【10】只今遠恋中

執務室に戻ると、ロイが腹を抱えて爆笑していた。
「戻りました・・・?」
自分の顔を見て尚更笑い転げたロイに、ジャンは首をかしげた。
「何ッスか?」
「ハボックお前・・・本当に甲斐性のない奴だな・・・!!」
「大佐・・・」
リザが眉を顰めている。
「フュリー、テスト終了だ。回収しろ」
「は、ハボック少尉すみませんっ!」
フュリーが突然ジャンの軍服のポケットに手を突っ込む。
「おわ?!な、何だよ?!」
フュリーが取り出したのは、見覚えのない小型の機械。
「・・・?」
困惑しているジャンに、ロイがニヤリと嫌な笑いを浮かべた。
「フュリーから新しい機械の導入の申請があったんでな。テストさせてもらった。お前の持っていたその小型のマイクで音を拾い、この・・・」
そういってデスクに置いてあるラジオのようなものにロイが手をかける。
「受信機でその音を流すわけだ。無線で1km以内なら音を拾えるというのでな」
「へ・・・?」
「お前と鋼のがあっていた場所はここから直線距離にして約800m。テストにはおあつらえ向きだろう?」
一瞬、頭が真っ白になる。マイクで音を拾って、受信機で流す・・・?
「テストの結果は『導入可』だな。話している内容もはっきり聞き取れたし、十分実用に足る」
ロイが書類にサインをしてフュリーに手渡す。
「しかし、言うだけ言って逃げてきてしまっては意味がないだろう?私はケリをつけて来いと言ったのだがな」
つまりそれは。機械のテストにかこつけて、わざわざ盗み聞きをしたと・・・
「た、大佐ぁぁぁぁぁっ!!!」
「わはははははは!!!」



リザの一発の銃弾によって争いはあっさり鎮められ、ロイは優秀な副官に別室での業務を言い渡された。
ジャンとしては正直自分が一人でどこかに篭ってしまいたい気分だったが、ロイの別室というのは要するに佐官以上に与えられる個室のことで、ジャンには篭れるような部屋はないのである。
「ハボック少尉、すみません・・・僕、テストってあんなことに使うんだと思わなくて」
「いや・・・もうそのことには触れてくれるな・・・」
謝られる方がよほどいたたまれない。
「しかし、大佐がやったことは兎も角としても、ハボお前・・・」
「何も言うな!!!」
ブレダがいかに士官学校時代からの親友とは言え、同性のエドワードに告白したのを暖かく受け入れてくれるとは思えない。ロイ個人で盗み聞きしていたというならまだしも、この場に居る全員に聞かせるなんてどういう神経してるんだ、とジャンは心の中で悪態をついた。
「お前が鋼の大将にマジ惚れしてるってのは別に構わんと思うが、あれじゃ向こうが今頃困ってるぞ?」
「へ・・・?」
「困るだろう、ありゃ」
「いや、そこじゃなくてよ。お前・・・その、気にしねぇの?」
「アレは男にもてるからな。お前は気づいてなかったかもしれんが」
「何ぃぃぃっ!?」
立ち上がったジャンに、ファルマンが苦笑する。
「ブレダ少尉、現場に立ち会った者か、大佐に裏で動く指示を受けた者しか知りませんよ」
「あ、あの僕も初耳です」
フュリーがおずおずと手を上げた。
「東方司令部時代にな。よく軍の男に物陰に誘い込まれちゃ相手をアルフォンスがぶっ飛ばしてた」
「やるのはアルなのか・・・」
「大佐が相手の臀部に火をつけたケースもありますよ」
「それ本人何やってんだよ」
「意味が分からなくてボーっとしてたな」
「報復が佳境に入る前にホークアイ中尉によって保護されていましたね」
うんうん、と頷きあっているブレダとファルマンに、フュリーが首をかしげる。
「でも、そんな話一度も聞いたことありませんよ?」
「だから、報復が終わったら俺達が動いて速やかに後片付けをしてたんだよ」
「記録としては、北方・南方・西方の各司令部に転属になった者が18名。一身上の都合で軍を退役したものが25名ですね」
「うへ・・・そんなにあったのかよ・・・」
半ば呆然としているジャンをブレダは万年筆で指した。
「まぁだから慣れちまっててな。それについちゃ別におかしいともなんとも思わねぇよ」
「事後処理の対象となった者たちは、エドワード君の意思など確かめず草むらや倉庫に連れ込むような人間ばかりでしたし」
「はぁ・・・」
全く想像だにしていなかった隠された真実に、ジャンは目を瞬かせた。まさかこんなにあっさり周囲に許容してもらえるとは思っていなかった。
「で、だ。話を元に戻すが、お前あそこで逃げたら駄目だろう・・・」
「しょ、しょうがねぇだろっ、相手が相手なんだからよ!お前らに俺の気持ちが分かってたまるか!!」
「そりゃ男に告る気持ちは分からんが、アレじゃ確かに甲斐性なしと言われてもしょうがねぇと思うがな」
「う・・・」
「お前わざと大将が返事を一切いえないようにして逃げてきただろう。そんなことして向こうが憎からず思ってたのに勝手に諦められたとか思ったらどうするんだ」
「そんなことありえねぇだろ・・・」
半分ため息をつきながら答えれば、フュリーがでも、と口を挟んだ。
「憎からず思ってたって言うのはありえないことじゃないと思いますけど〜。あ、でも上手くいっても遠距離恋愛ですね」
「始まりから遠距離というのも大変そうですね」
うむ、と頷いたファルマンにブレダが手厳しい突っ込みを入れる。
「まぁそもそもくっついちゃいないんだけどな」
「う、うるせぇ畜生!!」
「遠距離恋愛ならぬ遠距離片思いですかー。ハボック少尉、僕応援しますから!遠距離でもクリアーに声が聞こえる電話をがんばって開発しますよ!」
「お、おう・・・」
がしっと手を掴んできたフュリーの応援は、一応喜んでおくべきか。
「早くエドワード君から連絡があるといいですね」
ファルマンも頷いている。
「連絡・・・かぁ。しかし大将本当に俺に住所教えてくれっかな・・・」
「勢いに押されて頷いたんだとしても、約束を破るようなやつじゃねぇだろ」
「そう・・・だな」
例えそうそう会えなくなろうとも、この想いはそう簡単に消えはしないと思ったからこそ想いを伝えたかったのだ。
どれほど距離が離れていようとも、気持ちは変わらない。
ジャンは煙草に灯を点し、大きく煙を吐いた。



しまった、エドが居ない(汗)
しかも遠距離恋愛中というお題から微妙にずれてますねぇ。
ハボのポケットにマイクを突っ込んだのは大佐です。
肩を叩いたときにこっそり突っ込んだんです。
フュリー曹長はそれを見ていたから微妙な顔をしていたのでした。
お題【18】国家錬金術師=少佐=上司=? に続きます。

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06/05/16 脱稿