一人銀妙祭





こっそり家族計画


ふらりとどこかへ行ってしまうのではないか。そういう印象を抱く男だ。
何者にも縛られない自由といえば聞こえがいいが、単にいい加減なのである。
いい加減だから、もうこの場所に未練はない、どうでもいいか、と去ってしまいそうな気がする。
ここにちゃんと彼を必要としている人間がいるというのに、彼自身はそんなこと全く頓着しないのだろう。
たんぽぽの綿毛のようにふわふわして。
志村家の縁側、つつましく座った妙、隣の新八はやや足を開いて座っている。
「ねえ、新ちゃん」
視線の先には定春と神楽と、格闘する銀時の姿がある。
「なんですか? 姉上」
「銀さんてずぼらよね」
「はぁ……まぁ、そうですね」
「それに、ちゃらんぽらんででたらめよね」
「そうですね」
「どうすれば掴めるかしら……」
「何をです?」
妙は答えず、頭を半分食われかけた銀時を見て笑った。
「そういえば、子はかすがいって言うわ。それがあれば、繋ぎ止められるかもね」
「……姉上? い、今なんて……」
「あら新ちゃん、私何か言ったかしら」
「いえ、何でもありません! 空耳でしたッ」
そうは言ったが、しかし新八はしっかり聞いてしまっていた。
さらりと恐ろしい計画を口にする妙に、まさか本気ではあるまいが、と新八は今日も胃を痛めるのだ。

(11.03)


男は黙って酒を飲む

コンビニ帰りのオレは安っぽいビニール袋をぶら下げて、あいつの家をふらりと訪ねた。
別に大した用があったわけじゃない。ちょっと足が向いただけだ。
「……ハーゲンダッツの匂いがする」
オレを出迎えた女は、いらっしゃいとかこんにちはとか言うより先にそう言った。
彼女の言葉は大当たりで、確かにオレの下げた袋の中には酒とつまみと、オレの普段食べないアイスが入っている。
目の前の女の大好物であるアイスは、普通の人間にとってはそうでもないが、薄給のオレの懐には少々痛いお値打ち物。
オレはそれを、ん、と差し出した。
「お納めクダサイ」
「あら、ありがとう」
「あ、酒とつまみはオレんだから」
「そう。上がっていきます?」
オレは何気ないふりを装いつつ頷いていた。
質素な畳の部屋についてから、彼女はオレに座布団をすすめた。
急須を取りに行こうとしたのか立ち上がりかけて、思いなおす。
「お茶は……いらないわね。お酒飲むんでしょう」
「あァ」
がさごそとうるさいビニールの音、その中から酒の缶と裂きイカをオレに渡して、彼女自身はアイスをほくほくと手に取った。
その笑顔を見たかったんだよなァ、とオレは思い、知らぬうちに笑っていたらしい。
だから、彼女の問いの意図(お、回文だ)に最初は気付かなかった。
「で、何をやったのかしら?」
「は?」
オレは缶につけていた口を離して、彼女の顔を凝視した。
それは笑みの形をとってはいたが、後ろに見えるのは地獄の閻魔の姿だった。
どんな嘘つきも恐れ戦いて真実を暴露するだろう、そんな姿だ。
「とぼけないで。急にハーゲンダッツなんか買ってきて、ご機嫌取りなんて怪しすぎるわ。後ろめたいことがあったから、これで許してもらおうって魂胆なんでしょ?」
ははぁ、なるほど。
オレは自分の行動を客観的に見直し、確かに怪しすぎるな、これは裏があると思われても仕方ないかもしんねェ、と思った。
頭を掻く。
「……なんもねェよ」
「嘘おっしゃい」
「ほんと、なんもねェって」
ただ、コンビニに酒を買いに出たはずが、ついこれを持ってってやったら喜ぶんじゃないかと思って、そう思ったらいつの間にかオレはアイスを持ってレジへ直行していて、それだけで、別に後ろめたいわけじゃない。
後ろめたいわけじゃないが、照れくさくはあるので、オレは答えずに酒を飲んだ。

(11.01)



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