「ああ、そうだ」
食事の材料を買おうと思って立ち寄った大型デパートで、四宮はふとあることを思い立って立ち止まった。
このデパートは、大型スーパーとデパートが一体になった店舗で、四宮がよく立ち寄るブランド服の小売店も入っていたし、他にも家電製品から本や食材まで大抵のものは揃うため、しょっちゅう利用していた。
四宮が立ち止まったのは、四宮がよく服を買う、紳士服ブランドの前。
別に四宮自身は現在新しい服は必要ない。だが、自分の物ではなく、彼のシャツが必要だと思っていたところだった。
(・・・何色がいいかな)
「いらっしゃいませ〜!」
店舗スペース内に足を踏み入れた四宮に、店員が愛想良く声をかけた。
「テル先生、これ」
いつものように四宮の自宅を訪れたテルに、先日買ったシャツを差し出すと、テルは不思議そうに首をかしげた。
「何、コレ?」
「キミのシャツだよ。ネクタイと下着もある。買っておいたから」
「へ?!な、何で?!」
「何で、って、キミ、僕のシャツを着るのは嫌なんだろ?」
実は先日、テルが四宮の家に泊まった次の日に、前日と同じ格好で病院に出るわけには行かないというので四宮のシャツをテルに貸したのだ。
が、目ざとい水島にそのシャツが四宮のものだと気づかれ、大騒ぎされた。
以来テルは『前日と同じ格好で出勤は出来ない、でも四宮のシャツは借りない』といって、どれほど遅い時間になろうとも四宮の家に泊まらなくなってしまったのだ。
それこそ、コトに至ったその後でさえ、である。
四宮としては、した後は抱き枕になって欲しいし(そんなことを本人に言ったら「俺は枕じゃない!!」と怒りそうではあるが・・・)、あまつさえあわよくばもう1回・・・と考えているわけで、非常に現状は好ましくない状態なのだ。
「僕はそのシャツは着ないから、僕の家に泊まったときはそれを着ていけばいい。その日着ていたシャツは洗っておくから、次に来たときには今度はそっちを着ればいいだろ?」
「あ、そっか。それなら・・・。で、でもいいのかよ?!コレ結構高かったんじゃないのか?」
「構わないよ」
キミが、僕の家に泊まってくれなくなるくらいなら。そう心の中で付け足して、四宮は言葉を続けた。
「シャツもネクタイも3着づつ買って置いたから、ローテーションとしても問題ないだろ。サイズも君に合わせた」
四宮もあまり身長が高い方ではないが、それでもテルとは7cm身長が違う。7cmも違えば、当然シャツのサイズも1サイズは違うのだ。
「マジでいいのかよ〜・・・。なぁ、開けてもいい?」
「ご自由に。もうキミのものだからね」
嬉々として包装を破るテルを、不思議に幸せな気分で眺める。
テルのシャツを選んでいる間も、こんな気分だった。
大切な誰かが喜ぶ姿を想像して物を選ぶという時間が、あんなにも幸せなものだとは思いもしなかったのだ。
テルが自宅に泊まってくれるようになる・・・という分を除いても、それだけでも充分有用な投資だったと思う。
テルが着ていたシャツを脱ぎ散らかして、新しいシャツに袖を通している。
前をはだけたまま、袖口に頬ずりしている姿に、思わず苦笑がこぼれた。
「やっぱすっげーさわり心地いいなー。これ絶対俺がいつも着てる奴の三倍くらいの値段するだろ?!四宮のシャツ借りたときも思ったけど、触った感じがもう全然違うんだよな」
「前にそう言ってたから、いつも僕がシャツを買う店で買ったんだけどね。気に入った?」
「もちろん!!ありがとな!!」
満面の笑みで礼を言うテルに笑顔で近づき、腰を強く抱き寄せると、バランスを崩したテルが四宮の腕の中に飛び込んできた。
「う、うわっ?!四宮?」
「じゃあ、今日は泊まっていくよね?」
「え?あ、えっと、ああ、その・・・」
赤くなってもごもご言い出したテルに、はだけたシャツの内側に手を滑り込ませ、ゆっくりとわき腹をなで上げる。
「ひゃあ?!」
「まあ、選ばせる気はないんだけどね」
「え、えっ??」
わき腹を撫でていた手を上に滑らせ、シャツの肩をはだけさせる。あらわになった肩に唇を落としながら、四宮は含み笑いで囁いた。
「今夜は、帰さないよ?」
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