「あ、北見の携帯置きっぱなし・・・」
テルの視線の先にあるもの。それは北見の机の上に置かれた携帯電話。
「この前中見ようとしたらスッゲー怒られたんだよなぁ」
この前、というのは北見の自宅に遊びに行ったときだ。興味本位で手に取ったら、物凄い勢いで取り上げられた挙句、拳骨を落とされ、説教までされた。


「貴様はプライバシーという言葉すら知らんのか?!」
「なんだよちょっとだけ触っただけじゃん!!そこまで怒ること無いだろ?!」
「兎に角これには触るな!!」
「何でそんなに嫌がるんだよ?!俺に見られちゃまずいことでもやってんじゃないだろうな?!」
「貴様言うに事欠いてっ・・・!!俺が信用できんとでも言うのか?!」


ケンカになったことまで思い出して、テルは思いっきり溜息をついた。
せっかく次の日は休みだったのに、収拾のつかないようなケンカになってしまい、あの日はさっさと帰ってしまった。
そういえば、あれ以来未だにギクシャクしている。一応次の日にはお互い冷静になって謝りあったが・・・テルの中には、北見を疑う気持ちが残ってしまったのだった。
(大体さぁ・・・俺達一応付き合ってるんだから、いくらプライバシーって言ったってあんなに怒らなくてもいいんじゃねー?)
まるで何かを必死で隠しているようにしか見えなかった。まるで浮気の証拠でも入っていそうなほど・・・
「・・・っ」
疑いたくて疑ってるわけじゃない。信じたいからこそ、確かめたいのだ。
矢も盾もたまらなくなって、北見の携帯に手を伸ばす。幸い今は昼休みで、医局には誰もいない。
携帯を開け、電源を入れる。
数秒後、その画面に現れたのは・・・
「って、え?!」
その画面に呆然と見入ると、医局のドアが開けられた。
「テル!!お前何やってるっ?!」
「うわ、やべっ」
医局に入ってきた北見が、瞬時にテルの行動を見咎め、駆け寄ってくる。携帯を取り上げられ、思いっきり拳骨を食らった。
「ってーーーーー!!」
「貴様ッアレほどこれには触るなとっ・・・!!」
傷みに目に涙を浮かべながら北見を見上げる。怒鳴っている北見の顔は赤かった。
「もしかして、その待ちうけを見られたくなくて怒ってたのか・・・?」
「・・・っ!!」
北見の携帯の待ちうけ画面は、テルの寝顔だった。
「大体あんな写真いつ撮ったんだよ?!俺アンタにカメラ向けられたことねーぞ?!」
「煩い!!だから見られたくなかったんだッ・・・」
滅多なことでは取り乱さない北見が、自分の為に赤い顔をしてそっぽを向いている。
なんだかそれが嬉しかった。
「・・・あのさあ」
「何だ?!」
怒った口調も、単なる照れ隠しだというのがはっきり分かる。
テルは少し迷った後、自分の携帯を取り出して電源を入れた。それを北見に差し出す。
「俺の待ちうけは、コレ」
そこに表示されたのは、ぶっちょうずらの北見の顔。嫌がる北見を、なんとかなだめすかして一回だけ写真を撮ったときのものだ。
「・・・お前・・・」
「コレでおあいこ、だろ?」
北見の顔を覗きこんで見上げると、北見は額を押さえた。
(あれ?嫌だったのかな?)
テルとしては北見の携帯の待ち受けが自分だったのは、凄く嬉しかったのだが。
「どうしてお前はっ・・・」
「北見?・・・っ」
次の瞬間、テルは北見に思いっきり抱きすくめられ、唇を重ねられた。

う・・・わ・・・どうしようただのバカップルにっ・・・。
画像が寝顔だった理由は、「写真撮らせてくれ」とどうしても言い出せなくてこっそり寝顔を撮ったから。

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