ステラは水槽をこん、と指でつついた。
魚の尾ひれがゆらゆら揺れる。
酸素が泡となって水と混じり、はじけて微かな音を立てる。
後ろのほうでアウルが退屈そうにくあ、とあくびをする。
彼はさっきから一人でトランプの塔を作っては壊すのを繰り返していた。
少し力を加えるだけでばらばらに散るトランプのカードは脆く、崩れやすい。
つまらないなら別のことをすればいいのに。
ステラはつまらなくないから、魚と水をずっと見ている。なんて綺麗な小さな海。
「なあ、そんなん見てて面白い?」
つまらなくない別のこと、をステラに決めたらしいアウルがいつのまにか近寄ってきていた。
ステラの腕の上にあごをちょんと乗せて、たいして興味もなさげに、ステラの見ている魚をその目に映す。
そんな彼の目を至近距離で見たとき、ステラは「あ」と喉から音を漏らした。
「なに」
不機嫌を隠そうともせず、今度はステラを見るアウルの目。
ステラは吸い込まれるようにその目に見入ってしまった。
水の色彩、透明な青。その中に自分がいる。さっきは魚がいて、彼の目がまるで水槽のようだと思ったのだ。
黙ったままじいっと覗き込むステラにアウルは眉をしかめて不愉快だということを表したが、ステラは彼の瞳しか見ていないので気づかない。
わけがわからないままこんなに見つめられるのは、アウルにとって気分が悪かった。
「なんだよ、何がしたいのお前」
ステラは子供がするように小さく首をかしげた。
「……アウルの目、いいな」
「はあ?」
「アウルの目、見てるの好き……綺麗」
互いに見詰め合う。視線がそらせない。
わずかでもそらしたら、こいつは泣く。アウルはそんな気がした。
「――ちょっと待て。お前、僕のことバカにしてんの?」
「なんで……?」
きょとん、とまるでそんなことなどわずかも考えていませんでしたというようにステラは呟いた。
ステラには、アウルが声を尖らせる理由がわからない。
「なんでって……おい、あんま見んなよ! 気分悪いなっ」
「ダメ……?」
「なんか居心地悪いんだよ、そんな見られるとさぁ」
「だって、アウルがステラを見て、ステラがアウルを見ると」
「見るとなんだって言うんだよ」
「アウルの目にステラがいるの。ステラがお水の中にいるみたいなの……。きらきらして、綺麗」
とてもとても嬉しそうに、宝物を見つけたようにステラは笑った。
「そんなに見たいのかよ」
「うん」
アウルははぁー、と大げさなため息をつく。
「じゃあ見ててもいいけどさ」
お許しが出たことに輝いたステラの瞳に、近づいてくるアウルの顔が映った。
目と目がこんなにもそばにある。
「溺れても文句言うなよ」



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