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誠司くんの指先がバスローブの衿にかかった。
今までのゆったりした動きと打って変わり、誠司くんは後ろから私の衿をくつろげ、強引にひっぱった。
肩から背中がむき出しになり、鏡の中にははだけた胸が映った。
触られもしないのに、すでに左右の突起は誘うように色づいていた。
「俺、右近くんの背中、好きなんだ…」
誠司くんは低く呟きながら、むき出しの私の肩に後ろから唇を押し当てた。
そのまま肩甲骨のあたりへと、丁寧に口づけながら這い降りていく。
「もう何度も見たけどさ…裏のフィルム」
「え…あっ…いやっ」
背中に口づけながら、誠司くんの両手が前に回ってきた。
「惣一郎に後ろから責められて…うねるように仰け反る姿態が絶品」
言い終わらぬうちに、誠司くんは左右の突起を摘んで軽くひねった。
「あぁっ…」
たまらない刺激に私は思わず胸を反らせた。
「そう、そんな感じ」
誠司くんは嬉しそうに声をあげ、本格的に胸を攻めはじめた。
「だめっ…そこ…」
よすぎておかしくなりそうで、私は誠司くんの腕の中で身を捩った。
背中にキスされ、少し胸を弄られただけで、私の下半身はとんでもないことになっていた。こんなんじゃ、本当に繋がったらどうなってしまうんだろう。
想像しただけで心臓が破裂しそうだった。
「さっき…あんなに結城さんに可愛がられたくせに」
「あれは…撮影だよっ…んぁ…」
誠司くんの唇が再び背中から這い登る。
「まだ足りないの?」
意地悪な問いとともに、耳たぶを軽く咬まれた。
「あぁ…っ」
「こんなに…感度いいのに…マグロなんて一体だれが言ったんだ?」
指の腹で押しつぶすように捏ねたり、軽く爪の先で引っ掻いたり、誠司くんは下半身には一切触れず胸だけを執拗に攻めてくる。
「はぁっ…誠司くん…っ」
「それとも…相手が俺だから?」
「…あっ…んぁ」
胸を弄られて、これほど股間へキたのは初めてだ。
スツールの上で腰がもどかしげに揺れてしまう。
ローブの裾が乱れて、張り詰めたイチモツがちらりと顔を出した。
今さらのくせに頬を染めた私に、誠司くんが鏡の中でにやりと笑った。
背中から誠司くんの身体がすっと離れ、
「あっ…」
私は慌てて肩越しに振り返った。
「ちょっと待って」
誠司くんは余裕で私を制すと、軽い金属音をたててベルトを外しにかかった。
物欲しげな反応を恥じ、私はふたたび前を向いて身をすくめた。
ジッパーの下がる音に期待が極限まで高まる。
(あ…ついに、夢にまで見た『誠司くん』とご対面だ?!)
私は思わず生唾を飲んだ。
「右近ちゃん、入るで!」
遠慮のかけらもなくドアが開き、どてらを着込んだ監督が控え室へ踏み込んだ。
「おっ………」
三人はほぼ同時に息を飲んだ。
し〜ん。
三すくみとはこのことだ。
あの厚かましい監督も、今回ばかりは言葉がでないらしい。
チノパンからのぞいた誠司くんの雄々しいモノと。
砕氷船のごとく、白いバスローブをかき分けてそびえ立つ(…ってほど立派でもないが)、私の分身と。
監督は頬を強張らせたまま、交互にじっくりと見比べた。
検分がすんだ後、監督は深く息をついた。
「誠ちゃん、これは何のまねや」
「か…かんとくぅ」
誠司くんの男前な顔が完全に色を失っていた。
「わての言いつけを忘れたか!」
「そ、そりは…」
「さっきの湯殿のシーンであてられたか。未熟ものめ!」
誠司くんは叱られたシェパードのように、ちょっと情けないモードに入っている。
「…伝家の宝刀、やたらと人に見せるもんやない。はよしまい」
「失礼しましたっ」
誠司くんはくるりと監督に背を向け、いそいそと身じまいをした。
(あれがチノパンじゃなくてジーンズだったら、絶対に入るまいっ)
未練たらしく頭の中で誠司くんの『雄姿』を反芻しつつ、私もスツールの上、居住まいを正してローブの前をかき合わせた。邪魔だてした監督が憎らしくて仕方ない。
監督はお怒りなのか、血走った目で私たちを見つめ、
「…わてはあんたらのプライベートにまで口出しせんが」
(そうだ、そこまでされてたまるか!)
涙目で監督を睨みながらも、私は腹の中で気勢を上げた。
「『恋重荷』を撮り終えるまでは…絶対ならんで」
おそろしくマジな表情で念を押した。
なんでやねん!とじたばたする私の横で、誠司くんは神妙な目をして監督に頭を下げた。
監督は誠司くんを一瞥し、
「わかっとったらええ」
口元を引き締めてうなずいた。
(このふたり…何をわかりあってんだ?)
「あのう…」
私が首をかしげている間に、
「右近ちゃん」
鉾先がいよいよこちらに向いた。
私はさっと身構えた。
監督はどてらの袂から財布を取り出し、つかつかと歩み寄ってくる。
あろうことか諭吉を一枚抜いて、ドレッサーの上に置いた。
「今日はほんまにご苦労はんやった。これで平岡とうまいもんでもお食べ」
「え…」
どんな小言を喰らうのかと思えば、意外な展開に私はぼんやりと監督を見つめた。
濡れ場を撮った後、こんな労い方は初めてだった。
「なぜですか…監督。散々NG出して皆さんにご迷惑を…」
監督は最後まで言わせず、
「終わりよければすべてよしや」
「でも…」
「ほな」
糸のように目を細めてにまっと笑い、監督は誠司くんを引き連れて部屋を出ていってしまった。
ドアが閉まった途端、私は思いきり脱力した。
(なんて一日だ…)
鏡を覗き込めば、今度こそ目の下に隈ができていた。
ほんとに疲れた。
身も心もくたくただ。
そういう時は一一。
「右近さ〜ん!」
廊下をばたばたと平岡健太がやってきた。
「開いてるよ」
指一本動かすのも面倒臭げに答えれば、
「右近さん、お疲れ様でした!」
はあはあと息をはずませ、平岡くんが飛び込んできた。
「ほら、買ってきましたよっ!今○軒のおはぎ!」
「なんだ、途中でいなくなったと思ったら…そんなものを買いに?」
今○軒のおはぎは大好物だったが、私はわざと非難がましく呟いた。
要は誰かに八つ当たりしたかった。
しかし平岡くんは懲りないワンコのように、
「いや〜、右近さんも惣一郎さんもノリノリだったんで、もうNGはないだろうなって。安心して出かけましたよ!」
(何がノリノリだ。バカものめ!)
「それはどうも…」
嫌味たらしく鼻で笑ったつもりなのに、平岡くんは相変わらずにこにこしている。
いつものことだが、少々意地悪しても平岡くんには全然通じない。私の表現方法がへたなのかとも思うが…。
(何かもう疲れたし…どうでもいいやっ)
すっかり毒気を抜かれてしまうと、今度はおはぎが気になってきた。
平岡くんはいそいそと包みを解き、
「ほらっ」
行儀よく並んだおはぎたちを前に差し出した。
(まあな。私の好物を買いにわざわざ五条烏丸まで車を走らせるなんて…いじらしいじゃないか)
私は座ったまま上目使いの平岡くんを見上げ、思いきり首ったまにかじりついた。
「わざわざありがとう」
「い、いえっ…そんなっ」
平岡くんは真っ赤になって畏まっていた。
ふふふ。
平岡くんの存在は本当にありがたい。
撮影で疲れた時は、こうやって平岡くんにお茶を入れさせて、甘いものを買ってこさせて一一。今日もあんこたっぷりのおはぎを頬張りながら、足の裏を揉ませている。うん、按摩も上手になったなあ、いい気持ちだ。
誠司くんとの合体はならなかったけど、これきりじゃなさそうな予感♪
まあ次があるさ。だけど誠司くん、流石に上手だったなあ…(涎)。
いかん。誠司くんの唇と指先の感触が、すっかり身体に残ってしまった。
このままでは済まさないぞ。
信明が京都にいない今こそ、本懐遂げる好機なり!
よし、明日から神社仏閣を回って絵馬を奉納してこよう。
墨で黒々と書いてやる。『大願成就』櫻田右近!
あっちこっちにぶら下げてくれば、きっと御利益があるだろう。
ふふふ、信明め。今に見ておれ…。
私が相当ブラックなことを考えているとも知らず、
「右近さん、きなこもありますからね。好きなだけ食べてくださいねっ」
「うん」
平岡くんは無邪気におはぎをすすめる。
一仕事終え、こうして平岡くんに徹底的に奉仕させるのも、また至福のひととき。
でも私だって平岡くんを顎で使うだけじゃなく、時にはちゃんと報いてあげる。今日は監督にいただいた『諭吉』があるし、後でステーキでも食わせてやろう。ファミレスじゃなく、ステーキハウスで和牛のお得なコースくらい頼めるだろう。
「平岡くん、お茶もう一杯」
「はいはいっ♪」
つくづく自分はできた先輩だと思った。
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