【13】色違いの瞳


そわそわする。
ロイとアームストロングの努力により、2週間もすると2派に対する嫌がらせは改善の兆しを見せた。そしてそれに伴い回ってくる仕事の量も減り、宣言どおりジャンとエドワードは同じ日に休暇を取ることに成功した。
で、今日はその当日。・・・つまり、初デート!とか言うことなのである。
待ち合わせの駅前で、遅刻は出来ん!とばかりに約束の30分前からジャンは煙草を吸い吸い待っているわけで。
何というか、自分でも正直純愛してるなぁ、と笑えてしまう。
以前の自分は、こういう風に人を待つのが嫌いだった。人を待つ時間というのが、物凄く無駄な時間に思えていたのだ。待ち合わせにはきっかり丁度の時間に到着するのが常。その自分が、30分も前から今か今かと待ち人に想いを馳せていると言うのだから。

「しょーいっ!!!」
待ち焦がれた声が聞こえて、そちらを振り返る。
息を切らせて走ってきたエドワードが、ジャンの目の前で急停止した。
「ご、ごめんっ・・・お、遅れた?」
「いや、丁度ぴったりだぞ」
本当は2分の遅刻だけれど、そんなことあえて言う気は無い。
ゼーハーと息を切らせているエドワードが、顔を上げてジャンをじっと見た。
「ん?」
笑いかけると、エドワードも微笑んだ。
「はふー。・・・出掛けにアルに捉まってさー。珍しく休みなのにどこ行くのって」
「あー。そりゃそーか、ようやくの休みだと思ったら出かけるって言われちゃなー・・・」
自分だってデートしたいと思っていたが、それでも仕事の時間は殆ど一緒にいられる。アルフォンスからしてみれば、いつも仕事で居ないのに仕事以外の時間まで家を空けられたら、仲のいい兄弟だからそれは寂しいだろう。
「・・・帰りにアルの好きな食い物でも土産に買っていってやったらどうだ?完全に忘れられてるんじゃとか思うとすげー切ないけど、ちゃんと自分のことも考えてくれてるって思えればちょっとはマシな気分になるしな」
灰を携帯用灰皿に落としながら言うと、エドワードは少し逡巡して、それからムッとしたように口を開いた。
「なんか実体験が伴っているような言い方だな」
「だって俺目の前に居る人によく放置されるし」
「そ、・・・それは謝ってるだろーーー?!」
「勿論。そんで今日埋め合わせしてもらってる」
冗談だよ、と言う意味を含ませて言ったつもりの言葉に、エドワードの眉間にますます皺が寄った。
「むかつく・・・」
「へ?!なんで?!」
「それじゃオレが埋め合わせのためだけにここに来てるみたいだろっ!そんなんじゃねーよっ!」
エドワードの言葉にジャンは思わず顔を押さえた。
「何だよっ」
「悪い・・・怒られてるのにスゲー嬉しい・・・」
顔がにやけるのがどうにも押さえられない。きっと今鏡を見たら凄くでれでれしたツラになっていることだろう。
「な・・・何だよもうっ!!」
「まま、怒らないでくれよ。折角のデートなわけだし?」
「・・・」
困ったように頬を染めて口を尖らせて上目遣いで見あげてくるエドワードは、どうしようもないほど可愛い。
「で、だ。大将、どこか行きたい所あるか?」
「え、何だよ決めてねーの?誘うんだからどこに行きたいとか考えてるんだと思ってた」
「いやぁ、俺は隣に大将が居て俺を見ててくれればそれで幸せだし」
別に他意もなくただ思ったことを口に出せば、エドワードの顔が瞬時に真っ赤に染まる。
「なっ・・・ばっ・・・!少尉いつもそう言う恥ずかしいこと平気で口走るよな・・・!」
「んあ〜?俺は自分の気持ちにしょーーーじきに生きてるだけだぜ?」
言葉も無いといった風に顔を真っ赤にして口をパクパクさせたエドワードは、ふうとひとつ溜息を吐いた後苦笑した。
「ったくもー・・・。じゃぁ、オレケーキが食べたい」
「ケーキ?」
「少尉甘いもの嫌いだっけ?」
「嫌いっつーほどでもないけど自分から食いに行くことはないな」
そう言えば東方司令部に居た頃は、エドワードが顔を出すたびにリザがクッキーやらケーキやらを食べさせていた。他の来客にはコーヒーを出すだけだったことを考えると、アレは餌付けだったのだろうか。
「ま、いいや。じゃケーキ屋行くか」
「あ、でも少尉ケーキ屋なんか知ってるのか?甘いもの自分では食わないんだろ?」
「まま、そこらへんは任せろよ」




「この店?・・・結構込んでるな」
「あー、確か『セントラルで危険なケーキ屋ベスト3』に入るらしいから」
「なんだそりゃ」
店のドアを開けながらエドワードが苦笑する。ドアについているベルがカランカランと音を立てた。
「入院してるときになー。ナースたちが噂してたんだよ。一度そこのケーキを食べると通い詰めたくなるケーキ屋が『危険』らしいぜ」
「それの何が危険なわけ?」
「ほら、女って太るーとか言って気にするじゃねーか。そういうことっしょ」
「ああ、ウィンリィもそう言えばケーキ食べたいけど太っちゃう〜とか言ってたな」
その店の中は白を貴重とした小奇麗なインテリアでまとめられ、ガラスのショーケースの中にはライトアップされた色とりどりのケーキが並べられていた。
「うわ。すっげ・・・!」
ケーキを前にしたエドワードの目の色が変わる。瞬時にガラスケースに張り付いた。
「すげー!すげー!!なんかキラキラしてる」
ジャンには振り返ったエドワードの瞳の方がよほどキラキラしているように見える。金の瞳が輝く様は夜明けの太陽のようだとさえ思うのだが、そのあたりはとりあえず置いておく。
「ほら、食うケーキ選べよ」
「え、選ぶ?!この中から?!」
「・・・選ばないでどーするよ、全種類食う気か」
「おう」
「おいおい!」
苦笑するとエドワードは何が悪いのかと言う風に首をかしげた。
「別に少尉にそれを払えなんて言わないぜ?アルに言わせると『兄さんは食べ過ぎ』ってことらしいし」
「そりゃ俺より大将のほうが給料は高いだろうが、そう言うんじゃなくてよ。大将コレ全種類って食いきれんのか?」
「よゆーだろこんくらい」
エドワードはなんでもないことのように言う。
「マジかよ・・・その身体のどこに入ってんだお前」
「誰が子ども並の胃袋しか持ってなさそうなドチビかっ!!」
「いやいやいや。普通の人間は身体の大きさに関わらずコレ全部ははいらねぇって」
「とにかく全種類食いてぇの!!」
「何もそんなに急がねぇでも・・・」
そこまで言って、ふと思い当たるものがあった。
以前、エドワードはずっと旅暮らしを続けていた。
何もそんなに急がなくても、と言うのは当時のエドワードに誰もがよく言った言葉だった。
エドワードのことだ、何か気になることや気に入った店があっても、次の土地に行こうという事になれば、全てなんでもない顔をして切り捨ててきたに違いない。
二度と訪れないであろう店を、後ろ髪を惹かれる思いで見たこともあったのかもしれない。
「・・・大将セントラルに住んでるんだしさ。今日一気に食べなくても、また一緒に来れば良いだけだろ?」
そう言うと、エドワードはハッとしたように目を見開いた。そしてそのままジャンを見上げる。
「次に来たときは何を食べようかなとか考えるのも、楽しいと思わねぇか?」
エドワードが心のそこから嬉しそうに笑った。
「・・・そうだな!」


とは言え、悩みぬいたエドワードが注文したのは
「ショコラフロマージュとベリータルトとモンブランと紅茶」
「3つもかよ!!」
ジャンは反射的に突っ込みを入れた。
「だ、だって1つに決めれなかったんだからしょうがねぇだろっ!!!」
むっとして唇を尖らせたエドワードに、ウェイトレスもクスクス笑っている。
「少尉はどうすんだよ?」
「俺?あー・・・スンマセンあんまり甘くないケーキってどれッスか?」
正直どのケーキがどんなケーキなのかジャンにはさっぱりわからない。ウエイトレスに助けを求めると慣れた様子で一つのケーキを指した。
「こちらのベイクドチーズケーキは甘味控えめで男の方にも人気がありますよ」
「んじゃそれで。あとコーヒー」
「かしこまりました」
ウェイトレスが立ち去ったのを見てふとエドワードに視線を向ければなんだか微妙な表情をしている。
「どうしたよ?」
「・・・やっぱ大人の男って甘いもの食ったりしねーのかなー。ケーキ食うのって子どもっぽいか?」
あまりにも真剣に訊かれたので思いっきり噴き出してしまった。
「な、なんだよ笑うことねーだろっ!?」
「いやいや・・・」
口を押さえて肩を震わせているとエドワードが思いっきりむくれる。
「まーなんだ、確かに甘いもん苦手な男も多いけど、別に全員が全員ダメってこともないんだし気にすることないんじゃねぇ?ブレダとかフュリーも甘いもんも好きだしな」
「けどどっちかって言うと子どもっぽくみられるだろ」
どうも幼く見られるのがよほど気になるらしい。
「別にそんな一つ一つのことじゃねーと思うけどな。例えばほれ、煙草だってガキが吸ってたら大人に見えるんじゃなくてガキが粋がってるようにしか見えねぇだろ?」
「んー・・・そうかな」
「そうそう。好きなもん我慢するのは身体に良くねーぞー」
そう言いながら煙草に火をつければ、エドワードは苦笑した。
「少尉のはそれでも煙草吸い過ぎ。我慢するのは身体に悪いって、煙草は我慢しないでも身体に悪いっつの」
「まー限度っちゅーモンはあるわな。大将こそさっきまでケーキ全種類食おうとしてたくせに」
「う」
「何事にも節度を持って付き合えるか、ってことじゃねーの?それがま、大人の条件ってことで」
にやっと笑って見せるとエドワードも楽しそうに笑った。
「少尉って、なんかさー」
「ん?」
「・・・さっきさ、セントラルに住んでるんだからまた来ればいいって言われてさ。ちょっと旅してた時の事思い出したよ」
煙を吐き出したジャンを、エドワードは嬉しそうに見つめている。
「空を見たらすげー綺麗に晴れてる時があってさ。ああ、少尉の目の色だなぁ、少尉今ごろ何してるだろうってそんとき思ってた」
全く予想外の方向から飛んできた無邪気な口説き文句に、ジャンは一瞬煙草を取り落としそうになった。落ち着け俺、と何とか動揺を押し殺して煙草を再び口に含む。
「けど確かに少尉の目の色と同じだったけど何でそんなに急に思い出したのかなって思ったら、目の色だけじゃなくて少尉のイメージが晴れた青空なんだよなーって・・・あっ来た!!」
「お待たせいたしました」
お待ちかねのケーキの登場に目を輝かせたエドワードに、少々ほっとしたようなもう少し先まで聞きたかったような微妙な気分になった。
「ああ〜もうケーキって食べる宝石って感じだよな!!!」
まるでケーキ相手に恋でもしてるんじゃないかという程熱い眼差しを向けているエドワードに、ケーキを持ってきたウェイターが必死で笑いを堪えている。
「ベッ・・・ベイクドチーズケーキです」
ジャンの前にケーキを置いたウェイターに、おいおい声が震えているぞと内心突っ込みつつ、ジャンはエドワードに視線を向けた。
折角のデートなのに、自分よりもケーキに夢中な恋人を、可愛いと見守るべきかもっとこっちを見てくれとアピールするべきか・・・。
「・・・ま、いいか」
普段は突っ張って大人ぶった仕草ばかりするエドワードだが、ケーキの前ではどうやら全部吹っ飛ぶらしい。こんな表情を見ることは滅多にないのだし、見守ることに決めた。
「ごゆっくりど」
「いっただきます!!」
ウェイターの声に被さるように喜色満面で元気良く発せられた言葉に、ウェイターが耐え切れずに噴き出した。そのまま逃げるように小走りで厨房に戻っていく。
いつもだったら笑われたりしたら直ぐに食って掛かるエドワードだが、今はもうケーキしか目に入っていないようで、一口食べて蕩けるような表情をしていた。
「んぁ〜〜・・・!しょういぃぃ、このケーキさいこぉぉぉぉ〜〜〜〜」
「そ、そうか。そりゃ良かった」
これは、リザがエドワードに餌付けをしたくなった理由も良く分かる。これだけ嬉しそうに食べてもらえたらいくらでも食べさせたくなるだろう。
「ああもう、ふわふわの、トロトロの、じゅわぁっって!!錬金術で再現しようったって絶対こうはなんねーよ、ホント人間の手ってすげぇ〜〜〜」
ふと視線を感じてジャンが首をめぐらせると、店中のウェイトレスやらウェイターやらパティシエやらがキャッシャー付近からこちらを覗いていた。
ジャンと視線が合うと慌てて首を引っ込める。
注目の的だな、と思いながらエドワードに向き直ると、視界の端に何かが引っかかった。
隣の席にやたらとケーキ屋に不似合いな男が居る。
名店と呼ばれるほどのケーキ屋に来ているにも関わらず注文はコーヒーのみ、そしてそもそもケーキを食べるようには見えない。
自分も似合っているとは言い難いとは思うが、それ以上に隣の男は不審だった。
ドアのベルがカランカランと音を立て、隣の男が顔を上げる。
次の瞬間、隣の男は突然立ち上がりジャンたちのケーブルを蹴倒した。驚く間も無くエドワードを捕まえてこめかみに銃を押し当てる。
「動くな!!」
背後から銃声が聞こえ、ジャンが振り返ると出入り口付近にライフルを構える男が居た。今の銃声は威嚇射撃だったらしい。
「店の金庫に金が入っているだろう!!全部を鞄に詰めて持って来い!!」
強盗だ。なんだってケーキ屋なんかに入るんだ、と少々疑問に思いつつも、ジャンはエドワードに視線を向けた。エドワードと自分が居ればたった二人の強盗など制圧はわけない。
はずなのだが。
エドワードはあらぬ方向を見て放心していた。視線の先を辿れば・・・蹴り倒されたテーブルに載っていたケーキの残骸。
「ちょっ・・・大将!!正気に戻ってくれよ!!」
「オイテメェ動くなっつってんだろ!!ツレがどうなってもい」
「オレのケーキ・・・」
「ああん?」
ぼそっと呟いたエドワードに、強盗犯が不審そうな顔をする。エドワードが殺気を放ち始めたのを感じて、ジャンは心の中で強盗犯にご愁傷様、と呟いた。
「オレのケーキに何しやがるーーーーーーーッッッ!!!」
エドワードが銃を挟むように手を打ち鳴らせば、銃はただの鉄塊と化した。
「な?!」
「何だテメェ!?」
ライフルを持った男が銃口をこちらに向けようとしたのを見て、ジャンはジーンズの背中側に挟んでおいた銃を瞬時に抜いて撃った。
2発連射した弾は的確に男の手と腕を捉え、ライフルを取り落とす。
「奪え!!」
ジャンが発した声にはっとしたウェイターが直ぐにライフルを取り上げた。ライフルを取り返そうとした男の足元に、ジャンはさらに威嚇射撃を行う。
「ひっ!!」
腰を抜かした男に銃の照準を合わせたまま、ジャンはゆっくりと男に歩み寄った。
「ち、ちくしょう!!何だよてめーら!!」
男を見下ろしたまま、ジャンは笑って身分証を取り出した。
「国軍少尉、ジャン・ハボックだ。休暇だったはずなんだけどな。そんであっちは・・・」
「オレのケーキ!!ケーキ返しやがれこんちくしょう!!」
振り返るとエドワードは錬金術で縛った相手をボカボカ殴っている。
「・・・あっちの紹介はまぁ、いつか機会があればってことで・・・」


「鋼の、君はもしかしてトラブル体質なのではないのかね?」
『エルリック少佐、強盗逮捕』の報に駆けつけたのは上官のロイ、その副官のリザ、自分の上官の後始末をしなくてはならないロスだった。
「うるせぇ!!あっちが勝手に入ってきたんだ!!くっそー、オレのケーキが・・・」
まだぶつぶつ言っているエドワードに、ジャンは苦笑するしかない。
破壊された店内はエドワードの錬金術によって既に修復されているが(と言うよりも破壊したのもほぼ全てエドワードなのだが)、今日の営業はもう無理だろう。
「まぁまぁ、大将。また休日にでも来ようぜ」
慰めるように肩にぽんと手を置くと、ロスが思いついたように顎に指を当てた。
「そう言えばエドワード君、休日なのにハボック少尉と一緒だったのね」
他意のない言葉にジャンとエドワードがそろって固まる。
それを見たロイがニヤニヤといやな笑顔を浮かべた。
「ロス少尉、店の従業員たちに今日はもう帰っていいと伝えて来てくれるかね?」
「はっ」
ロイの命でロスが走り去る。それを見送った後ロイはジャンとエドワードを振り返った。
「で?どこまで進んだのかな?」
「ななな何言ってやがるこのエロ大佐!!何もしてねーよ!!!」
「何も?そんなはずはないだろう、君だってじきに17だし、恋人同士がデートをして何もないほうが余程不健全だぞ」
「デートのしょっぱなに入ったケーキ屋がアレだったんスよ。不健全だろうが何だろうが、本当に何もしてないっス」
ジャンの返答に、ロイは心底がっかりした表情をした。
「何だ、つまらん。それでは強盗犯相手に鋼のが過剰防衛しても仕方がないな」
「ちっ違う!!そそそそう言うんじゃなくてっ!!!」
「えーと大佐、それは兎も角ッすね」
エドワードをいじり倒して遊んでいるロイにジャンが割ってはいる。
「連中、なんだってケーキ屋なんか狙ったんでしょうか。金融機関系に行けばいいのに」
「ここの所、あの手の強盗が増えているのよ」
ジャンの問いに答えたのはリザだった。
「そうなんスか?」
「金融機関にはそれなりの警備があるからな。そう言うところは避け、少人数でそれなりの額を奪える場所を狙っての強盗が増えている。そう言う連中は大抵初犯だな」
ロイの述べた犯罪発生傾向に、エドワードが結論をつける。
「・・・つまり表面的には平穏に見えても、子悪党がそういった行動を好き放題出来るくらい治安が悪化してるってことだな。さっさと上に上って頭押さえちまえよ大佐」
「簡単に言ってくれるものだな」
苦笑したロイにエドワードが肩を竦め、べっと舌を出した。
「オレは自分の目的ちゃんと達したからなー」
「ふぅ・・・まぁ、負けてはいられんと言う事だな」
「そそ、大佐早く大総統になって法律変えてくださいよ。男同士でも結婚できるように」
ジャンの言葉にロイとリザが目を丸くする。しかし。
「あっははは、大総統になって最初に作る法律が同性婚OKだったらきっと歴史に名を残すよな!!」
エドワードから帰ってきたとんちんかんな返答に、ジャンはがっくりと肩を落とした。
「・・・遠まわしすぎたんじゃないか?ハボック」
「言われなくても分かってるッス・・・」
「?何だよ?」
「フフッ・・・」
ロイがジャンに同情の視線を向け、リザが苦笑し、エドワードは首をかしげている所にロスが戻ってきた。
「エドワード君!ケーキ屋の人がケーキ食べませんか、って言ってるのだけど」
「えっ!」
目をらんらんと輝かせ振り返ったエドワードのアンテナが、まるで猫の尻尾のようにぴんと立った。ように見えた。
「今日はもう営業できないし、あの店はその日作ったケーキしか店に並べないので、今日の分がかなり余ってしまったんですって。皆さんもご一緒にどうですかと言われたのですが・・・」
ロスがロイとリザにも視線を向ける。
「たまにはいいんじゃないっスか?」
「ふむ、しかし私は大して甘いものが得意ではなくてな」
「さっき食ったチーズケーキは甘くなくて旨かったッスよ。それに大佐が行かないとホークアイ中尉が来れんでしょう」
話題を振られたリザの肩がピクリとゆれた。
「・・・仕事ですから」
実はリザも一般的な女性に漏れずケーキが好きである事は、マスタング組は皆知っている。
「なんだよ、大佐も中尉も行こうぜー?」
エドワードが屈託のない笑顔で後押しした。
「書類の山も随分片付いてきているしな。折角の好意を無にするのも悪いし、行くとしようか」
笑って決断したロイの言葉に、リザも異は唱えなかった。
「よっしゃー!ケーキ!!」
エドワードが万歳する。
連れ立ってケーキ屋に向かいながら、ジャンは隣を歩くエドワードの耳にこっそり囁いた。
「大将さ、さっき俺を空みたいだって言ってくれただろ?」
「?おう」
「俺は大将のこと太陽みたいだって思うぜ?」
輝く瞳も、人を惹きつけてやまないその笑顔も。まるで太陽そのものなのだ。









おまけ。
ケーキ屋の店員たちの目的は、本当は自分たちの目の前でエドワードにケーキを食べさせることだったらしく。
エドワードにはアレも食えコレも食えと次々にケーキが差し出され、エドワードの方も喜んでそれを次々平らげて行った。
その他の男性仕官2名は、半ば呆れた目でその光景を眺めてコーヒーをすすり。
女性仕官二人は、
「どうしてアレだけ食べてあんな細い体系を維持できるんでしょうか・・・」
「それはエドワード君が国家錬金術師になったばかりの頃から、私も疑問なのよ・・・」
などと囁きあっていた。








ケーキのショーケースについてもっと書きたかったくらいだったんですが
ケーキに興味のないハボ視点であまりかいても変なので諦めました。
食べ物を本当に美味しそうに食べる人っていいですよね〜。
今回の裏テーマは『プロポーズが遠まわしすぎてあっさり流されたハボ』だったりします。

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06/05/24 脱稿