二人で映画

昼下がりの双児宮、カノンとミロはリビングスペースのソファに二人並んでのんびりと映画鑑賞していた。
肩が微かに触れ合うかどうかぐらいの、恋人同士ならば当たり前の距離感で、ミロの右隣にカノンが座っている。
映画が中盤にさしかかった頃、なんとなく集中力が弱まったミロが小さく身じろぎした時、ミロの右手がカノンの左手にわずかに当たった。
丁度良い位置に、握りたくなる、そして握ることを許されたカノンの手がある。
と思ったミロは、深く考えず、当たり前のような気持ちで手を伸ばしてカノンの左手をゆるく握った。
次の瞬間、カノンの身体が強ばった。
え、なに、とミロが戸惑っている間にも、カノンの手のひらがすごい勢いで汗ばんでいくのがわかる。
驚いてカノンに向き合えば、カノンは首から耳まで、まるで茹であがっているかのように真っ赤になっていた。
「…照れてるのか?」
ミロの問いかけに、カノンは気まずそうに顔を逸らす。
悪い事をしたかと思ったミロは手を離そうとしたが、そうすると逆にカノンに強く手を握られた。
「不意打ちで驚いただけだ…このままでいい」
照れ隠しなのか、ぶっきらぼうな言葉だった。
カノンの手のひらはまだじっとりと熱いが、ミロには不快ではない。
安心したミロが手を握り返すと、カノンの力が少しだけ弱まった。
心地いい力加減で手をつないだまま、二人で映画に戻る。
カノンは不意打ちに弱いと学んだミロは、また今度やろう、と心に誓った。




二人で映画リベンジ

今日も今日とて、カノンとミロは二人並んでレンタルビデオの映画鑑賞を楽しんでいた。
以前から見たいと話していた作品を選んできただけあって、ミロはすっかり映画に夢中だ。
そんなミロの隣で、カノンは前回のリベンジの機会だ、と意気込んでいた。
前回の映画鑑賞では、ミロに突然手をつながれて動揺し醜態をさらしてしまったが、今日はカノンがミロを驚かせるのだ。
カノンはゆっくりと、ミロの肩に手を回す。
回ってきたカノンの腕にピクリと反応するミロだが、特に拒否もせず肩を抱かれて、それどころか少しだけカノンへ寄りかかる。
ミロは驚いていない、が、これはこれで悪くない。
機嫌を良くしたカノンは、今度は右手を伸ばして、ミロの右手に触れる。
手の甲を包み込むよう手を握ってきたカノンにミロはちらりと視線を寄越すと、甘えため、と言いたげに僅かに口の端を持ち上げて笑う。
もはやカノンの思考は、ミロを驚かせるのではなく、どこまでミロに許されるかを試すことに向かっていた。
ミロの右手を引き寄せたカノンは、思い切って自分の股間へその手を触れさせてみた。
次の瞬間、ミロは自由になっていた左手で、カノンの顔を掴んだ。
「カノン映画今いいところだから」
映画から視線を動かさないまま、ミロはアイアンクローをカノンに炸裂させる。
「すまんミロ、悪かった、マジでもうやめ…」
ミロには勝てないと学んだカノンだったが、それでもまたやってやろう、と心に誓った。




二人で映画の前に

双児宮リビングでの映画鑑賞は、いまやカノンとミロのおうちデートの定番になった。
鑑賞中のお互いへのちょっかいも、鑑賞後に感想を話し合うのも楽しいが、二人で見る映画を選ぶのも大切なデートの一部だった。
最近頻繁に足を運ぶようになったレンタルショップで、ミロは次に見たい映画を吟味していた。
カノンの意見を聞こうかとその姿を探せば、アダルトコーナーの前で立っているのを見つけた。
「お前、…まさか借りるつもりじゃないだろうな…?」
動揺するミロに、カノンはいや、と否定する。
「お前に片思いしてたころな、一度だけだが、お前に似てそうな女優のを探して借りたことがあって」
「そんなことしてたのか…」
「髪の色とか長さが近いのを選んだが、いまいちだったな。期待したほどは似てなかった」
遠い目でしみじみ語るカノンだが、ミロの顔を見ようとしないのは、気まずさを隠そうとしているからのようだった。
そんなカノンを見ると、ミロの中に複雑な気持ちがわいてくる。
そこまでされるほどカノンに好かれていたという嬉しさと、カノンへの憐憫と、アダルトビデオの女優への嫉妬。
「それ、借りて一緒に観よう」
「は!?」
カノンは驚きの声をあげるが、ミロはそんなカノンもお構いなしにアダルトコーナーに近づく。
「なあ、どのAVだ?」
こうなった以上、ミロは借りるまで諦めないだろう。
これか?と1本を手に取ったミロへ、カノンは「その隣のだ」と教えてやった。




二人でAV

ソファに座るカノンの目の前で、ミロが借りてきたDVDをデッキにセットしている。
テーブルの上には飲み物と菓子類も用意されている。
最近ではすっかりお馴染みの光景だ。
ただし、今から再生される物がAVな事だけがいつもと違っていた。
ミロがカノンの隣に腰を下ろすと、丁度DVDの再生が開始された。
レーベルのロゴが映り、それから音楽に合わせて数名の出演者とスタッフの名前が流れる。
最後にタイトルが画面に浮かび、本編が始まった。
「AVって観るのは初めてだが、最初は割と普通の映画と変わらないんだな」
ソファに身を沈めたミロは、のんびりとそんなことを言う。
大きなベッドが置かれた部屋に、波打つブロンドの美女が微笑みながら登場する。
「この人が?」
「ああ…まあ、そうだ」
ミロが問いかければ、カノンも歯切れ悪く答える。
「俺とは似てないと思うぞ」
「言ったろ、期待したほどじゃなかったって」
最初のうちはそうして普通に会話する二人だったが、画面の中の女優が早々に裸になり男と絡み始めると、ミロの口数が明らかに減っていく。
居心地悪そうに身じろぎするミロを、カノンは横目で盗み見る。
視聴済みのしかもあまり良くなかったAVでも、こんなミロの反応が見られるのなら悪くない、そんな事をカノンが考えているうちにも、画面の中の行為は進んでいく。
女優に挿入される、その寸前にミロがリモコンを手に取り、停止ボタンを押した。
「お?」
音と映像が消えたテレビの黒い表面に、二人の影が映りこむ。
カノンがミロの顔を覗き込めば、リモコンを持つミロは、赤面しながらも落ち込んだような顔をしていた。
「いや、あのな…じょ、女優さんていうか、される側の目線で見てるのに気づいて…それはさすがに男としてどうなのかと」
それを聞いて、思わずカノンも「ああ…」と、声を漏らした。
ミロの身体に男を受け入れることを教え込んだ張本人だけに、少しだけ申し訳ない気持ちになる。
「俺はもうAVは普通に見られないのかな…」
席を立ったミロが、残念そうにため息をつきながらデッキに入っていたディスクを回収する。
レンタル用ケースの中にディスクをしまい、それを手にしてカノンのほうへ戻ってくる。カノンの隣に座るかと思いきや、ミロはソファの上にケースを置き、カノンの膝の上に跨ってきた。
「ミロ?」
ミロはカノンの首に抱きついてくる。
当然のようにカノンも背中に腕を回して密着すれば、ミロの体温がいつもより高くなっているように感じられた。
「…される側目線になったのは、男としてどうかだが…興奮はしないでもなかった」
カノンの耳元で、ミロがぽそりと呟く。
「俺がこんな風になったのは、全部カノンのせいだぞ」
ミロの声は不満げだったが、カノンにはそれが照れ隠しだとわかる。
「だったら、今から責任とらないといけないな」
カノンの手が背筋を撫でると、ミロの身体が跳ねた。今日この後は、ベッドの上で過ごすことになりそうだった。




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pixivの素敵企画【カノミロ祭】に参加させていただきました。
ほのぼのを目指して、でも最後の方ちょっとシモっぽくなってしまって申し訳なかったです。
前3つは600字、最後のみ1200字になりました。

2013/06/25