ビル風がステラのスカートの裾を巻き上げる。
せっかくスティングがかぶせてくれた白くてリボンのついた帽子も、飛んでいってしまいそうになる。
慌てて手で押さえる。
視界に自分の金髪がふわふわ舞って、ちょっとうっとうしかった。
「ステラ?」
「何やってるんだ、早く来いよ」
少し先を行く二人の少年がこちらを振り返っていた。
草色の髪をした少年はやれやれといった呆れを、水色の髪をした少年は若干意地悪さの混じった呆れをステラに表している。
ステラは帽子を押さえたまま、ちょこちょことついていった。
スティングの兄のような苦笑が迎えてくれる。
少年たちに追いつくと、ステラはふと後ろを振り返った。
日差しが強い。目を刺すような光は明るかったが、その分足元に出来る影が濃い。
ぴょん、と影を跳び越えて戯んだ。
「ガキ」
頭を小突こうとするアウルの手をよけて、帽子に両手を当ててふるふると首を振った。
叩かれたりなんかしたら、帽子の形が崩れちゃう。可愛くてお気に入りなのだ。ネオだって誉めてくれたし。
「アウルだって、まだコドモ。ステラと年、あんまり変わらない……」
「んだと!? お前と一緒にするなよ」
「やめとけ。言い争う方が時間の無駄だ。ほら、行くぞ」
スティングがフォローに回った。
はーいはい、とアウルは足元の小石を蹴っ飛ばして前を向く。
ステラはその手をひっぱりたくなったがやめた。まだ怒っていたら嫌だ。
降ろした手と一緒に下を見た。
地面に落ちる影、白い道路に模様となって焼きつくような、色のついたそれ。
……色?
自分の靴と細い足首をフレーム内に含むワンカットからステラは視線を上げた。
空に近い風見鶏にはめ込まれたガラスと、道路脇に止まっている車のフロントガラスに光が透けて、まるでステンドグラスが作る影のように、ある一部分で重なり合っている。
「きれい……」
その影なのか光なのか、とにかくそれに手を伸ばして、色の中に手のひらを浸してみる。
ゆら、と揺らめく光が乗った手のひらに嬉しくなって、思わずにこっと笑ってしまった。
「きれい」
「ステラ、またかよ! とっとと来いっつってんだろ!」
「ステラ!」
おそらくスティングが鳴らしたんだろう、声とともに車のクラクションが数度ステラを呼んだ。
すでに運転席に乗り込んだスティング、アウルは後部座席にどっかと座って、こっちに手を振っている。
ステラは慌ててオープンカーに駆け寄り、助手席のドアに手を置きかけたが、何を思ったのか後ろのドアに手をかけなおし、アウルの隣に乗り込んだ。
アウルが驚いたのか声を上げた。
「ステラ?」
何せ普段のステラは、スティングの隣が定位置だったので。
スティングは少しの間ステラを見ていたが、ふっと苦笑してエンジンをかけた。
そしてステラは、気に入っていたはずの帽子までとり、若干乱れた自分の髪を直すと、今度こそアウルの腕をひっぱった。
「おい、何してんだよ」
「いや?」
「つーか、熱っくるしい!」
「だめ?」
「……わかったよ、我慢してやるよ。感謝しろよな」
いやいやながらもアウルの許可を貰ったステラはぱっと笑顔になり、腕を絡ませた。
風見鶏は黄色、車のガラスは青、それぞれ白い石に色をつけていて、重なる部分に彼と自分の色を思った。
側にいたい。いなくならないで欲しい。一緒にいたい。一緒に、いて。
ステラの位置から見えるミラーにはスティングの額が映っている。
くっつのもいいけどシートベルトしろよ、お前危なっかしいから、とアウルがステラの手から帽子を取り上げる。
車が動き出し、風が金色と水色を混ぜた。
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