若き少年たちの悩み

 草野彰というやつは、修二にとって単なるクラスメートでしかなかった。かなりうっとうしい、という言葉が前につくが。
 なにせ彼は、修二を一方的に親友認定してくる。
 そう、一方的だった――――つい最近までは。修二は肩に置かれた彰の手を振り解いた。
「しゅーうーじーくんっ」
「やめろキモイ。お前はキャピキャピ女子高生か」
「あーん、かーなーぴーいー。修二ったら冷たいっ、ちゃ!」
「……本気でキモイ! つーかうざい! やめろよお前!」
 あ、やば、言い過ぎたと思った。
 けれど彰はその程度では引き下がらず、ぐいと修二の頭を引き寄せた。
 俺は男にキスする趣味ないんだけど。ついでに言うなら、また誤解されるような羽目になるのもごめんだ。
 いい加減にしろと怒鳴ってやろうかと思ったそのとき、彰が修二の見たことのないくらい真面目な声で言ったものだから、タイミングを逃してしまった。
「あのさあ。ちょっと懺悔を聞いてくんろ」
「懺悔?」
「うん。神様修二様、彰君はとってもイケナイコトを考えてしまったのです」
 両手の指を組んで、祈りのポーズ。
 いい年した男がやることじゃないが、こいつならまあ、そんなに似合わなくもない。
 修二の向けた白い目に気付いているのかいないのか、彰は『懺悔』をはじめた。
「プロデュースやめたくなっちったんだよね」
「……は? ごめん、もう一回言って」
「俺サァ。プロデュースをやめたくなっちったの」
 野ブタに続きこいつもか、と修二は思った。
 しっかり修二の目を見ながら、人気者になりたくないと言ったあのときの野ブタ。
「野ブタを人気者にしたくぬぅわーい、って。野ブタのいいとこも可愛いとこも、他のやつに教えてやるのやぁなの。心狭いよなー」
 修二は少しの間黙り、ややあって口を開いた。
「好きだったマイナーバンドが応援してるうちにメジャーで人気者になって、嬉しいんだけど前からのファンとしては複雑〜、みたいな感じか?」
「……けっこー違うけど、まあいいや。そんなもんで」
「引っかかる言い方だな」
「いんやー、修二君には理解できない感情だってわかって、安心しただ・け」
 安心?と怪訝に思ったが、それを問い詰める前に彰の声が被さった。
「野ブタのことは、俺だけが知ってりゃそれでいいじゃんかっ、みたいな? これ以上人気者になる必要ナッシング、みたいな」
 言い方はぶっきらぼうなのに、彰はどこか真摯で、修二はぎくりとした。
 普段のよく知る彰とは全然別人のようだ、と思った。
「やめるのか、プロデュース。じゃあ俺はなんなんだよ。どうすりゃいいんだよ」
 口の中に舌が貼り付く。
 こいつが抜けたがっていると聞いてショックを受けている自分がいて、そのことにまたショックを受ける。
 だというのに、修二の内心など知らぬげに、彰はへにゃりと笑った。
「早とちりはいくないよ? 思ってたってだけで、今は違うもんね」
「……」
「今はさぁ、ちゃんとプロデュースしようって、これからも一緒にやってこうって、そう思ってるのよん」
「なら、いい……けど」
 彰ときたら、修二の知らないところで勝手に疑問を抱いて、勝手に完結している。信子もそうだった。
 信子も彰も、修二の知らないことを知ったのだろう。
 信子と彰と、――――仲間はずれにされたようで寂しいなんて思うのはガキっぽい。
「こないだ野ブタが女子にいじめられててさ。最近は減ってたじゃん? そういうの」
「ああ」
「でさ、そんとき思ったの。俺の独占欲なんてちっぽけだって。それよりも、野ブタがいじめられなくなって、幸せに笑うようになることのほうが、ずーっとずーっと大事じゃんか」
 だからやめないよん、と笑う彰を、修二は強烈に眩しいと思った。
 そして、彼が抜けないと知ってほっとしている自分は、今の三人の関係が好きなんだ、と。
 親友、はちょっとまだ言いすぎだけれど。
「友人くらいに格上げしてもいいか」
「なーに?」
「や、こっちの話」



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