鳥の鳴き声にエドワードが目を開けると、ジャンの腕の中だった。
昨夜はあのまま、ジャンに抱きしめられて眠ったのだ。
首だけをめぐらせてベッドサイドの置時計を見れば、そろそろ起きて火を熾さなくてはならない時間だった。
だが、頬に触れる空気は冷たく、抱きすくめてくる温もりを振りほどいてベッドを出るのはどうにも惜しい気がした。
ジャンはまだ眠っている。
エドワードはジャンの首筋に顔をうずめた。
「少尉・・・ジャン」
「ん・・・?」
ジャンの意識が僅かに浮上する。エドワードは少し伸び上がって、ジャンの唇に自分のそれを触れさせた。
「おはよう、少尉」
「エ・・・ド・・・?」
うっすらと空色の瞳が金色の睫の下に現れる。けれど、普段は滅多に呼ばない名前でエドワードを呼んだあたり、まだ寝ぼけているようだった。
その寝ぼけ眼に、エドワードのイタズラ心がむくむくと顔を出す。
「お早うのキス、な」
もう一度ジャンの唇に音を立ててキスを落とすと、ジャンはぼんやりと目を瞬かせた。
本当に寝ぼけてるなぁ、とエドワードは笑いをかみ殺す。
と、突然腕をつかまれ、ジャンの上に乗りあがっていたはずの身体を一気に入れ替えられて組み敷かれた。
「うわ!な、何!?んむっ」
「ん〜」
覆いかぶさるように唇が唇で塞がれる。抵抗する間も無く舌が侵入してきた。
「んっ、んん・・・」
起きぬけでいつもより温度が低く感じる舌が、それとは逆にいつもよりも激しく動き回りエドワードを翻弄する。
「んふ、あ・・・。しょ、少尉?寝ぼけてるのか?」
「ん〜・・・エド・・・」
ジャンはまともな返事を返さないまま、唇をエドワードの首筋へと移動させた。べろりと舐められた感触の後、首にちくりと小さな痛みを感じる。
これまで、イタズラのように軽くちょっかいをかけてくることはあっても、ジャンは本気でエドワードにこういう触れ方をしたことは無かった。
淡白な方なんだろうか、とさえ思っていたのに、正気じゃないときの方が積極的だなんて、一体どういうことなのか。
エドワードが戸惑っている間にも、ジャンの手がエドワードのパジャマをたくし上げる。
「ちょ、ちょっと・・・」
慌ててジャンを押しのけようとしたエドワードの手をジャンが手首を掴んで押さえ込み、胸の飾りに吸い付いた。
「ぁんっ!や、やぁっ・・・」
その瞬間に腰の辺りに電流のような快感が走りぬけ、堪らず身をよじる。ジャンは半分力の抜けてしまったエドワードの左手を離し、その手でもう片方の胸の飾りをつまみ上げた。
「あぁっ!!」
ジャンはエドワードの右胸に吸い付きながら、右手でもう片方の胸の飾りを摘んだり押しつぶしたりを繰り返す。
「アッ、や、アアッ!やめっ・・・」
どうにか止めさせようと力の入らない手でジャンの手を掴んでみても、押しのけるほどの力が入らない。
上がる声を抑えようと、エドワードは自由な左手で自分の口を塞いだ。
「・・・っ、・・!!」
ちう、と音を立てて吸い付きながら、舌を尖らせて先端を転がされて堪らず背をしならせる。
と、ふとジャンが胸から唇を離した。
「・・・なんか、やたらと感触がリアルな夢だなぁ・・・」
そうは言いながらも、手の方は動きを止めていない。エドワードは唇を噛んで必死で与えられる感覚に耐えた。
「あ・・・れ・・・?」
ぼんやりとしていたジャンの瞳が、エドワードの顔を見て次第に生気を宿し始める。
「大将・・・?」
「い・・・っ、いつまでっ・・・触、てんだっ・・・」
「へ・・・?」
ようやく目を覚ましたらしいジャンの意思とはまるで無関係であるかのように、ジャンの手はまだエドワードの胸の飾りを弄繰り回していた。
その手に視線を落としたジャンが、顔だけフリーズする。
数秒そのまま弄くっていたジャンが、唐突に後ろに跳び退った。
「うわぁあああああああああ!?」
「ば、バカ少尉・・・」
たくし上げられたパジャマのすそを降ろしても、吸い付かれ弄くられた胸の飾りはまだ疼きを訴えている。
「い、いやあのっ、ごっゴメン!ほんっっっとゴメン、済まない、悪かった!俺寝ぼけてっ・・・!!!」
ジャンはベッドの上に正座して、ぺこぺこと土下座を繰り返した。
「ごめん、スンマセン、俺てっきりいつもの夢だとばっかっ・・・」
「・・・いつもの?」
「へ?」
「今『いつもの夢』っつったか?こんな夢いつも見てるのか?」
ジャンがしまったという顔をして視線を逸らす。
「あ、いや、その・・・」
「正直に言え!!」
「す、スンマセン結構しょっちゅう見ます!!」
頭をベッドにこすり付けたジャンに、エドワードは目を丸くした。
正直に言えとは言ったものの、本当に正直に言うとは思っていなかった。
しょぼくれているジャンは、10歳も年上だというのにまるで尻尾が垂れてしまっている大型犬のようで、つい『可愛いなぁ』なんて思ってしまう。
「・・・しょーじきに言ったから、さっきのことは許してやる」
「え?」
本当は許すも何も、そんな寝ぼけ方をさせたきっかけはエドワードのイタズラだったのだが。それは教えるつもりはない。
エドワードはカーディガンを取って肩に引っ掛けた。
「んじゃオレ、リビングとキッチンの火を熾しておかなきゃなんないから」
「あ、え、大将?!」
ベッドから立ち上がり、それからくるりと振り返る。
エドワードは一瞬だけジャンの唇に自分の唇を押し当てて、部屋を飛び出した。
「っ!!」
ジャンは暫し目を丸くして硬直し、エドワードの背を見送る。
「うわぁ・・・」
ジャンは指の腹で自分の唇に触れた。
与えられたキスの感触も、寝ぼけたとは言え吸い付いた胸の突起の感触も、はっきりと唇に残っている。
いつもならば目を覚ますなり朝の一服を吸うのだが、今日はその感触を煙草で上書きしてしまうのがもったいない気がして、ジャンは煙草に手を伸ばさなかった。
「ったく!!いいかアル!准将はなぁ、駄目な大人の典型なんだよ!こういう奴に影響されるな!!」
朝食を終え、リビングでアルフォンスに説教するエドワードに、引き合いに出されたロイがムッとして顔を顰めた。
「いくらなんでも失礼だと思わないのかね、鋼の」
「何か言ったか変態覗き魔准将」
「エドワード君の言う通りです」
エドワードとリザに揃って冷たい視線を向けられ、ロイは押し黙る。
「准将みたいな駄目な大人を見本にするな!どうせ見本にするならホークアイ大尉にしておけ!」
「ごめんなさい・・・」
「鋼の、大体昨夜私が率先して行動したという証拠がどこにある?私に影響されたわけではなくアルフォンスが自分の意志で行動したのかもしれないじゃないか」
ロイの言葉に、大人しくエドワードの説教を受けていたアルフォンスは目を剥いた。
「えええええええ!!ボク最初覗きに行くぞって言いだした准将を止めたじゃないですか!!」
「あっ、コラばらすんじゃない!」
「やっぱりアンタなんじゃじゃねーかっ!!」
ロイを怒鳴ったエドワードの横で、リザがアルフォンスに視線を合わせた。
「それでも最終的に一緒になってドアに張り付いていては、五十歩百歩というものよ」
「はい・・・」
集中砲火で叱られているのはアルフォンスなのだが、やり玉に挙げられているのはロイだ。ロイは知らん顔をして新聞を読んでいるブレダに視線を向ける。
「おいブレダ、お前も何とか言え」
「俺ぁ大尉と鋼の大将のタッグに逆らうほど馬鹿じゃないんで」
「チッ、裏切り者め」
「ホントブレダ少尉の言う通りですよ。口車に乗るんじゃなかった・・・」
アルフォンスがばたりとテーブルの上に突っ伏した。
「兄さ〜ん、反省してるからお小遣い半減は勘弁してよ〜」
「ダ・メ・だ!」
「だってこの金額じゃ毎日お昼食べるだけで全部なくなっちゃうよ!?他何も買えないよ!」
「自分が悪いんだから、1ヶ月くらい我慢しろ!」
「そんなぁ〜〜〜・・・。ゴメンってば〜〜〜〜」
アルフォンスがエドワードに抱きついて頭を摺り寄せる。
そこにジャンがコートの雪を払いながらリビングに入ってきた。
「家の前は大体雪かき終わったッス。車動かせそうなんで、昨日車を降りたところまで准将たち送りますよ」
「坂道は大丈夫そうですか?」
エドワードに背中から抱きついたままでアルフォンスが顔を上げる。
「ああ、何台か車が通った跡もあったし、スピード出さなければ大丈夫だろ。准将たち送ってから戻ってくっから、大将とアルはちょっと待っててくれな」
「はーい。・・・アレ?」
ふと、アルフォンスがエドワードの首筋に視線を落とした。
「何だよ?」
「兄さん、ここ赤くなってるよ?冬なのに虫刺され?」
アルフォンスが、エドワードの首の一点を指先でちょんとつつく。
その瞬間、まさに部屋の空気が凍った。
「・・・・・・う、わぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
エドワードがアルフォンスを振りほどいて走り去る。
「えっ!?に、兄さん!?」
戸惑っているアルフォンスを尻目に、正確に意味を理解したロイとリザとブレダはジャンに視線を向けた。
ジャンはそっぽを向いて頭を掻いている。
「ボ、ボク何か変なこと言ったかな・・・?」
「・・・いや」
ロイが苦笑した。
「君は間違ったことは言っていないよ。虫に食われたんだろう。・・・ただし、195cmの虫だったようだが」
「え?」
「准将、アルに余計なこと教えないで下さい!!ほら、アンタがたをさっさと送って戻ってこないと大将たちが遅刻しちまうんですから!行きますよ!!」
ジャンが話題を無理矢理切るようにロイをリビングから連れ出す。
大人たちが出て行くのを見送ったあと、アルフォンスはキッチンに逃げていったエドワードの元へ向かった。
「兄さ〜ん?」
「言うな。何も言うな何も訊くな」
「兄さんを食べた195cmの虫って、ハボック少尉だよね?」
その瞬間、エドワードがガクッと脱力する。
「誰だそんなアホなこと言ったのは!!」
「マスタング准将」
「あんのクソ准将〜〜〜!!」
額を押さえて歯軋りしたエドワードに、アルフォンスは首をかしげた。
「否定はしないんだ。いつ?昨日の夜あの後食べられちゃったの?」
「ち、違う!!食われてない!!」
「だって動かぬ証拠が兄さんの首筋に残ってるよ?」
「い、いや、こここれはだな、今朝少尉が寝ぼけてやったわけで、別にそう言う・・・」
「寝ぼけてそんなことしちゃうくらい仲良しさんなんだー。ふーん・・・」
「っだーーーーーもう!!ぐだぐだ言ってると弁当作ってやらねぇぞ!!折角サンドイッチでも持たせてやるかと思ってたのに!!」
「えっ?え、何で?」
よくよく見れば、エドワードの手元にはライ麦のパンとレタスなどの具材が並んでいる。
「小遣いがないって言って食事減らしたりとかして、体調崩したら元も子もねぇだろうが・・・」
手際よくローストチキンのサンドイッチを作り、エドワードはランチバスケットにつめてアルフォンスに差し出した。
「ほれ!持ってけ!」
「えへ。兄さん大好き」
「こういう時ばっかり調子いい・・・」
「本当だよ?!・・・ボク、兄さんとハボック少尉が仲が良すぎるとか、兄さんを取られるとか心配しなくていいんだよね?」
「・・・お前、まだそれ言ってたのか」
エドワードが呆れたような視線をアルフォンスに向ける。
「あ、でもね、二人が付き合ってるのが嫌だとか、そう言うことじゃなくてね?何ていうか、思ってたよりその、普通のカップルしてるんだって思ったらちょっと不安になったっていうか・・・」
「普通のカップルしてる、ってどういう意味だよ・・・」
ジト目でエドワードに睨まれて、アルフォンスはへへ、と頭を掻いた。
「大体昨日だってオレの部屋に少尉を寝かせようとしたのはお前だろうが?何を今更」
「そ、その。そういうコトをはっきり見ちゃえば、そう言うものなんだって踏ん切りがつくかなっていうか・・・」
「アホか」
溜息とともに苦笑を漏らしたエドワードが、アルフォンスを抱き寄せる。
「オレがお前を捨てるなんて、本気で言ってたら怒るぞ」
「・・・ごめんなさい」
アルフォンスもエドワードの背に手を廻すと、のほほんとした声が振ってきた。
「ホント仲がいい兄弟だよなぁ。妬いちまうぞ」
「あ、少尉」
キッチンの扉のところで、ジャンが煙草を咥えたまま笑っている。
「妬くって何だよ、アルに妬く意味が無いだろうが」
「そうですよ、兄さんにマーキングまでしておいてずるいですよ」
「は?!」
アルフォンスの言葉にエドワードが目を丸くした。だがジャンは笑って言葉を返す。
「マーキングでもしておかないと、弟にやっぱり返せって取り上げられそうだしなぁ」
「少尉も何言ってるんだよ!?」
「マーキングしてたって取り返したくなったら取り返しますよ」
「おい、アル!?」
アルフォンスがエドワードを抱きしめる腕に力を込めると、ジャンは笑って歩み寄ってきた。
「だぁめ。渡さねぇ」
ジャンもエドワードに抱きつこうとする。アルフォンスはそれを妨害した。
「痛っ、いてぇ!!」
真ん中に居るエドワードが悲鳴を上げる。
「二人ともいい加減にしろーーーーーっ!!」
真っ白に染まった道を通り、校門前に車をつけると、士官学校の敷地も大変なことになっていた。
いつも車を停めている駐車場は雪かきをしなければ車を停められそうにない。
「こりゃあ、今日授業ねぇかもなぁ・・・」
「え?何でだよ?」
ぼやいたジャンをエドワードが振り仰ぐ。
「ほれ、何か災害とか起きたときは、士官学校生も動員されて復旧に当たるだろ?災害とまでは行かなくても、交通機関は殆ど麻痺してたし、今日は一日雪かきだぜ」
「うへ・・・んじゃオレ真っ直ぐ軍に行こうかな・・・」
「同じ同じ。軍に行った所で結局街中の雪かきだ」
「げーーー」
顔を顰めたエドワードに、背後から声がかかった。
「よう、エド!相変わらず小さいんだな」
「誰が成長の兆しが見られないドチ・・・ッラッセル!?」
いつものように怒鳴り返そうとしたエドワードは、振り返って目を見開いた。見知った顔が、涼しい笑顔を浮かべて片手を上げている。
「うわ、何だよお前、何でこんな所に居るんだ!?つーか何軍服着てるんだよ似合わねぇ!!」
士官学校生用の軍服に身を包んだラッセルに、エドワードが駆け寄った。その背を見送り、ジャンはアルフォンスに顔を寄せる。
「・・・誰?」
「昔、旅してた頃に知り合った人なんですけど。ゼノタイムの錬金術師で、ラッセル・トリンガムって人です。確かボクと同じ歳だったかな・・・」
「士官学校に入ったんだよ。大体軍服が似合ってないのはそっちだろ、子どもが着てるみたいだ」
「なんだとぉ!?テメェこそ仕官学校生どころかよく教官にでも間違えられるんじゃねーのか!?」
感動の再会どころか、以前と同じようにケンカを始めそうになった二人に溜息を吐いて、アルフォンスが歩み寄った。
「兄さん!折角久しぶりに会ったんだから、いきなりケンカ始めないでよ!」
その姿を見たラッセルが少し目を見開く。
「誰?」
「何言ってんだよ、アルだよ」
「アルフォンス?!けどお前・・・縮んでないか・・・?」
「「あ」」
ラッセルの言葉に兄弟は顔を見合わせた。ラッセルと前回会ったときは、アルフォンスはまだ2mを超える身長の鎧の姿だったのだ。今のアルフォンスは、背は伸びているとは言え、170cmしかない。
「あ、あはははは!!ほ、ほらアレは鎧着てたから!!」
「そ、そうそう!中はこのくらいだったんだよ!!」
白々しく声を揃えて笑った兄弟を、ラッセルはやや不審そうに見たが、それ以上は突っ込もうとはしなかった。
「まぁ、いいけど。そっちは誰?」
「オレの副官。ジャン・ハボック少尉」
「ヨロシク」
エドワードの隣に来ていたジャンが軽く敬礼すると、ラッセルも敬礼を返した。
「副官・・・か。やっぱエドワード・エルリック『少佐』が1学年上に入学したって噂、本当だったんだな」
「ま、一応な。けどお前、1コ下の学年なのか?じゃあ1コ下の国家資格取ろうとしてる奴って、お前かー」
「兄さん。積もる話もあるだろうけど、今ここで話してると遅刻するよ?」
「あ、そうか」
はたと気がついた様子のエドワードに、ラッセルは校舎の入り口を指した。
「今日授業無しだって。あそこで出欠とって、縦割りのクラスで指示された地域の雪かきに向かえだとさ」
「うげ。マジで授業ねーのかよ」
顔を顰めたエドワードの横で、アルフォンスが首をかしげる。
「ていうかラッセル、『縦割り』って何?」
「知らないのか。ほら、学年ごとにA組とかB組とかあるだろう?アレで、1−A、2−A、3−Aで一まとまりにする分け方だ」
「へぇ、そんなのあるんだ。でも雪かきのグループで、そんな風なわけ方にするのって何の意味があるんだろう・・・」
「俺もそこまでは知らないよ」
肩を竦めたラッセルの横で、エドワードが口に手を当てた。
「フン・・・。雪かきも団体行動の訓練の一環って訳だ。悪くは無いな」
「え?兄さんどういうこと?」
目を丸くしたアルフォンスに、ジャンが笑う。
「学年を混ぜて、普段係わり合いの無い人間が混ざった状態でも、統率の取れた団体行動をするための訓練だよ。軍でも似たような訓練はやってるぞ」
「そうなんですか」
ジャンの言葉を受けてエドワードが頷いた。
「同じ学年の別クラスだと、それなりに交流も多いから、違う学年で混ぜるのは理に適ってる。それを普段から良くやってたら交流が生まれちまうから意味が無いが、こういう突発的な事態に持ってくるのは割といい考えだな」
「へぇ・・・」
ラッセルがふと目を細める。エドワードはそれには気づかず、ジャンを振り仰いだ。
「出欠取るついでに、オレ達に軍の方から何か伝言が無いか聞いてみた方がいいかもな」
「だな。下の連中も雪かきに狩りだされてるだろうし」
エドワードがジャンを従えて校舎に向かう。
その後を追おうとして、アルフォンスは立ち止まった。
「ラッセル?どうかしたの?」
「いや・・・。あいつ・・・さ」
「え?」
「エドの奴。なんか、もう本当に軍人なんだな」
ラッセルの視線を辿るように、アルフォンスもエドワードの背に視線を向ける。
「そう?軍人らしくはなったけど、やっぱり兄さんは兄さんだと思うけど。さっきだってラッセルと喧嘩しようとしてたし?」
「まぁ、それはそうだけど。何か、俺たちとはちょっと考え方が違う感じがする」
アルフォンスにははっきりとラッセルの感情を読み取ることは出来なかったが、少なくともあまり喜んではいないのだということだけは分かった。
「俺たち、って言うことは、ラッセルから見てボクは兄さん側では無いんだよね」
「お前思わなかったのか?今の。俺たちにはどうしてそんなことするのか分からなかったことを、アイツは分かった。それどころか、さらにその上から、それがいい手かどうかの判断も出来るような場所にいるんだぞ?」
「それは・・・。それはだって、兄さんはもう軍で実際に働いて居るんだから」
そこまで言って、アルフォンスはラッセルが何に引っかかっていたのかを理解した。
「ボクよりも、ずっと先に行っちゃったなと思うことが無いわけじゃないけど。でも、そう思うなら努力して追いつくだけだよ。追いつけないとは思ってないから」
「・・・そうだな」
寝ぼけて襲うくだりと、朝に家で騒いでるシーンは無くても話が繋がるし、
やたらと長い話になってきたんで切ろうか迷ったんですが、
「ビーチクは無きゃ駄目だろ!」みたいな勢いで書いてみました。
続きます。
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06/08/07 脱稿