Sympathy
ヴァルハラの近くにある中学校から、健康診断の医師を派遣して欲しいとの依頼があり、輝と二人でその中学校に向かうことになった。
その中学校が毎年健康診断を頼んでいた自営業の医師が、胃潰瘍で倒れてヴァルハラに入院したのだ。そのせいで急に話がヴァルハラにお鉢が回ってきた。
医者の不養生なんて、輝くらいにしか当てはまらないのではないかと思っていたが、そうでもないらしい。
だが、最近その医者は四英会の攻撃に悩んでいたらしい、なんてウワサを耳にはさんでしまっては、四宮には断ることはできなかった。むしろ、この話が四英会の方に行かなくて良かったとも言える。
院長が四宮に行くように命じたのも、他の人間を行かせれば逆に四宮が気に病むであろうことを配慮した故だろう。
「・・・で、何で一緒に来るのが君なんだろうね?」
「ああ?なんだよ?」
横にいた輝が四宮を振り返る。
「普通健康診断って内科の仕事だろ?何でキミが来てるのさ」
事実、健康診断を頼まれたときは、院長は「もう一人は内科の医師を行かせるから」と言っていた気がしたが。
「ああ、それは俺が行きたいって言ったからだよ」
「はぁ?!何でまた!?」
輝を振り返ると、輝は困ったように頭を掻いた。
「あ、いや・・・い、行きたかったからだよっ!!」
その顔に『嘘です』と書いてあるのは四宮には簡単に見て取れたが、面倒だったのであえて追求はしないことにした。どうせ輝のことだ、大層な理由ではないだろう。
「・・・はぁ。」
会話をそこで切ってため息をつく。
自分はヴァルハラに居ても良いのだろうか。四瑛会のことを考えたとき、常にその思いが最初に出てくる。
ヴァルハラが四瑛会に狙われているのは、間違いなく自分が原因の一端を担っているのだ。
隣に居るバカを筆頭に、お人よしばかりが揃っているヴァルハラの人間にその疑問を問えば、間違いなく「ヴァルハラに居ろ」という返事が戻ってくるのは分かっている。
けれど、既にコトはヴァルハラだけではなく、今回のように地域全ての病院に及んでしまっているのだ。
その中で自分だけヴァルハラの中でのうのうと過ごしていて良いのだとはどうしても思えない。
しかしどうせ自分が四瑛会に戻ったところで四瑛会の攻撃が止むことはないだろうというのも分かっている。
それも分かってしまっているだけに、悩みは深まるばかりだった。
「・・・あのさ、四宮」
突然声を掛けられて振り返ると、輝が心配そうに四宮を見ていた。
「お前さ・・・あんま、気にすんなよ?」
輝の言葉にはたと思い当たる。胃潰瘍の原因の噂を耳にしたとき、隣には輝が居たのだ。
「・・・キミに心配されるほど落ちぶれちゃいないよ」
「な、なんだよっ!!」
「大体キミ、逆位の手術のときにも余計な心配し過ぎだって怒られたんじゃなかったかい?」
「う・・・」
このおせっかい。暗にそういう意味を含ませて嫌味を言えば、輝はうつむいた。
「わ・・・悪かったなっ!!もういいよっ!!」
肩を怒らせ、ずんずんと先に立って歩いていく輝の背中を、しばし目を細めて眺める。
別に心配されたことが嫌だったわけではない。
ただ、この真東輝と言う人物はただでさえドジな上に、他人に気を使いすぎて失敗する場面が多々ある。
例にあげた逆位の手術の時だってそうだった。
そう言った2次災害を起こしてしまうのが、嫌なのである。輝には気を使わせたくない。
「・・・まぁ、他の先生に来てもらうよりなら、どうせ常に役に立ってない君を連れてくるほうが気が楽かもね」
「なっ・・・なんだとっ!?」
すぐに振り返った輝に苦笑しつつ。
「ほら、早くしないと置いてくよ?」
歩みを速めて、四宮は輝を追い越した。
ほんの少しだけ弱音を吐いてみようかと思ったのは。
下手に我慢するより、そのほうが気を使わせなくてすむだろうと思ったことと。
相手が、このバカだからかもしれないな、と四宮は思った。
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