全くとんでもない約束をしたものだ、と我ながら思う。
メルギドスとの戦いから、僕が目を覚ますまでの間に、実に2年もの月日が経っていたらしい。
それほどの長い間、マグナを待たせていたことは、内心非常に申し訳なく思っている。本当に。
しかし、だ。
「マグナ」
「うん?」
「そろそろ放してくれ」
「ヤダ」
「僕は風呂に入りたいんだ」
「じゃ一緒に入る」
「君はその調子でトイレにまでついてくる気か?!」
「ついていくもん!」
マグナが張り付いて離れてくれないのだ。
軽く溜息をついて、マグナの背を撫でてやる。すると、マグナの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「ネス、ネスぅっ・・・もう、もういなくなったら、ヤダぁっ・・・」
小さな嗚咽と共に漏らされる言葉。その声から、この2年マグナがどんな思いをしていたかは、容易に想像がつく。そしてまた、僕自身・・・マグナにそうしてしがみつかれること自体は、嫌な気がしないから、突き放すに突き放せないのだ。
「もう、いなくなったりしないよ・・・約束する」
「うん・・・」
「必ず戻る、と言う約束だって、ちゃんと守っただろう?」
「うん・・・うん・・・、でも、でもっ!!」
僕にしがみつくマグナの手に、尚更力が込められた。
「ネスゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・」
マグナの瞳から後から後から涙が溢れ出す。
この涙は、嬉し涙ではない。僕の顔を見たことによって、逆に僕を失った時の衝撃を、思い出させてしまっているのだ。
無くしたものを取り戻したことによって、再び無くしてしまうのではないかと、怯えている。
「もう、泣くんじゃない」
指でマグナの涙をすくってやっても、マグナの嗚咽も溢れる涙も、一向に収まる気配はない。
泣かせたかった訳ではないのに。マグナの笑顔を、マグナの幸せを、マグナの愛するもの全てを守ってやりたかったから・・・メルギドスとの戦いも、命を落とすことすらも怖くはなかったというのに。
その所為でマグナをこんなにも泣かせてしまったのでは、何も意味が無い。
よくマグナを馬鹿だ馬鹿だと言ってきたが、本当に馬鹿なのは僕のほうなのかもしれなかった。
「泣かないでくれ・・・」
半分は祈りを込めて、そして半ばヤケクソで、僕はマグナの頬に触れ、上を向かせた。そしてそのまま、マグナの唇に僕の唇を重ねる。
「!!」
ヤケクソ、でした割には、その行為の効果はてきめんだった。マグナの嗚咽も涙もピタリと止まり、マグナは元々大きめの目を更に大きく見開いて僕を見つめている。
「泣くな。もう二度と、君の傍を離れたりはしないから・・・」
「ホント・・・?ネス、ホントに・・・?」
「ああ、約束する」
「ネスっ!!」
マグナが僕の首にしがみつく。僕もホッとしてマグナの背中を撫でた。少しは、気持ちが落ち着いたらしい。
「さあマグナ、離れるんだ。風呂に入る少しの間だけだから。そうすれば、ずっと一緒にいられる。今日だけじゃない、明日も、それから先もずっと一緒だ」
「うん・・・」
マグナが一度ぎゅっと強く抱きついた後、名残惜しそうに腕を外していく。その途中で、マグナがはたと思い当ったように顔を上げた。
「ネス、あのさ、さっきみたいにもう1回してよ」
「ん?」
さっき、とは・・・?
「キス」
僕は一瞬にして顔が熱くなるのを感じた。
「き、君は馬鹿かーーーっ?!」
「だって、さっきはしてくれただろ?」
「あ、あ、あ、あれは君が中々泣き止まないからっ・・・非常事態でっ・・・・」
しどろもどろで言い訳する僕に、マグナがひどく悲しそうな顔になる。
そんな表情するんじゃない!断れなくなってしまうじゃないか!!
「ダメ・・・なの、か?」
目に涙を溜めるな!ああ、折角泣き止ませたというのに・・・。
「あ、ああいうのは一日一回だ!」
マグナを泣かせまい、と焦って口走ってしまった言葉に、僕は慌てて口を押さえた。
何を言ってるんだ僕は?!それじゃ一日一回ならすると言ってるようなものじゃないか!!
しかし、マグナの反応は更に僕の予想を超えていた。
「えーーーーっ!?少ないよ!!」
す、少ないだって?!
「せめて3回だよ!」
「だ、駄目だ!一回だ!」
違う!一回とか三回とか言う問題じゃない!!
「何でだよ?!薬だって一日三回飲まなきゃ駄目だって、ネス言ってたじゃないか!!」
「薬の話をしているんじゃないだろう!大体何処から薬が出てきたんだ?!」
「だって、だってっ・・・・・・!ネス、何でそんなに嫌がるんだよぉ・・・」
その後結局、じわりと再びマグナの目に浮かんだ涙に、僕は全面的に敗北する羽目になった。
「分かった!分かったからもう泣くんじゃない!3回だからな?!」
『一日三回キスをする』と言う約束を、してしまったのだ。
「ネ〜スっ。ネスぅ。ネースーぅ?」
マグナが本を読んでいる僕の膝にまとわりついて、僕の顔を覗きこんでくる。こういうとき、マグナがねだっているものは決まっている。
「キス、しよ?」
下から覗き込んでくるその仕種が、一体どれ程僕の理性をすり減らすのか、分かっているのかいないのか。
マグナの後頭部に手を当てて、押し当てるように唇を重ねる。それだけですぐに唇を離すと、マグナは不満げに唇を尖らせた。
「ええ〜〜っ!今ので一回だろ?!もったいないよ!!」
「もっ・・・。もったいない訳はないだろう?有限なわけじゃない。一晩眠れば・・・」
「もったいないの!ちゃんとしてよ」
僕の言葉を遮って、マグナが僕の膝に乗ってくる。僕は観念して眼鏡を外し、深く唇を重ねた。舌で口を開けさせ、自分からキスをねだった割には、おずおずと差し出される舌を絡め取る。
「んっ・・・んふっ、ん、ん・・・・」
マグナの口の端からしどけない声が漏れ始め、舌をきつく吸い上げると僕の肩にかけられた指に力が篭った。
そろそろいいかと思い、ちゅぱ、と小さな音を立てて唇を離す。するとマグナは潤んだ瞳をうっすらと開けて僕を見つめた。濡れた唇が、小さな声を紡ぎ出す。
「もっと・・・」
・・・有限なのは、僕の理性の方だ。
掻き毟るようにマグナを引き寄せ、先程よりも更に深く唇を重ねる。
「ふっ!!んん、んう・・・・う、ん・・・・・」
このまま抱いて、マグナを自分の物にしてしまいたいという欲望と、二度とマグナを傷つけたくない、泣かせたくないという理性が僕の中で激しくせめぎあう。その思いをぶつけるかのように、激しくマグナの唇を貪った。
「んふっ!!は・・・・あ・・・・」
ようやく唇を離すと、マグナは満足したように僕の肩に顔を伏せた。今日のところは、何とか理性の勝利だ。薄氷の勝利、と言ったところではあるが。
「ネスぅ」
「何だ」
こういう時は、余裕が無い分殊更素っ気無い返事をしてしまう。だが、マグナの背に回した手を、どうしても放す気にはなれない。しかしマグナはそんなことは気にしていないようだった。
「あのね・・・ネスのキスって、俺のクスリなんだ」
突然妙なことを言い出したマグナに、僕は少し身体を離してマグナの顔を覗き込む。マグナは、微笑んでいるようだった。
「薬?」
「うん。俺、まだ時々・・・またネスが急に何処かに行っちゃうんじゃないか・・・って、不安になるんだ。そうなると、もう怖くって、苦しくって・・・。でも、そんな時にネスにキスしてもらうと、ああ、大丈夫、ネスはここにいる・・・って、ずっと一緒にいるって思えて、怖くなくなるんだ。だから・・・ネスのキスは、俺のクスリ」
そう言うと、マグナはそれは綺麗に微笑んだ。どれ程苦労しようとも、辛い目に合おうとも、汚されること無い純真な微笑み。その表情に思わず見惚れてしまってから、僕は照れ隠しに眼鏡をかけなおす。
「全く、君は・・・・」
「うん?」
「・・・何でも無い」
そんな顔してそんなことを言われてしまったら、僕はこの薄氷の理性の上を渡りつづけるしか、ないじゃないか。
うわあ!これうちのサイト初のまともなネスマグ小説だ!!(笑)
これで「リナさんのとこはサモ1のサイト」って言われなくて済む!(ぉぃ)
今まで2の小説、ろくなの無かったですしね。あってもリンカールートだったり。
にしてもやっぱりネスマグは難しいです。うちのネスは「キング・オブ・ヘタレ」なので、ものすっごーーーーく、がんばらせないと話がとてもまとまりません。今回は、押しがかなり強いワガママめなマグナに相当助けられてます(笑)
設定的には、初めてのちゅう(笑)はネスが帰還した当日二人きりになってから(だってアメルはラブシーンにはかなり邪魔です/死)で、べろちゅうはその1週間後くらいのネスがもう限界に来てる(笑)あたりです。
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