お魚になりたい。水になりたい。海になりたい。あの綺麗な青になりたい。
ステラはガラスの前でターンをする。
ふわりとすそが広がって、青と白のドレスは、まるで波のようだった。
けれどどんなに焦がれても、ステラはステラで、他のものになれはしないのだ。
そのままくる、くると数度回って、足がもつれてよろけたところに、背中から抱きとめる腕があった。
「ドジ」
「……アウル」
「何やってんの? また浮かれたバカの演出?」
「波、に、なりたくて」
怪訝な顔をするアウルをステラは紅い目で見つめた。
彼の髪は水色に光り、彼の目も澄んだ同色に光っている。
それらはステラの持ち得ない色だ。ステラの髪は金色だし、ステラの目は紅なので。
「ステラ、アウルだったら良かった」
「わけわかんね」
思ったことをそのまま言った前後の繋がっていないステラの言葉の理解を諦めたように、彼はステラの手を離すと、どこかしらけた表情を作った。
「そりゃ僕はお前よか優秀なパイロットですけど、少なくとも強いし泳げるし迷子になんねぇしさぁ」
「……? うん、泳げるの、いいな……」
彼の言葉はあまり意味がよく判らなかったが、ステラが素直にそう言うと、なぜか彼は不機嫌をあらわにした。
「お前皮肉ってわかんねぇのかよ」
全く彼の言うとおりで、わからなかったので頷けば、アウルはいらいらと指を髪の毛につっこんだ。
光を反射して透明のように錯覚するほど綺麗な水色の糸が、彼の指の動きにつれて揺れる。
それを見てまたステラは、彼を羨ましく思ってしまう。願いが口をついて出た。
「お魚に、なりたい……」
「は」
「水になりたい……海になりたい……波になりたい。青になりたい」
ステラの大好きなものたち。ステラのなりたいもの。綺麗な色を持つもの。
アウルは動きを止めて、毒気を抜かれたようにステラを眺めている。
「アウルに、なりたい」
あの青が欲しい。私のものだったら良かった。
ステラの見ている前で、アウルの指が髪の毛から離れてゆっくりと下に降ろされた。
僕?と唇が動いて、それをステラは肯定する。
「ばーか」
くしゃりと頭に手が置かれ、ステラの目に自分の前髪の金色が飛び込んでくる。
そのここちよさに、少女はそっとまぶたを閉じた。
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