「何やお前。今日も来たんか」
少し迷惑そうにも見える表情の前園に、御幸はへらっと笑った。
「そう言うなよ。監督のノックで潰れてるかと思いきや、普通に人の部屋占領してるんだもんよ、あの人たち」
「また1年を生贄にしてきたんか?」
「いや、それがさ。集まったはいいけど、やっぱ疲れてたみたいで、皆して居眠りし始めて。起こすわけにもいかねーわ、俺の寝る場所ねーわで」
「で、逃げてきたわけか」
「おー、中田が毛布かけて回ってる間にこそっとな」
シシシ、と笑った御幸に、前園が溜息をつく。
「ちゅーことはお前、今日は中田に押し付けて逃げてきたってことやろ?ったく・・・・・・」
「まーまー、寝てる人間の相手ならそう困ることもないだろ?・・・・・・ん?そういや小湊弟は?」
「なんやお前、何か用があるんか?」
「用って訳じゃなくて、おにーさんが遊んでやろうかと思ってさ♪」
御幸は沢村や降谷はピッチャーなこともあってよく相手をしていたが、1軍に上がった1年のなかでは春市にだけはあまり係わり合いを持ったことがない。いい機会だし、少しばかり話でもしようかと思ったのだが。
「もう寝とるわ」
「ええ!! 早いだろ!!」
「監督のノック見て、思うとこがあったんやろ。へろへろのくせに、俺が自主トレやってるとこに来たから、一緒にやって戻ってきたんや」
「はっは〜・・・・・・」
ベットの下段を見れば、こんもりと小さなふくらみがある。
「流石に今のコイツには、それはオーバーワークじゃねーの?」
「コイツの気持ちは分からんでもなかったから、怪我だけはせんように、とは見とったけどな。あの先輩たち見て平気でいられるような奴、男やない」
御幸がベッドの下段に身を乗り出して覗き込むと、すうすうと小さな寝息が聞こえた。確かに寝ている。
「ふぅん。ま、なりは可愛らしいかんじだけどな、小湊弟。まだまだ中学生の身体だ」
「だからこそ、もっと強くなりたいんやろ?」
「そりゃまあそうだな」
と、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「はい?」
「俺だけど。春市居る?」
「亮介さん!?」
聞こえた声に、近くにいた前園が慌ててドアを開ける。
「どうしたんすか? アイツもう寝てますよ?」
「そうなの? ま、いいや。入らせてもらうよ」
紙袋を手に持っている亮介が、ずかずかと部屋に入ってきた。
「ほんとに寝てる。寝るの早すぎ、気楽なもんだね」
「いやいや、ちゃいますって! 練習の後、俺と一緒に自主トレやってきたんすよ!」
「自主トレ?」
「ちょっと思いつめたような顔しとりましたし。ただ寝とるわけやないんです」
春市を庇うような発言をした前園を亮介が見やる。それから春市の寝ているベッドのへりに腰を下ろした。
「監督のノックが始まる前に、もうへろへろになってたくせに。馬鹿だね」
亮介が手を伸ばし、そっと春市の頭を撫でる。
その様子を見ながら御幸と前園が視線を交わすと、亮介は突然手を振り上げ、春市の頭を叩いた。
「痛っ!! 何すんの兄貴!?」
「寝たフリしてんじゃねーよ!! 馬鹿春市!!」
飛び起きた春市に御幸はぎょっとする。
「寝たふり!? 寝てなかったのかよお前!?」
「ね、寝付けなかったからただ横になってたんですけど。途中で、起きるに起きれなくなったっていうか・・・・・・。でも、兄貴よく分かったね」
「お前の寝たふりは、俺には分かるんだよ! ほら!」
亮介が手に持っていた紙袋を春市に突きつけた。
「え、なにこれ?」
「母さんから送られてきた荷物の中に、お前宛のも入ってたんだよ! 用はそれだけ! じゃあな!」
亮介が肩を怒らせて部屋を出て行く。それを唖然と見送り、御幸と前園は顔を見合わせた。
「美しい兄弟愛なのかなんなのか・・・・・・」
「亮介さんって、ツンデレなんか?」
「弟相手に? つか、今のはどっちかっつーとデレツンじゃね?」


小湊兄弟を書きたくて、18号(2007/4/4発売分)発売前に書いていたら、18号の内容とばっちしぶち当たったSSです。 orz
設定的には「先輩と後輩」の続きのつもりで書いてました。それとコレをあわせると、見事なほど18号の内容と被りますあははははは。
1軍の練習にずっと付き合ってるということは、自分の練習が出来ていないわけで、それに1軍に追いつきたかったら1軍の人間より多くの練習をしなくちゃいけないのは当たり前。だから、ゾノは絶対合宿中に自主トレやってるな、と思ってたんですよね。

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