁にぶち当たる。
「うわっ、やめろよっ」
「人のモンじろじろ見といてそれは通用するわけねーだろー? ほれ、お兄さんに見せてみなさいっ」
「ぎゃーーーーーー!!! 止めろバカ変態〜〜〜〜〜ッ!!!」
じたばた暴れるエドワードを捕獲して、ジャンは無理矢理エドワードのトランクスを引きずり降ろした。
「何だ、普通じゃん」
「で、でも形違わねぇ? 少尉のが変なのか?」
「オイ! そうじゃなくて、年齢とかそう言うの考えれば普通だってコト!」
幼い形のそれを手のひらに納めれば、エドワードがひゃ・・・・・・と小さな声を漏らす。
「お前のはむけきってないだけ。もうちょっと大人になれば変わるだろ。つーか、大人の見たの初めてなのか?親父のとか、見たことは?」
指ですりすりと撫でてイタズラすると、エドワードがそのジャンの手を思い切りつねった。イテテ、と手を放せばエドワードは真っ赤になってふくれっ面になっている。
「親父のなんかしらねーよっ!すげーガキの頃に出て行ったんだ、覚えてなんかねぇ!」
「あ、そういやチラッと昔そんな話聞いたような・・・・・・近所のバーサンに育てられたんだっけ」
「師匠んトコにはシグさんとか居たけど、別に一緒に風呂入るようなことなんかなかったし・・・・・・」
それではあまりそう言う方面に知識がないのは仕方が無い。こういうものは、大抵身近に居る年上の同性が教えるものだ。
「まぁとにかく、別におかしくなんか無いっつーことだ。気にすんな、な?」
「・・・・・・おう」
エドワードがちょっと照れた様に笑う。
「さーて、都合よくすっぽんぽんになったことだし、さっさと入っちまいましょうかー」
「なんかオッサンくせー」
風呂場のガラス戸を開けてエドワードの背中を押すと、エドワードはおかしそうに笑った。
「だーからオッサンじゃねーっつの」
「オレから見りゃオッサン。ハタチ過ぎたら皆オッサン」
「それホークアイ中尉に言ってみろ?」
「うっ・・・・・・前言撤回・・・・・・いやいや違うな、女の人は皆いつまでもオネエサンだぜ?」
「うわっ、何だそりゃーズリーなー」
大分元気になってきたエドワードに、連れてきて良かったなぁと内心で笑みながら、ジャンはエドワードの頭を撫でまわした。


髪を洗い終え、長い髪をアップにまとめているエドワードに、ジャンはスポンジを濡らして石鹸をつけながら声を掛けた。
「大将、身体洗ってやろうか」
「ええ?! いいよ、自分で洗うって」
「まーまーそう言うな。これも裸のツキアイのひとつなんだから」
椅子に座らせるように肩を押すと、僅かに抵抗があった。だが結局エドワードは大人しく椅子に腰を下ろした。
「少尉って無駄に面倒見いいよな」
「無駄ってなんだよ無駄って」
エドワードの左手を取って、指先からゆっくりとスポンジを滑らせる。
「オレに親切にしたって、少尉には何のメリットも無いだろ?」
「あのな・・・・・・。メリットとか、関係ねぇだろ。俺がやりたくてやってるんだから」
「だから、無駄に面倒見いいよな、って。一応上官だって言ったって、別に少尉の昇進に関係あるわけでもねーし。大佐とかは一応オレの後見だから、オレが何かやれば影響があるんだろうし、分かるんだけどさ。少尉から見りゃただの生意気なガキだろ?」
どこか壁を感じさせるようなエドワードの言葉に、ジャンは肩の辺りにスポンジを滑らせながら視線を上げた。
「俺に言わせれば、だなぁ!」
エドワードを抱え上げて、後ろから抱きかかえるように自分の膝に座らせる。
「うわぁ!?ちょっと、何すんだよ!?」
「おとなしくしてろ。俺に言わせれば、俺は大将から色んなものを貰ってると思ってるけど?」
「え?なんでだよ、オレ何も・・・・・・」
エドワードは不審そうに肩越しにジャンを振り返った。ジャンは笑う。
「嫌なこととか、凹むようなことがあったとき、大将を見るとなんか元気が出るんだよな」
「え・・・・・・」
「俺より絶対大将の方が色々苦労してんだろうに、頑張ってるの見ると負けてらんねーな、って思うし。無事にイーストシティに帰ってきたのを見るとホッとするし。笑ってるの見ると嬉しくなるし。ずっと笑顔でいてくれたらな、って思うんだよ」
「な・・・・・・何だよ、それ・・・・・・」
おとなしくなって俯いているエドワードの身体に、ジャンはスポンジを滑らせた。
「だから、大将が笑ってくれるんなら俺にとってはちーっとも無駄じゃない。OK?」
「・・・・・・ばっかじゃねーの?」
そう言いつつも、エドワードはジャンに寄りかかって身体を投げ出す。
「・・・・・・けど、オレも・・・・・・少尉と一緒に居ると、ホッとする、な」
ぼそりと呟かれた言葉にジャンは微笑んだ。
「そりゃ光栄だな」
おとなしく洗われていたエドワードが不意に身体を起こす。
「な、オレも少尉の背中洗ってやるよ」
「へ?」
「ハダカのツキアイってんなら、オレも少尉のこと洗わなきゃだろ?」
笑って振り返ったエドワードがなんだか楽しそうで、ジャンは苦笑しながらスポンジを手渡した。
エドワードがジャンの膝から立ち上がってジャンの背後に回りこむ。
「むー・・・・・・」
「ん?」
背後で唸り声を上げたエドワードを振り返ると、エドワードはハッとしてスポンジをジャンの背中に当てた。
ごしごしと洗い始めたのを見て、ジャンは再度前を向く。
「なぁ、少尉さぁ」
「んー?」
「背中広すぎて、いつも洗うの大変なんじゃねー?」
考えたこともないことを質問され、ジャンは思わず吹き出した。
「な、なんだよっ!!笑うなよっ!!」
「や、悪い悪い。自分の背中だからなぁ、そんな風に考えたこと無かったんだよ」
「くっそー、ちょっとでかいと思って・・・・・・」
ぶつぶつ言いながらも背中を洗ってくれているエドワードとの身長差はちょっとどころでは無いはずだが、まぁ指摘すればどうなるのかは目に見えているので黙っておく。
「ほれ、流すぞー」
「おう」
エドワードも泡をつけたままジャンの背を洗っていたので、蛇口を捻って二人まとめてシャワーを浴びる。
泡を流してやりながら、ジャンはエドワードの首筋にふと視線を留めた。
「大将、これ・・・・・・」
「え?」
「キスマーク、だよな。さっき、大佐に?」
手でなぞると、エドワードが風呂場に備え付けの鏡に飛びついた。
「あ・・・・・・んの野郎っ!!」
叫ぶなり、エドワードはスポンジを掴んでキスマークを力いっぱいこすり始める。
「ちょ、ちょっと待て!んな力いっぱいこすったら皮むけるぞ!?」
ジャンが慌ててスポンジを持つ手を押さえても、エドワードは嫌々するように首を振った。
「洗ったのに消えてない!」
「そりゃあ、うっ血してるんだからこすって洗って消えるわけ無いだろ・・・・・・落ち着けって」
「けど、なんか嫌なんだよ!!」
「分かったから」
これは、少し気を紛らわせてやった方が良さそうだ。どうしたものかと少し考えた後、ジャンはエドワードの首筋に顔を埋めた。
「え?!」
驚いて身を引こうとしたエドワードの首を捕まえ、キスマークの上をぺろりと舐める。
「っ!」
エドワードが息を呑んだのが聞こえ、ジャンは口の端で笑んでからキスマークに吸い付いた。
「な・・・・・・」
顔を離すと、エドワードは火が出そうなほど真っ赤になっている。
「ほら、コレで消えたぜ?」
「は・・・・・・?」
「大佐につけられた、跡。俺が上から新しい跡つけちまったからな」
「何言っ・・・・・・だっ・・・・・・もー!! アンタ馬鹿だろ!!」
「そうかぁ?」
無理矢理押さえ込まれてつけられた跡より、遊んでじゃれているときにつけられた跡、と思えるほうがマシなんじゃないかと思ったのだが。
「絶対馬鹿だ。どういう理屈なんだよそりゃ・・・・・・」
両手で顔を押さえてしまったエドワードは、耳まで赤い。
「嫌だったんなら、悪かったなぁ」
「い、嫌じゃねーけど・・・。気持ち悪いのは無くなったし・・・」
うろたえているエドワードが、妙に可愛くてたまらなかった。
「他には?」
「へ・・・?」
「他の気持ち悪いところも、全部消してやろうか?キスもされたんだったか?」
顔を押さえたままの手の上から頬に触れると、エドワードの手が僅かにずり下がり、視線が戸惑いを訴えてくる。
「け、消すって、その・・・」
「今みたいにしてさ?」
ニッと笑って見せると、エドワードは視線を彷徨わせた後、頷いた。
まさか頷くとは思っていなかったためジャンの方が一瞬戸惑ったが、エドワードが望むのならば躊躇うことも無い。
「手、外せよ・・・?」
両肩に手を置くと、恐る恐るエドワードの手が外される。
その唇に唇を押し当てると、肩が跳ね上がったのが分かった。
ぷっくりとした下唇を軽く吸うと、引き結ばれていた唇が驚いたように開かれる。その隙を狙って、舌を滑り込ませた。
「ふぅんっ・・・・・・」
怖がらせないようゆっくりと口の中を探れば、僅かに鼻から甘い息が漏れたのが聞こえる。細い腰を抱き寄せると、エドワードはおずおずとジャンの肩に手を廻した。
ヤバイ。
冗談で始めたはずの行為に、自分が煽られて欲情し始めていることにジャンは気がついた。
たどたどしい舌、堪え切れずに漏れるかすかな吐息、すがりつく小さな手。そんな、これまでに何度も経験したことのあるはずのものが、何故だかたまらないほどに欲情をかき立てる。
このままではまずい気がして、ジャンは唇を離した。
「ぷは・・・」
だがすっかり息が上がってしまっているエドワードの、潤んだ瞳に目を奪われる。薄く開いた濡れた唇に誘われるように、ジャンは再度唇を重ねた。
「ん・・・・・・」
エドワードも抵抗しない。
すっかり勃ち上がっているエドワード自身がジャンの腹部に当たっている。エドワードもジャンがすっかり元気になっていることに気がついているだろう。
「・・・・・・は」
2,3度啄ばんで唇を離すと目が合った。状態が状態だけに、どうにも照れくさい。
「は、はは・・・。その、そろそろ湯船浸かるか・・・?」
「お、おう・・・・・・」
あえてお互いの状態には気づかないふりをして、湯船に身を沈めた。
だが、安アパートであるがゆえに湯船も小さく、ましてそこにジャンのような体格の人間が入るとなれば、普通なら一人入るだけでぎりぎりなわけで。
結果として、エドワードはジャンの腹の上に座るように湯に浸かり、肌を密着させるような状態になってしまった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「せ、狭くてゴメンな」
「い、いや・・・・・・俺も急に来たわけだし・・・・・・」
明らかにジャンの息子はエドワードの尻に当たっているし、エドワードのもジャンの腹に当たっている。
肌が密着している部分が、やたらと熱を持っているようで、収まるどころかどんどんコントロールが効かなくなって行きそうな予感がした。
「あ、あのさ少尉」
「な、何だ?」
「少尉って、女好きなんだよな?」
地雷になりそうな質問を単刀直入に口にしたエドワードに、どこかうろたえながら、ジャンも返答を返す。
「お、おう。まぁ、女としか付き合ったことは無い」
「じゃ、その、オレとキスしたりして、気持ち悪かったんじゃないのか・・・・・・?」
エドワードは迷わず地雷原に突っ込んだ。その話題は、今突き詰めてしまうのは非常にまずい。
「・・・・・・嫌だったらしねぇよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「何で」
「それ以上突っ込まないでくれ!!」
言いかけた言葉を遮ったジャンに、エドワードがむっとする。
「何だよ!! んなに嫌なら最初からき、キスなんかやらなきゃ良かっただろ!!」
「そういうことじゃねぇんだよ!! ・・・・・・大体嫌だなんて思ってないのは、お前だって分かってるだろうが!!」
腰を掴んで思いっきり下半身を密着させてやれば、エドワードは目を見開いて身を竦めた。
「ほら、分かったか。分かったらそれ以上追求すんな」
怖がって引くかと思いきや、エドワードは赤い顔でジャンを睨みつけてくる。
「いいや、オレは追求するね」
「は?」
「分からないモンを分からないままにしておくのは性に合わねぇ。中途半端は嫌いだ」
エドワードらしいといえばらしい言葉に、ジャンは呆れ半分で苦笑する。
「お前、何が入ってるか分からない箱が目の前にあったら、とりあえず開けるタイプだろ」
「ソレの何が悪い」
「世の中には、知らないほうがいいことってのもあるもんだぜ?」
「開けた箱が例えパンドラの箱でも、オレは後悔なんかしない。知ることを恐れる人間には道は開けないんだからな」
迷いなく真っ直ぐに見つめてくるエドワードの瞳に、どうにも勝てる気がしなくて、ジャンは両手を挙げた。
「わーかったよ。んで、何を聞きたいんだよ」
「その・・・・・・何で、・・・・・・キス、したんだ?」
エドワードは、僅かな嘘も見逃すまいとしているかのように、真剣にジャンの瞳を覗き込んでいる。
・・・・・・ずっと、気づかないふりをしていたのかもしれない。
無意識のうちに、この感情を認めてはいけないのだと、蓋をしていた気がする。
「・・・・・・お前が、好きなんだ・・・・・・」
エドワードにやたらと構っていたのも、遠方に旅立てばいつも心配していたのも、全て。
真っ直ぐなエドワードに惹かれていたから。
「オレも・・・オレも、少尉のこと好きみたいだ」
開いてしまった蓋はもう閉じれない。
困ったように微笑んだエドワードを、ジャンは強く抱きしめた。




エロまで行くとか宣言しておいて申し訳ありませんが寸止めです。
思ったよりただいちゃいちゃしてる時間が長くなってしまって・・・(笑)
続きはまぁ、1ヵ月後くらいに。

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