「なあマグナ、剣の手入れしたいんだけど、手入れの道具とかあるか?」
スラリ、と剣を抜いて、刃を眺めながらハヤトがマグナに問い掛ける。マグナは少し意外そうな表情をして、首を横に振った。
「え、ごめん持ってないよ。俺、そんなことしたことないもん」
ハヤトが剣を降ろして振りかえった。
「したことないのか?駄目だぞ、使ったらちゃんと手入れしないとすぐ剣が駄目になっちゃうぞ?」
「そうなんだ。俺、今まで派閥の訓練で刃引きした剣を使ったことくらいしかないからさ」
マグナも自分の剣を鞘から抜いて確かめる。派閥で使っていた、何人が握ったかもわからないボロボロの剣を考えれば、全く新品同様に見えるのだが。
「別に傷んでるみたいに見えないけどなぁ」
「駄目駄目!傷んでからじゃ遅いんだよ。傷ませないように手入れをするんだって!貸してみろよ、やってやるから」
マグナが差し出した剣をハヤトが受け取る。剣を光に翳し、ハヤトは頷いた。
「道具がないならこれでいいか・・・」
そう言って懐からハンカチを取り出し、手早く剣を磨き上げていく。その手馴れた様子に、マグナがいたく感心した。
「ハヤトってそういうの凄いよなぁ。戦っても凄いし、手入れとかもよく知ってるしさー」
「そうでもないよ。このくらい、マグナだって覚えればすぐ出来るようになるって」
そう言いながら磨いている剣を見つめるハヤトの眼差しは、マグナの知っている朗らかな少年のものではなく、戦い慣れた戦士のそれに見えた。マグナは大きく溜息をついて、ベッドに寝転がる。
「あーあ、なんか羨ましいよなぁ。俺も強くなりたい。俺がもっと強かったら、ネスにだって迷惑かけないで済むのに・・・」
マグナの剣を鞘に収めながら、ハヤトが苦笑する。
「なんだよ、さっきそれでもいいんだってネスティと話してたんじゃなかったのか?」
「だってさ・・・ネスはそれでいいって言ってくれたけど、やっぱり出来れば迷惑はかけたくないじゃないか」
寝転がったのにすぐに起きあがって、膝を抱えてしまったマグナに、ハヤトは少し笑って自分の剣を取った。
「・・・ネスティは本当は迷惑だなんて思ってないと思うけどなぁ」
予想外の返答に、マグナが驚いて顔を上げる。
「え?」
「うーん、それもちょっと違うかな?何て言うのかな・・・確かに困らせるって意味では迷惑かけてるのかもしれないけど、でもそれをネスティは嫌だとは思ってないだろ?だったら、マグナが思ってるように迷惑だとは、ネスティは感じてないんじゃないかな」
向けられたハヤトの笑顔に少し考え込んで、それからマグナは横に首を振った。
「違うよ、ネスは優しいから嫌だなんて言わないだけだよ。きっと嫌だって思ってる」
「んなわけないだろ!?ネスティが優しいのなんてマグナにだけじゃないか!!」
「ええ?どういうことだよ?」
意味がわからず問い返したマグナの顔を、ハヤトがじっと見つめる。それからハヤトはプッと吹き出した。
「俺もよく皆から鈍感だ鈍感だって言われたけど・・・マグナは俺より鈍感だ!!」
「な、なんだよっ!俺鈍くなんかないぞっ!?」
「鈍いよ!にぶにぶだよ!!」
「鈍くな〜いっ!!」
大騒ぎしているマグナの居室のドアの外、普段夜分にこの部屋が大騒ぎしていたならば、迷わず踏み込んで怒鳴りつけているであろう青年が、顔を押さえて立ちすくんでいた。こころなしか、その頬は赤い。
「何を話しているんだ、何を・・・!」
早く床に就く様にと言いに来たのだが、中から自分の名が聞こえてきて、思わず入り損ねてしまったのがまずかった。とても中に入れる状況ではない。
「それにしても・・・ハヤトにあんなことを言われるとは・・・」
知り合って二日やそこらの少年に、こうも簡単に内面を捉まれるのはいただけない。ハヤトはマグナと同じく、単純なタイプだと思っていたが、その評価を少々修正しよう、とネスティは思った。
「・・・戻るか」
今部屋に入って、動揺を見られるのは尚更まずい。ネスティは自室に戻るため、踵を返した。
ネスはどうもハヤトに自分の内面を把握されたと思っているようですが、ハヤトが言いたかったのは本当は「ネスティはマグナを大事にしてるよな」って言うことだけだったりします。別にそれ以上のことを深読みなんて、これっぽっちもしていません(笑)。ハヤトもマグナに負けず劣らず鈍感なので、そんなことそうそう気がつかないです。この場合ハヤトは当事者ではなかったため、マグナよりよく見えてたってだけなんですね。それと・・・ハヤトの場合、相手が「ハヤトになら、迷惑をかけられるのだって嬉しいよ」なんて言うようなのを普段相手にしているので(笑)、無意識のうちにそう言う空気をネスから感じ取ったのかもしれません。
戻る