エルリック兄弟が士官学校へ通い始めて1週間が過ぎようかと言う頃、ジャンはアルフォンスにエドワードの発言について相談した。
「・・・兄さん、そんなこと言ってたんですか」
「ああ。お前から説得できねぇか?」
ジャンの言葉に、アルフォンスはかぶりを振る。
「無理ですよ。そうなっちゃったら、兄さんはボクの言うことでも聞いてくれませんよ。兄さん自身が、その手段が正しいかどうか自信が無い状態だったら兎も角、多分兄さんはその手段が正しいって決めてるでしょう?」
「・・・だろうな」
「それなら・・・多分、兄さんの目的通り、早くこの件を片付けるのが一番じゃないかと思います。それさえ片付いてしまえば、兄さんだってわざわざ嫌われるようなことしなくて済むでしょうし」
アルフォンスの言い分は尤もだ。それは分かってはいるが、納得できるかといわれればそれでもやっぱり、エドワードにはそんなことさせたくない、としかジャンには言えなかった。
「はぁ〜あ。でもなぁ。分かってはいるんだよ分かってはさ。でもこう・・・なんでアイツはもっと自分を大事にしてくんねーのかなー・・・」
大きな溜息をついて、ソファの背もたれに思い切り寄りかかると、アルフォンスが面白そうに笑った。
「ハボック少尉って、本当に兄さんを愛してるんですね」
「んなっ、なんだよ突然!?」
「だって、普通ならその相談はボク本人にはしないですよ?マスタング准将とかに言うならともかく・・・。だから、何よりも兄さんが最優先なんだなぁ、って思って」
クスクス笑っているアルフォンスに、ジャンは頬が火照るのを感じた。全く、10歳以上も年下のやつにからかわれるとは。
「そっ、その、煙草吸っていいか!?」
「どうぞ」
照れ隠しに煙草を咥えて見るが、それが照れ隠しなのもどうも見抜かれているような気がした。
「ああ、そう言えば学校に居る間は煙草はどうしてるんですか?教官用の喫煙室とかに行くと護衛にならないですよね」
「ああ、そこらへんはまぁ長年のカンつーか・・・」
「はい?」
ライターで煙草に灯を点し、ジャンはジャンは一口目の煙を大きく吐き出す。
「俺は仕官学校生の頃から吸ってたからな。通ってたのはイーストシティの士官学校だけど、ああいう場所で隠れて煙草吸える場所ってのは大体決まってるんだよ」
「士官学校の頃からって・・・未成年じゃないですか」
「そーだよ。だから隠れて吸ってたの。あれだな、いつの時代でもああやって隠れて煙草吸うヤツは居なくならないよな〜。非常階段に行ったら煙草吸ってた連中が慌てて隠そうとしてさ。別にチクる気無いから火貸してくれ、って言ったら少し安心したみたいでな。それからは一緒に吸ってるよ」
ジャンの言葉にアルフォンスが少し眉を顰めて首をかしげた。
「未成年の喫煙は法律違反ですよ。そういう人たちがテロリストに加担している可能性もあるんじゃないですか?」
「いやぁ、それはねぇと思うけど」
「どうしてですか?」
そこで、来客を知らせる玄関のベルが鳴った。
「あっ、来たみたいですね。はーい!!」
アルフォンスがぱたぱたと玄関に走っていく。テロリストの内部調査は、誰に聞かれるか分からないため軍の中では報告できない。そのため、ロイたちがエルリック邸を訪れ、そこで報告と検討を行うことになっているのだ。
「遅かったッスね・・・ってあれ、雪降ってるんスか?」
リビングに入ってきたロイの肩に雪が積もっている。
「暢気なやつだな。1時間程前から降り出した大雪で、外は大変なことになっているぞ」
ロイに続いて入ってきたブレダが、身体に積もった雪を払いながら暖炉の前でうずくまった。リザは濡れたコートを脱いでアルフォンスに手渡している。
「あれ?でも、車で来たんですよね?どうしてこんなに濡れてるんですか?」
「それが、この辺りって丘の上にあるでしょう?車が雪で滑ってしまって坂を登れなくて、坂の下に車を置いてここまで歩いてきたのよ」
「ああ、それじゃ大変でしたね。車が通れないほどの雪道を・・・坂の下からだと、ここまで1kmくらいはあるでしょう?」
「全くだ。もっと軍に近い家に住めばいいものを・・・そう言えば鋼のはどうした?」
「中々准将たちが来ないんで、今風呂入ってますよ」
そう言っている傍からエドワードがやってきた。
「よぉ、遅かったな」
「兄さん、外大雪だってよ」
「ああ、風呂の窓から雪見てたから知ってる。ハボック少尉、暖炉の薪足してやって」
暖炉の前に座り込んでいたブレダが振り返る。
「それよりよぉ、何か食いモンねぇか?」
「何、晩飯食ってねぇのか?もう9時半だぜ?」
「少し仕事が立て込んでね。途中で何か買おうかと思ったんだが、この雪でどこの店も早仕舞いしてしまってたんだ」
ロイの言葉にエドワードが冷たい視線を向けた。
「アンタが仕事が立て込むのは、普段から真面目にやってないせいだろうが。そのツケをホークアイ大尉やブレダ少尉にまで回すんじゃねーよ」
「残り物でよければ用意できますよ。3人分でいいんですよね?」
「ごめんなさいね、アルフォンス君。お願いできるかしら」
「・・・残り物?」
次々と目の前に並べられる湯気を立てた料理に、ふとブレダが漏らした言葉に、ジャンは苦笑した。言いたいことは良く分かる。
ほうれん草のキッシュ、ローストビーフにサーモンのマリネ、バゲット3種類。それに温められたミネストローネは湯気を立てている。そこにアルフォンスがポテトサラダとバターとジャムを持って現れた。
「これくらいで足りますか?」
「いや、十分だけどね・・・」
ロイも少し目を見開いている。
アルフォンスの料理は品数が多いのだ。豪華、とも言う。
「足りなかったらまだありますからね」
そう言ったアルフォンスの口調が、アレも食えこれも食えと食べ物を出してくる、田舎の祖母の声と重なった気がしたのは気のせいだろうか。
「ハボック、お前いつも鋼のたちと一緒に食事をしていると言っていたな・・・?いつもこうなのか?」
「そっスよ」
「ハボ、てめぇ・・・いつもこんな飯独り占めしてやがったのか・・・」
「独り占めってな・・・そら立場上っつーか・・・」
「エドの副官譲れ!」
「ふざけんな!断る!!」
食物のこととなるとブレダは目の色が変わる。
「アルフォンス君、私より料理が上手なんじゃないかしら・・・」
リザはリザで違う意味で思うところがあったらしい。
「あ、冷めないうちにどうぞー?」
「あ、ああ。そう言えば鋼のはどこに行った?」
「お風呂に行く前にオーブンに入れていったパイの様子を見に行ってます」
「・・・エドワード君も料理できるの?」
テーブルに料理を並べ終わったアルフォンスが椅子に腰を下ろした。
「はい。甘いものを作らせたら、ボクより上手ですよ」
「・・・見た目さえ、除けばな」
ジャンの突っ込みにアルフォンスが苦笑する。
「アレ、作るの難しいから逆に技術としては高いはずなんですけどねぇ」
そこにエドワードがパイを持って現れた。
こんがり焼けたパンプキンパイの上には、見事なドクロマークが描かれている。
「大将、だからよ〜・・・食いモンの上にこういう絵を描くなってば!」
「何でだよ。オレの勝手だろ」
「兄さんは、コレさえなければ本当に料理上手なのにねぇ・・・」
「アル、紅茶」
「3人がご飯食べ終わるまで待ちなよ。デザートでいいでしょ」
エドワードはちぇっと言いながらテーブルにパイを置いた。
「何止まってるんだ?早く飯食っちまえよ」
「あ、ああ。ではいただくよ」
止まっていたロイとは対照的に、既にブレダはガツガツと食べ始めている。
「チクショウ、ハボてめぇ・・・!クソッ、美味いじゃねぇかこのやろう!」
「ぶつぶつ言いながら食うなよブレダ!」
「・・・飯食いながらの打ち合わせ、無理そうだなぁ」
苦笑したエドワードが立ち上がって窓へ向かい、僅かにカーテンを避けて外を見た。
「兄さん、雪強い?」
「ああ、まだ止みそうにないな。・・・つーかコレ、帰れないんじゃねぇ?」
ジャンも窓に歩み寄り、エドワードの上から外を見る。
「一応俺の使ってる車は冬用タイヤなんだけどな」
「無理よ。私のも冬タイヤだったけれど、坂を上れなかったもの。朝になって日が昇ればどうにかなるかもしれないけれど」
「んじゃ、全員泊まりだな。・・・ってウチ、ゲストルーム3つしかねーやどうしよう」
はっとしたエドワードにアルフォンスがしれっと答えた。
「何言ってるの、ハボック少尉は兄さんの部屋で寝るんじゃないの?そしたら3つでいいじゃないか」
「「んなっ」」
アルフォンスの言葉にエドワードとジャンはハモって固まる。
「なななな何言ってるんだよアル!?そ、そんなわけねーじゃん?!」
「そ、そうだ大将、お前アルと一緒に寝ろよ!そんで俺が大将の部屋使うから!!」
「そっ、そうだよな、それがいい!」
「えー!?ヤだよ兄さん寝相悪いんだから!大丈夫だよ別に部屋覗きに行ったりしないし、ごゆっくり」
「「違ーーーう!!」」
思い切りうろたえるじゃんとエドワードに、二人を除く全員が不審の表情を浮かべた。
「お前たち、そこまでうろたえるようなことか・・・?付き合い始めてもう5ヶ月にもなるだろうが」
「うっせぇな!!いいからさっさと飯食えよ、いつまでも打ち合わせ出来ないだろっ!!」
真っ赤になったエドワードがロイを怒鳴ると、ロイは肩を竦めてフォークを動かし始めた。
食事の後片付けも終わり、切り分けたパンプキンパイと紅茶が全員にいきわたったところでロイは指を組んだ。
「さて、では報告を聞かせてもらおうか」
「うぉぉぉ・・・パイも美味ぇぇぇぇ・・・」
「おい、ブレダ」
ブレダは最早料理の虜になっている。
「っと、スンマセン。続きどうぞ」
「まったく。それで鋼の、状況は?」
「今のところコレだ、って手がかりはねぇな。つってもオレはまだ3回しか行ってないからなんとも言えないけどな」
ふと顎に手を当てていたエドワードが、視線に気がついてアルフォンスへ目を向けた。
「アル、何見てるんだよ」
「えっ。あ、いやぁ・・・兄さんも軍人らしくなったなぁ、って思って・・・」
「何言ってんだお前」
少し困ったような微苦笑を浮かべたエドワードに、ロイが茶々を入れた。
「准将の私にこういう態度を取る辺り、さっぱり軍人らしくなって居ないぞ、君の兄は」
「なんなら敬語使いましょうか?マスタング准将殿?」
「いらん。気色悪い」
「何だよ!!」
ムッとしたエドワードの頭を、横に座っていたジャンが笑って撫でる。
「まぁ、それはいい。さてアルフォンス、君は鋼のと違って一週間きっちり通ったわけだが、何か掴めたかな?」
「あ、えっと・・・特に大きな情報は無いんですけど」
「けど?」
「テロリストのこととは何も関係ないかも知れませんけど、不思議に思ったことがあるんです」
「今はどんな情報でも構わないんだ。情報を集めている段階だからね。何でもいいから、言ってみなさい」
ロイに促され、アルフォンスは考え考え口を開いた。
「その・・・なんだか、皆詳しいなって」
「詳しい?何にだ?」
「軍の内情に、です。士官学校は確かに一応軍の施設ですけど、半年前に一度に大勢の仕官が処分されたから今人手が足りないとか、派閥抗争が激しくなってるとか、・・・どこの派閥は今落ち目だとか?そんなことまで知ってるのって、おかしくないですか?」
アルフォンスの言葉にリザが口に手を当てる。
「内容としては、軍の・・・セントラルに勤務するものならば、誰でも知っていておかしくないようなレベルのものみたいだけれど・・・」
「しかし、アルフォンスの言うとおり士官学校生まで知っているというのはおかしいな。教官が知っているというならば分かる、同期の軍人と話をすることでもあればそんな話にもなるだろう。だがそれを生徒にわざわざ教官が伝えるというのは妙だ」
エドワードがブレダに視線を向けた。
「ブレダ少尉、校内でそう言う話をした教官に心当たりは?」
ブレダはパイ2切れ目にかぶりつこうとしていた手を一瞬だけ止めて返答する。
「ねぇよ!」
「は?」
「俺ぁ学校ではんな話はしねぇよ!大体大勢処分されたとかの話は、准将の下に居た連中は全員中心人物だろうが!俺がそんな話そこらでぺらぺら話すわけねぇだろう!」
二口でパイを1切れ食べてしまったブレダから少し視線を外し、エドワードが考え込んだ。
「・・・まぁ、情報の内容を検討するのは一通り報告が終わってからでいい。次、ハボック!お前はどうだ?」
ロイに指名されたジャンが目を丸くする。
「へ?!俺もッスか?!」
「当たり前だ!まさかお前、学校でただぼーっと突っ立っていただけとは言わないだろうな」
「ええ〜・・・」
困ったようにバリバリと頭を掻いたジャンに、アルフォンスが口を挟んだ。
「ハボック少尉、そう言えばさっき、煙草を吸ってた生徒はテロリストには加担してないって言ってましたよね?あれは、どうしてそう思ったんですか?」
「ああ、そりゃ・・・俺と一緒に煙草を吸ったから、かな・・・」
ロイが眉を顰める。
「何だそれは。ハボックお前、一緒に煙草を吸う人間は全員善人だなんて言うんじゃないだろうな」
「いや、そうじゃねッス。えーと、ほら、洒落になんない悪いことをするようなヤツってのは、こう隠すのが上手いじゃないスか?ほらブレダ、俺達の同期でエリートだったのに軍の金に手をつけてクビんなったヤツが居ただろ?」
「ああ、居たなそういやそんな奴も」
「アイツも士官学校の頃から煙草吸ってたんだけど、アイツは教官に煙草見つかったことねーんだよ」
ブレダが3切れ目のパイに手を伸ばしながらジャンを見た。
「アイツ煙草なんか吸ってたのか?俺も知らんぞそれ」
「だから、あの頃から煙草吸ってる奴しか知らないんだって。教官どころか、他の煙草吸わない生徒にも全部しっかり隠し通してやがったんだ」
ロイが合点が言った体で腕を組む。
「ふむ。つまりハボック、煙草のひとつ上手く隠せないような人間が、隠れてテロリストへ加担するのは無理だと、そういう事か」
「あ、そうです。そう言うことッス」
「まぁ、見当はずれな理屈ではないな。と言うことはハボックが見た人間は調査対象から外していい。何人くらいいる?」
「や、せいぜい10人くらいッスよ」
「まぁそれでも調査が進展したことには変わらん。後で生徒名簿をチェックしておけ」
「うす」
ずっと考え込んでいた様子だったエドワードが口を開いた。
「ブレダ少尉、他の教官と軍の内情について話したこと無いって言ったよな」
「おう」
「他の教官からその話題を振られたことは?」
「・・・それもねぇな」
エドワードが顔を上げてアルフォンスを見る。
「アル、お前が聞いた内情ってのは、ただの『情報』、軍に対して好意的な『意見』、悪意を持った『批判』のうちのどれだった?」
アルフォンスはふと考え込んた。
「悪意をもった『批判』だね。全てに悪口が含まれてたと思う」
エドワードが今度はロイを見ると、ロイが頷く。
「君が中将から得た情報は、『士官学校にテロリストに繋がる者が潜んでいる可能性が高い』と言う話だったが、実際繋がっていると言う確証は取れたと言う事だな」
「ああ。仮に教官の誰かが軍の内情を軍の知人から得たとしても、その内容を同じく教官をやってるブレダ少尉に全く話さず確認もせず、先に生徒に流すのはおかしい。コレほどまでの噂になるってことは、元々広めるつもりで情報を流してるってことだろ。入学して1週間のアルの耳にまで入るほど、生徒の間じゃ当たり前の噂になってるんだ」
「それも悪意を持った噂ばかりときている。それを聞いてテロに身を投じるものがでても良し、そこまで行かなかったものも入隊してからのモチベーションは確実に下がる。モチベーションの低い軍人相手ならばテロを行うのも容易・・・全く持って手の込んだ話だな」
「ベストな解決方法は、その噂を知ってる生徒全員の前に、黒幕を引きずり出して真相を日の本に出す、それ以外に無いな。そのためにも調査は今後も慎重に継続・・・で、いいよな准将?」
「ああ、君に任せる」
打ち合わせが終わり、ロイ、リザ、ブレダの3名も入浴を終えた後、アルフォンスがにっこり笑って言った。
「マスタング准将、ホークアイ大尉、ブレダ少尉、ゲストルームはこっちです。じゃ、兄さん、ハボック少尉、お休みなさい」
「いや、ちょっと待てってアル!!オレだからお前の部屋で」
「お休みなさい、兄さん」
「だから、あの」
「お・や・す・み・な・さ・い」
「お、お休みなさい・・・」
エドワードはあっさりアルフォンスに敗北した。
「や、あの俺リビングのソファで寝るから・・・」
「駄目です、ハボック少尉。リビングは冷えますから風邪引きますよ」
「いや、じゃあそれならブレダと同じ部屋に床に布団引いて」
「駄目です」
「いや、けど」
「だ・め・で・す」
「はい・・・」
ジャンもアルフォンスに勝てなかった。
エルリック邸に置いて、強弱関係を決めるのは誰が金を払っているかとか、年齢とか、体格などではないのである。
弱者であったエドワードとジャンは、そんなわけでエドワードの部屋のベッドに背を向け合って座っているのだった。
「た、大将、俺床で寝るから気にすんなよ!」
「な、何言ってんだよそれじゃ風邪引くだろ?!」
「や、でもあの、大将困ってるだろ・・・?」
言葉にして、ふとジャンは以前出先で一緒のベッドに入ったときのことを思い出した。
あの時は、エドワードはジャンと一緒のベッドに入ることに何の抵抗も示していなかったはずだ。そういうことを全く意識していないように見えた。
だが今、エドワードは明らかにジャンを意識している。
と、いうことは。エドワードの中に、そういう意識が出来始めていると言う事だ。
エドワードを振り返ると、普段はひとつに結わえられているしなやかな髪が、肩をさらりと滑るのが見えた。
「大将・・・」
次の瞬間。
「ぐえっ」
「ぎゃっ」
「アダッ」
ドアの向こうから連続した3つの打撃音と、3者3様の悲鳴が聞こえた。
「な、何だぁ?!」
エドワードがドアを開くと、そこには頭を押さえてうずくまるロイとブレダとアルフォンス、そしてその後ろに短銃を持って立っているリザが居た。
「ボ、ボクまで殴られた・・・」
「当たり前よ、アルフォンス君。いくら兄弟とは言え、出歯亀は感心しないわ」
どうやら銃のグリップ部分で殴られたらしい。
「ホ、ホークアイ大尉、少しくらい手加減してくれないかね・・・」
「准将ともあろう人が、みっともない真似をしているからです!3人ともさっさと自分の部屋に戻りなさい!!」
リザに叱られた3人が、すごすごと自分の寝室に撤退していく。
「騒がせたわね、二人とも。それじゃお休みなさい」
「お、お休みなさい」
「お休みなさい・・・」
颯爽と立ち去るリザを呆然と見送った後、エドワードははっとして顔を顰めた。
「ホークアイ大尉の迫力に押されて、怒るの忘れた・・・」
「アッハッハ!」
本日のエルリック邸での最強は、アルフォンスではなくリザだったようだ。
「明日の朝怒ればいいだろ。大尉はこっちの味方だ、思いっきり怒っちまえ」
「だな。・・・ヘクシッ」
廊下の冷えた空気に身を震わせ、エドワードがくしゃみをする。
「ああ、ほら。風邪引くぞ」
エドワードの肩を抱き寄せてジャンがドアを閉めると、エドワードは僅かに身を竦ませた。
「・・・何もしねーよ。こうすると、暖かいだろ?」
優しく抱きしめると、エドワードもおずおずとジャンの背に手を回した。
「ああ。暖かい、な・・・」
今夏真っ盛りだというのに、作中が真冬です(笑)。
どうしようかと思ったんですが、エドの誕生日は冬だって話だから、誕生日ネタをやってしまった以上仕方が無いかと・・・
それは兎も角、ウチのサイトではアル様になることは殆ど無いので、ちょっと今回後半アル書いてて楽しかったです。
続きます。
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06/07/30 脱稿