意外に、担任の香藤先生は人使いが荒いほうだと思う。
 現に、俺の背を軽く超えそうな量のプリントやらノートやらを持たせて、教務室へと消えていった。
「どうしよ」
 そう呟いたところで量は減らない。仕方なく、教室まで行こうと踵を返したところで――高階とあった。


かなわない


「せんぱい……」
 どこか呆然と呟いたようなその言葉に、思わず苦笑した。
 最近まで、あれだけ冷たい、他人を拒絶するような目をしていた高階が、捨てられた犬みたいな目をしている。
「あの……せんぱ――――」
「高階」
 びくりと、大きな体を震わせて、高階は俺の次の言葉を待った。
「これ、重いから半分持て」
 驚いたのか、目を丸くした高階がすぐさま上半分のプリントを持ち上げてくれた。
 軽くなったノートを持ちながら、やっぱり紙は木からできているんだな、と妙に納得してフッとため息をつくと、困惑した高階の顔とかち合った。あごで行動を促し、俺は高階が歩くのを確認してからゆっくりと歩きはじめた。

「ここでいい、サンキュ」
「あぁ、はい。どういたしまして」
 2年の教室連手前で高階からプリントを受け取り、教室へと向かおうとして、腕を掴まれた。
「あの、先輩。その――」
「高階」
「はい」
「ありがと」
 うつむいていた高階の頭が、弾かれたように持ち上がる。その顔はまるで、泣くことを我慢している子供みたいな顔で、多分、両腕がふさがっていなければ、その頭をなでてやりたかった。
「礼を言ってんのに、そんな顔するな」
「――――どうして」
 涙が混じった声で、高階が呟いた。俺はその顔を見ながら、高階の欲しがっている答えを出した。
「何があったにせよ、俺はお前を嫌いじゃない。嫌われたかったら、そんな顔するな」
「また、だましてるかも……」
「この前言われたこと、そっくり返す。鏡見て出直せ」
 ホントにね……と高階が笑った。その弾みで、一筋だけ涙が頬を伝った。
「――晴れた日は屋上だ」
「え」
「焼きそばパンは、お前のオゴリだ」
「あの……」
 高階に背を向けて、俺は教室に向かった。5歩進んだところで振り返ると、まだ高階は呆然としていた。今度は笑顔で言ってやる。
「今日の昼、屋上で」
 目を見開いた高階が、今までに見たことないくらいの笑顔でうなづいて、手を振った。
「今度こそ、チョココロネ、食べてくださいね!」



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実は、二見ルートでエンドを迎えて3日後くらいの話だったりします。もちろん、グッドで。
高階が、主人公に対して最終手段(腕を痛めつける)をしなかったのは、自分の大切なものを失う瞬間の絶望(高階にとっては、膝の怪我)を知っているからという理由からだったら、原作者様に足向けて寝ません。毎日拝みます。

いつにもまして語ってしまったのは、8月号のビズログのせいです。
主人公愛しい!


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