「あんまりステラをいじめるなよ」
顔をあわせた途端これだ。
部屋の中へと足を進めながら、はっ、とアウルは小バカにしたようにスティングのほうをちらりと見て、それからすぐに視線を斜め上にやった。
口元には笑みが浮かんでいる。
今のスティングの表情がどんなかなんて見なくてもわかるぜ、どうせ兄貴ヅラして、呆れたように僕のこと眺めてるんだろ?
どかっという音がしそうなほど、いささか乱暴に寝台に座ったアウルと、アウルのほうを向いたスティングとの距離はおよそ3メートル。
この部屋には先にいたスティングと、たった今来たばかりのアウルだけで、ステラの姿は無かった。
だからこそスティングは、今この場でアウルに釘を刺そうと思ったのだろう。
アウルは手を頭の後ろで組んで、そのまま背中から寝台に寝転がった。
「べっつにー、僕はいじめてるつもりはないし?」
「アウル」
スティングの呼んだ自分の名前にははっきりと「しょうがないやつだな」というニュアンスがこめられていて、アウルは正直気に入らない。
むっとなって声を尖らせた。
「マジでいじめてねぇよ」
それでまた、ガキみたいだとか思われる気がしてむかついて。悪循環、ってやつだ。
そしてわかっていても止められないのが。
「……僕の態度は普通だって。スティングがおかしいんじゃないの」
「屁理屈言うな」
「図星だろ。スティングはステラに過保護すぎなんだ」
そしてステラは自分よりスティングに懐くのだ。
誰だってからかわれたりする相手よりは、優しく甘やかしてくれる相手の側にいたいと願うのは当然だろう。
スティングはしばらく黙っていたが、待っているとくすりと音が聞こえたので、アウルは片目を開けてちらりとそちらをうかがった。
「ああ、なるほど」
少しわざとらしい声音だった。……何一人で納得してんだよ。
「ヤキモチか」
含み笑いとともにスティングに言われ、アウルの頭にかっと血がのぼった。
「バカ言うな! 僕はステラのことなんかなんとも思ってな――」
思わず身体を起こして否定した。
けれどスティングの人の悪い笑みにぶつかって、すぐに口をつぐむ。畜生、嵌められた!
「俺はアウルも、俺がステラにそうしてるようにして欲しいのかと思ったんだが……違ったみたいだな。そうか、お前が妬いてるのはそっちのことに対してか。へぇ」
「スティングてめ、わかって言ってんだろ! しらじらしーんだよボケ! 死ね!」
手近にあった枕を投げつけて、スティングに背中を向ける。まんまとひっかかった。
「俺だからまだいいけど、ステラがいる前でそういう死ねとか言うなよ」とまたしても注意されて、枕の無い寝台でアウルは身体を丸めた。




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