具合が悪いんだ、と言われたときのソフィーの反応はあっそ、といったもので、奥さんとしてはいささか酷い態度であるかもしれなかった。
だがこれにもちゃあんとわけがあり、そのわけを聞いたなら皆が思うだろう。
ハウルの自業自得だ、と。
「いくら暑いからって、ぬるま湯にあんな長い時間浸かってたら、誰だって具合が悪くなるわ」
私は止めたのに、とソフィーはしなだれかかってくるハウルを睨んだ。
「重いからやめて」
「冷たい! なんて冷たいんだソフィー!」
「暑いんだからちょうどいいんじゃない?」
ひどすぎるー、絶叫するハウルにソフィーは耳に指を突っ込んだ。
「うるさいわよ。具合が悪いんなら大人しく寝てれば。おかゆぐらいは作って持ってってあげるから」
しくしく泣く大の男はじとじと続く雨のようにうっとうしいったらありゃしない。
絡んでくるハウルの腕を振り払おうと身体を捻る。
「君が一緒に寝てくれればすぐ治る気がする」
ソフィーの夫はそんな戯けたことを言った。
もちろんソフィーは取り合わない。
見事に無視して、おかゆを作ろうとカルシファーのほうへ向かうソフィーの背中をハウルは追いかけた。
「ソフィーったら、ねえ!」
「とっとと部屋に行ったらどう」
「ソフィー! 僕にとって一番の薬は君なんだよ、君だってほんとはわかっているんじゃないの?」
しつこい。
ソフィーはくるりと身体を反転させ、ハウルに向かってにこりと笑いかけた。
ハウルは自分の言い分が聞き届けられたと思って、途端にぱあっと表情が華やぐ。
「じゃあそのお薬をあげるわ」
ソフィーはそう言い、ハウルの身体に腕を回して抱きしめたが、しかし調子に乗って抱き返してくる手の甲はつねりあげた。
「ここでおしまい」
「えぇっ、もう!?」
つねられて赤くなった甲をさすりながら、ハウルは情けない顔で言った。
ソフィーはまたにこりと笑う。
「お薬は、一回分の用量をちゃんと守らなきゃダメなのよ」