「だぁぁぁぁ〜はーなーせーーー!!降ろせよっ!!」
「煩いな、今何時だと思ってるんだい?」
「うっ・・・お、お前が騒がせるようなことするからじゃねーか!」
「いいから怪我人はおとなしくしてなよ」
何だってよりにもよって深夜に。
しかも当直の日に。
おまけに一緒の当直が四宮の時に。
俺は足なんか怪我したんだ。
テルは激しく後悔した。
「全く、オペの練習しててメスを取り落として足を怪我するなんて、外科医のやることじゃないね」
「うるせー!」
「うるさいのは君だよ。皆もうとっくに寝静まってるんだからね?」
「うぅ〜」
「大体もう少し自分がドジなことを自覚したら?練習するのに無理に器具を使う必要なんてないじゃないか。君みたいなドジ、どうせすぐに器具を取り落とすの分かりきってるんだから」
いつもどおり四宮の毒舌は情け容赦ない。しかし反論しようにも四宮に抱き上げられて運ばれている現状では、反論もあまり効果がない。
「放っとけよ!もう大丈夫だから降ろせって!」
「6針縫ってあの出血で『もう大丈夫』?君本当に医者なんだろうね?」
「う・・・」
「しかも夜間で人数の少ないナースに知られて迷惑かけたくないから黙っててくれとかいって、僕に床の血を拭かせたりしておいて、『放っておけ?』
ストレッチャーで運んでは音がうるさくて周りが気づくだろうと、この僕が気を使ってわざわざ運んでやってるのに、『放っておけ』だって?」
あからさまに不機嫌な表情になってきた四宮に、危険を感じる。このまま本気で怒らせたら、どんな嫌がらせを受けるかわかったものではない。
「このままナースステーションまで運んであげようか?」
否、既に怒らせかけている。本気でそんなことされたらたまったものではない。・・・が、怒った四宮ならやりかねない・・・。
「いや、あの、だから・・・その、お前に迷惑かけたくないなって、な?その、四宮?」
なんとか機嫌を取ろうと、上目遣いで四宮を見上げる。四宮は不機嫌そうに細めた目でテルを見下ろした。
「とっくに迷惑なんてかけられてるんだけど?」
「あう・・・」
ふーーーっと大きく溜息をついて、言い争いながらも休むことなく進んでいた歩みを止め、四宮が腕の中のテルを見る。
「本っっっ当に、歩けるんだろうね?」
こくこくとテルが頷くと、四宮はゆっくりとテルを降ろした。ようやく四宮にお姫様抱っこをされているという、非常に不本意な状況から抜け出し、テルはこっそりと安堵の溜息を漏らした。四宮の肩に掴まりながら、何とか立ちあがる。
「いや、ホント悪かったって。今度なんかおごるから機嫌直せよ」
「君におごられるほど落ちぶれちゃいないよ」
「っかーーーっ!!可愛くなっ・・・?!」
四宮の憎まれ口に反応して、勢いよく上体を起こすと、世界がぐるりと回った。
「あ・・・れっ・・・?!」
ひっくり返りそうになったところを、予想していたかのような四宮の腕がテルを抱き留める。
「せ、世界が回る・・・」
「あれだけ出血したんだ、当然だろ?完璧に貧血だね」
四宮の腕に抱えられたまま、その肩に額を押し当てて少し我慢してみる。しかし、一向に眩暈は治まらない。
「・・・で?」
「へ?で、って?」
「そんな立ってもいられないような状態で、君はどうやって医局まで戻る気なんだい?」
「・・・。」
「・・・。」
四宮の肩に頭を乗せたまま、超至近距離でにらみ合う。こんなとき、たった7cmの身長差が何だか憎い。
「・・・スンマセン、大人しくしてるから医局まで連れてってくださいッ!!」
「最初からそうやって素直にしていればいいんだよ。・・・ほら、掴まれよ」
「うぅ〜〜っっっ・・・」
非常に不本意だが、今回ばかりはしかたがない。大人しく抱き上げられ、四宮の首に手を回す。
「なあ、四宮」
「なんだい?」
何だか急に上機嫌になった四宮に、テルは最後の抵抗を試みる。
「その、せめておんぶとかで運んでもらえねーかなぁ?その、抱っこってのはちょっと・・・」
「嫌だね」
「なんでだよ?!」
「そんなことしたら僕が楽しくないじゃないか」
「・・・?」
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