「ねぇ、ジュリエット?」
「何だよ」
「あのとき、あの後輩に何されたのよ」


二見様は我慢する?


 時計塔の事件も何とか収束し、再びいつもの日常が流れようとしていたある日の放課後。帰ろうと立ち上がったところで、神妙な顔をした二見がそう呟いた。
 一瞬、二見の言葉がわからず、頭が真っ白になる。

――あのとき?

「あなたが、斬新なカッコで、体育館方向から、飛び出してきた、あの日ですって」
 わざわざ指で机を叩きながら、区切りをつけて喋る所が何だか馬鹿にされているような気がして、思わずむっとした。
 そして、なぜ今その話題なのか意図を掴みたくて、斜め後ろに座っている二見のそばに近づいた。
「何だよいきなり」
「ん〜、やっぱりまだ納得いかんくて。それに…」
「うわっ!」
 急に二見が俺の腕を掴み、自分の方へ引き寄せた。バランスが悪いため、思わず二見のブレザーにしがみつく形になる。
「お、おい二見、なにすん――」
「俺以外のやつがアナタの肌に触れたの、すっごく腹立つ」
 言葉は苦いのに、声が甘い。耳元から溶けてしまいそうで、思わず目を瞑る。すると、生暖かいものが俺の耳に触れた。
「ひっ!」
「怖い?」
首を横に振ると、安堵したような息が顔にかかる。 そして、俺の首元にあるタイを外し、シャツのボタンが2つ開けられた。そっと掠めるのは、多分二見の……指だと思う。
「おま、何して!」
「言って、アイツに何されたの?」
「別に…何もされてない……」

「ほんと?」
 コクコクと頷くと、ふーん…という声と、またしても耳に違和感。もしかして、この感触は……
「ふ、二見お前、今何してる」
「ジュリエットの形のいい耳、堪能中です」
 言い終わると同時に、耳たぶを甘噛みされた。途端に、背中にビリビリとした電流が走る。
「…ふた…み、それ…」
「あら、アナタ耳弱かったの。そりゃよかった」
 言いながら二見は、俺の耳の形に添いながら舌を這わせていく。くすぐったいせいなのか、背筋がさっきからゾワゾワする。 それに、だんだん頭に熱が集中してきたのか、顔が熱くなるのがわかった。
「ふたみ…もう、やめろ…」
「やめていいの?」
 甘い声に、またゾクりと何かが走る。恥ずかしくてしかたがなくて、思わず二見の首元にすがり付くように腕を回して顔を伏せる。 俺の息が当たるからか、微かに二見の体が震えている。
「ちょっと、そんなことされると止めれんけど」
「んなもん、最初からないくせに…!」
「―――あたり」
 当たる息の感じから、二見が笑っているのがわかる。そして、左のわき腹をなぞる様にして俺のシャツを引っ張り出した 。
「やっ……!」
「そう言われてもね。やめられんものはやめれんのよ」
ゆっくり這い上がる二見の手が、腹をなで、へその辺りをくすぐる。 むずがゆさと同時に、下腹に熱が篭るのがわかった。

――――あの時も、同じ体制だった。
「おねが……も…やめ…」
声に涙が混ざりはじめたせいか、二見の動きが止まり、代わりに顔を上げさせられた。多分、情けない顔してるだろうから、あんまり見せたくなかったんだけど。
でも、目の前にあるきれいな顔が、今にも蕩けんばかりの満面の笑みを浮かべているのは何故なんだろう。
「アナタね、いちいちかわいすぎ。もうロミオは心臓破裂寸前ですよ」
ギュッという音がしそうなほど抱きしめられて、少し苦しい。思わず二見の背中を叩くと、俺の背筋に回った二見の手が、背骨に沿ってゆっくりと俺の肌を下っていく。
  直に肌に触られて、熱のラインができる。それが渦みたいに、一気に駆け下りて痛いくらいに熱が集中する。それが二見だから、二見の手だから余計にもどかしい。
「んっ……」
「嬉しいね。俺の手と舌で、ココまで感じてくれるなんて。ほんと、たまんない」
 ゆっくりと二見の顔が近づき――
「でも、そのままじゃ辛いっしょ?」
 笑顔で悪魔の宣告をした




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 元は、本を作ろうと思っていたもの。
 どうにもならなくなって、頓挫→この際、ネット供養。
 耳攻めが書きたかっただけの話。