「アウルのバカ!」
「はぁ?」
部屋に入った途端唐突に投げつけられた言葉に、アウルは困惑の声を上げた。
僕ステラに何かしたっけ……と記憶をたどってみるが、心当たりがありすぎるくらいあって、さてどれが彼女の怒りの琴線に触れたものか。
「てかお前いきなり何?」
「アウルのせいなの!」
きゃんきゃん吠える小型犬のように噛み付いてくるステラ。
そのむくれた顔を見ているうち、アウル自身もむかむかと心に黒雲が湧いてくる。
お話にならない。何が僕のせいだって? アホか。
このクソ生意気な女の頭を小突いてやろうか、と考えていたアウルにとって、次のステラの言葉は更に聞き捨てならなかった。
「アウルなんか嫌いっ」
アウルの唇の端がゆっくりと酷薄につりあがって、形だけは笑みのそれになる。
ぴり、と部屋の空気が変わったのが自分でもわかった。真実、
ステラははっとなってどこか怯えた様子を見せている。
いまさら後悔したって遅いんだよ、ボケステラ。
「へぇ、僕が嫌いだって? 初耳」
もったいぶった動きで一歩一歩ステラに近づいていくと、ステラの瞳が力なく揺れた。
心なしかその身体は震えているようにも思う。
今の自分はよっぽど彼女にとって恐ろしく見えるに違いない、とアウルはステラの目の前まで来て足を止めた。
「だ、だって……だって」
「だって何、言ってみろよ」
「ど、どうして、アウルは、ステラに意地悪するの」
「あぁん?」
アウルは片眉をはね上げた。
「意地悪じゃねーよ、スキンシップだよ」
泣きそうだな、と思って見ていると、そのとおりステラは目に涙を浮かべて言い出した。
「嘘、アウル……ステラに痛くするもの!」
これはアウルにとって意外だった。
確かにアウルはステラに対し色々とアウル言うところの『スキンシップ』をしてきたが、それはあくまでも子猫がする甘咬みのようなもので、アウルだって手加減していたのだ。
あれらがそんなに痛かったとは知らなかった。
だいたい、じゃれついたときのステラの反応は鈍いし。
「今も痛いの、アウルのせいなんだ!」
――――ちょっと待て。
「僕、まだなんもしてないだろ!?」
「でも、痛いよ」
ステラは涙目で、きゅ……と自分の服の胸の辺りを掴んだ。
「アウルといると痛いもん、だから……アウルのせい……でしょ?」
あ。
その表情に、アウルの胸中に光が閃く。
もしかして、ステラが言っているのはあの痛みか。
なんだそっか、アレか。なるほどね。
わかってしまったアウルは今まで怒っていた自分が一気にバカらしくなった。
「それなら僕だって、お前のせいで痛いけど?」
「え……」
「だから、僕もお前とおんなじよーに、お前といるとここが」
とん、と自分の胸を指先で突く。
「痛くなる、って言ってんの」
ステラは首をかしげた。
「おんなじ? アウルも痛い?」
「そ。おあいこだろ」
「うん……」
「でも僕は、お前と違ってお前のこと嫌いじゃないからなぁ」
「じゃあ、ステラも。ステラも、アウルのこと嫌いじゃない」
ふわぁっと嬉しそうに笑うステラに、アウルの胸の痛みは強まった。
その痛みの、正体は。




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