第6回
開花するマグロ 3


by 戸田采女

「もういい加減に意地を張るのはやめよ」
耳たぶを熱い息で掠めながら、惣一郎がねっとりと囁いた。
「いかがじゃ、藩主の風呂の入り心地は…」
「あ…っ、殿ぉ…」
私は湯の中でカエルのように脚を開かされ、『殿』に股間を蹂躙されていた。
ふたりの絡む姿を撮ったのち、カメラは今度は私の表情を映そうと、風呂桶の横手に移動してくる。

 カメラさんの向こうの暗がりに、監督と見物人の姿があった。
誠司くんは相変わらずモニターの前から動こうとしない。

(だ、だめだ。とにかく早く、それらしく絡んで撮影終了に持っていかねば!)

 もはやNGは出せない崖ッぷち。私も役者らしく覚悟を決めて乗り切ろうと思った。

「殿…」
切なげに息などついて、惣一郎の首に両腕を絡めた。
調子こいた惣一郎は、湯の中で私のモノを存分に扱き始めた。
惣一郎の動きとともに、浮んだ柚がゆらゆらと揺れた。

(う、うそ…。出るまでやる気?)

 まさか撮影用の風呂の中でそれはないだろう、と私はじっと惣一郎の表情を伺った。

 惣一郎は不敵な笑みを唇の端に浮かべた。
「…余が欲しいか、右近」
よく言うよと思いながらも、私はカメラを意識して戸惑ったように『殿』を見た。
惣一郎はわざとらしく右手から左手にブツを持ち替え、右手を会陰の奥へと忍ばせた。
利き手で本格的に後ろを攻めようという魂胆か。
 
(え…まさか本当に入れるつもりじゃ?!)

 あたふたとする間もなく、惣一郎の人さし指がつぷりと蕾にめり込んできた。
「…ん…っあ」
不覚にも洩れてしまった声を、マイクさんが容赦なく拾う。
お湯に浮んだ柚に隠れて、惣一郎の手はやりたい放題だ。
左手の親指は張り詰めた先端をこね回し、同時に右手の指がいやらしく後ろを責めたてる。

(あぁ…そんなっ)

 勝手知ったる何とやら。
あっという間に惣一郎の指は奥深く侵入し、内奥のポイントを探り当てた。
惣一郎は唇の端でにやりと笑い、指の腹を強く押し付けると小刻みに揺すった。
「あぁっ…ん、んぁ……」
慣らされた身体は情けないほどに反応し、湯の中で腰が揺れ、胸が思いきり反り返った。
すかさず惣一郎は私の上に屈みこみ、湯の上にのぞいた乳首にかりっと歯をたてた。
「くっ…ん…」
すがるものが欲しくて、風呂おけの縁を懸命に両手で掴んだ。
巧みな三点攻めにあい、もはや『殿』だなんだと台詞回しを気づかう余裕をなくしていた。
そんなばかなと思いながらも、6回目のNGを出したくない一心で、私は唇を引き結んで堪えた。


***


 薄暗がりのモニターの前で三人の男たちが固まっていた。
沈黙の合間に、時折誰かの喉が鳴った。
息をつめる気配が異様な緊迫感を呼んでいる。

「結城ちゃんの肘の動きが秀逸やな」
ズボンの前を膨らませる三人を尻目に、ひとり余裕の采女監督が淡々と解説した。
「ほんまに湯の中で悪さしとるみたいや」
「肘の…動きですか?」
身体が切羽詰まっていても研究熱心なのか、誠司がモニターを見つめながら問い返す。
「そや」
監督は満足げにうなずくと、
「自分の動きがスクリーン上で生む効果を計算しとんのや」
「まさか…」
「無理に下半身まで映さんでも、腐女子さんらの妄想を掻き立てるには十分や」
「そんなもんですかねえ…」
「見てみ、次は腹筋に注目や」
「…か、監督の解説も十分に…やらしいですね」
「ふふ。あんたも精進しいや、誠ちゃん」
「は、はあ…」
監督は結城惣一郎の演技力を買い被りすぎているかも、と思いながらも、あえて逆らわない誠司だった。

 だがおバカな嶺次郎は違った。
「違う、演技がうまいんじゃない。してる…あれは絶対湯の中でしてるぞ…」
低く悔しげに呟く弟に、内藤帯刀が同調した。
「若僧め…美味しいとこばっかり攫っていきおって」
「あれは絶対俺たちへの牽制だ…」
「おや嶺次郎、あんたも数のうちなんか?」
監督が後ろを振り返り、さもおかしそうに喉を鳴らした。
「くそっ。ひとりじめせんと、一度くらい儂らにも味見させたらんかい!」
身悶えてきいいっと叫びたいところを、帯刀は歯ぎしりをして堪えた。

 内藤兄弟の横で、誠司もまた呼吸も忘れたように画面に見入っている。


***


(惣一郎…っ)

 湯の中で前も後ろも嬲り尽され、私は半ば意識朦朧として喘いでいた。風呂桶のふちに預けた首をぼんやりと傾ければ、モニターを見つめている誠司くんが再び視界に入った。

 今の自分の状況を再認識する。

 誠司くんの目の前で…声を洩らし、あられもない姿で『殿』に犯られている。

 そう思った瞬間、不埒なことに身体中の血が逆流した。

(誠司くんが…見てる) 

 惣一郎がすかさず耳もとに唇を寄せた。
『何…おまえ、見られて燃えるのか?』
『な、なにを…っ』
『マグロのふりをして。そんな淫乱だとは…知らなかったな』
 
 いちいち腹のうちを読まないでくれっ!

 心の中で叫ぶと、私はひたすら潤んだ目で『殿』を睨んだ。

「ならばそなたの望み通り…」
惣一郎は低く呟くと、二本の指で入口を開いた。

(う、うそっ…だ、誰もそんなこと希望してましぇん!)

 惣一郎は左手を私の屹立から離し、両手で腰をぐっと引き寄せた。
「…欲しいだけ、くれてやろう」
猛り立ったものが容赦なく侵入を試みる。
「あっ…あぁぁっ」

(か、…監督!)

 自分もこの状況に煽られたのか、今日の惣一郎は容赦がない。

(こんな話は聞いてないです! お願いだから惣一郎を止めてくださいっ)

 思いきりカメラ越しに目で訴えたが、監督はあろうことか『よっしゃ!惣様、いてまえ』などと口走りながら、ガッツポーズでモニターを睨んでいる。

(ひどい、誰も助けてくれないのか…?)

 頼みの平岡健太の姿を懸命に探すが、どこにも見あたらない。

(平岡くんのばかっ! どうして肝腎な時にいないんだ!)

 惣一郎は一気に突いてこず、まずは私の腰を両手で掴み、己のもので焦らすように腸壁を擦り上げてきた。
張り詰めた肉棒をよりリアルに感じる。
「ん、んっ…あっ…」
こんな酷い状況でも身体はどんどん暴走し、奥が勝手に疼いて惣一郎を締め付けてしまう。
「今宵はまた…格別じゃな」
惣一郎は溜息のように囁くと、ゆっくりと腰をグラインドさせる。
深く繋がったまま、あらゆる角度から抉るように責められ、堪えようもない嬌声が私の唇から洩れた。

 耳を塞ぎたくなるような、甘く、乱れきった声。

 本気で嫌なら、いい加減にしろ!と惣一郎をぶん殴ればいいのに。

 またもやNGではスタッフに申し訳ないって…だから我慢するって、本当か?

 違うだろう、それは。

 惣一郎のテクニックに陥落しつつ、誠司くんに見られている自分に興奮する。

 私は侍の『右近』とは大違いの、どうしようもないやつだ…。

 縋るような目で私は誠司くんの姿を探した。

(誠司くんっ!)

 腕組みをした誠司くんは精悍な眉を寄せ、挑むような眸でこちらを注視していた。


第四話へ

書庫目次 | 滑稽本書庫・目次



Copyright © 2006 戸田采女
All rights reserved.