アウルは今日、自分がステラを好きなことに気付いた。

視線の先の(だってこいつはちょっと見ない間に何をしでかすか)ステラは砂で何かを作っている。
普通にいけば砂浜で作るのは城と相場が決まっているが、出来上がりかけのそれはとてもじゃないが城と呼べるような代物ではない。
それでも無心に手を海水で湿った砂で汚すステラの顔はとても可愛かった。
頭の中をいじくられていることをうすうす感づいている自分とスティングと違って、ステラはなんの疑問も抱いていないように思える。
純粋な笑顔。
そんなステラを見ていて、アウルは自分の想いに唐突に気付いたのだ。
はたしてそれは今日生まれた感情だっただろうか。アウルは自嘲した。
だって、自分たちは記憶を操作されている。
本当はもっとずっと前から、ステラのことを好きなことに気付いていたのかもしれない。
その感情を消されていただけかもしれない。
じゃあ、今気付いたこれも、消されるのだろうか。
そして明日には綺麗さっぱり忘れて、また無くなってしまうのだろうか。
アウルは頬杖をついた。
ステラは水を両の手のひらですくって、砂のくぼみに流し込んだ。
指の隙間からぽたぽたと零れ落ちてしまう水。その水のように、アウルたちの記憶が抜け落ちていく。
嫌なこと怖いこと、それから大切なことも。
エクステンデッドとして必要なこと以外は全て、容赦なく削り取られていく。
ステラは何度も水をすくい、砂のくぼみの上であける。
小さな海を作ろうとしているのだと気付き、アウルは苦笑してしまった。
「あーあ、バカだな」
そんなことやってたら砂が溶けて水が溢れるだろうに。
案の定、砂の防波堤は決壊し、海水はこぼれ流れた。
「あー……」
悲しそうに声を上げる彼女の髪を、潮風がふわんと撫で上げる。
潮風に遅れてアウルの手も金髪を撫でた。
水は砂の上に幾筋もの道を作り、広がった。
「また水汲んでこなきゃだな、ステラ」
「これ……もう、戻らないの?」
砂に吸い込まれて散った水を見て、ステラが言った。
アウルは――――まばたきした。
そう、溢れ、こぼれた水を完璧に元に戻すことは不可能じゃないか。
ならアウルのこの想いも、溢れたものを完璧になかったことにはできないだろう。
あの研究者たちにも、ネオにも、誰にも。
絶対にまたステラを好きになる。何度も何度だって気付いてやる。
「んじゃ僕が手伝ってあげよっか、しょーがない」
「……今日のアウル、優しい」
「はぁ? 僕はいつだって優しいっつーの!」


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