「ソフィー、ソフィー! ちょっと来て!」
 なんだか楽しげに自分を呼ぶ声がするので、ソフィーは読んでいた魔法書を閉じた。
 この本はハウルから借りたものだ。
 初心者にもわかりやすい簡単な本で、なかなか面白かった。
 それを中断させたからには、ハウルの用事はもっと面白いか、特別なことでなくてはいけない。
 くだらない――例えば今日の髪型はいつになく決まったから見て欲しかった、とかそういったことだったとしたら承知しないわよ、覚悟しなさいねなどと冗談めかして考えていたソフィーは、自分を出迎えた山と積まれた箱にあっけにとられてしまった。
 長細いのや四角いの、丸いのと様々な形状をしていて、どれも色とりどりのリボンがかけてある。
 その横でハウルはこれ以上ないってくらい嬉しそうに、にこにこにこにこしている。
 ようやく気を取り直して、ソフィーは疑問を口にした。
「なあに、これは」
「ソフィーへのプレゼントに決まってるじゃないか。服とか帽子とか、宝石とか、靴もあるよ」
 言ってハウルは近くにあった箱を手に取り、開けて見せた。
 彼の言葉どおりその中にあったのは見事な細工のジュエリーで、燦然たる光を放っていた。
 こんな高そうなもの見たこともない。
 母のハニーだって、これほどのものを身に着けてはいなかっただろう。
 ましてや自分にはあまりにも不釣合いすぎる。ソフィーは慌てた。
「こ、こんなのもらえないわ!」
「なぜ? 僕は君に贈りたいんだ。それなのに受け取ってはくれないと言うの」
「だって……似合わないし」
「ソフィー、君は僕を信用してないのかい。僕が見立てたのに、君に似合わないはずがないじゃないか」
「それは……でも」
 ハウルはなおも言おうとするソフィーの口を、自分の指をあてがうことによって封じてしまった。
「ねえソフィー」
 囁くような声はとても色気があって、ソフィーは図らずも赤面してしまう。
 自分の声の威力を知っているとしか思えない使い方をしている、と思う。
「僕は君を、自分のあげたもので飾りたいんだよ。この意味はわかる?」
 ソフィーは答えなかったがその顔がほのかに染まったのを見て、満足したのかハウルは続けた。
「それから、僕は二つの言葉を用意してるんだけど」
 前から腕を回して、ハウルはソフィーの首にネックレスをつけた。
「君が僕のためにうんとおしゃれしてくれて、こんなに素敵な女の子が僕の恋人です、って皆に見せびらかしながら歩くのって楽しいだろうな」
 ネックレスを留めたあとも、ソフィーに回した腕を離そうとしない。
「でも綺麗な君を、僕だけのものにして誰にも見せたくない気もする」
 ソフィーは至近距離にある彼の顔を見つめながら、なんて長いまつげだろうと感心してしまう。
「ねえ、君はどっちの言葉が好み?」
 極上の笑顔を武器に、彼はソフィーへの愛情を表現しようとするのだ。
 ハウルはソフィーの答えを待っていて、だからソフィーは彼に教えてやる。
 答えはいつだって、あなたの用意したものだけじゃないのよ?
「そうね、どっちでも……」
 続けようとした言葉は消えた。
 ない、ともある、とも言えなかったのは、ハウルが口付けで途切れさせてしまったからだ。
 自分がどちらを言おうとしたのかも、長いキスをされているうちに忘れてしまった。
 ただひとつだけ、確実にわかったことがある。
「いくら綺麗なドレスを着たって、結局すぐに脱がされちゃうんだわ……」
 呟いたソフィーの裸の胸に、ハウルがまた彼女が赤くなるようなことを囁いた。


04.12.05

注記:ソフィーママの名前はジブリ版です。