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 椿の花咲き誇る、此処は代官屋敷。見事な花を見せる庭を横目に、一人の若者が代官を訪ねた。
 年の頃は、二十を四つ程超えたばかりの青年。反物問屋・越後屋の2代目で、涼しげな目元と、端麗な顔立ちで城下の女たちを魅了している。
「お代官様、御目通り感謝いたします」
「――――毎度毎度懲りない奴だな、お主も……」
 ため息をついた代官は、端正な顔立ちを見ながら、どこか鬱陶しそうに視線を投げた。 対する青年は、にこやかな笑みを絶やさない。
「今度は何だ、お主からの貢物なら受け取らんぞ」
「先回のは気に入りませんでしたか?」
「何度も何度も言わせるな。条件もなしに金子なぞいらぬ、取引として成立せんではないか」
 目の前の青年は、微動だにしない。それが代官の癇に障ったのか、眉間にまた一つ皺を寄せた。
「そもそも、お主の目的は何だ。なぜ、金子に菓子に酒に女、全てわしに寄越すんだ」
 二人の間に流れる空気は、決して穏やかなものではない。隔てているのは、わずか畳一畳ぶんの距離。

「――取引、したいからですよ。お代官様と」

 一刻の間のあと、越後屋が微かにそう口にすると、わずかな衣擦れの後、そろりと代官の手を取る。
 思わぬ越後屋の行動に、代官は僅かばかり身を引くが、微動だに出来ない。
「私は――金子を差し出す代わりに、貴方が欲しい」
「何を……!」
 越後屋の形の良い唇が、代官の手の甲に触れる。びくりとはねた代官に、越後屋は気を良くしたのか先程触れた所をちろりと舐めた。
「や、止めぬか、お主!」
「止めません。取引ですから」
 顔を上げた越後屋の表情に、代官はぞっとした。 まるで、飢えた獣。目に宿った妖艶な光が、代官の動きを止める。

「――なぜだ……」

やっと絞り出した声は、いつもの威厳と嘲りに溢れた声ではなく、かすれて惨めな声色だった。
「先程言ったでしょう? 貴方が欲しい」
「だから、なぜ!」
「貴方をお慕い申し上げているからです」
先程の射抜くような眼光が、愛しむ眼差しに代わる。 その変化にわずかに安堵し、代官はため息をつく ――何が待っているかと身を硬くしていたら、相手から思いを告げられた。それだけのことに、此処まで警戒していた己を激するために。
だが、代官の視線がそれた途端、越後屋は元の表情に戻り、口角を上げた。

「幼い頃より、この時を待ちわびておりました。貴方を、この手で抱けるこの日を……」
「――――……! 何を……」
「本当は、取引なんてどうでもいいのです。貴方さえ頂ければ」
 片手を掴んだ状態で、越後屋は懐から何かを取り出した。
 その包みは、どう見ても何かの薬。
「舶来の品らしいですよ」
 代官は顔を背けようとするが、越後屋に強い力で顎を掴まれ、視線を合わせられる。

「どうしても、抗いますか?」

 そう呟く口調は、どこか不満をにじませている。
 代官は、詰められた距離と、彼の吐息に身体を震わせる ――情けないと思いながらも、己の年の半分もいかない青二才に押さえ込まれ、殺されそうな眼光に見つめられ、ただ息を詰めて声を殺した。
それをみて、越後屋は口角だけを上げて笑う。
「どれだけ権力や金を持っていても、私のほうが、貴方より力があるんですよ」
 言葉と同時に肘置きが払われ、代官は畳に縫いとめられた。だから……と越後屋の口が歪む。


「はやく私のものになって下さい……お代官様



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 お題:『美形越後屋×御老人悪代官』

 合同本の漫画の2コマのためだけに打ち込んだSS。
 お題を出した友人に見せた途端、『破廉恥』と言われました。コノヤロー
 実は、後半18禁にしようと思ったりしてたけど、余力なかった。
 つか、腹上死しちゃうよ、おじいちゃん。

 正直、代官にこんな感じで目通りできるのか。とかの突っ込みは受け付けていません。
 本人も良くわかってません。勘弁してください。


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