昼飯食べようと屋上にきたら、先客がいた。
 大型犬は、それはそれは気持ちよさそうに寝ていた。


先輩のいたずら


 気持ちよさそうに寝ている姿は子供みたいで、何でこんなに図体だけ育ったのか、不思議に思う。
「少しは分けろってんだ」
 クシャリと高階の髪にふれると、本当に犬みたいな毛並みで笑ってしまった。
 ひとしきり触って、ふと高階の顔を覗きこむと、いまだに起きる気配が無い。気が付いたら、目とか鼻筋とか耳の形を、指でなぞり描いていくように高階の顔まで触っていた。
 ――でも起きない。
「高階」
 声をかけても起きない。いっそ鼻でも摘んでみようか……と思った時、高階のリボンタイが目に入った。
 俺の学年とは違う、エンジに近い赤のタイ。
 ふと、あることを思いついた。少し前に、高階が大真面目な顔をして俺に言ったこと。
 一瞬迷って、でも反応が見たくて、高階の横に腰を下ろした。


    *   *   * 


 気が付いたら、寝ていた。
 4時間目が化学だから、サボるついでに先輩を待とうと、パンを買い込んで屋上に来た途端、眠くなって寝てしまった。
 体が固まってガチガチになっている。大きく体を伸ばそうとして、左側が重いのに気が付いた。
「――先輩!?」
 さっきの衝撃に起きることなく、先輩は気持ちよさそうに寝ていた。
 そういえば、眠っている顔をしっかり見たのは、久しぶりな気がする。しかも、俺に寄りかかっているから、余計嬉しい。
 規則正しく上下する胸元でゆれる青いリボンが、何だか先輩みたいで思わず笑った。
「起こしたくないけど……って、あれ」
 ふと、自分の首に違和感を感じて襟を見ると、朝しっかり結んできたタイが見つからない。
 けっこうしっかり結んだから、自然に解けることは無い。
 パタパタと制服を叩いて、体に引っかかっていないことを確認して腕を挙げた。
 ――――なんで先輩の腕も一緒に……?
 よく見ると、先輩の左小指に赤いものが巻きついている。そしてその先は……
「俺の……小指?」
 一気に顔が赤くなる。
「え、ちょ、なに可愛いことしてるの先輩!!」
 まったくもって不意打ちの行動に、顔がニヤけてきて仕方ない。何だか解いてしまうのがすごくもったいなくて。っていうか、誰でもいいから自慢したくてしかたなくて、先輩が起きるまでこのままでいた。
 




―――――――――
 ジュリエットの戯れ、高階版。
 リボンタイ。普通のネクタイでは出来ないことって何だろうと考えて、これ。
 高階たち一年の色が赤だからできること。
 うん、なんだかココまできたら、全色制覇をしたくなった。
 ――肇先輩にいたずら……?
 出来るか? 主人公……




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