今日は、今にも雨が降りそうな曇り空。
ふと鞄を探ったら、入れっぱなしだった折り畳み傘。この傘を入手した経緯を思い出して、思わず顔がにやけてしまった。
――――それはまだ、アナタと会って間もない頃。
あま ね
「あた〜、やっちゃった」
空は今にも泣きそうな曇り空。多分部活が終わる頃には、雷も鳴りそうだ。
さわやかな笑顔で、『降水確率は0パーセントです』なんて言ってたお天気キャスターのお兄さんを恨みそうになった。
「二見君、傘忘れたの?」
声のほうを振り返ると、隣の席の女の子が心配そうに聞いてきた。
「そーみたい」
「よかったら、一緒に入っていかない?」
「いえいえ、そんなことしたらアナタ風邪引いちゃうし、俺部活あるし」
「そっか……」
しょんぼりした彼女に、『気持ちは嬉しかった』と伝えると、顔を赤らめて笑ってくれたので、それに安心して俺は席を立った。
まぁ、案の定こうなることは予想してたけど……
俺予報大当たり、部活が終わって帰ろうと思ったら大粒の雨が降り注いでいた。
まぁ、今日は俺みたいのが多かったせいで、置き傘や学校での貸し傘も全滅。
ため息をついて、鞄を盾に生徒玄関から出ようとした。
「――――何してんだ」
振り向くと、傘を差した小柄な男子が俺を見ていた。確か名前は――
「金沢?」
「何だよ」
不機嫌そうに眉間にしわを寄せたカレに、俺は思わず苦笑した。
最初にみたときから、金沢はこんな顔だった――眉を寄せて、唇をへの字に曲げて、でも、不思議と背筋はまっすぐで、睨みつけてくる目はすごく澄んでいる。
何も言わない俺にイライラしたのか、隠そうともしない不機嫌さが、更に増した。
「質問したのはこっちなんだから、早く答えろ」
何とも俺様な発言に、思わずビックリした。
「まぁ、お恥ずかしいことに傘を忘れまして」
「ふーん」
自分から振っておいて、興味なさ気な返事をした金沢に、思わずムッとした。さすがに心の広い俺でも、この反応はムカつきますって。
いくら傘で表情は隠れていても、声色は確実にどーでもよさ気。思わず金沢の傘を奪い取って帰ってやろうと思ったところで、鼻先に何かを押し付けられた。
それは、キレイなブルーの折り畳み傘。顔をそらして渡すところが、何ともあれだ。言葉が出ない。
「――――あの……」
「いらねーの?」
「いやいや、貸していただけるならボロでもお古でもありがたいですけど」
「わるかったな、新品で」
悪くないって。むしろ嬉しいんですが。と言おうとしたら、傘から見えた首筋が真っ赤になっているのに気付いて照れてるんだってことがわかった。
あらやだ、可愛いところもあるじゃん。何て思ったら、不意にこちらを見た金沢と目が合った――首まで真っ赤になって、目を大きく見開いて、眉毛が少しハの字になったその顔は、不覚にも可愛かった……。
しばらく呆然としていると、焦れたのか、恥ずかしさからか、傘を俺に投げつけて金沢は行ってしまった。
やばい、今のは不意打ち過ぎる。不機嫌顔しか見たことなかったあの人の、あんな表情。
もう見えなくなったはずなのに、まだ金沢の差してた傘の色がチラついて離れなかった。
* * *
「はい、あの時はありがと」
「――――いつの話してんだよ……」
「うん、ちょっと1年前の話ね」
どうりでないと思った。なんて呆れた顔で受け取る金沢は、あの時よりも表情が豊かになって、笑ってくれるようにもなった。
「あのときのアナタに返すのは、勇気がいってね」
「そんなタマじゃねーだろ」」
「まぁね」
返せなかったんじゃなくて、返したくなかった。
話すきっかけが出来て、嬉しくて。でも、結局それが出来ないまま1年過ぎてしまった。
「ところでアナタ、傘は?」
「―――――……」
少し顔をそらしたのを見て、口元がゆるむ。
「じゃぁ、相合傘して帰りましょ」
「なっ……やめろ! んなこと、女子にやれ!!」
あの時以上に真っ赤になったながせの腕を引っ張って、俺はあの時借りた青い傘をポンと差した。
――――――――
恋のきっかけ、二見編。
編と打とうとして、変が真っ先に出るのがさすが。
捏造1年多分秋口。
コレを打っている時に、某ひね○すの『だいすき』が流れたのは、半分運命感じました。
ドラマCDにならないかなぁ……二見の声やってほしい人いるし、主人公も2人ほど……
コミクスは、個人的にカバー裏が楽しみで仕方ない。
では、お付き合いありがとうございました。
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