※注:この話はやや大人向けです。エロ苦手な人はお気をつけて下さい。









北見がシャワーを浴びて戻ると、テルは既に夢の中へ旅立っていた。
「眠ったか・・・」
情事をしたままの身体で眠るのは気持ち悪いからシャワーを浴びたいと先刻は言っていたが、疲れと眠気には勝てなかったのだろう。
隣に眠るテルを起こさないよう、静かにベッドに潜り込む。
シャワーを浴びに行く前にシーツを替えて置いて正解だったな、と思いながらテルに布団をかけなおした。
すやすやと気持ち良さそうに眠っているテルは、まるで子供の寝顔である。この寝顔からは、肌を合わせている時の姿はとても想像できない。
「・・・まあ、外見だけではなく、頭の中身も子供だがな、お前は・・・」
テルはまるで、まだ熟していない青い果実のようだと思う。
見た目は成長した大きさでも、中身は全くといっていいほど成熟しておらず、青臭い。
ゆっくりと前髪を指ですいてやると、テルは一瞬くすぐったそうに眉をひそめたが、目は覚まさなかった。
今のテルと自分との関係は、何も知らない子供を騙していいようにしているようなものだと思っている。
テルに想いを告げた後、テルからはっきりした返事も無いまま身体を重ねるようになった。
もう数え切れないほどの情事を行ったが、一度もテルから想いを聞いたことは無かった。
何度触れ合おうとも、何度身体を重ねようとも、一向に距離は縮まらない。
少なくとも嫌われてはいないだろうが、自分がテルに感じているような想いはおそらくテルのほうは持ってはいまい。
成長すればいずれそう言った感情も持つようになるかもしれないが、だからと言ってそれを待つ気にはなれなかった。
テルが何時か恋愛感情を知ったとき、その相手が自分であるだなどと一体誰が言いきれるというのか。
何時かテルの想う相手が、自分であればいい、と願っている。
自分であったならば、可能な限り早くそれに気づいて欲しい。
もしも自分以外の相手に恋をするのであれば、その日が出きる限り遅く来れば良いのに。
まるで相反するかのような都合の良い望みに、自分で苦笑する。
自分がずるいのは百も承知。だからこそ、どうしても思いきり抱き締めきれないでいる。
「・・・テル・・・」
引け目に感じる気持ちが、どうしても情事の最中以外にはキスできないと言う行動に繋がっていた。
テルが眠っていることを再度確かめて、北見は愛しい青い果実にそっと唇を触れさせた。



「俺眠っちゃったんだー・・・」
シャワーを借りようと思って、北見が使い終わるのを待っている間に眠ってしまったらしい。
テルが目を覚ました時には、既に隣に北見が眠っていた。
時計の秒針が刻まれる音と、クーラーの駆動音、そして北見の吐息の音だけが響く部屋は、闇に包まれている。時計は自分の位置からは見えないが、起き出すような時間ではないことは推測できた。
「シャワーはもういいか・・・」
水音で北見を起こしてしまうのは嫌だったし、布団から出る気にもなれない。クーラーが効いている部屋の中では、隣に眠る北見の体温が心地よかった。
ゆっくりと少しだけ身体を起こして、北見の顔を覗きこむ。眠っている北見の頬に手を伸ばして、指先を触れさせた。
「何で・・・俺がいいなんて言うんだよ・・・?」
眠っている北見からの返事は、勿論ない。触れた指先をゆっくりと滑らせて、今度は手のひらで北見の頬に触る。
別段手入れなど特にしているわけでも無さそうなのに、北見は滑らかな肌をしている。そう思ってみていたが、改めて触れてみると尚更それを実感した。
美形で、身長が高くて足が長くて肌もキレイで、金持ちでゴッドハンドな外科医で、女にももてる。そのくせに、北見はテルがいいと言うのだ。
最初、そう言われたときは戸惑った。けれど、プライベートな時間を一緒に過ごすことが多くなるにつれて、自分が大事にされていることを感じ取れるようになった。
気がついた時にはもう、自分も北見のことをとっくに好きになった後だった。
「けどなぁ・・・」
最近気がついたのは、どうも北見はまだテルに好かれていると気がついていないらしいと言うことだ。
他のことならば、どんなに頑張って隠し事したってすぐに気がつくくせに、なんだって一番分かって欲しい肝心なことが分からないのか。
頬に触れた手を滑らせて、今度は北見の髪に触れる。指通りのいい、さらさらの髪を指で梳くのは気持ちいい。
髪を梳きながら、じっくりと北見の寝顔をのぞき込む。
何度か北見に好きだと言おうかと思ったことがある。
だが、しかし。
「あーーーーーもう畜生!!今更言えるかよ馬鹿ッ!!」
照れくさくていざとなるとどうしても言葉にならないのだ。
「うー・・・ちょっと練習しようかな・・・」
北見が眠っている今なら、起きている北見に面と向かって言うより全然マシなはずだ。
すーはー、すーはー、と深呼吸して、じっと北見の顔を見つめる。
「俺・・・俺、北見のコト・・・スッ・・・」
そこから先がどうしても出てこなくて、テルは赤面した。
「やっぱり今更好きだなんて言えないっつーのーーーっ!!」
眠ってる北見に一人で真っ赤になってるなんて自分でも馬鹿らしいとは思うが、どうにも出来ない。
「も、もっかい・・・もう一回だ・・・」
大きく深呼吸して、きゅっと唇を結ぶ。
「す・・・・す・・・・す・・・・・・・・・・っ」
先刻と同じ結果に陥り、テルはがっくりと肩を落とした。
「・・・無理・・・」
どうあがいても面と向かって告白は無理そうだ。別な手段を考えた方がいいかもしれない。
「・・・にしても北見、起きねぇなー・・・」
さっきから触ったり大きな声を出したりしているのに、北見は一向に目を覚ます気配はない。
「そんだけ疲れてるってことかなー?」
北見の顔を再度覗きこむが、やはり北見は眠っている。
ふとあることを思いついて、テルは首をかしげた。
「こんだけやって起きないってことは・・・この位したって、目覚まさないよな・・・?」
小さな声で、自分を勇気付けるように確認する。
そして、テルはそっと北見の唇に自分の唇を押し当てた。
「−−−っ!!やっちゃったよオレッ」
次の瞬間、耳まで真っ赤になったテルは、頭まで布団の中にもぐり込んだ。




数分後、聞こえてきたテルの規則正しい寝息の横で、北見は自分の唇に指で触れて赤面した。
本当はずっと起きていたのだが、つい寝たふりをしてしまったら、起きるに起きられない状態になってしまった。
何度か飛び起きて組み敷こうかと思ったが、寝たふりをしていたことがばれたら拗ねられることは目に見えている。そう思って我慢していたら、どんどん起きるわけにいかない状態に陥り、とどめはアレである。
(本当に、予測のつかない行動ばかりとりやがる・・・)
告白の練習をしたり、眠っている(ことになっている)北見にキスしてみたり。
薄めで覗き見たテルの顔は、耳まで真っ赤になっていて本当に可愛らしかった。
「・・・とりあえずは明日の朝、か」
まず手始めに、おはようのキスでもしてみようか。



まだまだ青いとばかり思っていた果実は、とうに真っ赤に熟れていたらしい。





途中まで痛い系の話かと思いきや、突然ラブラブに(笑)
いや、テルって痛い系が似合わないと思うもんで・・・


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