どきどきする。



自分の気持ちに気がついたのは、四英会の件があったとき。
四宮が、ヴァルハラから居なくなるかも知れないって思ったら、居ても立っても居られなくなった。
顔をあわせれば喧嘩ばっかりするというのに、どうしてそんな気持ちになったのか?
一度自分に疑問を持ったら、答えは簡単に出た。
どうして売られた喧嘩を買わずに居られないのか。
どうしてあんなにアイツのことが気になるのか。
ライバルだから、だけじゃない。


自分が医者になった理由。それは父に認められたいから、ただそれだけだった。
その為に必死でがんばってきた。
学校の成績では首位を他人に譲ったことはないし、技術だってずいぶん学んだ。
ヴァルハラの門を叩いたのだって、技術を求めたからだったはずなのに。
自分はどうして「戻れ」という父の命令に逆らったのか?
理由は分かっている。自分とは正反対の、あの馬鹿のせいだ。
自分が彼に惹かれているのは気づいていた。けれど、飽くまでこの場限りの微かな感情のつもりで居た。
いずれ自分はここを離れるのだから、本気で惹かれることなどあってはならない。
ここを離れる時には、簡単に振り切れる程度の感情だったはずだった。
なのに、「戻れ」と言われたときに、自分は迷った。
迷いは時を追うにつれ確信に変わる。
もう、彼から離れるなんて自分には考えられないんだ、ということを。


(あ、また・・・)
何故か最近、やたらと四宮と目が合う。
それも、チラッと目があってすぐに視線を逸らすような感じじゃない。
目が合ってしまうと、なんだか目が逸らせなくなって・・・


あの兄がやってきたときの一件以来、テル先生と、頻繁に目が合うようになった。
けれど、その時のことを気にしている様子ではない。
何故、そんな何かを求めるような瞳で僕を見るんだ?
そんな表情で見つめられたら、目が逸らせなくなる・・・



まるで、視線が絡み合ってるような気がする。



今日の仕事ももうじき終わる。
窓からオレンジ色に染まった空を見ながら、今日も沢山四宮と目が合ったなぁ、と思った。
どうしてそんなに俺のことを見てるのか、聞いてみたいのにずっと聞けないでいる。
今日もまた、聞けないまま一日が終わりそうだな、なんて。
四宮のことを考えながら階段を昇っていたら、上から四宮が降りてきた。
ハッとして四宮を見てしまったら、思いっきり目が合った。
つい立ち止まってしまったら、四宮も立ち止まった。


どうして立ち止まってしまったんだろう。
目が合っても立ち止まらなければ、こんな気まずいことにならなかったのに。
医局や、ナースステーションなどの人の多い場所なら、・・・普段なら全くありがたくない話だが、テル先生に声をかけようとする奴はごまんといる。
視線が絡んでしまっても、誰かにすぐ話しかけられて目が逸らされるというのに。
こんな、人があまりこない場所でみつめあってしまったら、気まずいことこの上ない。
自分の鼓動が、次第に速くなってきたのを感じる。
沈黙さえ破ってしまえば、この気まずさは幾分解消される筈だと分かっているのに、喉の奥に引っかかって言葉が出てこない。
僕が躊躇っていると、テル先生が口を開いた。


「何でお前・・・いつもそうやって、俺のことじろじろ見てるんだ?」
「・・・何いってるのさ?いつも僕を見てるのは、君の方だろ?」
「んなことねーって!!絶対見てる!!」
「違うね。見てるのは君の方だ」
「違わないっての!!今日だっていっぱい目ぇ合ったじゃねーか!!」
「あのね・・・それ自分で言ってておかしいと思わないのかい?
そもそも目が合うって言うのは、どちらか一方が見てるだけじゃ成立しな・・・」
途中で言葉を切った四宮が、自分の言葉を反芻する。テルもその意味に気がついて目を大きく見開いた。


片方だけが見つめていたなら、目は合わない。
やたらと目が合うのは、相手だけが自分を見ているからじゃなくて。
自分も無意識のうちに、相手を目で追っているせい。


そんなことにすら気づかないほど、自分は相手に夢中だったのか、と互いに赤面する。
気づかないで常に相手を目で追ってしまうほど。
目を逸らすことも出来ないほど。


そしてそれが、恐らく自分だけではない、ということも、四宮は気づいた。


「・・・テル先生」
「うひゃっ?!は、ハイ?!」
半ばパニック状態で物思いに耽っていたテルを、現実に引き戻したのは、四宮が呼ぶ声だった。
「今日はもう仕事が終わる時間だけど・・・」
「う、うん」
「何か、予定ある?」
「いや、特にねーけど・・・」
「じゃあ、一緒に飲みに行かないかい?・・・二人で」
頬を染めながらこくりと頷いたテルに、四宮は微笑んだ。
ゆっくりとテルに歩み寄り、赤い顔を覗き込めば、二人の視線が絡まる。
「あ・・・」
たじろいだテルの頬に四宮が触れ、そのままそっと唇を重ねた。





しまった・・・お題は「絡める」だった筈なのにテーマが「絡まる」になっちゃってるよ・・・○| ̄|_



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