てのひら

 ろうそくの小さな明かりが、部屋の中をほの暗く照らしている。
 その明かりに照らされながら、ドロロは布団の中で眠っている小さなギロロの寝顔を見つめていた。

 突然襲来した幼いケロン人二名によって小隊と日向家が大混乱に陥り、 その際にギロロが幼年時代まで肉体を戻されてしまったのが今日のこと。
 若返らされたのは肉体だけとはいえ、幼いギロロを一人テント暮らしさせる気にはなれず、
「こどもあつかいするな!」と怒るギロロを、ドロロは半ば強引に東谷家へと招いたのだった。

 ギロロはむっつりと黙って不機嫌そうだったが、ドロロの作った夕食は残さず食べ、 普段めったに使われることのない客間に布団を用意するころには、すでにウトウトしはじめていた。
 今日の騒ぎで、幼いギロロの身体は疲れ切っていたようだった。
 眠そうに目を擦りながらドロロに手を引かれて客間へ行き、 布団に入ってからは数分もしないうちにギロロは寝息を立てはじめていた。

 ギロロの隣に添い寝しながら、ドロロはついその眠る姿を観察をしてしまう。
 傷のない滑らかな頬、小さな口、そして手のひら。
「ギロロ君の手って、こんなにちっちゃかったんだ…」
 短い指の付いた、小さくやわらかな手のひらが、布団の上に投げ出されている。
 幼い頃、この手にひかれて自分は走っていたのだ。

 こちらを振り返ろうとせず、どんどん先に行ってしまうケロロを必死に追いかけたあの頃。
 ケロロに追いつけず泣きべそをかきそうになる度、ギロロがドロロの手を掴んで引っ張ってくれた。
 握ってくれていた手の力も温かさも、すぐ前にあった背中も頼りがいがあって…大好きだった。
 あの頃のドロロの手はギロロよりもさらに小さくて、そんな自分の手をしっかり掴むギロロの手を、まるで神の手のように思っていた。

「当たり前だけど…子供の手だったんだね」
 大人になった指先で、ギロロの手にそっと触れてみる。
 短い指を一本一本なぞり、手のひらの中心あたりを軽くつつく。
 ぷにぷにした、柔らかい感触に思わずドロロの頬がゆるんだ。
 ずっと触っていたいが、刺激して起こしてしまっては悪い。

 もうやめないと、ギロロ君が起きちゃうかも…

 そう思いはじめたちょうどその時、手のひらをいじられる感触に気づいたのか、ギロロがかすかに身じろぎをした。
 ドロロは慌てて指を引っ込めようとしたが、それより早くギロロがぎゅっと指を握りしめてしまった。
 突然のことに驚くドロロは指を抜こうとしたが、ギロロの手は思った以上にしっかりと指を掴んでいて、起こさずには抜けそうにない。
「…困ったなぁ…」
 気持ちよさそうに眠るギロロの寝顔を見ながら、ドロロはため息をつく。
 それでも、その表情は変わらず微笑んでいた。
 小さいと思ってしまった手のひらの力強さは、昔の自分が覚えていたものと全く変わっていなかった。
 いつの時も変わらず、ギロロはドロロの手を掴んでくれる。

 幼い頃の、小さな手と手。

 つい昨日までは、成長した硬い大人の男の手が、ドロロの手を包んでいた。

 そして今、子供の姿に戻されてしまった後も、眠りながらとは言えギロロはドロロの手を掴んでくれた。
 ドロロにとってそれは、何よりも嬉しいことだった。
「ギロロ君…僕の手、離さないでいてね」
 静かに、けれど強い願いを込めて想いを呟いた後、ドロロは幼い恋人の隣でゆっくりと眠りに落ちていった。




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もうなんか、どうなんだこれは…恥ずかしい。
エース8月号の幼年体戻っちゃったギロロが可愛すぎて、
大人なドロロが素敵すぎて、妄想が爆想した結果がこれです。
もうちょっと色々考えたエピソードはあったんですが、
それじゃドロロお母さんだよ…みたいなネタだったので割愛。
でもドロロのチロ&カラへの対応とか見るに、お母さんでもいいのかも…
とにかく、やっとカップリングっぽいの書けて良かったです。
正直微妙な気はしますけど。


2006/07/18