「は〜あ。とりあえず今日はもう寝るかなぁ。旅に出ろって言ったって支度もあるし、今すぐ出発しなきゃないってこともないだろ」
どさり、とベッドにマグナが体を投げ出す。大きくため息をついたマグナに、ハヤトがのそのそと近づいて顔を覗き込んだ。
「寝るのはいいんだけどさ、マグナ。その、俺は今日はどうしたらいいわけ?」
「え?」
「この部屋さ、ベッドひとつしかないじゃん。もしかして、俺、床?」
「あ!」
言われてがばっと飛び起きる。そう言えば、マグナの部屋にはベッドがひとつあるだけで、あとはソファーもない。
「まぁ、それならそれでいいけどさ。さすがに毛布くらいは欲しいな〜なんて・・・」
「あああ、待って待ってハヤト。あのさ、ハヤトがイヤじゃなければさ」
ハヤトがん?と首を傾げる。マグナはハヤトに笑いかけた。
「一緒に寝ないか?」
「え、いいの?」
にこっと笑ったハヤトの笑顔に、マグナはハヤトとはきっといい友達になれる、と確信した。
「あったけ〜〜・・・」
ハヤトの頭がマグナの首筋でもぞもぞと動く。
「ハヤト、くすぐったいって」
「あ、ごめん。でも俺、キール以外と一緒に寝るなんてホント全然ないから、ちょっと緊張してるかもしんない」
けれどそう言うハヤトの屈託のない笑顔には、緊張の色などかけらも見られない。マグナは笑ってハヤトの頭を撫でた。
「『キール』って誰?」
「ん〜、俺をリィンバウムに呼んだ召喚師!時々こんな風に一緒に寝てたんだ〜」
「へぇ、そうなんだ。いいなあ、昔はネスも一緒に寝てくれたんだけどさ、最近は一緒に寝ようって言うと『君はバカか!?』って怒られちゃってさ〜」
ハヤトがぷっと吹き出す。
「その『君はバカか!?』っての、ネスティの口癖だよなぁ。俺今日だけでそれ何回も聞いたぞ」
「バカバカ言うな!って言っても、『バカにバカと言って何が悪い!』って言われるんだよな。い〜っつもあんな感じなんだよ。俺なんか怒られてばっか。・・・キールさん、て人はどんな人なんだ?」
ハヤトがう〜ん、と首を傾げた。
「改めてどう、って聞かれるとなぁ。召喚師らしい召喚師っていうか。こう・・・本ばっか読んでて、理屈っぽくて・・・それからなんとなくネスティに雰囲気が似てるかな?」
「なぁなぁハヤト」
「ん?」
「その『召喚師らしい召喚師』って言うのは、俺は召喚師らしくないって言う意味なわけ?」
ニヤニヤしながら訊けば、ハヤトもニヤリと笑った。
「へへん。ばれた?」
「こ〜〜〜の〜〜〜!」
「あはははははっ!!」
ベッドの中でひとしきりじゃれあう。息が切れるまでじゃれあって、ハヤトが苦しそうに笑った。
「ひ〜、ひ〜・・・悪い悪い、もう勘弁な。召喚師らしくない召喚師、ってのは俺もだし。そんなもんだって!」
「へ?ハヤトも召喚師なのか?」
ハヤトがはっと口をつぐむ。何か都合の悪いことでも聞いたのだろうか?
「そう言えばハヤトって、シルターンの人なのか?だよなぁ、シルターン以外には俺達みたいな人間はいないはずだし。試験のとき、すっごい強いから俺びっくりしたよ・・・」
「そ、そうか?」
ハヤトが苦笑いした。なんだか少し眠くなって、マグナはごしごしと目を擦る。
「う〜ん、ちょっと俺眠くなってきたかも・・・」
「そっか?じゃあそろそろ寝るか。明日から旅にでなきゃいけないしな」
「うん・・・。じゃあ、おやすみ・・・」
「おやすみ」
ものの数分も経たないうちに、マグナは安らかな寝息を立て始める。ハヤトは小さく溜息をついて、自分を召喚した人間の頭を撫でた。
「黙ってて、ゴメンな・・・。でもまだ、知らないほうがいいと思うんだ・・・」
本当は、こんな騙すみたいなことはしたくない。けれど、キールのためにも、あの戦いを共に戦った蒼の派閥の仲間たちのためにも、そしてマグナ自身のためにも・・・今はハヤトの本当の力を知られるわけにはいかない。
「いつか・・・話せるといいな・・・」
謝罪の気持ちをこめて、もう一度マグナの頭を撫でる。そしてハヤトも眠りのなかに落ちていった・・・。
仲いいなぁ、ハヤトとマグナ。そして急に自分がいなくなって、パートナーがえらい心配しているだろうというコトに全く頭が回らないらしいハヤト(笑)。そういうところがハヤトですね。そしてマグナはマグナで、ブラックラック使ったハヤトに「シルターンの人?」とか訊いてるし。ネスティが聞いていたら「君はバカか!?」と思いっきりツッコミいれるところです。が、生憎ネスがいない+まだネスはハヤトの戦うところを見ていないため、今回はツッコミは入りません(笑)。第1話くらいでつっこんでもらう事にしましょう・・・。
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