この街でのねぐらに決めたホテルを出て、仕事のための情報収集に大通りを歩くこと1時間あまり。
彼女今ヒマ?だとか、時間ある?だとか、お茶でもどう?だとか。
数分とおかずかけられる声に、リンスレットはいい加減辟易していた。
それが何か有益な情報を知ってそうな使える人材ならまだ良かったのに、どこからどう見ても軽薄なナンパ男ばかりで、あしらうのもいいかげんうざったくなってくる。
「んもう、あんたボディーガードとかいって虫除けにもならないじゃないの」
苛立ちを隠さない声で、わずかに後方を歩くジェノスに当たると、ジェノスはへらっと笑った。
リンスレットの肩からがくり力が抜ける。
なにせジェノスこそ『どこからどう見ても軽薄なナンパ男』の見本のようなのだ。
少し目を離すとすぐあっちにふらふらこっちにふらふら、リンスレットのことなどそっちのけで、手当たりしだいなのではと思えるほど女の子に声をかけている。
そんなジェノスを、周りの男どもは「リンスレットの連れ」などと認識するはずがない。
かくてリンスレットは休日に一人でいる美女として、声をかけられ続ける。
険しい顔を崩さないリンスレットに、ジェノスも神妙な顔を作ったが、そんな顔で言ったのがこれだ。
「リンスちゃんってひょっとして男嫌い? 俺にもなびかないし〜」
――――そのしまりのない眉間に弾を撃ちこんでやろうかしら。
いささか物騒な考えが浮かぶ辺り、リンスレットは自覚している以上にかなりストレスが溜まっているようだ。
「バカなこと言ってないで」
ずばっと一刀のもとに切り捨てて、ため息をついた。
真面目に取り合うだけ時間の無駄なのかもと思い始める。
この時の番人は、当初クロノスに抱いていたイメージとは別の意味で扱いづらい。
「まったく、頭の悪い男にはうんざりするわ」
「……その中に俺も入ってる?」
「あら、ちゃんとわかってるだけ偉いじゃない」
そりゃないよ、とジェノスは情けなく眉を下げた。それからリンスの頭のてっぺんから爪先までを無遠慮にじっと見て
「でもさー、リンスちゃんの格好にも問題あると思うぜ」
「私のせいだっての?」
「だってリンスちゃんのナイスバディーのボンキュッボーンのセクシーダイナマイツをこうも大胆に晒されると、俺じゃなくたって目が釘付けになっちゃうって」
「なによ、俺じゃなくたってって」
「ん? だって俺はたとえリンスちゃんが露出してなくても目が釘付けになるから。もちろん露出も嬉しいけどネ!」
きゅぴーん、とやたらかっこつけて(言っていることは全然かっこよくない)力説するジェノスに、リンスレットは白い目を向けた。
リンスレットの今の格好は胸の谷間が見えるキャミソールに、太腿ぎりぎりのスカートと膝下のブーツ、薄いブルーのGジャンを羽織っている。
見事なプロポーションを惜しげもなく見せびらかすような服装は、確かに道行く男の目を引いた。
「あんたそれ、痴漢にあうのはそんな格好してる女が悪いんだって言う男と同じ理屈よ」
「えぇ!? そ、そんなつもりで言ったんじゃないっすよ! ただ俺は、チャラチャラした男に寄ってこられるのが嫌ならなんでそんなに魅力的な服装すんのかなー、って思っただけでっ!」
わたわたと弁解するジェノスに、リンスレットはその立派な胸を張った。
「私はこういう服が好きなの。なんで私がバカ男どものために、好きな服着るのを我慢しなくちゃいけないのよ。おかしいでしょそんなの」
ジェノスは目を瞠った後、軽く肩をすくめた。
「ごもっともで」
まったくもってそのとーり、と口笛を吹く。
リンスレットは彼を自分の傍らに招いた。
「理解できたならもうちょっと側を歩いてよ。男連れに見えれば声かけてくるやつもいなくなるでしょ」
「えっ、いいの!?」
「……なによその反応」
「だーって、リンスちゃんのことだから、俺に隣歩かれんの嫌なのかとばっかし」
「否定はしないけど」
「いやそこは否定してよっ」
あはは、とリンスレットは笑った。



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