多分、少しおかしくなっていたんだと思う。
そう思わないと、恥ずかしくて目の前にあるヤツの顔がまともに見れそうにない。
『すがりつく』なんて可愛らしい単語ではなく、『しがみつく』。そして『貪る』、なんて浅ましい単語が似合う状況で俺は、相手の唇を息を止める勢いで塞いでいた。
貪る
「ちょっ……ちょっとまっ……」
相手の拒絶の言葉が、俺を煽る。
舌を絡めるどころか、歯列をなぞったり、歯茎の裏まで刺激し出す始末 ――止めたいけど止められない。
「〜〜〜〜〜っ、やめなさい!」
「――――!!!」
肩を押されて、強引に引き剥がされた。俺も相手も、肩で息継ぎをしている。
頭の芯が、ボーっとして焦点が合わない。相手の顔がはっきりしない。
もう一度、その目で顔が見えるまで近づくと、相手が首の根元まで真っ赤になっているのがわかった。
表情は、驚きながら困っている感じだと思う。
「アナタ、どうしちゃったの。いきなり俺を押し倒して、手篭めにするつもり?」
「してやりたい」
本気で俺は手篭めにしたいと思っていた。正気に返ったら、恥ずかしくて悶え死ねると思う。でも今は、目の前の唇に喰いつく事しか考えられなかった。
もう一度触りたいと思い、顔を近づけると、口元を押さえられた。
「はい、ストップ。これ以上はだ〜め」
ため息混じりに、二見は赤い顔で俺を軽くにらんだ。その目を見れなくて、俺は視線をそらす。
そしたら、俺の口を塞いでいた二見の手が、唇をなぞる。
「いったいどしたの、アナタからのキスは大歓迎だけど、殺しにかかるようなのはやめて」
一瞬息できなかったから、と笑う二見に、俺は冷静さを取り戻した。
と同時に、さっきまでしていたことを思い出して、この場から消え去りたくなった。仮にも、二見に襲い掛かっているこの状況、言い訳は出来ない。
「あ……ふた……」
「よっきゅうふまん?」
下から覗き込まれて、思わず目を瞑る――当たっていたから、二見の言ったことが。
「――――俺に襲い掛かっちゃうくらい、飢えてた?」
だめだ、この声。
二見が俺の正面に弱いように、俺は二見のこの声に弱い。この、確実に相手を落としにかかっているような、甘い甘い、蜂蜜の声。
「やめろ……その声」
「ん?」
必死で隠していたものを暴くように、二見がささやく。何でこいつは、吐息まで凶器なんだ!
唇にふれていた二見の指を、舌で触れたのを合図に、再び俺は二見にのしかかる。
「ひ……きょうなんだよ、お前! 中途半端に……止めやがって!」
「やだなぁ、駆け引きって大事なんよ。それに――――」
途中で止めた時のすがる目、好きなんよ。なんていうセリフを残して、今度は二見に貪られた。
――――もちろん、全身くまなく。
――――――――――――
実は、延々とキスをし続けるシチュは好物です。とくに、片方が切羽詰っているとより悶えます。実際見るのは嫌ですが。
そして、主人公・襲い受失敗編。というか、主人公のおかげで、襲い受け&女王受けが好きになりました。
窓口がどんどん広がっていく自分が、少し怖いです。
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