本日のプロデュース会議が開始されて真っ先に、修二が自信満々で言い切った。 「野ブタに足りないのは媚だ! コレだよ、可愛い仕草だよ」 そして、今に至る。 瞳を閉じるのは無理だよ 手持ち無沙汰の彰は口の端を曲げて腕を組む。 彰の視線の先にいる信子は、一生懸命まばたきを繰り返していた。しかもかなり高速で。 「……」 「あー違う! そうじゃないって! 片目を軽く! こう!」 修二の檄が飛ぶが、傍で見ている彰は、そんなに言わなくてもいいのにと思う。 だいたい、野ブタは頑張っているじゃないか。 修二の課したお題は「ウインク」。それも男にアピールするように可愛らしく。 「で、できない。やったことない」 そう言った信子が、「でも頑張る」とその通り頑張っているというのに、修二ときたらスパルタなのだ。 確かに微笑みと同じくそのウインクはひきつって、ウインクと呼ぶのはお前それさっちんとしょーこちゃんに失礼だろう、というレベル。 でも野ブタはちゃんと課題をこなそうと、必死にやっているじゃないか。 彰の口がますますへの字に曲がる。 あんなにばちばちまばたきして、あ、意外に睫毛長いだとか、やっぱ肌つるつるじゃんとか。 近寄ったらきっと睫毛が起こす風の音が聴こえるんだろうとか、そんなことを考えた。 そして我に返る。 つーかこんなにガン見して、俺って変態みたいじゃん。うわーうわー。 野ブタごめん、と彰はせめてもの罪滅ぼしに、信子に協力することにした。 「ちょっと修二君」 「なんだよ」 「俺っちも見せる。お手本」 「……まぁ、いいけど。ほら野ブタ、よく見とけ」 「う、ん」 信子の目がこちらを向く。そのこげ茶色の瞳の中に、彰の姿が映る。 媚なくても、可愛い仕草なんかなくても、それだけで彰はどきどきするのに。こんなにも。 「彰君、いっきまーす」 彰は宣言の後、勢いよく立ち上がりポーズを決める。 「野ブタパワー、注・入!」 ピースサインにした右手を、顔の前で横切らせた。 勇気を出すときや力が足りないとき、彰と信子との間では定番になったポーズとともに、彰は片目をつぶった。 「だっちゃ」 「……の、野ブタ」 「パワー?」 「そ、野ブタパワー注入のときなら、やりやすいかもよ? なんせ今まさにパワーがみなぎってるわけだから」 彰の言葉に、信子が目をゆっくりぱちりとさせた。 修二が促す。 「んじゃ野ブタ、やってみ」 「野、野ブタパワー」 注入、の声と同時のウインクは彰から見たら会心の出来で、修二から見てもそうだったらしい。 「そうだよ、それ! やればできんじゃん!」 満足げな声をあげる修二、けれど彰は何かを言うどころではなかった。 やべぇよやべぇよ可愛すぎ。 媚なくても、可愛い仕草なんかなくても、それだけで彰はどきどきして、好きな子の行動はただでさえ胸をときめかせるのに。 まして可愛い仕草なんかされてしまったら、もうダメだ、威力も数倍だ。 見事にやられてしまった彰は、これは野ブタをガン見した罰だろうかと十字を切るのだった。 倉庫に戻る |