真相は泡の中


 彰が動物みたいに鼻をひくつかせたから、信子は思わず笑ってしまった。
「ねえ。野ブタってさーあー」
「な、なに?」
 笑ったのは失礼だったかな、と信子は反省する。
「シャンプーなに使ってんの?」
「え……だ、ダヴ」
「そっか。なんか、逆さに読んだらブタっぽいね、ダヴ、ヴダ、ブタ?」
「でも、なんでそんなこと訊くの」
「え? いい匂いだって思っ――――な、なんでもなーいだっ、ちゃ」
 彰は急に慌てだすと、信子から顔を背けた。信子から見える耳が少し赤いような気がする。
 しばらく黙った後、そわそわ落ちつかなげなくせに、口を開きかけては止める。
 いつもあけっぴろげな彼が珍しく言いづらそうにしているから、信子は自分から促してみた。
「……どうしたの?」
 彰は肩をびくっとさせたあと、深呼吸して話し出す。
「あ、あのさあ、俺っちプロデューサーじゃん? だから、プロデューサーらしいことしてみようと思って。DO?」
「べつに、いいんじゃないかな」
「そ、そうだよな! んじゃあさ、野ブタ、これ使ってみて!」
 綺麗にラッピングされた包みを信子の手に握らせると、彰は脱兎のごとくその場から逃げ出した。
「……」
 後に残されたのは、信子と、手の中の包み。
 首を下に向けると包みを見る。
 開けていいのだろうか……いくぶん逡巡したあと、くれたものだろうからいいのかな、と開いてみる。
 綺麗なラッピングをぐちゃぐちゃにするのも気が引けて、丁寧にそっとほどいた。
 中から出てきたのは色のついているけれど透明なスーパーボールに似た玉で、どうやら入浴剤のようだった。
「……かわいい」
 信子は呟く。
 これを、お風呂で使えということなのだろうか。


 その日の放課後、彰はダヴのシャンプーを買って帰った。
「野ブタとおそろいの匂い……って俺って変態みたいじゃん! スケベ! バカ! 違う、俺も修二も野ブタのことほとんど知らなかったから、もっと知ろうと思って、それだけだっつーの! やましくない! やましくない! あいてっ」
 お風呂場で騒ぐ彰の声は遅くまで続き、結果、次の日微熱で登校するハメになり。
 鼻が詰まって匂いもわからなくなってしまったため、信子があの入浴剤を使ったかどうかもわからなかった。



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