おもしろい物を買ってきたんだ。
そんな連絡を受けて、ミロはカノンに誘われた。
カノンが早い時間からどこかに出かけているのには気づいていたが、どこで何を仕入れて来たのか。
誰も連れてこないで、一人で来てくれ、という念まで押してきたカノンの声はどこか楽しそうで、期待と嫌な予感を半々で感じながら、ミロは天蠍宮を後にした。
「カノーン。来たぞ」
勝手知ったる、とばかりに挨拶もそこそこにミロが双児宮の住居スペースを訪ねれば、カノンはリビングのソファに座ってミロを待ち構えていた。
「よう、待ってたぞミロ」
カノンはミロに手招きをして、隣へと座らせる。
「おもしろい物ってなんだ?」
「ああ、これだ」
ソファの前に置かれたローテーブルの上には、湯気のあがるコーヒーが淹れられたカップと、チョコレートの箱が乗っていた。
カノンはそのチョコレートの箱を手に取って、ミロへと渡す。
「これが?」
ぷっくりと丸い可愛らしいハート形のチョコレートが、一粒ずつ仕切りで分けられて箱の中に並んでいる。
数個はなくなっているが、これはミロが来る前にカノンが食べてしまったようだ。
有名なショップやショコラティエの作品なのかと考えたミロだったが、それにしてはあまり手の込んだチョコレートのようにも思えない。
箱にもヒントになりそうな店名等の文字は見つけられないし、包装紙の類もカノンが処分したのか、見当たらない。
「まあ、食ってみろよ。味は保証する」
そう言いながらカノンは箱から一粒取り出すと、ぽいと自分の口の中に放り込んだ。
ミロも甘い物は嫌いじゃない。
鼻先をかすめた甘い香りに誘われるまま、ミロはチョコレートを取り上げて口に運ぶ。
「これ、媚薬入りなんだと」
ぱくりとミロがチョコレートを口に入れた瞬間、カノンが言った。
その一言に驚いて、ミロはチョコレートを丸飲みしてしまった。
んぐ、と息を詰まらせたミロへ、カノンがコーヒーを差し出す。
カップを手に取ってコーヒーを一気に飲んだミロは、チョコレートが溶けて咽喉を通過して行ったのを感じて、ほっと息を吐いた。
「び、媚薬入りって……そんなもの、どこで手に入れてくるんだ」
「秘密」
ミロの背中をさすっているカノンは、楽しそうに笑顔を浮かべている。
ミロは手にした箱の中のチョコレートをまた眺める。
媚薬入りと言われてしまうと、途端にそのチョコレートの、丸みを帯びたハート形が卑猥なものに思えてくる。
箱の中は、すでに半分ほどが空になっていた。
「これ、もうない分って、全部カノンが食べたのか?」
「ああ。ミロが来る前に味見でな」
ミロが食べる直前にも、カノンはチョコレートを一個食べていた。
それなりの個数を食べていることになるカノンに、ミロは恐る恐る質問する。
「……どんな感じだ?」
「普段とあまり変わらん」
そう言うカノンだが、ミロに向ける視線が、どことなく、いつも以上に熱っぽい気がする。
ミロの背中をさすっていた手も、いつの間にか腰近くにまで下がってきている。
これは、効いてるんじゃないか……と思うミロだが、カノンは自覚がないようだ。
カノンはミロが手にしていた空のコーヒーカップを取り上げてテーブルの上に戻し、チョコレートをさらに勧めてくる。
しぶしぶながらもまた一粒摘まんだミロだが、すぐには口に入れようとはしない。
目の前にチョコレートをかざして観察する。
丸いハート形の側面に、うすい接合部が見える。
ミロが接合部に爪を立てて軽く力を入れると、チョコレートはパカリと二つに割れた。
その中には、琥珀色のジャムのようなものが詰まっていた。
「これが媚薬か?」
見ただけでは、ごく普通のチョコレートの中身に使用されるフルーツのジャムやゼリーと大差がない。
舌先で舐め取ってみると、ウィスキーのような風味が感じられた。
苦味のある薬っぽい味、と思えないこともないが、そもそも媚薬なんて知らないミロには、これが本当の媚薬の味であるかの判断はつかない。
ひとしきり観察して気が済んだミロは、二つに割ったチョコレートの片方を、口の中に放り込んだ。
今度はじっくりと味わってみても、やはりただのボンボンチョコレートにしか思えない。
チョコレートの観察に夢中になっていたミロは、隣に座るカノンがぐっと距離を縮めてきたことに気づいていなかった。
気配を感じてカノンへ顔を向けた次の瞬間には、ミロはソファの上に押し倒されていた。
驚いてカノンを見上げると、カノンは口元に笑みを浮かべてミロを見つめている。
笑顔を浮かべているのに、瞳は飢えた獣のように光っていた。
「さっきのミロ、結構キたぞ」
「は? さっきって……」
ミロへと覆いかぶさりながら、カノンはちょんと舌先を出して見せる。
カノンの舌先を見て、ミロも理解する。
どうやらカノンは、先程の媚薬を舐めるミロの姿を見て、スイッチが入ってしまったらしい。
カノンはまるで人懐こい大型犬のように、妙に楽しそうな笑顔を浮かべながらミロに圧し掛かり、頬や額に何度もキスを落としてくる。
キスに続いて首筋を舐めあげられて、ミロはくすぐったさに声を上げた。
「盛るなって……!」
抵抗するように、ミロはまだ手に持っていた残りのチョコをカノンの口へと押し込む。
だが、カノンはチョコなどお構いなしにミロへと口づけてきた。
カノンはミロに深く口づけて唇をこじ開けると、舌を使って器用にミロの口内へチョコレートを移してくる。
「んんっ……っ」
溶けかけたチョコレートが、カノンの舌と一緒に入り込んでくる。
チョコレートの甘さと、蕩ける感触と、カノンの舌の温度がミロの思考を奪う。
溶けたチョコレートがミロの唾液と混じり、口の端から零れる。
カノンはそれも見逃さず指で掬うと、ミロの唇に押し付ける。
ミロは従順にカノンの指に吸い付いて、舌先でチョコレートを舐めとるとゴクリと飲み込む。
目を細めたカノンが指を引き抜いて、もう一度唇を寄せれば、ミロは自ら舌を差し出す様に口を開いて、カノンを迎え入れる。
チョコレートの味なんてとうになくなっていたが、カノンもミロも気にせず、夢中になって舌を絡めあい、唇を食む。
そうして時間を忘れてキスをして、やっとカノンの唇がミロから離れた時には、すっかりミロはソファの上で脱力していた。
唾液で濡れる口元も拭わず、蕩けた表情で呼吸を繰り返している。
「……媚薬、効いたか?」
上気したミロの頬を撫でながら、カノンが質問する。
実際に媚薬が効果のある物だったとしても、先ほど摂取したばかりのミロにすぐ反応が出るのはあり得ない。
カノンも解っていて、ミロに質問したようだった。
ミロは恨みがましそうにカノンを睨むが、脱力した状態では迫力が出ない。
馬鹿、とカノンに一言浴びせて、ミロはぷいと顔を背ける。
「こんなことされたら、薬のせいかどうかなんて、わからなくなるだろ……」
媚薬なんかなくても、カノンに触れられればいとも簡単に体は反応してしまうし、心は開いてしまう。
「わからないか。でもまあ、良いか」
ソファの上で力なく身を投げ出すミロは、カノンのお気に召したようだ。
ミロの上から退かないまま、カノンはまたチョコレートに手を伸ばしている。
「今の状態も、この後も、全部媚薬のせいってことにしようか、ミロ?」
そうしてカノンはチョコレートを咥えると、親鳥が雛に餌を与えるように、ミロの口元へチョコレートを持っていく。
カノンがこの後、ミロと何をしたがっているのか、それに気づいたミロは、同意を示す様に口移しでチョコレートを受け取った。
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カノミロが日常でイチャイチャしてるのが好きです!