城から見る世界は美しかった。
 優しく降りそそぐ陽の光の中で、風になびく色とりどりの花たちが輝いて、丁寧に、繊細に織り上げられた高級な絨毯のようだ。
 ともすれば飛ばされそうになる帽子を押さえながら、ソフィーは傍らのハウルを見上げた。
「ねえ、綺麗ね。とっても綺麗」
 色彩豊かな空気。
 空気にだって色はあり、そして今この城の周りに存在するのは、間違いなく世界で一番美しい色をした空気だと思った。
「わたしね。ずっと、灰色の世界にいたの。この髪のように」
 言って、切り落として短くなった髪に手をやる。
 自分がなにをしたいのかさえわからなかったあの頃。ただ過ぎるだけの日々。
 歩いた世界はどこも色を失って見えた。本当はひどくつまらなかった。けれどそれすらも言えなくて。
「でもあなたと会ったとき……一緒に空中を散歩したとき、すごくどきどきしたわ。そりゃちょっとも怖くなかったって言ったら嘘になるけど、それよりもっともっと楽しかったの。初めて世界に色がついて見えた。それはとても美しくて……夢を見てるのかと思ったくらいよ」
 ハウルは穏やかに微笑んで、話を聞いてくれている。
「恋に落ちる、ってよく言うけれど。わたしの場合はどうやら、恋に浮かんじゃったみたい」
 彼女に自覚があるかは知らないが、今のソフィーの目は生き生きと輝いていた。
 世界に色を取り戻させたのはハウルだけではなく、彼女も――彼女自身が変わったからでもあるのだった。
「キミが僕を愛してくれるのなら、僕は何度でも空を飛んでみせるよ」
 ハウルはそっとソフィーの頭の後ろに手を伸ばして、帽子を取った。
 押さえるもののなくなった髪の毛が風に吹かれて舞い、きらきらと光を反射した。
 それにまぶしそうに目を細め、愛しさの滲んだ笑顔を浮かべる。
「キミの髪はとても綺麗だよ、流れ星の色――」
「ただの灰色よ」
「キミが灰色と言うのは、それはきっとカルシファーの燃やしていた薪の灰なんだろう。この城を動かす力の源、僕の心臓、僕の命を永らえさせる炎を生むもの。僕を強くし、初めて誰かを守りたいと思わせてくれた」
 さらり、一房を指でとって、また風に放す。
「……でも僕にはやっぱり綺麗な流れ星の色だ」
 そしてそのまま頭を引き寄せた。
 目を閉じてキスを。
「ソフィー、僕の世界に新たな色を与えてくれたのも、キミなんだよ」



04.11.23