第0話 旅立ち 〜Brand New start〜
「おい・・・げん・・・いか・・・」
心地よいまどろみから呼び起こそうとする声に、マグナは寝返りをうった。
「ん・・・」
「・・・で・・・つもりだ・・・!?」
「ん、んん・・・???」
「・・・起きるんだ!マグナ!!」
いつものネスティの叱責の声に、マグナの意識がようやく浮上する。
「あ・・・おはよぉ、ネスぅ」
「おはようじゃないだろ!?いくら君でも今日に限って寝坊はするまいと思っていたが、用心して見に来てみれば、案の定とは・・・」
「あれ?俺、ネスと何か約束してたっけ???」
まだ半分寝ぼけているマグナの言葉にネスティがこれ見よがしに溜息をついた。
「これだ・・・。今日は君が、一人前の召喚師になるための試験の日じゃないか!」
「あ!?」
ようやく、マグナの意識が覚醒する。マグナは慌てて飛び起きた。
「さっさと支度しないと間に合わなくなるぞ?」
「あわわわわっ!!」
わたわたと支度を始めるマグナに、ネスティがいつものお小言を言い始める。
「そもそも君は派閥の一員であるという自覚が足りなさすぎだ!授業はさぼってばかりだし、たまに顔を見せたかと思えば、居眠りばかりだし・・・」
「うう・・・」
もたもたと支度をしているマグナにごうを煮やしたネスティが、どこから用意したのか濡れタオルでわしわしとマグナの顔を拭いた。そのタオルを洗面台に投げ置き、じろりとマグナに冷たい視線を投げかける。
「兄弟子として尋ねたい。いったい今日まで君は何をしてきた?」
ネスティの問いに、マグナがう〜ん、と首を傾げる。さすがに昼寝、って言ったら起こられるだろうか。
「それは・・・外で戦闘訓練かな?」
「戦闘訓練?」
思いっきり眉をひそめたネスティに、マグナはわたわたと言い訳をした。
「ほらっ、授業でラウル師範も言ってただろ。強い召喚術を制御するためには、体力が必要になってくるって!」
マグナの言い訳をネスティがあっさりと斬って捨てる。
「それは強い召喚術が使えるようになってからの話だろう。基礎の召喚術すら危なっかしい君には、さほど関係あるまい」
「うう・・・」
完全にしゅんとしてしまったマグナに、ネスティも小言を言うのをようやく止めた。身体だけは大きくなっても、いつまでたってもなんだか頼りない弟弟子の背中を、ネスティがぽん、と叩く。
「まあ、いい。とにかく、試験の日は来てしまったんだ。結果がどうなるにしろ全力をつくすんだぞ。今日まで不真面目な君の面倒を見てくださった、ラウル師範のためにもな」
「ああ・・・わかってるよ・・・」
そういってマグナはふっと窓の外の空を見上げた。
(今でもまだ、信じられない。産まれも定かでない俺が、こうしてここにいることが)
きっかけは突然だった。たまたま拾ったきれいな石が、俺の手の中で光を放ち、街をメチャクチャにしてしまったんだ。
それが「召喚術の暴発」だということは、連れていかれた牢屋の中で聞かされた。
そして俺は今いるこの場所へと連れてこられた。
俺は、一人前の召喚師になるために、今日までここ蒼の派閥で訓練を受けてきたんだ。
そう・・・
選択の余地もなく・・・
試験を行う部屋のドアをノックして開ける。そこには今回の試験監督であるフリップとラウルが座っていた。
「蒼の派閥召喚師見習い、マグナただいま参りました」
何とか試験時間に間に合ったマグナに、マグナの後見人でもあるラウルが破顔する。
「おお、待っておったぞマグナよ」
「時間ぎりぎりか・・・。てっきり試験を受けるのがこわくなって逃げたかと思ったぞ」
わざとらしく嫌味を言うフリップの声は聞こえなかった振りをして受け流す。この人物が自分を嫌っていることは、マグナは百も承知だった。
「お前のことじゃ。おおかたネスが起こしてくれるまで眠りこけておったのじゃろう?」
「あはは・・・」
さすがにラウルはお見通しである。そう言われてしまっては、笑うしかない。
「フン。大した自信ではないか。どこの馬の骨とも知れぬ「成り上がり」の分際で」
「!!」
明らかにマグナを見下した発言に、さすがにマグナも反応する。間に割ってはいるように、穏やかな声でラウルがフリップを咎めた。
「フリップ殿。今の発言は、試験監督として不謹慎ですぞ?」
いくらマグナを嫌っているとはいえ、こんなことで自らの立場を失うような真似をするほどフリップも馬鹿ではない。
「・・・コホン。では試験を開始する!マグナ」
「はい」
ようやく始また試験に、マグナがく、と身を正す。フリップが感情のない声で試験の内容を告げた。
「目の前のサモナイト石を用い、お前の助けとなる下僕を召喚してみせよ」
予想していた試験の内容に少しほっとしながらも、マグナは目の前に並べられた色とりどりのサモナイト石に視線を向けた。
(たしかサモナイト石には色ごとに属性が決まっていたっけ。えっと・・・確かネスから教わったと思ったんだよな・・・。俺のもつ魔力の属性と相性がいいのは・・・)
確か霊属性の紫のサモナイト石だったよな?と伸ばしかけたマグナの手がふと止まる。何故・・・この場に透明な無属性のサモナイト石があるのだろう?
「何をしている!さっさと召喚しないか!!」
「わわっ・・・は、はいっ!」
フリップの怒声に、思わずマグナは紫と透明のサモナイト石を両方掴んでしまった。
(し、しまった・・・)
が、マグナが二つサモナイト石を取ったことに、どうやらフリップもラウルも気が付かなかったようだった。
(まぁいいや、紫のほうにだけ魔力を集中させれば大丈夫だろ・・・)
教わった通りに魔力を石に集中し、呪文を唱え始める。
「古き英知の術と我が声によって、今ここに召喚の門を開かん・・・。我が魔力に応えて異界より来たれ・・・新たなる誓約の名の下にマグナが命じる、呼びかけに応えよ・・異界のものよ!!」
その場に魔力が満ち、召喚の門が開かれる。が、しかし。次の瞬間にマグナが感じ取ったのは、制御しきれない魔力の迸りだった。
(え?この状況ってひょっとして・・・)
「いかん!暴発するぞっ!?」
カッ、とマグナの手の中のサモナイト石が強烈な光を放った。
「うわあっ!!」
ドォン、と言う音と共に辺りが闇と煙に包まれる。
「げほっ、げほっ」
煙にむせ返りながらも、マグナは心の底から落ち込んだ。
(やっちまった・・・よりによって、こんな失敗するなんて。これじゃネスや師範に顔向けが・・・)
煙が引き、闇が薄れてくる。すると、マグナの前にはマグナと同じ年頃の少年が座りこんでいた。
「・・・?」
「けほっ!えほん!!」
少なくともその少年は、召喚術を行うまでは居なかったはずだ。
「あ、あれっ!?」
「ううっ〜〜〜っけむい〜〜〜〜っ」
(失敗じゃない?ちゃんと召喚できてる!?)
絶対失敗したと思ったのに。驚きと共にマグナは目の前の少年を見つめる。
(呼ぼうとしたのとは似ても似つかない召喚獣だけど・・・っていうか、普通の男の子にしか見えないんだけど)
「むう、てっきり暴発かと思ったんじゃが。マグナよ、お前が召喚しようとしたのは、この召喚獣で間違いないか?」
ラウルの問いかけに、マグナは反射的に頷いた。
「あ、は、はいっ!そうですっ!!」
(こうなったら、もうなんとかしてごまかすしかない・・・)
「え?え?何?」
召喚された少年は、何が何だか分からないと言った風体で、きょろきょろと周りを見回している。
(さいわい、コイツは見るからに無害そうな感じだし、試験の間だけでもごまかせれば・・・)
とりあえず何とか試験には合格しなきゃ、とマグナが心の中で頷いていると。
「ともあれお前と共に試験を受けるべき護衛獣はここに召喚された。マグナよお前の召喚した下僕と共に、これより始まる戦いに勝利せよ!」
フリップが言った予想外の言葉に、マグナは驚愕した。
「ええっ!?ちょ、ちょっと!ちょっと待っ・・・戦えだなんて、いきなり、そんなこと言われたって!?」
焦るマグナに、フリップは容赦なく言い放つ。
「お前の戦うべき相手はこの者たちだ」
「ヴオォォォォッ!!」
恐らくはメイトルパの・・・召喚獣たちが、咆哮をあげた。ぐにゅぐにゅと音を立てながらマグナの前に進み出る。
(こんなのっ冗談じゃないぞっ!?)
「え?ええっ!?一体、何がどうなってるんだ!?俺、アルク川で釣りしてたはずなのに・・・!?」
「お、落ち着いてっ!」
「あう・・・」
マグナは半分パニックに陥っているらしい、マグナの護衛獣である少年の腕をつかんだ。
「詳しい説明はあとでちゃんとするから、今は俺の言うとおりにしてくれないか?」
「ヴオォォォォッ!!」
唸り声を上げている召喚獣を指差し、その少年に示す。少年は、さして怯える様子も無く召喚獣に視線を向けた。
「じゃないと・・・二人ともアイツらにやられちまう、だから、頼むっ!!」
「うう?わ、分かったよ・・・?取り敢えずアイツらを倒せばいいいんだな?」
そういって腰に手を伸ばした少年は、はっとして目を丸くした。
「ああっ!?俺そう言えばさっき剣外しておいたんだったーーー!!」
どどどどうしよう、と慌てている少年にマグナは予備の剣を差し出した。
「こ、これ使って!」
「あ、サンキュ。・・・え〜っと、お前名前は?」
「俺?俺はマグナ。君は?」
「俺はハヤトって言うんだ。・・・じゃあ、やるか!」
ハヤトがちゃきり、と剣を構える。そのあどけない外見とは裏腹に、あまりにも剣の扱いになれた様子とその眼光の鋭さにマグナは目を丸くした。
「何ぼっとしてんだ?いくぞ、マグナ!」
「あ、ああ!!」
いざ戦闘が始まり、マグナは再び目を丸くした。剣を扱いなれてるどころの話ではない。ちょっと戦闘訓練を自己流でやっていた程度のマグナとは比べ物にならない・・・それこそ命のやり取りをして培われたのではないかと言うほどの、すばらしい戦闘能力をハヤトは持っていた。ハヤトはあまり強そうじゃないし、勝てるだろうか・・・などと戦闘前までは考えていたマグナの不安が、一瞬にして吹き消される。そして更にハヤトは。
「力を貸してくれ・・・出でよ!ブラックラック!」
一応蒼の派閥の召喚師(まだ見習いではあるが)であるはずのマグナでもまだ使えない、高等な召喚術を、あっさりと使ってのけたのだった。
「やった・・・勝った!勝てたぞっ!!」
「う〜ん?」
ぽりぽり、とハヤトが困ったように頭を掻いている。
「ありがとう、ハヤトが黙って俺に協力してくれたおかげだよ」
「ど・・・、どういたしまして」
そう、まさにハヤトのおかげだ。と言うより殆どハヤトの力と言っても過言ではない。喜ぶマグナに、ラウルがにっこりと微笑みかける。
「よくがんばったなマグナよ。それだけの力があればもう一人前じゃろう」
「ラウル師範・・・」
「どうじゃな、試験管のフリップ殿?」
話を振られたフリップは、面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「・・・フン!見習い召喚師マグナよ、試験の結果をもって今よりお前を・・・正式な蒼の派閥の召喚師とみなす!!」
「おめでとうマグナ」
人一倍世話になったラウルの笑顔に、マグナはなお更喜びを大きくした。そんな二人を、くだらない茶番だとでもいいたげにフリップがじろりと睨む。
「なお、派閥の一因となったお前には、相応の任務が命じられるいったん自室へと戻り呼び出しを待つがいい・・・以上だ!」
浮かれながら本部を出ると、中庭によく見知った人物が立っていた。
(・・・あれ?)
「・・・・・・・」
(ネスじゃないか。心配してくれたのか)
マグナはネスティに駆け寄った。
「ひょっとして心配して見に来てくれたのか」
顔を輝かせて喜ぶマグナに、ネスティの返事は素っ気無い。
「なんで僕がわざわざそんなことをしなくちゃならんのだ?」
「う・・・」
「まあ・・・君がどんな不始末をしでかすかは、不安ではあったが・・・。一応、僕は君の兄弟子だしな・・・」
ぶつぶつとネスティが呟いた言葉を聞けば、本当はネスティは心配してみに来たのだと分かるのだが。落ち着きのないマグナの思考はすぐにそんなことより別の方へと飛んでしまう。
「あ!?そうだ、ネスっ俺、合格したんだぜ!」
「よかったな」
あまりに無感動なネスティの返事に、マグナはむぅとむくれた。
「・・・なんだよ、それ。もうちょっとさ、喜んでくれたっていいだろう?」
一番喜んで欲しい相手に、全く喜んでもらえないのはすごく寂しい。が、ネスティはそんなマグナに情け容赦ない。
「真面目に学んでいればあれぐらいの試験は、受かって当然だ。むしろ落ちる要素があったこと自体が問題なんだぞ?」
「う・・・」
「はっはっは、相変わらずお前はマグナには手厳しいのう」
マグナが一人前の召喚師になろうが何だろうが変わらない兄弟弟子の会話に苦笑しながら、やってきたラウルがネスティをたしなめる。
「ラウル師範・・・」
ネスティの言葉に少し傷ついて落ち込んでしまっていたマグナに、ラウルが優しく微笑みかけた。
「ともあれ、合格したのはめでたいことじゃて。よくがんばったなマグナよ」
誉められて、マグナの表情にぱっと笑みが戻る。
「ありがとうございます師範!」
が、ネスティの表情は厳しい。
「いいのですか、師範。本当にこんな不真面目なヤツを一人前と認めてしまって?」
「あのなぁ・・・」
フリップ様みたいなこと言うなよ。そうマグナが言ってやろうかと思ったとき、ラウルがにこにことネスティに告げた。
「試験管はフリップ殿だったんじゃぞネスティ」
「え!?」
「誰よりも平民上がりの「成り上がり」召喚師を嫌う彼が、認めざるをえなかったんじゃ。マグナは、それだけの結果を自分の力でだしたのさ。立派なものじゃろう?」
フリップがどれだけマグナを嫌っているかは、ネスティだってよく知っている。ネスティは苦笑いを浮かべた。
「・・・はい」
「さて、と。マグナよ、早く部屋に戻りなさい。呼び出しが来ているといかんからな」
「あ、はい」
「それから、さっきからそこで居心地悪そうにしておる・・・お前の護衛獣にきちんと挨拶をしとくことじゃな」
「え?」
ラウルに言われて振り返る。そこには、困った顔でもじもじしているハヤトがいた。
「・・・」
(あわわっ、すっかり忘れてたっ!?)
「・・・というわけでね、俺の失敗のせいで君は召喚されたみたいなんだよ」
自室で向かい合って座って、マグナはハヤトに事情を説明した。ハヤトがふーん、と頷く。
「そうだったんだ・・・」
「大変な目にあわせて本当にごめんな。すぐに誓約を解除して元の世界に・・・」
「ちょ、ちょっと待った!元の世界って、もちろんリィンバウムにじゃないよなぁ・・・」
慌てたハヤトに、マグナは首を傾げた。
「そうだけど?」
「それじゃあ困るよ!俺はこの世界にちゃんと別の・・・俺を召喚した人間がいるんだよ!」
「ええっ!?」
(それってどういうことなんだ?)
ハヤトの言葉にマグナが目を丸くしていると、背後から聞きなれた声が降ってきた。
「やれやれ・・・「二重誓約」とはな」
「ネス!?」
「様子が変だと思って見に来たら、案の定だ。廊下にまで聞こえたぞ?」
「うう・・・」
ばれたか・・・と少し小さくなっているマグナをよそに、ハヤトがネスティを見上げた。
「ぎゃみんぐ、って何???」
ハヤトの問いに、ネスティが頷く。
「「二重誓約」とは召喚術が失敗した時に起きる事故のひとつで、すでに誓約を交わした他人の召喚獣を、別の人間が召喚してしまうことなんだ。その場合、より強い魔力の持ち主のほうの誓約が優先されることになってしまう」
「でもさ、ネス。自分で言うのもなんだけど、俺、そんな魔力強くないぜ?」
それとも俺って実は結構魔力強かったりするわけ?と、悪戯っぽく笑ったマグナに、ネスティはじろりと一瞥を向けた。
「・・・・・・」
ネスティがハヤトに向き直る。
「君はもともと、はぐれ召喚獣だったんじゃないのか?」
ネスティの問いに、ハヤトがああ、と頷いた。
「そう呼ばれてたときもあったかな。はぐれっていうか・・・その、何人もの召喚師で行う儀式が失敗して俺が呼ばれたらしくてさ。今一緒に暮らしてるやつ以外は、全員死んじゃったらしいんだけど・・・」
「多分、その人物とはその後誓約をかわしなおしてないんだろう?」
「うん、そう言えばそうだったかも・・・」
ネスティが得心がいったとでも言うように深深と頷く。
「やはりな、だったら理解できる。最初に君が召喚された時の誓約の魔力が弱まっていたんだ。だから、このバカ者の召喚術なんかで、簡単に書き換えられてしまったんだな」
「うう・・・」
ネスティの言葉には微妙に刺があるが、とにかくこれでハヤトが召喚された理由は分かった。しかしだからといって問題が解決したわけではない。
「う〜ん・・・でもなぁ・・・?それだけのはずはないんだけど・・・」
当のハヤトはどうやら別のことを考えているらしく、しきりに一人で首をひねっている。マグナはネスティを振り仰いだ。
「どうしよう、ネス?」
「別に問題はあるまい。元がはぐれだろうと、今は君が彼の主人なんだ」
ネスティの言うことはもっともだ。普通の召喚師ならば同じ決断を下すだろう。しかし、マグナにはどうしてもそういう考え方が出来なかった。
「でも・・・ハヤトは!ちゃんと別に召喚師がいるんだぜ!?それを、無理矢理に俺の護衛獣にしちゃうなんて・・・」
「だったら、試験の時にどうして失敗したって言わなかった?」
「う、それは・・・」
ネスティに詰問するように問われ、言葉に詰まる。やはり試験に合格したかったこと、それにその時はハヤトに主人がいるなんて考えてみもしなかったこと。理由はいろいろあるが、その理由に正当性はない。その場で失敗したと言っていれば、今ごろはきっとラウル師範が何とかしてくれているだろうから。マグナが押し黙ってしまうと、ネスティがふうと溜息をついた。
「・・・まあ、いい。いずれにしろ、これは召喚者である君が責任を取るべきことだ。よく考えるんだな、自分がどうするべきか」
「・・・。」
その時、ドアをノックする音がした。
「呼び出しが来たようだな?」
任務が書かれた紙を持ったフリップの前に立つ。そのマグナの隣には、なんだかんだ言ってついて来たネスティと、心配して来てくれたのであろうラウルがいた。
「マグナよ、お前に最初の任務を与える。心して聞くがよい」
「はい」
フリップがすぅ、と息を吸う。
「お前はこれより護衛獣と共に、修行を兼ねた見識を深めるための旅に出るのだ。なお、視察の旅の期限は定めぬものとする」
(え?)
一息で吐き出された言葉に、マグナははっとした。もしかして、その任務は。
「蒼の派閥の一員としてふさわしき活躍を示すことができた時、それをもってこの任務の完了とする」
読み上げられた任務の内容に、驚いたラウルが声を荒げた。
「お待ちくだされフリップ殿!」
「どうかなされたか?ラウル殿」
フリップはしてやったりの飄々とした顔をしている。
「何をもってふさわしき活躍とするのか説明すべきでは!?」
いくらラウルでも派閥の決定にはそうは逆らえない。けれど、そのくらいの温情はあってもいいはず・・・言外に、ラウルのマグナへの優しさが感じられる。だがそれに対するフリップの言葉はにべもない。
「それはマグナが自分で考えるべきことでしょう。いくら後見人とはいえ過保護は困りますなラウル殿?」
「じゃが・・・」
「それにこの任務は幹部一同が協議した上で決定したことですぞ。不満があるのなら、グラムス議長や総帥にお言いなさい」
「・・・っ」
どうしようもない怒りを滲ませたラウルを遮るように、マグナは進み出た。
「わかりましたフリップ様」
ネスティが驚いてマグナを咎めるように呼びとめる。
「マグナ?」
「その任務お受けいたします」
きっぱりと言いきったマグナに、フリップが満足そうに意地の悪い微笑みを浮かべた。
「ふふふ、殊勝な心がけだなマグナ」
ネスティがマグナの腕を引いて、小声でまくし立てる。
「君はバカか!?これは任務の名を借りた、君を追放するための命令だぞ!!」
「わかってるさ」
マグナの表情は変わらない。
(そんなの、最初からわかってる・・・)
「でも、俺はこれ以上俺をかばったせいで師範が立場を悪くするのはイヤなんだよ」
無表情でそう言ったマグナに、ネスティがはっとして下を向く。そして悔しそうに唇を噛んだ。
「・・・」
恐らく、腹の中では嬉しくて堪らないのであろうフリップが、高らかに任務について読み上げる。
「任務を果たしたならばお前に「家名」が与えられるそうだ。「成り上がり」の身分から、正式な召喚師の家系を名乗れるのだ。奮起するがいい。・・・以上だ!」
こうして俺は旅立つことになった・・・
事実上の追放にひとしい任務を受けたにも関わらず、俺はなぜか、取り乱したりしなかった
なぜか?
考えるまでもない。同じだからだ。
あの日、強引にこの場所へ連れてこられ召喚師になることを強制された時と、同じだからだ
だから、耐えられた、納得することができた。
どうせ選択の余地はないのだから、と・・・
・・・長えよ!!0話のくせに長すぎるよ!!
前前から考えていたこの企画小説、ようやく書ける状態になったのはいいのですが、会話を全部打ちながらプレイするというのは、予想以上に大変でした。まさか0話に2時間かかるとはね。。。
まぁそれはともかくとして、小説についてなのですが。極力ゲーム中のリンカールートと差がないように会話を進めてます。でも、ハヤトに言って欲しくない女々しい台詞とかは、削ってありますけどね!!(笑)しかし台詞の間に情景描写を入れたら、やたらとネスがやなやつっぽくなってしまいました。う〜ん。ま、いずれその辺は・・・ね。
この話、もちろん今後も続きます。UPするのは、すっごい遅いでしょうけど(苦笑)さて、護界召喚師はいつ頃でてくるのかなぁ・・・(ニヤリ)
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